ダイの大冒険-天道-冥竜王ヴェルザー編   作:越路遼介

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第四十九話 さらば友よ

「メガザル…!?」

ダイの前でゴメの体はまばゆい光を放ち、そして消えた。覇者の冠は宙に舞い、そしてポップの頭にストンと落ちた。ポップの目が開く。起き上がり、両手を見つめ手を開く結ぶを繰り返した。

身体に負ったダメージは無論のこと、魔力も上限まで回復、かつダイによって破壊された精神に至るまで修復されている。

「ゴメ…。無様な姿を見せちまってすまない…。そしてありがとう。この恩は一生忘れない」

 

マヌーサ系魔法最上位にある『アナザーワールド』によって、バーンを倒したあと訪れた最悪の未来、国家反逆罪でダイ、マァム、ヒュンケルは処刑され、怒りのあまり暴走して、ついには闇落ちして魔王となった自分を見た。マトリフを惨殺してレオナを凌辱、悪行の限りを尽くし人類を滅ぼすポップの人生を追体験した。

しかし現実に戻ってみれば時は経過しておらず、押し寄せる罪悪感に潰されて自害しようと思えばダイに邪魔され、そのまま意識を失った。再び目を覚ましても同じことをしていたかもしれない。

だが今は違う。一歩間違えていたら魔王となっていたかもしれないが、今の自分は海商王ポップで、マァムとヒュンケルも生きている。

「そしてダイも…」

アナザーワールドで見た魔王ポップと重なって見える今のダイの姿だった。

 

瀕死の重傷だったアバンとラーハルトも最大回復をして目覚めた。ゴメが一日だけの命と引き換えにした最大回復呪文メガザル。その対象はダイではなかった。そのダイと対峙しているポップたちであった。ロンたちも瞳の中で完全回復した。

ダイはバランの御霊に殴られたダメージはあったが、大した負傷ではない。それよりもゴメが自分ではなく、対峙している相手にメガザルを使ったと言う事実に自嘲し、折った歯をペッと吐き出した。

「そうか…。父さんだけではなく、ゴメちゃん、君まで俺を見捨てたんだね…。そして俺の剣も…」

 

『ダイの剣』の姿ではなくなり、形が前身である『覇者の冠』に戻ったことが、それを語っている。剣は完全にダイを見限り、自分の存在理由を無くしてしまった。そして同時に、ロンが語った『剣の心』は破壊の竜魔人となった旧主を倒すため、その相手の防具、『覇者の冠』に姿を戻したのだ。

 

再びゴメはこの世から消えた。悲しくなるほどに短く、そしてあっけなく。またもや彼の最期に立ち会いながらも見ていることしか出来なかったマァムとレオナは無念の涙を流す。

またゴメのメガザルはエイミの目も治していた。ゴメがさっきまで頂いていた覇者の冠にエイミは祈った。

「ありがとう…ゴメちゃん…。ありがとう…このご恩は一生忘れない…」

妻の目を治して再び消えたゴメにヒュンケルは心の中で感謝を込めて礼を言った。

(礼を言う…)

 

ゴメのメガザルでダイ以外の者はすべて全回復した。そして改めて、ダイとポップ、アバン、ラーハルトは対峙した。

「ダイくん」

「なんですか?」

「もう一度聞こう。人間を滅ぼすと言う気持ちに変わりはないのですか?」

「くどいですよ、先生」

「ダイ様、先ほどのバラン様の声、私にも聞こえました。何とぞ、お父上のお叱りをお聞きあるよう!」

「父は一言も人間を滅ぼすなとは言っていないよ。ラーハルト」

「ダイ様!」

「かつて、父はこうも言った。『今さら生き方を変えられない、大人とはそうしたものだ』と。俺も、もう大人なんだ。変えられない」

 

「そうか、なら仕方ないな」

「覇者の冠、中々似合うじゃないかポップ。考えてみればロモスの王様からそれをもらって、俺は一度もそれを装備したことなかったな」

「ありがとうよ、我が家の家宝にする」

二人は初めて穏やかな会話をした。

「ダイ」

「ん?」

「美人だったのか、お前が好きになった女の子というのは?」

「もちろん、エルフの子で…亜麻色の髪の青い瞳で…とても美しかった」

この時、ポップとラーハルトは違和感を覚えた。彼らに無言の会話がされた。

(馬鹿な、エルフの娘はすべて金髪で瞳は琥珀色のはずだ。亜麻色の髪に青い瞳だと…?)

(よせ、ラーハルト)

(しかし…!)

(これ以上ダイをみじめにさせるな…。ただの偶然と言うこともある。あの女じゃない、あの女であってたまるか…っ!)

(ポップ…)

 

レオナは愕然とした。本来全て金髪、瞳は琥珀色のはずであるエルフの娘が亜麻色の髪に青い瞳、このキーワードですべてを悟った。

「なんてことなの…!なんてことを…!」

常軌を逸しているダイの変貌、すべてあの魔族の女の奸智とレオナは確信した。ダイはあの魔女に変えられてしまった。いかに竜の騎士とはいえ、バーンを倒した直後のダイは幼さの残る少年、悠久の時を生きてきた魔女の奸智に敵うはずがない。戦闘力だけでは抗えない力は存在する。レオナには、あの魔女サリーヌのあざ笑う声が聞こえてくるようだった。

 

