再び、大魔道士となることを決めたポップはソアラの町長デビット宅へと行った。そしてヴェルザーの脅威を隠しながらも、ソアラの町を出ることを告げたのである。
「なんと、しばらくソアラを留守にされると」
「はい、業務の方は部下たちに引継ぎしておきますので大丈夫です」
「…ふむ、しかし何故また急に」
「いえ、まあ…色々とありまして」
デビットはかつてカール王国にも仕えた大臣で、アバンやロカ、そして現在の筆頭大臣ホルスにとっても上役だった。名外務大臣と呼ばれ、フローラの父の政治面での参謀あり、フローラの教育係だった。ハドラー台頭の世の時は若くして王位を継いだフローラを支えた古強者である。高齢のため退役し、カールの南の外れにある田舎漁村でチェスを楽しむ隠居の身だったが、ピラァ・オブ・バーンの攻撃により村は消滅。その時の避難誘導の手腕といち早く旧アルキード王国に移民することを決めた決断力が人望を集め、後に移民先の長となった所以であろう。口癖が後輩アバンからの受け売りである『ジタバタしましょう』である。
デビットに取り、ポップはかつての後輩の弟子に当たるが若くして分別深い彼を認め、常に礼をとっていた。祖父と孫の年齢差だが、町造りに二人は互いに協力する大事なパートナーでもあった。
「色々か…。儂にも言えんことかね?」
「…ええ、今は…」
二人に沈黙が流れた。だがその時だった。デビットとポップのいる部屋の外からドタドタと激しい足音が響き、ノックも無しにドアが開けられた。
「しゃ、社長!た、大変です!」
入ってきたのは港で出航した船からの伝書鳩を受け、航海の様子をカンパニーへ定期的に知らせる通信番の男だった。
「なんだ騒々しい、町長のご自宅で失礼だろう」
「それどころじゃありません!でろりん船長のオーシャン号が!」
「オーシャン号がどうした?」
「モンスターの大群の襲われています!」
「な、なんだと!伝書鳩の時間は!?」
「今から十五分前です!」
「でろりんが交易航路を間違えるはずがない…。狙われたのか!」
ポップはデビットにペコリと頭を下げ、急ぎ港に駆けて行った。双眼鏡で水平線に目を凝らすと煙が上がっていた。すぐに部下たちへ指示を与えた。
「俺の旗船『マトリフ』を陣頭にガレー船二艘、都合三艘で救出に向かう!全員急げ!」
港にいたソアラ・カンパニーの社員たちはポップの指示に従い、迅速に動いた。ポップは商売で成功して一時期は悪い遊び癖もついたが、仕事においては誰も文句が言えないほど真剣に取り組みこなしていた。ゆえに社員たちも、こういう火急の場合はポップの号令一つで動くのである。『マトリフ』の船長がポップに呼ばれた。ロモス武術大会六人衆の雄ラーバである。ポップの旗船であるが船長はラーバ、ポップは船団長という立場だ。
「ラーバ、船団の指揮は任せる。オーシャン号の周りにもモンスターが潜んでいるかもしれない。ぬかるなよ!」
「承知しました。で、社長はどうされます」
「分かりきったことを聞くな。トベルーラで一足先に行ってモンスターをブッとばす!」
「ご武運を!」
「お前もな!」
ポップの体が魔法力に包まれる。
「トベルーラ!」
ポップの体が水平線まで飛んでいく。出港準備を整えている乗組員たちにラーバは檄を飛ばした。
「さあ!ソアラ・カンパニー船団、出陣だ!」
「「オオッ」」
ポップの旗船『マトリフ』に並行する両翼のガレー船トリトン号とマーメイド号の船長は同じく六人衆の雄、魔法使いフォブスターと狩人ヒルトであった。仲間を助けるため、救助船は出航した。ソアラ・カンパニーの旗印、それは奇跡のアイテムと呼ばれる『神の涙』
つまりダイが『ゴメちゃん』と呼んだゴールデンメタルスライムの絵である。黄金に輝く『ゴメちゃん』を描いた旗が一斉に三船の頂に掲げられた。そして大海原に吹く風がソアラ・カンパニーの旗をなびかせた。
