四代目カラクリ吉右衛門伝   作:於涼

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♦ 月夜の宝石箱の巻

 

 いつも通り阿笠博士の家に納品物を受け取り、原付を走らせブルーパロットへと戻る。

 

 「ただいま戻りました──「母さん……いい加減勘弁してくれよ!!」

 

 カウンターで黒羽がうなだれながら力ない悲鳴を上げていた。黒羽の前に置かれているのはノートパソコン。そこには女性の姿が映っていた。

 

 ビデオ通話だろうか。オレは邪魔しないようにとドアをできるだけ静かに閉めたが、むしろ黒羽はオレに縋りつくように目を向けてきた。

 

 

 「ほら、子庵も帰ってきたからそろそろ仕事の準備をしねえと。だからもう切る……」

 

 『あら!そこに例のお友達がいるの?ぜひ顔を見せてちょうだいよ!!』

 

 「うげ、食いついてきた!……だけどまあ惚気話を続けられるよりマシか……」

 

 何か諦めた様子で、手をひらひらとさせこちらを招いてくる黒羽。オレは誘われるまま恐る恐るノートパソコンの前に立った。

 

 

 「ど、どうも……」

 

 誰?この人、と黒羽に視線で尋ねるが、黒羽が答える前に画面に映る女性が口を開いた。

 

 『まあ、たれ目がキュートで中々かわいい子ね!』

 

 「かわいいって……コイツ寝不足で目が開いてないだけだぜ。目が覚めてる夜には結構目つきが悪くなんだよな」

 

 『素敵なギャップじゃないの!』

 

 画面に映る女性は興味深々といった風に目を輝かせている。紫がかった黒髪のショートヘアに、濃い口紅、そして露出度の高いワンピースと若々しい容貌ながらも大人の色気を醸し出す女性。

 

 今まで自分の身の回りにはいなかったタイプの人間に対して、オレは戸惑いを隠せなかった。

 

 『あらやだ、自己紹介もせず一方的に喋ってごめんなさい。私は黒羽千影よ。いつも息子がお世話になってます!』

 

 黒羽の母親!?

 ……にしては若すぎないか?

 

 顔立ちはそれほど黒羽に似ていないが、その妖艶な微笑み方はどこかキッド時の黒羽の表情を思い起こさせる。一瞬邪推をしてしまったが、妙に尻に敷かれている黒羽の態度を見るに、彼女は確かに黒羽の母親なのだろう。

 

 

 「いえいえ、こちらこそ……。自分は黒羽のクラスメイトの子庵鍵太郎です」

 

 『ふふ……夜の仕事の方でも手伝ってくれてるって聞いてるわ。うちの子突拍子のないことばかりするからいっぱい迷惑かけちゃうと思うけど……これからもよろしくね♡鍵太郎くん!』

 

 「突拍子もないって……母さんだけには言われたくねえぜ」

 

 確か黒羽の母親は海外を自由気ままに練り歩いていると聞いていたが……なるほど、確かに聞いていた通りフリーダムかつパワフルなお人だ。

 

 

 『うーん、もう一回あの人との馴れ初め話するんだったら、せっかくだし鍵太郎くんにも聞いてもらおうかしら』

 

 「げげっ!ホントに勘弁してくれよ!!親の馴れ初めなんてフツーに聞いてるだけでも気恥ずかしいのに、それを子庵も聞くとか何の拷問だよ!!」

 

 黒羽の母親……もとい千影さんはまだまだ話したそうな様子だったが、黒羽は「今晩はキッドの仕事があるから」とゴリ押しで通話を切ったのであった。

 

 

 

 

 

今晩の仕事は博物館から期間限定で展示されている宝石を盗むことだった。オレはいつも通りブルーパロットでオペレートをしていたが、オレの出番はほぼなかった。今回は探偵クンがいたわけでもなかったため黒羽はあっさりと警察を出し抜いて宝石を盗み脱出を成功させた。

 

 「お疲れさん。今回の宝石はどうだった?」

 

 『うーん、こいつもハズレみてえだ。だが宝石の裏に文字入りのシールが貼られていたんだ』

 

