四代目カラクリ吉右衛門伝   作:於涼

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長くなったので中編と後編に分けました。
後編も土日には投稿する…ハズ


♦ 世紀末の魔術師の巻≪中編≫

 

 

 「『怪盗キッド死亡!?中森警部涙の会見。大阪湾での捜索は生死不明のまま取り止め』だってよ。うわあ、写真の警部さんの目の腫れよう酷いな……」

 

 「ったく、怪盗キッドがこんなことで死ぬわけないじゃんか。警部はオレを侮りすぎだぜ!」

 

 「結構危なかったくせに……。んで、メモリーズ・エッグは落ちた衝撃で傷ができていないか検査のため東京へ船で護送されている、と。ホー太郎の位置情報も海上を示している。よかったよかった。狙撃した奴に横取りはされてないみたいだな」

 

 「ああ……。だが、奴がかすめ取る隙を虎視眈々と狙っている可能性は高い。船に乗り込まれていたら面倒だぜ」

 

 大阪から東京へ高速道路で移動する中、オレたちはサービスエリアで買った新聞を眺めていた。

 

 

 ……エッグの護送のためだけに豪華客船とは相変わらず鈴木財閥は資金がありあまっているなあ。しかも前回のQ・セリザべス号とはまた別のっぽいし。

 

 「まあ、万が一船に奴が現れたとしても船上から逃げることはほぼ不可能だ。オレたちは東京の港で待ち伏せしとくか……」

 

 「そうだなあ……。誰かに化けてエッグに近づくか……」

 

 作戦会議を始めようとしたところで、ズボンのポケットに入れていたスマホが振動した。

 

 「すまん、ちょっと電話……って香坂さんから!?」

 

 このタイミングで香坂さんから連絡とは、何かありそうだ。オレは通話音声のスピーカーをオンにして電話にでる。

 

 

 「もしもし、こちらカラクリ屋の子庵です」

 

 『先月お世話になった香坂夏美です。急な話で申し訳ないのですが、またお仕事を依頼させていただきたくて……』

 

 学生のオレにも丁寧な物言い。前会った時も嫌味が一切なくいい人だった。

 

 「もしかしてですが、今ニュースで話題のメモリーズ・エッグに関してだったりします?」

 

 『……!!はい!実は先月蔵から見つかった設計資料を探偵や専門家の方々に見ていただいたところ、鈴木財閥所有のエッグが私の曾祖父が製作したものだと判明して……。しかも、エッグに隠されていた魔鏡からうちのお城にもう一つのエッグがあるかもしれない、というお話になったんです!』

 

「へえ……お婆様が住んでいらっしゃった横須賀の城に……それは大変興味深い話ですね」

 

 

 オレの読み通り、メモリーズ・エッグが”鍵”だったらしい。ただ、扉の先にあるものもまたエッグとは……。二代目の文書には”名工の思い”と記されていたから、手紙か何かのメッセージがあるのかとオレは勝手に思っていた。

 

 『子庵さんはメモリーズ・エッグと曾祖父の関係をご存知だったんですか?でしたら、エッグの在処もご存じでないでしょうか……?』

 

 「いえ、エッグについてはウチの資料でも見たことはありません。

ただ、あまりに見事な設計のものでしたからよく覚えていて……ニュースを見た時にひょっとしてと思いましてね」

 

 『そうですか……。ですが前の蔵同様、城のカラクリ仕掛けもカラクリ屋の方々が代々管理してくださっていたと執事の沢部から聞いております。実は明日、例の探偵や専門家の方々とお城を探索することになったんです!ですから、前回同様にカラクリが誤作動を起こさないよう付き添っていただきたくて。ご都合がよろしければなのですが……』

 

 「うちは閑古鳥が鳴いてるのでいつでも暇ですよ。それに、これほど面白そうな宝探しにご同伴できるなんてそうそうありません!ぜひその依頼、受けさせてください!!」

 

 オレは声を弾ませ、依頼を快諾する。

 

 凄くいい展開だぞ……!オレたちの一番の目的は夏美さんの手にエッグを渡らせ、世紀末の魔術師からのメッセージを彼女に届けること。彼女自ら探索に出てくれるなんて願ったり叶ったりなことだ。しかも、オレ自身が堂々とその場にいられるなんて!

