四代目カラクリ吉右衛門伝   作:於涼

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しばらくお待たせしました。
活動報告に書き込んでくださった方々ありがとうございます!
希望にあったのと自分が早く書きたかったので、今話はカラクリ吉右衛門回です。


♦ 奇抜な屋敷の巻≪前編≫

 

 

 

 「迷宮なしの名探偵……真実はいつもひとつ!」

 

 

 

 

 ピシッと指を突き付けられたオレは「はあ…」と、気の抜けた声を返すしかない。

 

 

 「何ソレ?映画の告知CMかなんか?」

 

 「んー?名探偵……というか”工藤新一”のマネ!」

 

 黒羽はどこか機嫌よさげな声音でそう答えながら、濡れたブレザーを脱ぐ。

 オレたちが通う江古田高校の制服はブレザーではなく学ランだ。じゃあ何故黒羽がブレザーを着ていたかというと変装のためなのだが……

 

 

 「不思議だ……黒羽、お前って髪型整えて真面目な顔してるとクールキャラっぽくなるんだな……」

 

 「はあ?オレは普段からクールキャラだろうが!!」

 

 今の黒羽はなんというか……顔は変わっていないのにいつもよりイケメンだ。

 うーん。うるさく騒いでいると黒羽って感じなんだが。

 

 

 「しっかしノーメイクでこのクオリティとは。お前と工藤新一って相当似てるんだな」

 

 「オレも鏡を見て自分で驚いたぜ!世の中には同じ顔が3人いるっていうし、そのうちの1人なのかもな。……やっぱり何度見ても我ながらそっくりだな。もしかしていい変装相手見つけちまったか?

 

 鏡に顔を近づけゴニョニョと呟く黒羽の頭の上に、どこからか飛び出した白鳩が止まる。

 

 黒羽がどうして工藤新一の恰好で、びしょ濡れになって帰って来たのか。それはこの鳩……ホー子を迎えに行ったことにあるらしい。

 

 

 「お前が狙撃されたときに傷ついてしまったホー子を探偵クンたちが手当てしてくれたってのは分かるんだけど、どうしてそれを”工藤新一”が迎えに行くんだよ?」

 

 「いやー。船の上で盗聴最中にアイツの妙な事情を知っちまった上で、散々じれったい恋愛ドラマ見せつけられたらな……ちょっとばかしお節介を焼きたくなるもんだ」

 

 妙な事情、というのは”幼児化”のことだろう。

 メガネの探偵クンと阿笠博士の通話中、博士が探偵クンのことを”しんいち”と呼んだそうだ。あだ名にしては変な呼称。以前から引っ掛かるところがあったらしい黒羽は、軽い身辺調査から探偵クンの正体が世間を賑わす高校生探偵の”工藤新一”だと結論づけたらしい。

 

 今までのオレならば”幼児化”なんぞトンチキな話だと流していたかもしれないが、クラスメイトの女子が正真正銘の魔女だと知った後だ。魔法陣とか見せられたからには、もうなんだってアリだと思うしかない。きっと探偵クンはどこぞの赤魔術やら黒魔術の使い手に因縁をつけられたのだろう。可哀そうに。

 

 まあ……あんな賢いかつオーラがある小1がその辺に存在するより、幼児化してるからと理由づけが合った方が幾分気が楽か。

 

 そんぐらいの心持ちでオレは納得していた。

 

 

 「ふーん。よく分からんがお疲れさま」

 

 寺井さんが入れてくれたコーヒーをちょびちょびと飲みながらオレは工藤新一がいつもの黒羽に様変わりする様子をぼんやりと眺める。

 

 

 「あーそうだ、子庵。次の獲物について相談したくてよ」

 

 「へえ、今回の件が終わったばっかだってのに随分気が早いというかモチベーションがあるな?」

 

 「いやさ、香坂家の城を見てふとオメーん家を思い出したんだ。トラップだらけの奇抜な屋敷……カラクリ吉右衛門の作品をさ!」

 

 オレの家、三水邸ならばいつでも招待してやるが黒羽が言いたいことは別だろう。

 

 

 「次の獲物はカラクリ吉右衛門の作品が守る宝石ってのはどうよ?」

 

 「そうだな……まあ良いタイミングか」

 

 オレと黒羽が手を組んだ理由の一つに、カラクリ吉右衛門にまつわるビックジュエルについての情報提供がある。だが実際に仕事をしていると、案外期間限定で出展されている宝石を狙うことが多く、所在が明確なカラクリ吉右衛門関連の宝石は後回しになってしまっていた。大仕事がひと段落し、特に次の宛がない今……初代の手記に存在が示されていたあのお宝を狙うのが丁度良さそうか。

 

 

 「三水邸は確かに奇抜な屋敷だが、一応は住居。だが初代カラクリ吉右衛門はもう一つ奇抜な屋敷を建てていてな。何とそっちは宝石を狙う輩をとっちめるだけに建てられたものだ。そこには大粒のダイヤモンドが隠されているとか……どう、興味ある?」

 

 「すっげーある!」

 