(海棲モンスター、狂暴な巨大魚、海流、渦潮。そういう海の脅威を避けられる海域を俺たちのカンパニーは割り出して海図に表し、ようやくソアラから全世界の国への交易航路を確立できた。特にパプニカへの航路は平均幅四キロの航路、一番安全な交易航路のはずなのに…)
空を飛ぶポップはオーシャン号から上がる噴煙に近づいた。そしてオーシャン号を確認した。ポップは甲板にいるモンスターを見て驚いた。
「馬鹿な…。『鉄球魔人』『ビースト』『ブルデビル』『アームライオン』…バーンパレスにいたモンスターばかりじゃねえか。何故海の上にいるんだ」
海棲モンスターは一体もいなかった。
しかし、戦況はポップにそんな疑問を考えさせる時間は与えなかった。乗組員たちは懸命に防戦しているが相手が悪い。船長のでろりんと乗組員たちはポップから預かった船と積荷を守るために必死に戦っていた。船員みな、海賊顔負けの戦闘力を有している猛者揃いであるが相手のモンスター兵はバーンパレスに在ったモンスターと同種ばかり。二線級の強さではない。
「グッハハハ、人間にしちゃ根性あるじゃねえか」
するどい爪には赤い血が多量についているビースト。必死に戦うでろりんたちをあざ笑っていた。
「だが、いつまで持つかな…グヒャヒャ」
殺戮に酔いしれる鉄球魔人、その鉄球は今まで何人の血を吸ってきたのだろうか。
(負けてたまるか…!船を落とされ、積荷も沈められたら、俺のようなニセ勇者を船長にまでしてくれた社長に対して申し訳が立たない!)
ドラゴンキラーを握って、モンスター兵に対するでろりん。だがそこに鉄球魔人の大鉄球がでろりんを襲う。
「船長!」
乗組員たちの悲壮な叫び。だがでろりんにはもう避ける力が残っていなかった。
「すまねえ…。メイア…ずるぼん…」
愛する娘と妻と顔が頭に浮かんだ。
でろりんに直撃と思われた鉄球は、その寸前に爆発でもしたかのように砕け散った。
「ふう!間一髪!」
ポップが鉄球にブラックロッドを撃ち放ったのである。そしてゆっくりと甲板に降りていった。
「社長…!」
倒れかけたでろりんを抱きとめた。
「大丈夫か、いま手当てをしてやるぞ」
ポップは他の乗組員の方にも手をかざした。
「ベホマラー!」
乗組員たちの負傷が次々と癒えていった。
「あ、ありがてえ!」
「痛みが消える…すげえ!」
「他の乗組員はどうした。オーシャン号には二十以上の船員がいるはずだが」
ポップが甲板を見渡すと九人しかいなかった。乗組員の一人が答えた。
「大丈夫です。全員まだ息はあります。負傷を負った者はさっき船長が船蔵に押し込めたので手当てが早ければ全員助かります」
でろりんは一番の深手を負っていた。おそらく、その負傷者を助ける時にできた傷だろう。魔法力はとうに底を尽いているようだった。
「わかった。戦闘は俺に任せろ。もうすぐカンパニーの船団が救出にやってくる。お前たちは彼らと連携を取って船蔵にいる乗組員たちを船団に収容し、すみやかに撤収するんだ」
「社長、俺も戦う」
「駄目だ。お前とて剣を使う者。連中が勝てる相手か分かるだろう」
「いえ、俺はこの『オーシャン号』の船長…。ここまでいいようにやられて黙っているわけにはいかないのです」
「勝手にしろ」
次の瞬間、ポップのマヒャドが炸裂する。他の火炎、爆発の呪文では船ごと燃えてしまう。
真空と冷気の呪文でしか戦えない。だがダイ捜索の旅でポップはバーンを倒した当時よりレベルも上がっており、その二種類の呪文で事は足り、そしてロン・ベルクが作ったブラックロッドはうなりをあげてモンスターをなぎ倒した。
また、回復したでろりんもポップの加勢で力が湧いてきて、数体のモンスター兵をなぎ倒した。さすがに尻込みし始めるモンスターも出始めた。