「そうか、だからその子を殺した人間が許せないと言うことか。歴史は繰り返すと言うが…」

「違うなポップ、ここから歴史が始まるんだよ。人間を滅ぼしたその後に」

「戦う前にダイ、一つ訊いておきたい。お前の認める人間像と言うのは何だ?」

「なに?」

「そこまで人間を忌み嫌うのであるのなら、もう一つの観点、これならば認めると言うのもあるだろう。それを戦う前に知っておきたい」

「……」

「とっさに浮かんでは来ないか。ならば俺が代わりに言ってやろう」

「なんだと?」

 

ポップは軽く微笑み、言った。

「お前の認める人間像は簡単だ。母親だよ」

「なに?」

「母のような手放しの愛、信じて、待って、許してくれる愛情を注いでくれる、そんな人間像だ。強大な力を持つお前に何ら怯えずに差別せず、それどころか大いに認めて、評価してくれる。自分に対して決して裏切らず心の底から愛してくれる。それがお前のただ一つだけ認める人間像だ」

ダイの顔が険しくなってくる。

 

「ベンガーナで、お前を『怖い』と怯え、拒絶した女の子。目の前で両親と弟を殺されたあと、モンスター兵に食われて死んだそうだな。そしてお前はそれを笑って見ていたと。お前はこの時点で自分自身を『化け物』と認めたようなものだ。お前が嫌う人間には『人道』と言うものがある。少女が殺されそうになっている時、自分にそれを救うことの出来る力があろうが無かろうが、どんな悪党でも少女を助ける。それが人としての道。勇者だ何だの関係ない。お前は少女を笑って見殺しにした時点でバーンを倒した自分自身を否定して侮辱した。ただの外道に成り下がった。あの世のハドラーが泣いているぜ」

「だまれ…」

 

「ダイ、俺はハドラーやシグマを失望させるような人生は送るまいと考えてきた。マァムにしてもアルビナスに恥じない生き方をと思っているだろう。だがお前は何なんだ。ハドラーに合わす顔あるのか?」

「ポップ…ッ!」

 

「ベンガーナでお前を拒絶した女の子。逆に訊ねるがその子がどんな子なら助けたんだ?お前に身も心も捧げて、三百六十五日二十四時間、お前を敬愛していれば助けたのか?」

「……」

「そんな人間など、この世に存在しない」

「そんなことは分かっている!」

 

「数年経って成長したのは、多少知恵がついただけか?それともそんな小賢しい知恵がついたばかりに歪んでいったか?お前は自分が人間に疎まれ認められず居場所もなく、裏切られ、愛する者を殺された。竜の騎士の使命なんて御大層な言い方をするな。お前はただ、個人的な怨みを晴らそうとしているだけだ!」

「それの何が悪い!ポップに何が分かる!海商王と呼ばれて、家族にも恵まれて太平楽に世の中を生きているからそんな綺麗事を言える。分かるものか!認めてもらえない悔しさ、愛する者を奪われた気持ちを!お前なんかに分かるもんか!」

 

「…ダイ、誰もがそんな気持ちを遠からず味わっている。何も悪いことをしていないのに仲間はずれにされる。信じていた友に裏切られる。理不尽に愛する者を奪われる…。ハドラー、バーン、ヴェルザーの関与も無く、そんなことはいくらでもあった。でもそれでもみんな生きてきた。生きていかなければならない。今この地上にだって、お前よりも弱くても、お前より辛い目に遭っていても歯を食いしばって生きている者がたくさんいる。お前はその苦しみから逃げだした。竜魔人で最強だと?笑わせるな、お前はただ喧嘩に強いだけの世界一の腰抜け野郎だ!」

「言わせておけば…!?」

 

ポップの瞳に大粒の涙が溢れていた。

「……?」

「俺たちと、今お前が流している血を見てみろ…。違う色をしているか?」

竜魔人となっている時に、ダイはバランの御霊の鉄拳に殴打された。ゆえに流れている血は青色をしている。だがポップは同じ色と言ったのだ。

「…青と赤じゃないか…。そんな見え透いたこと言わなくてもいい。しょせん化け物なんだよ、俺は」

「違う…」

「なんだと?」

「同じ色だと言っているだろうが…ッ!このバッカヤローッッ!」

 

かつてバーンを一喝したポップの言葉がダイへと。ダイはポップを見つめ、そしてポップはダイを見つめる。ポップは大粒の涙を落としながら微笑み、そして構えた。

「…ダイ」

「……」

「せめて、俺の手で引導を渡してやる…」

ポップの涙雨か、雨は強さを増してきた。そして稲光は涙に濡れるポップの顔を映す。ダイも静かに答えた。

「そっか…」

ダイは竜闘気を上げた。竜闘気に包まれるダイ。竜魔人の姿ではない。彼自身の姿で、ダイは最後の戦いに全力で応えた。

「はああああああっっ!」

 

ポップは魔力を上げた。覇者の冠がポップの魔法力にシンクロして光を放つ。右手に紅蓮の炎が逆巻き、左手に氷点下の光球が浮かぶ。ポップの体は魔法力に包まれ、バンダナは空に向かってバサバサとなびいた。覇者の冠は眩いばかりに黄金に輝く。まぎれもなく、かつて『ダイの剣』であったものは、ダイの敵であるポップに力を与えていた。

「うおおおおおおおッッ!」

 

突如に荒れる海がピタリと静かになり豪雨は止んだ。雨雲は風に流され、浮島上空に太陽の光が雲の間から差してきた。

 

「ダ―――イッッ!」

「ポップ――ッッ!」

 

「メドローア!!」

「ドルオーラ!!」

 

…お前に倒されて…この地上を去る…

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