 スピーカーから流れてくるのは中森さんの声。中森さんの”警部の娘”という立場を利用し、彼女に変装して現場を出入りするのは黒羽の常套手段だ。普段の様子を見るに黒羽は彼女に絶対惚れているが、それはそれとして利用できるものはとことん利用する質らしい。

 

 しかし文字入りシールとは何だ?まさか値段シールが百均商品のノリで宝石に貼られていることはないだろうし……

 

 『”怪盗キッドよ……次は私のターンだ……月が猶予う土曜の夜…汚れ無き杭の頭に貴殿の宝石を封じて、18年前の借りをお返ししよう……”だってさ。なんじゃこりゃ?18年前ってオレ生まれてねーし』

 

 「暗号の意味はオレにはさっぱりだが、18年前っていうとお前の親父さんが──…待て、少し静かにしろ」

 

 オレはスマホに届いた警告アラームに目を細めた。

 

 「ホー太郎がカメラのフラッシュを感知した。キッド、お前を監視している奴がいるぜ」

 

 『!!?』

 

 

 オレは黒羽につけているホー太郎の視界を丁寧に確認する。すると、歩道を黒羽の斜め後ろの車道に窓を半開きにした白い外車が停まっていた。

 

 「相手は車だ……そこの左の路地に入ったら上手くまけると思う」

 

 黒羽に指示をだしながらも、オレは顎に手を当て思考する。

 

 犯行中ではなく、犯行後の追跡。隠れパトカーにしては目立ちすぎる外車……警察の線は薄い気がする。謎の追跡者に謎の文字入りシール。どうも何かの狙いがあって怪盗キッドに執着している輩がいるらしい。面倒くさいことが起こる予感がする。念のためここ最近の仕事終わりの映像を確認しとくか……、とオレは左手でブラックコーヒーをすすりながら右手でキーボードを打ち始めた。

 

 

 

 

 ……確認作業に時間がかかり徹夜をする羽目になった。次の日の学校では久しぶりに一日ずっと寝てた。放課後になりノロノロと顔を上げたオレに、「おっ、番長また夜遊びでもしてたのか?」なんて隣の席の奴が野次を飛ばしてくる。「うっせー、バイトだよ」と軽くあしらいながらオレは黒羽の席に向かう。

 

 だが、黒羽の周りには先客が2人いた。中森さんがいるのはいつものことだが、今日はめずらしく小泉さんもいる。……赤魔術の使い手とかいうオレの現実への認識をぶち壊してくれたお方だ。

 

 

 「まあ、あまり目立つ行動は控えなさい……出る杭は打たれるっていうし……」

 

 何やら話し込んでいる様子だったが、小泉さんはそう言ってミステリアスな微笑みを浮かべながら教室を去って行った。中森さんも「ワンピースをクリーニングに出しにいかなくちゃ!」と慌ただしく帰っていく。

 

 

 「何の話をしてたんだ?」

 

 「いや、青子が突然東都タワーの特別展望台の貸切ディナーに当選したから紅子と行くって自慢してきたんだが……昨日の今日だ。どうにもきな臭くねーか?」

 

 「丁度その昨日の件について伝えときたいことがあるんだが……」

 

 オレは黒羽に、犯行後に郵便ポストへ盗品の宝石を入れた中森警部宛ての封筒を投函している時をホー太郎の最近の録画で確認すると、高確率で背景に外車が映り込んでいたことを伝えた。

 

 

 「写真を撮られたのは昨日だけだが、尾行はここ最近ずっとされてたみてえだ。組織規模で何か良からぬことを企てている奴がいる」

 

 「ポストに投函している時か……ああ!もしかしてそれで青子が……!!オレが青子によく変装してたから、尾行している連中らは青子が怪盗キッドの正体だと思い込んでいるんじゃねえか!?」

 

 やっぱり何か面倒くさそうなことになっているようだ。とにかく、中森さんが招待されたディナーの日時は次の土曜日らしい。オレたちはその日までに尾行者への対抗策を備えることとなった。

 

 

 

