ウグイスとセミが同時に鳴いていて頭がバグりそうになった今日この頃です。
ついに完成した。
そう、オレと阿笠博士の知恵と技術の結晶である自動スイカ割り機「チョップくん」が!!
「やりましたね!博士!!」
「やったの、子庵くん!!」
オレは博士とハイタッチをしてからがっしりと握手を交わす。
種抜き、皮むき機能はもちろん、クイズゲーム後に使用されることを想定した敢えての不当分切り機能や、細やかな動きをするカッターの設計と緻密なプログラミング処理によりスイカアートまで可能にした、皆が一家に一台欲しいというであろう自動スイカ割り機が完成したのだ。
「いやー、流石ですね。あんな条件処理を思いつくとは…!オレには全く思いつきませんでしたよ」
「いやいや、あれが実用に至ったのは子庵くんがカッターの軸部分に組み込みの構造を採用することを提案してくれたからじゃよ」
繋いだ手をブンブン振りながら興奮気味に言葉を交わしていると、不意に電子音のチャイムが鳴り響いた。
「おや、どうやら子どもたちが来たようじゃの。子庵くん、すまんがこの部屋に子どもたちを入れても良いかの?」
「ええ、もちろん。こちらこそバイトの業務と関係ないことなのに長時間居座っちゃってすいません。道具片づけたらすぐずらかりますんで……」
危なそうな電子機器だけとりあえず隠しておくか。
博士が玄関に出向いてしばらくすると、廊下の方からドタバタと賑やかな足音が聞こえてきた。
「「「おっじゃっまっしまーす!!!」」」
と、元気な挨拶とともに三人の小学校低学年らしき子どもたちが部屋に入ってきた。……一人の男の子はやたらと図体が大きいが。
「よう、お先にお邪魔してるぜ」
工具を段ボールに詰め込みながら軽く手を挙げ子どもたちに声をかけると、彼らはパチクリと瞬きした。
「お兄さんは博士のお客さん?」
と可愛らしく首を傾げる女の子に、後から続いて部屋に入ってきた博士がオレを紹介してくれる。
「ああ、彼は子庵鍵太郎くんといってな。ワシの発明品を買い取ってくれる店の従業員でな。よく品を受け取りに来てくれるんじゃが、今日は個人的に共同でメカを作っていてのお」
「じゃあ博士のお友達なんだね!」
「そうじゃのう」
どうやらオレはクラスメイトと友人になる前に50代の友人を得ていたようだ。
「よろしく」と子どもたちに声をかけると「「「よろしくお願いしまーす!!!」と大きな声で挨拶が返ってきた。……何だ、この純粋な生き物たちは?
ショートカットの女の子が歩美ちゃん、そばかすの男の子が光彦くん、大柄な男の子が元太くんというそうだ。
「僕たち、少年探偵団なんです!」
「そう!今日はね、少年探偵団の仲間の哀ちゃんを呼びに来たの。博士、哀ちゃんいる?」
少年探偵団?哀ちゃん?
「うむ、哀くんならおるよ。人見知りな子じゃから子庵くんが来るということで別の部屋に籠っておるんじゃが……」
「えっ、博士って娘さんいたんですか?」
今までこの家で家族を見かけたことがなかったから、てっきり独身かと。
「あー、いや。ワシの娘じゃなくて少し前から親戚の子どもを預かっておるんじゃ」
「へえー。その子を怖がらせちゃってるならオレはさっさとお暇しちゃいましょうかね」
子どもたちがワイワイ騒いで部屋を走り回る光景はオレの目には新鮮に映った。同年代の友達か……確かにちょっと楽しそうだ。
そういえば……同年代の子どもといえば、
「少年探偵団って、もしかしてもう一人男の子がいるんじゃないか?」
オレの脳裏に浮かんでいるのは、現場で見かけた博士の作ったメカを扱うあの”探偵”の少年。
「コナンくんのこと?」
「彼、お姉さんのお出かけについて行くって言って今日は留守なんですよ」
「いっつもアイツだけ色んなところ行っててずりいよなー。兄ちゃんアイツと知り合いなの?」
少年探偵団……何とも子どもらしく微笑ましいごっこ遊びに思えるが、”コナン”というらしいあの少年がいるとなると侮りがたいものになるなあ。
「いや、別に。ただ……そうかな、って思ってね」
得体のしれない妖怪のようなメガネ少年だが、いつもこの子たちに囲まれてると思うと人間味がある気がしてきた。
「お兄さんも困りごとがあれば少年探偵団に依頼していいですよー!」なんて光彦くんの言葉に軽く返事をしながら、オレは帰路に着いた。
ヘルメットをかぶり、博士の家の前に停めていた原付のエンジンをつけ出発しようとした時、ジャケットのポケットからスマホの振動を感じた。確か、ここに入れていたのは仕事用のスマホだったか。
黒羽からか?いや、今日はキッドの仕事と別件で、ネットの同好会のオフ会行くとか何とか言ってたから連絡してこなさそうなもんだが。