 

 『ありがとうございます!では、詳細はメールの方に……』

 

 順調。しかし、順調すぎる気もする。もしかして……

 

 

 「あの、一つ先に尋ねたいことが……。今回お世話になる”探偵”の方のお名前は……』

 

 『えっと、毛利さんという方です。日本では”眠りの小五郎”という異名で有名な方だそうで、私としても頼りにさせていただいているんです!』

 

 オレは後ろで聞き耳を立てている黒羽の様子を窺った。

 

 黒羽は無邪気な子どものように……心底嬉しそうに口角を上げていた。

 

 「そうですか。オレ、彼のファンなので嬉しい限りです」

 

 

 電話を切ってすぐ、オレは黒羽に尋ねる。

 

 「なあ、”眠りの小五郎”って……」

 

 「ああ。普段はおちゃらけているダメ親父だが、事件の際は眠ったように俯き冴えた推理を披露する話題の探偵……もとい、彼のもとに居候している小さな”名探偵”のことだな。アイツが宝探しに手を貸してくれるっていうなら百人力だ!ケケ!」

 

 黒羽は機嫌よく笑う。本当にメガネ少年を気に入っているなあ。

 てかやっぱりメガネ少年の強キャラ感が半端ない。

 

 「名探偵がいるなら謎解きは問題ないとして……やっぱりオレたちは狙撃した奴だけどうにかしないといけねーな」

 

 「あと、恐らく城に鈴木財閥所有のエッグを城に持っていかないとお宝やらにたどり着けない」

 

 「んじゃー東京に戻ってからの作戦としては……」

 

 真剣に。だけど、どこかまだ見ぬ秘密への期待を互いに隠しきれない中、オレたちは作戦会議を進めた。

 

 

 人に銃を向ける奴がいる。この宝探しに緊迫は避けられない。

 だけど、世紀末の魔術師が生み出した謎を前にして、オレは胸に燻る高揚感を抑えることはできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 帰宅後、オレはすぐに香坂家の資料を確認する。城の間取り図からはその広大かつ豪華な設計が垣間見えるが、やはりお宝の在処は明記されていない。どこかの金庫や棚に封されているのか、それともここに描かれていない隠し部屋があるのか……。前者ならばどこかの時点で夏美さんの両親や祖父母が見つけていそうなものだ。後者ならば、この広い城内を調べる必要があり、中々骨の折れる作業になりそうだ。

 

 ある程度目途を付けれないかと図面を読み込んでいる最中、黒羽から電話がきた。アイツは警視庁に休暇中の警官に成りすまして侵入し、狙撃犯の正体を探ると言っていたが上手くいったのだろうか?

 

 『もしもし子庵?警視庁に行ったらよ、ちょうど成りすましてる警官の同僚らが殺人事件の捜査に出るとこだったんだ。しかもその事件は船上……つまり今メモリーズ・エッグを護送している鈴木財閥の船で起きたっていうんだ!……狙撃犯は十中八九メモリーズ・エッグのそばにいる。オレはこのまま船に乗り込むぜ』

 

 「分かった、気を付けろよ」

 

 犯人も警察がいる状況で下手なことはしないだろう。船でこれ以上暴れることはないだろうが、明日の城探索は何が起こるか分からない。しっかり準備しとかなきゃなあと装備の補填を0時頃までしていたところ、再び黒羽から電話がかかってきた。

 

 『殺人事件の犯人はやっぱりオレを狙撃した奴と同一人物みてえだ。必ずターゲットの右目を狙う国際指名手配犯、"スコーピオン"って奴らしい。目的不明、突発的な殺人を世界各地で行なっている凶悪犯だとよ。……奴は必ず明日、城に現れるぜ!オレはこのまま警察として城まで夏美さん達に同行する。オメーも腹括っとけよ!』

 

 「言われなくてもそのつもりだ。じゃあ、また明日横須賀で落ち合うってことでいいな?」

 

 『おう!あっ、あと名探偵の正体が分かったかもしれねえ』

 

 黒羽の神妙な声音。

 

 「はあ?正体も何もお前が勝手に名探偵って呼んでるだけで、名前は江戸川コナンくんだろ?」

 

 『いや、その"江戸川コナン"の正体が……おっと、警部さんに呼ばれたから電話切るよ。詳しくはまた話すさ……』

 

 一方的に気になる話を小出しされ、切り上げられた。こんな大切な日の夜に気になってしょうがないと眠れなくなってしまったらどう責任をとってくれるのだろうか?