 じゃあ来週の週末にでも……と、オレはスマホのカレンダーアプリに仕事予定を打ち込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして金曜日の放課後。

 

 オレと黒羽は東京近郊の山奥までレンタルしたバイクを走らせた。

 整備された道路から外れ藪の生い茂った細道を進むと、ひどくボロい……というかもはや崩れかかった木造の屋敷が現れた。

 

 「うわー!想像以上に荒れたい放題じゃねえか!これが本当にカラクリ吉右衛門の作品なのか?」

 

 「ああ。一応代々うちの所有の土地と建物だ……。昔、一度明治政府に財産を隠していると没収されたんだが、誰もこの屋敷のカラクリを解くことができず返されたらしい。返されたからといって、子孫のオレたちにとってもどうしようもない危険物件なもんだからずっと放置されてきたんだ」

 

 不動産、と言えば聞こえはいいが設置された罠の危険性から誰も手をつけられなかった地雷だ。荒れ放題といっても山奥なため特に文句は言われてこなかったのだが、先ほど新しくできたらしいキャンプ場を見かけた。……そろそろ行政指導が入るかもしれねえ。

 

 

 「佐幕派の初代が新政府をおちょくるために宝石を隠し、罠だらけにしたようだから、宝石を見つけ出すってのも無粋なことなのかもしれねえが……。こっちは処理に困るものを大量に押し付けられてるんだ。たまには生計の足しにしてもいいだろう」

 

 隠されているというダイヤモンドを見つけ出し、黒羽の探しているパンドラとかいう宝石でもなかったら売りに出すつもりだ。オレは祖父が死んだとき、色々遺産相続をしたが危険物件①、借金、危険物件②、借金、……等々どれもロクでもない遺産ばかりだった。そんな中で珍しくまともなお宝が遺されているならばぜひとも有効利用させていただきたい。

 

 

 「じゃあ、初代カラクリ吉左衛門の業を堪能させてもらいますかね!」

 

 黒羽の喜色が滲んだ言葉を合図に、オレたちは宝探しを始めた。宝探しの道中はそれなりに波乱なものだった。

 

 

 

 

 

 「仁王の塒は日輪と咫尺の間長老あまた集へる甚だしき殷賑の地…其処に仁王の石は在り

 仁王の憤怒畏怖せざる者よ拳に溢るる其の石を手中に収め万古よりの理を識得すべし

 三水吉右衛門……

 だってよ子庵?意味分かったか?」

 

 「ま、全く……」

 

 「オメーんとこは技術と名だけじゃなくて、国語力と暗号作成技術もきちんと代々受け継いでいくべきだっただろうな……」

 

 ご先祖様の凄さを改めて実感したり。

 

 

 

 「うげっ!白骨化死体だらけ!……もしかしてオレ管理不足かなんかで罪に問われる?」

 

 「いや……服を見た感じほとんど戦前のものだろ。それにまず私有地に勝手に入った奴が悪い。骸骨たちも文句を言える御身分じゃねえだろうぜ」

 

 「泥棒のお前が言っちまうんだ……」

 

 危険物件というかすでに超絶事故物件だったことが発覚したり。

 

 

 

 「迷いし者我に神器を…とも……えよ?」

 

 「(そな)えよ、だよバカ」

 

 黒羽の賢さを改めて実感したり。

 

 

 

 

 「こっ、これは……!やっぱり初代は性格がねじ曲がってる……お茶目なんてレベルじゃねえよ!」

 

 「子庵!いいから早く宝石を戻せ!!」

 

 ご先祖様の底知れぬ意地の悪さを思い知ったり。

 

 

 

 

 総括すると、散々なお宝探しだった。

 謎かけ自体は黒羽のおかげて苦戦しなかったのだが、最後のオチが最悪だった。香坂家の謎と違ってロマンの欠片のないオチ。ムカつく。

 

 

 「ダイヤモンドは実在した……が、絶対に取り出せない、というか取り出しちゃダメなやつだった。そして黒羽の探してる宝石でもなかった。今回得たことは屋敷が事故物件だというオレにとって最悪の真実のみ……疲れた」

 

 「はは……まーやっぱりカラクリ吉右衛門の絡繰特有のスリリングさをまた味わえたのは楽しかったぜ?」

 

 「こっちは普段からそのスリリングさを腹いっぱいに自宅で味わってるんだよ……!」

 

 

 ぶつくさと抑えきれない文句を垂れ流しながら江古田町に帰った。

 

 そして、翌朝。

 朝食を食べながらラジオをニュースで聞いていると……。

 

 

 『次のニュースです。先月、江戸時代からの名家の蔵から、幕末の天才絡繰師、三水吉右衛門が遺したと思われる地図が見つかりました。研究者によると何かの隠し場所を示しているものだと考えられており、三水吉右衛門が徳川幕府と親密な人物であったことから徳川埋蔵金との関連も囁かれています……』

 

 

 「……」

 

 

 ひょっとして、かなり面倒なことになっていねえか?