そう思いながらスマホの画面を起動させると、一件のメールが届いていた。差出人の名は”香坂夏美”。用件は家の蔵の整理の手伝い、と。
……あっ、”カラクリ屋”の方の仕事か。
最近はキッドの方で忙しかったが、カラクリ屋の方は相変わらず閑古鳥。鍵開け以外の仕事なんてそれこそ高島さんの以来な気がする。
”香坂”の家名は聞き覚えがあるな。ウチとは古い付き合いで確か当主は未亡人のお婆さんだったか。早めの日程が良いとのことなのでオレは明日を打診した。明日は黒羽もまだ出かけているだろうし、学校も休みなため丁度良い。
送信ボタンを押し、今度こそオレは原付を発進させた。
香坂さんの蔵整理は中々に面白かった。
依頼主の夏美さんは当主のお婆さんではなくその孫娘の若い女性だった。フランスでパティシエをしているとのことだが、お婆さんが亡くなってしまったため唯一の相続人である彼女が遺品の整理をしにきたらしい。彼女の曾祖父は著名なカラクリ職人であったため貴重な作品の他にも、防犯設備と称して様々な仕掛けを蔵や屋敷に遺している。それらの管理を親交があったカラクリ屋が担ってきたことから、今回蔵で安全に整理作業をするためにオレに依頼がきたと言うわけだ。
……カラクリ職人というのは何処の家でも子孫の手に負えないものを遺してしまう性でもあるのだろうか?
蔵には彼女の曾祖父が作ったのだろう精巧な細工が多く保存されていた。伝統的な江戸のカラクリを扱うウチとは異なり、彼は海外の工房で修行した経験のある職人だそうで細工のデザインのバリエーションは非常に豊富だった。
それらの細工の他には、図面資料といったオレとしては非常に魅かれるものもあった。一緒に付随してい用途不明な謎の鍵なんかもあったりしたが。
掃除の手伝いや骨とう品の鑑定などをしながらも、著名な職人の作品を勉強することができた美味しい仕事だった。
そして次の日、高校へと向かう道で黒羽と出会った。
「ん?子庵、オメーいつもはギリギリに登校するくせに今日は随分と早いじゃねえか」
「まあな。昨日は充実した仕事が出来たもんで気持ちよく寝られたんだ」
「へえ、そりゃ羨ましい限りだぜ」
「何だよ、お前はオフ会楽しくなかったのか?」
黒羽は両手を頭の後ろで組み、どこか遠い目をする。
「事件に巻き込まれたんだ……止めたかった、悲しい事件だったよ」
何やら大層なことに巻き込まれてしまっていたらしい。せっかくの純粋な休日だったというのにご愁傷様なことだ。
「けどよ、名探偵……漆黒の星の時のメガネのガキに会えたぜ!やっぱりアイツはおもしれえ奴だ」
うげえ。
オレにはそれもマイナス要素に思えるのだが、黒羽はどこか嬉しそうにその少年の活躍を語り始めた。
黒羽も物好きなやつだ。……なんて思っていたのだが、
「本当に物好きだな、放課後の学校で肝試しだなんて」
「別に、オレから行ったわけわけじゃねーし。青子がどうしても、って言うから付き合ってやっただけだ」
今日は普段通り時間ギリギリに小走りで登校していたオレだが、また黒羽と道中で鉢合った。どうやら昨日、中森さんと夜遅くの学校に忍び込んでいて睡眠不足で寝坊したらしい。
「生徒を襲う謎のお化けってのも、正体は理科室で実験とかいう紛らわしいことしてた紅子だったしよー。まったく、人騒がせな奴だぜ!」
「あかこ?」
「小泉紅子だよ。長い髪で澄ました顔をした女子……クラスにいるだろ?」
ああ、あの人形みたいに美人な子のことか。
「じゃあ、結局お化けなんて眉唾なものはいなかったのか。残念だな」
「いやー…、紅子自体が眉唾物な存在というか……って時間ヤバ!そろそろ本気で走らねえとマジで遅刻するんじゃねえの!?」
「いや、いつもの体感的にまだガチらなくてもいける」
頭も良くて割とリアリストな黒羽がお化けの噂を蔑ろにせずわざわざ確認に行ったとは。ちょっと意外だ。
なんてぼんやりと考えながらオレは焦る黒羽の背中を追った。
そして数日後。
今晩はキッドの予告日。狙いは大きな水晶が装飾に使われている”ラストエンペラーの金印”。ホテルビル内の展示室に向かった黒羽をいつも通りホー太郎に追わせながら、オレは黒羽の逃走予定地である東都タワー近くのビルの屋上で様子を窺っていた。
今日は大掛かりな警備もなさそうだし余裕そうだなー、なんてぼんやりカメラ映像を尻目にスマホゲームをしていると、突然鈍い銃声がイヤホンから聞こえてきた。
「へっ?」
慌ててカメラを確認すると、なんと中森警部が発砲しているのだった。
おいおい、たかが窃盗犯にいつから警察は実弾を使うようになったんだ!?