 

 なんて文句を思い浮かべつつ、オレは布団に入って5分で寝た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

8月24日

 

 朝から原付を走らせ横須賀へ。

 山を登るにつれ姿を現すのは白塗りの壁のドイツ風の城。見事なものだ。

 

 オレが城の門をくぐり抜けると、そこにはすでに複数人の人たちがいた。そして手前には見慣れた黄色いビートル車が……

 

 

 「あれ?阿笠博士じゃないですか!」

 

 オレがヘルメットを外しながら声をかけると、博士は振り返り大袈裟に驚いた反応をした。

 

 「子庵くん!?」

 

 「あー!博士のお友達のお兄さん!」

 

 この間会った少年探偵団の3人が元気よく手を振ってくれる。……ほんとに未知の生き物だ。

 一人だけ見覚えのない茶髪の少女がいる。彼女が博士が面倒を見ているという"アイちゃん”なのだろう。

 

 

 辺りを見渡すと、にこやか笑みを浮かべる夏美さんと執事の沢部さん。そしてメガネ少年と彼の保護者らしい毛利探偵とその娘さん。意味深な笑みのスーツを着た男は黒羽が化けている警官。

 あとは、オレに怪訝な目を向ける大人たち……いかつい白人の男に小汚い初老のおっさん、美人なショートヘアのお姉さんの3人。彼らが夏美さんが言っていた専門家だろうか?まあ、そりゃ急に学ランを着た見覚えのない小僧っこが出てきたらそんな顔もするだろう。

 

 「あー、もしかしてオレが最後ですかね?待たせてしまいましたか?」

 

 「いえいえ!他の皆さんも今来てくださったところですよ!

  あっ、皆さんに私から紹介させていただきますね。彼は子庵鍵太郎くん。この城を代々整備してくださっているお店の方なんです。うちの城は防犯用の危ない仕掛けもあって……安全に探索するために彼にも来てもらいました」

 

 「若輩者ですが、どうぞよろしくお願いします」

 

 深々と頭を下げると、大人たちは取り敢えず納得した顔をした。

 

 メンバーが揃ったということで、沢部さんが城の扉を開けオレたちは夏美さんに続き城へと入った。少年探偵団たちは、メガネ少年を除き無断で博士についてきただけだったらしく、庭で博士と留守番するように言いつけられていた。

 

 沢部さんの案内のもとオレたちは「騎士の間」、「貴婦人の間」「皇帝の間」と主要な部屋を回っていく。いやー、図面では知っていたがとんでもなく豪華な城だ。各部屋はそれぞれのコンセプトに合わせた美術品で彩られ、使われている家具も一級品の物ばかりだ。

 

 しかし、依頼されて来たとはいえオレの仕事はほぼなさそうだ。ウチの屋敷とは違い、香坂氏がこの城に仕掛けた罠は良心的だ。日常的に通る部分に罠はない。あからさまに金庫等を触らなければ何の装置も作動しないのだ。……どっかの国際的指名手配犯が暴れ出さない限り。

 

 だからオレが何も言わなくても罠で怪我人はでないだろう、と高を括るっていたのも束の間。

 「皇帝の間」を物色している中、隣の「貴婦人の間」の方から悲鳴が聞こえた。

 

 

 皆が「貴婦人の間」に駆け付けると、つい2分ほど前お手洗いにと出て行った専門家の一人……初老の美術商の男が天井から釣られた複数のナイフのもと、腰を抜かしてへたり込んでいた。

 

 片腕は壁にはめ込まれた金庫の中……宝石に埋もれた手錠によって固定されている。

 

 「80年前、喜一様が作られた防犯装置です。この城にはまだ他にもいくつか仕掛けがありますから……ご注意ください」

 

 と、沢部さんは手錠の鍵を解く。……フツーにこの人窃盗未遂なのに優しいな。

 しっかし、このおっさん随分と手慣れている。

 

 「この数分で絵画の裏に隠された金庫を探り当て、ピッキングで開ける。おっさん常習犯なんじゃねえの?」

 

 箪笥の棚の奥に埋め込まれたボタンを押し、ナイフを天井に戻しながら指摘すると、おっさんはさらに顔色を悪くした。

 いや、マジで泥棒としての筋は良いぞ。黒羽ほどではないが。

 

 それにしても、なんかずっと視線を感じる……メガネ少年から。

 

 

 「ボク、オレに何かよう?」

 

 かがみこんで少年に話しかけると、彼は人好きする笑みを浮かべた。

 

 「子庵兄ちゃんって博士と知り合いなの?さっき話してたけど……」

 

 「ああ。オレ家業以外でも整備士のバイトしてて、そこでの取引先が阿笠博士なんだ」

 

 オレが引きつりそうになる口角を無理やり上げながら答えると、メガネ少年はふうん…と思案気に手を顎に手を当てる。

 

 

 「へえー、まだ高校生なのにいっぱい働いていてスゴイね!……メモリーズ・エッグの隠し場所が分かっちゃうなんて大人よりスゴイかも!」

 

 

 えっ、……??