 オレはあやうく手を滑らしかけた茶碗をゆっくりテーブルに置き、天井を仰いだ。

 

 

 スマホでネットニュースを確認すると、三面ぐらいのポジションに『カラクリ吉右衛門の秘宝、発見なるか!』なんてタイトルの記事があがっていた。リンクを開くと古めかしい地図がデカデカと表示された。記号や漢字が入り混じった地図。恐らく暗号となっているのだろう。……これ、解ける奴は解けるよな。

 

オレは急いで味噌汁を飲み干し、黒羽へ電話をかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 「確実にあの地図はオメーんとこのボロ屋敷を指してるぜ」

 

 「世の中物好きな奴らが多いからなあ。お宝狙いが群がってくるよな……。オレやだぜ、あの屋敷がさらに事故物件になるの。所有者のオレが怨霊に憑かれそうじゃねえか」

 

 ニュースで公開されていた地図は恐らく元お得意様の家からでてきたのだろう。初代の時は強い関わりがあったが今では店と関係が途絶えてしまった家は結構ある。そういった家の若い人たちが「カラクリ吉右衛門」の子孫がまだ商売を続けているとは露知らず、この地図を世間に遠慮なく出してしまったのだと思われる。

 

 うちの屋敷の絡繰のせいで死人がでたとか言われ、責任がオレに降りかかるのは勘弁だ。お宝狙いが万が一障害を全部くぐり抜けてダイヤモンドに辿り着いたとしても、それはそれで面倒なことが起こってしまうのは昨日確認済み。

 

 誰かが無茶する前に止めるしかない。そんなわけでオレたちは昨日より気持ちバイクの速度を上げて山奥の屋敷へと向かう。

 

 

 

 

 屋敷の前にはすでに人影があった。

 

 「トレジャーハンターか?いや、あれは子ども?あの5人組はもしや……」

 

 「げっ!子庵、オレは隠れてるぜ!」

 

 非常に見おぼえある子どもたちの姿に、オレはため息をつきながら近づいた。

 

 

 「……やあやあ、ボクたち。こんな廃墟の前で何してるんだ?危ねえぜ?」

 

 身を固め合ってコソコソ話し込む彼らに声をかけると「ギャア!」っと想像以上に彼ら……少年探偵団は大げさな反応をした。

 

 「うわっ!殺人犯か!?……ってなんだ。博士ん家によく来る兄ちゃんじゃねえか。脅かせんなよな!」

 

 大柄な男の子、元太君はそうオレをぷんすか責め立てる。話を聞けば皆で仲良くキャンプに来て、たまたまこの屋敷を見つけたのだということだが……

 

 

 「キャンプって君らだけでか?大人は一緒じゃないのか?」

 

 オレがそう首を傾げると、茶髪の女の子……確か哀ちゃんだったか。彼女がすっと人差し指を斜め下に向けた。

 

 

 「博士が連れてきてくれたわ。だけど……この死体を見つけたからさっき警察に通報するために電波の届く場所へ向かったの」

 

 彼女が指差す先には一人の男性が倒れていた。見開いた眼に青白い肌……明らかな”死”を纏わせて。

 

 

 

 「えっ、もう手遅れだった!?」

 

 オレは思わずうめき声をもらす。

 何の絡繰が作動した?ここは庭だから屋敷の中ほど仕掛けは多くないはずなのだが……中で致命傷を負って外にはい出てきた?

 

 

 「子庵兄ちゃん……手遅れってどういうこと?何か知ってるの?」

 

 探偵クンの思慮に満ちた小学生らしからぬ深い声音。

 責任手続き書類取り調べお化け呪いお祓い…とグルグル回る思考を無理やり止める。

 

 「いや……この人については何もしらないけど、オレはニュースでこの屋敷を示す地図が話題になってるのを知って止めに来たんだ。宝石を狙う無謀な輩をさ……」

 

 「何だよ、子庵の兄ちゃん宝石を独り占めするつもりか?」

 

 オレは元太君の言葉に苦笑いを浮かべながら首を振る。

 

 「違うよ。独り占めも何も元からオレの物だし……この屋敷ごとね。オレはご先祖様が作った絡繰で新たな犠牲者が出ないように駆け付けた、ただの善良な子孫さ。そこの仏さんを見る限り遅かったようだが……」

 

 はは……ホントに勘弁してほしい。

 

 

 「先祖……絡繰?そういや夏美さんが彼のお爺さんも有名な絡繰り師だったって……もしかして子庵兄ちゃんのご先祖って”カラクリ吉右衛門”!?」

 

 探偵クンの問いにオレは素直に頷く。

 

 

「若いのによくその名前を知ってるな……ってそういえば今ニュースで出まくってるんだった。

 ああ、オレの母方の高祖父がこの屋敷を建てた三水吉右衛門なんだ。一応絡繰いじりの家業も継いでるんだが……このことはあまり言いふらさないでくれよ?うちは一見さまお断りでやってるもんでね!」

 

 

 オレはしー、っと口元に人差し指を立てて念を押した。

 

 

 

 

 






本小説は、原作のこの回を読んで作者が「屋敷の所有者とかいたら後処理大変そうだなー」と思ったことと、100万ドルを観てテンションが上がったことから始まりました。
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