黒羽は足に仕込んでいたジェット付きローラースケートで警察官の間をくぐり抜け逃走し始めた。その判断の速さは伊達に修羅場をくぐっていない。
あのジェット付きローラースケートは阿笠博士がメガネ少年のために作っていたジェット付きスケボーを参考に作ってみたのだが、キッドの主な逃走経路となる狭いダクト内や階段、空で使えないため没かなーなんて思っていた。
しかし黒羽は階段の手すりを駆け上がるなど、驚異的なバランス感覚で使いこなしている。
そして屋上に出た黒羽はランチャーで東都タワーまでワイヤーを飛ばし、そのワイヤー上をローラースケートで走って見事ビルから逃走を果たした。
よくやるわ……と双眼鏡でその様子を見ていたところ突然、黒羽の目の前、つまりワイヤー上に女性が姿を現した。
本当に突然、まるでテレポートしてきたように……。
てか、恰好ヤバ
ホー太郎を通して正面からその女性の姿を確認すると、まるで中東の踊り子のようなへそ出しスタイルの派手な衣装を纏い、身長ほどある漆黒の大鎌を持っていた。
古めかしいマジシャン風の衣装の黒羽と並んでいるその姿は、一見するとハロウィンの仮装。しかし、時期違うし、ここは渋谷じゃないし、なんなら上空だ。
ホントに意味分からない。
『私は大人よ……あなたを殺すことだってできる……』
『キミには無理だ!!人の命はキミには重すぎる……』
何やら口論をしているようだが、こいつらよくあんな場所でやるな……見てるこっち側がヒヤヒヤするから勘弁して欲しい。
……というかあの顔、今朝話してた”小泉紅子”じゃないか??
オレがひたすら困惑している中、
パァン!!
と、また銃声が響いた。
途端にカメラに映る二人の姿が揺れる。
ホー太郎で音の出元を探ると、ホテルビルの屋上に取り残されていた中森警部がワイヤーの金具の根本に発砲し、フックを外してしまっていた。
いや、ほんと軽々しく銃を使うな……。
黒羽はハンググライダーを起動させ、危なげなく宙に浮く。……小泉さんをお姫様抱っこしながら。
オレがいるビルの屋上に着地した黒羽は小泉さんを丁重に降ろすと、ボフンと煙をたて彼女の前から姿を隠した。そして、オレが潜んでいた物陰へとやって来る。
「おい、あの人何なんだよ!急に変なカッコで現れて……ああ!今なんか赤く光って消えたぞ!?はあ!!?」
ホー太郎バグったか!?とカメラ映像に映る光景を疑うオレに、黒羽は「その反応はよく分かる」なんてしみじみと頷いてくる。
「アイツ……どうやら本物っぽいんだよな」
「本物?」
「ああ、赤魔術の後継者?とかいう魔女様なんだってよ。今日の警部の様子が変だったのも、多分アイツの仕業だぜ……」
「はああ??」
「謎の占いとか何とかでオレがキッドって分かってるみてえでよ。それを言い触らすことはしなさそうだが、オメーもアイツに何か言われたら適当にはぐらかしとけよ!
まったく、タネも仕掛けねえって……魔法ってのは嫌になるぜ」
魔女……魔女かあ……。いやあ……まじ?
『高校に入ると、きっと鍵太郎くんが今まで経験していないことにたくさん出会えるよ』と秀吉兄さんは言っていたが、そうにしても限度というのがあるのではないだろうか?
まったく、世の中はオレが知らないだけで不思議なものに溢れているらしい。
東洋の魔術師と言われた著名なマジシャンが怪盗キッドで、その高校生の息子が後を継いでいて、それに対抗する謎の殺人サッカーボールメガネ少年がいて、ヘソ出しスタイルの魔女が同じクラスにいて……。
月下の魔術師と呼ばれるマジシャンに、赤魔術使いの本物の魔女。
……そういや、絡繰師にも魔術師と呼ばれる人がいたな。
そう、ちょうどこの前依頼を受けた香坂夏美さんの曽祖父で。確かその名は"香坂
幕末の三水吉右衛門と入れ替わるように、明治初期1900年のパリ万博で弱冠16歳にしてカラクリを出品して注目浴び、世界に知られた職人だ。
人呼んで"世紀末の魔術師"。
精密な細工を得意とし、その作品で多くの人を魅了した彼を称賛する異名だという。
ということで次回、劇場版名探偵コナン『世紀末の魔術師』編です。