 

 

 メガネ少年は呆気にとられ固まったままのオレにくるりと背を向け、沢部さんに”執務室”に連れていって欲しいとねだりだした。

 

 

 

 

 

 

 確かにオレはメモリーズ・エッグの隠し場所にいくらか目星はつけてきた。黒羽にも共有している。

 "執務室"は、オレが図面を見て隠し部屋と繋がっているのではないかと睨んでいた部屋の一つだ。この城は規模感の割には意外にも地下室がない。もし、地下室が隠されているとするならば間取りや地盤から可能性が一番高い場所だと踏んでいたのだ。

 メガネ少年がその場所を指定したのは恐らく、偶然ではない。

 

 

 「こちらには喜市様のお写真と当日の日常的な情景を撮影されたものが展示されています」

 

 

 執務室に入り、沢部さんの説明のもと皆がそれらの写真を物色する中、オレはとある一枚の写真を前に足を止めた。

 

 柔和な表情の若い男性と、その肩に腕をかける破顔一笑する同じ年頃のいくらか小柄な男性。

 

 「あっ、これは若い頃のひいお爺様と……もしかして子庵くんのひいお爺さま?」

 

 小柄な男性が来た羽織に記された三水の紋を指差し、夏美さんは目を見開く。

 

 「随分とお若い頃から親しかったのね」

 

 「そのようですね……」

 

 二代目カラクリ吉右衛門、三水乙釟(おつはち)

 家の遺影ではお堅い雰囲気だが、この写真ではどちらかというとお調子者にまで見える。相当親しかったらしいこの二人の絡繰師はいったいどのように出会ったのか。

 

 

 ……てか、この写真の下の辺りの床どうも音が軽いな……ということは……!?

 

 

 オレが声を上げる前に、メガネ少年がこちらへと駆け寄ってきた。

 

 

 「下から風が来てる!この下に秘密の地下室があるんだよ!!」

 

 と言ってかがみこみながら、床を念入りに調べ始める。

 

 すると一枚も張板の裏から入力キーが現れた。キーそれぞれに書かれているのはロシア語のアルファベットらしい。白人の大男はロシア人だそうで、皆が提案するロシア語のワードを入力していく。

 

 2つ、3つワードが入力されたがいずれも正解ではなかったようだ。……やっぱり香坂氏の仕掛けは良心的だ。ウチの先祖が作ったものなら大体一回目のミスで即ヤバい装置が作動する。

 

 ふとメガネ少年がこぼした言葉、というか夏美さんが何となく覚えていた言葉「ばるしぇ肉買ったべか」がロシア語なんじゃないかという話になった。日本語すらダメなのに外国語なんてもっての外であるオレにはなんのことかサッパリだったが、流石はネイティブ。大男には思い当たるものがあったようだ。

 

 

 世紀末の魔術師(ヴァルシェーブニック カンツァー べカ)

 

 

 

 床下からの振動、歯車の回る音。

 香坂氏は自身の異名をパスワードとしていたようだ。

 

 オレたちの足元に現れたのは地下へと繋がる階段。

 

 危険な場所だからと名乗り出た警察官……のふりをした黒羽を先頭に一同は意気揚々と階段を降りる。

 オレも後に続こうとした時、メガネ少年と目が合った。

 

 彼は今までの無垢な笑みと異なり、目を細めながら口元は小さく弧を描き……「やっぱりあったね、子庵兄ちゃん」と小さく囁く。

 

 

 

 その掠れたボーイソプラノにぶわあ、っと全身に鳥肌が立った。

 

 

 「何だよ……お前は……」

 

 オレの口からはそんな投げやりな言葉が漏れる。

 メガネ少年は階段に足を一歩伸ばしながらこちらを振り向くことなく答える。何もかも見透かしたような、冷涼な気配を纏って。

 

 

 「江戸川コナン……"探偵"さ……」

 

 

 

 

  

  ……こっわ!

 

 

 

 喉から出かかった言葉を誤魔化すように、オレは乾いた唇を舐めた。

 

 

 

 

 






キッドに「最も出会いたくない恋人」と言わしめるコナンくん、イイよね。
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