そして時を同じく船団も到着した。甲板から狩人ヒルトがモンスター兵を射殺する。魔法使いフォブスターもトベルーラを使い、空中から攻撃魔法を放った。モンスター兵は劣勢となった。船蔵に押し込めていた船員の救助も船団長ラーバの陣頭指揮で円滑に行われた。犠牲者も出なかったポップの救出作戦は成功するように思えた。
しかし、その時だった。とてつもない重圧感が船を襲った。それと同時に晴れ渡っていた空に暗雲が差し掛かってきた。稲光も鳴り響き、突如の豪雨が降ってきた。そればかりか船の上にいるモンスター兵は急に怯えだしたのだ。
「…な、なんだ?」
でろりんがポップを見ると、ポップもまた暗雲を見つめていた。拳を握り、全身を震わせていた。
「…いる」
それはでろりんにも伝わりだした。
「な、なんだこの圧迫感は…」
「とんでもないのが雲の中にいる!」
魔法使いのフォブスターもこの重圧感に気づいて暗雲を見た。彼の額にも冷や汗がにじんだ。
「なんだあれは…!桁違いの化け物がいる!」
その時、暗雲から黒い閃光が船に落ちた。
黒い閃光はオーシャン号の甲板に降り落ちた。オーシャン号は大きな揺れに襲われた。そしてポップとでろりんは見た。黒い閃光、それは漆黒の鎧、鉄仮面の男、黒騎士。
空から降り立ち、船に与えた衝撃は強烈なものだったが甲板には亀裂一つ入っていない。それだけで相当な強者であることが伺える。
黒騎士はちょうどモンスターとポップ、でろりんが対峙している真ん中の場に降り立った。静かにモンスター兵を見つめる黒騎士。
「「ヒッ、ヒッ、ヒエエエエッッ!!」」
モンスター兵は先を争って船から逃げ出して海に飛び込んだ。
ただ立っているだけなのに、黒騎士はすさまじいほどの威圧感を出している。狩人ヒルトは彼に照準を合わすことさえできない。暗雲の下で海は荒れだした。その風が黒騎士のマントをなびかせる。やがてゆっくりと黒騎士は剣を抜いた。ポップは抜かれた剣を見て仰天した。忘れるはずもない大剣であった。
「しっ、真魔剛竜剣だと…!」
「あ、あれが?」
「間違いない…」
その威風堂々の刀身は紛れもなく真魔剛竜剣であった。何故ドラゴンの騎士のみが神々から与えられると言われる真魔剛竜剣をこの男が持っているのか。だが事態はそんなことをポップに考えさせる余地は与えない。
黒騎士は右手に剣を無造作に握ったまま動かない。大粒の雨が鎧に当たり、無機質な金属音が鳴り続いた。やがて彼はゆっくりと右手をあげ、そして静かに剣を振り下ろした。
空を切るこの音、ブランクがあるとは言えポップは大魔道士。この音の意味するものを瞬時に悟った。
「…!衝撃波!」
衝撃破はポップとでろりんの間に向けて放たれた。二人は一歩も動けず、風に強烈な平手打ちを横っ面に叩き込まれたようだった。その直後、オーシャン号は真っ二つになってしまった。
「な、なんだ!なにしやがったんだ!」
「剣圧による衝撃波だ。昔、ヒュンケルがやったのを見たことがある…」
(なぜ外した…。俺かでろりんに放てば即死だったはずなのに…)
真っ二つに割れて、沈み行くオーシャン号。自分の誇りと言っていいオーシャン号を破壊されたでろりんは悲痛に叫んだ。
「ああ…ッ!オーシャン号が!積荷が!」
「馬鹿野郎!今は生きて帰ることだけ考えろ!船や積荷の代わりは利くがお前の代わりはいないんだ。しっかりしろ!」
「社長…すまねえ…」
真っ二つに別れた船体のもう一方に黒騎士は立っている。ポップの旗船『マトリフ』の船長ラーバはすかさず指示を出した。それを読んだポップは巻き添えを避けるべく、でろりんを抱きかかえて空へと飛んだ。
「全船団!あの黒い鎧に照準を合わせろ!」
三艘の大砲が一斉に黒騎士に照準を定めた。
「撃て―――ッ!!」
何発もの大砲の弾が黒騎士を直撃した。どんな強固な鎧を身につけていても、即死にさせることが可能な一斉砲撃である。砲撃による噴煙が船上から晴れだした。そして見た。誰もが信じられないと言う顔で見た。黒騎士は微動だにしていなかった。無傷、彼の負ったダメージは皆無だった。
「ラーバ!船団を退かせろ!救助は済んだはず、総員引き上げを開始せよ!」
勝機はない。ポップは悟った。
「し、しかし、社長!」
「言うとおりにしろラーバ!全滅するぞ!」
「クッ…」
冷静に戦況を見れば、ポップの言うとおりである。自分たちのもっとも威力のある攻撃は大砲一斉攻撃。それが蚊ほどにも効かない相手。勝ち目はない。
「ならば社長!早くこちらに乗り移ってください!」
「俺はここでお前たちの撤退の時間を稼ぐ!さっさと行け!」
「社長…!」
真一文字に黒騎士を見ているポップの横顔。自分には何も出来ない。せめて救助した乗組員と船団を無事に帰還させることが自分の仕事とラーバは思った。
「ソアラ・カンパニー船団、引き上げ開始!」
黒騎士もまた、ポップを見たまま動かず、船団が退くのを黙って見逃した。この時ポップは確信した。俺を狙っているのだと。
沈み行くオーシャン号の上に乗るのは三人、ポップ、でろりん、黒騎士である。
「でろりん…少しデカい呪文を出す。下がっていてくれ」
沈没直前の船、足場はとてつもなく悪い。だがポップは構える。かつて大魔王バーンでさえ畏怖させた必殺のメドローアを撃つために。
ポップの左手から炎、右手から冷気が出る。そして静かにその手を合わし、弓を放つさながらの構えを執った。次の瞬間だった。今にもメドローアが放たれるその刹那、右足を軸に体重を取る、その足場に向けて、黒騎士はまるで音速のような衝撃波を放った。
「ぐあっ!」
右のふくらはぎの肉が裂けた。その衝撃波の後ろに、そのまま黒騎士は迫る。海面をまるで滑るように疾風のごとく迫る黒騎士。刀身は炎が吹き出ている。炎の魔法剣を振りかざす。
ポップは足元を崩している。メドローアも両手から消滅した。
「ちっ、ちくしょう!」
だが後ろにいたでろりんがポップを弾き飛ばした。
「ぐあああああッッ!!」
「で、でろりん――ッッ!」
でろりんはそのまま海へと沈んでいった。
「でろりん…!」
沈んだ海面を呆然と見ていたポップは隙だらけである。黒騎士は再び海面をすべり疾風のごとくポップに突進した。
「し、しまった!」
もはやメラすら唱えるゆとりはない。ポップは観念して瞳をつぶった。
「メラゾーマ!」
「ヒャダイン!」
「イオラ!」
上空から三つの攻撃呪文が放たれ、それは黒騎士に直撃した。黒騎士はポップへの突進を止め、静かに上空を見た。
二人の賢者と一人の魔法使いが空に浮いていた。そしてすぐにトベルーラで沈みかけているオーシャン号の船首に降り立った。イオラを唱えたのはフォブスターだった。自分の船を副船長に任せて、トベルーラで飛んできたのである。
「大丈夫ですか!社長!」
「なんで逃げなかった…」
「あなたを置いていくわけにはいかないでしょうが!」
「お前にもしものことがあったら、セリアとコナンに恨まれるのは俺なんだぞ。そんなの御免だ」
セリアとはフォブスターの妻の名で、コナンは息子の名前である。ポップは社員の名は無論のこと、その妻と子の名前さえすべて覚えていた。
フォブスターはポップに薬草を渡し、自分の法衣を破いて包帯にして迅速にポップが右足に受けた傷へ巻いた。すぐにポップはホイミで治せるだろうが出血も激しく、放っておけなかった。そしてフォブスターは笑って言った。
「セリアはそんな馬鹿じゃありませんよ。せがれもね。逆に社長を見捨てて逃げ帰ったなんて知られたら、妻に箒でぶっ叩かれますよ。それに『もしも』の目に遭う気もありませんから」
「要領の悪いやつだ」
「社長に言われたくないですね」
メラゾーマとヒャダインを唱えた賢者二人がポップとフォブスターのところに歩んできた。
「アポロさん…マリンさん…」
アポロとマリンは黒騎士を睨む。ベンガーナのレストランの非礼を詫びるゆとりも無かった。そしてそれを受ける余裕も二人にはなかった。桁違いに敵が強いのは分かっている。だがポップにはメドローアがある。それを作り出す時間くらいは稼げるはず。再び二人は呪文の詠唱を始めた。
フォブスターもそれに呼応し魔法力を練りだした。ポップも自分の右足にホイミをかけながら立ち上がり、メドローアの構えを執る。黒騎士は黙ってそれを見ている。そして次の瞬間、彼は『真魔剛竜剣』を鞘に納めた。
「…どういうつもりだ?」
「気をつけて、あなた。彼は居合いの攻撃をしてくるのかも…」
だが黒騎士の執った行動はマリンの予想とは違うものだった。そのままポップたちに背を向けた。そして体には魔法力が帯びる。トベルーラである。
「ど、どこに行く!船団を狙うつもりか!」
黒騎士は船団が撤退した方角に向いてはいない。黒騎士は静かに首を振り、一言だけ言った。
「ヴェルザー」
「……ッ!」
黒騎士はトベルーラで戦場から去った。同時に暗雲は空に散り、稲光も豪雨も嘘のように消えた。マリン、アポロ、フォブスター、ポップは両手から魔力を消した。そして同時に滝のような脂汗が出てきた。
「アポロ…。いま彼が言ったこと…」
「やはり、ヴェルザーの封印は解かれたのか」
だがポップはアポロとマリンと違う意味で愕然とした。
「……い…今の声…」
呆然とし黒騎士の飛び去った軌跡を見つめるポップ。それに気づいたフォブスター
「社長?」
「い…いや何でも…」
(まさか…な…)
その時だった。海中からでろりんが浮かんできた。
「プハッ」
「でろりん!」
「ハアハア…」
そしてまた気を失った。急ぎフォブスターが海面から引きずり出し、でろりんを抱き上げ首をつまみ脈拍を取った。
「大丈夫、脈はあります」
その言葉にポップはヘナヘナと座り込んだ。
「よかった、生きている…。よかった…」
部下の無事に喜ぶポップ。それを見たアポロとマリンは微笑んだ。
「なるほど、人を思いやる心はまだ残っていたようね。安心したわ」
「ソアラ・カンパニーの加勢に行けと女王から命令を受けたときは、いささか気が進まなかったが…」
「姫さんから?」
「ええ、ソアラとパプニカの交易航路で、ソアラ・カンパニーの船がモンスター兵に襲われていると言う情報はパプニカ側にも伝書鳩で伝わっていたの。それで女王が私たちを派遣したわけ」
「姫さんが…あんな暴言吐いた俺のために…」
「貴方のためじゃない。貴方の部下のためかもよ」
「どちちでもいいです。この恩は返します。マリンさん、アポロさん、あの時は…」
マリンは左手をポップの口元に当てて制し、笑った。
「今はそんな場合じゃないでしょう?一度や二度のお酒の失敗で、そんなにブルーになるものではないわ。ね、あなた?」
「え?ああ、そうだな」
まだ許したわけじゃないぞ、という態度のアポロだったが妻のマリンによって毒気が抜けてしまった。そうこうしているうちに、どんどんオーシャン号は沈んでいく。もう五人の足場はない。
「ポップくん、貴方はこれから?」
「とりあえず、でろりんをつれてソアラに帰り、この件の後始末をしてきます。それが済んだらパプニカに行き、その後に先生の下へ」
「分かったわ。女王にはそう伝えておきます」
そういうと、アポロとマリンはトベルーラでパプニカへと飛んでいった。そしてポップとフォブスターはでろりんを抱え、ソアラへと飛んでいった。ベホマを唱え、でろりんの負傷も癒えた。
だが、あの斬撃がでろりんを殺せない威力とは思えない。黒騎士はあえて、でろりんを殺さなかったのだろうか。
(どういうつもりなんだ…。脅しを含めて、ただヴェルザーの存在を俺に伝えに来ただけか?そしてあの声は…)