 そして土曜日の夜。黒羽は上司が早帰りさせてくれたという設定の中森警部に変装し、中森さんがいる東都タワーの展望台へと向かった。オレは下の一般開放されている階層で待機だ。スマホでぼんやりと二人の様子をうかがいながら、売店で買った弁当を食べていると不意にゴンっと頭に衝撃を感じた。

 

 「ぐふっ!」

 

 オレは思わず吹き出しそうになった卵焼きを何とか口内に押しとどめる。

 

 「あら、ごめんなさい。肘置きに丁度いい高さだったからついつい小突いてしまったわ」

 

 振り向くとそこには黒髪の美少女、小泉さんが澄ました顔で立っていた。こちらを無機質な目でこちらを見降ろすその様はどことなく不機嫌そうだ。

 

 

 「小泉さん?何でここに?」

 

 「何で、ってあなたたちのせいでディナーをキャンセルさせられたからに決まってるじゃない!」

 

 「えっ?オレたち?……ってああ……」

 

 そういえば中森さんは元々小泉さんとディナーに行く予定だったんだっけ。そこを黒羽が無理やり気味に代わってしまったわけだが、わけを察してくれたのか、小泉さんは身を引いてくれたらしい。

 

 

 「明らかに罠だからせっかく気を遣って中森さんからの招待を受けてあげたのに……あの男ときたら!!」

 

 身を引いてはくれたが、納得している様子ではなさそうだ。

 

 「あなたもあなたよ、宵闇の贋作師!無茶する彼をあなたが止めないと……!」

 

 ”宵闇の贋作師”ってオレのこと?何かこの前黒羽のことも”白き罪人”って呼んでたし意外と中二病を患ってたり……いや、中二病も何も彼女は正真正銘の魔女だった。

 

 小泉さんは怒り心頭といった風で、黒羽への文句を並べる。しかし、キツイ物言いとは裏腹に彼女の瞳は不安げに揺らいでいた。……もしかして彼女、黒羽を心配してる?

 

 

 「いやあ、確かにアイツは中森さんを助けるために無茶しに行ったけど、それは小泉さんのためでもあったんじゃない?」

 

 「えっ?」

 

 「ほら、十中八九ここの展望台には碌でもない裏社会の奴が待ち構えている。紳士ぶっているアイツのことだから、女性の小泉さんを巻き込みたくなかったんだと思うぜ」

 

 ……いくら彼女が魔女であっても。

 

 オレの言葉に小泉さんは顔を真っ赤に染めた。この人結構わかりやすいな……。おっかない人だと思っていたが案外人間臭い。

 

 

 「小泉さんって黒羽のこと好きなの?」

 

 「……!!え、ええそうよ!私は魔女のプライドにかけて彼の心を必ずや手中に収めてみせるの」

 

 「へえ……そりゃいいね」

 

 煮えたぎる野心を胸に高笑いする小泉さん。そのガッツがある感じは嫌いじゃない。それに、黒羽の恋愛模様が波乱に満ちていくのは傍から見ていて良い見世物になりそうだ。

 

 黒羽は大変そうだなー、と思いながら春巻きを口に入れようとしたところまた頭に衝撃が走る。

 

 

 「ふん!その自分は関係ないと高みの見物をしている態度は気に食わないわね」

 

 また小突かれた。わりと容赦のない威力で危うく舌を噛むところだった。

 

 「へえ……あなた、女難の相がでてるわよ。いつまで人で笑う余裕があるか見ものね……いつかあなたが恋に苦悶する姿を楽しみにしてるわ!贋作師さん」

 

 オーッホッホッホ!と機嫌良く帰っていった彼女に、オレは嵐に遭遇したような気分になった。千影さんといい、テンションの高い女性との関わり方はよく分からない。

 

 

 まあ、これでゆっくり弁当が食べられる……と思った矢先、耳につけていたイヤホンからエンジン音が聞こえてきた。

 

 「ん?室内でなんで……」

 

 慌ててカメラを確認するとそこに映るのは怪盗キッド姿で車を運転する黒羽と、銃を向けてくる黒スーツを着た堅気じゃなさそうな奴ら。

 

 

 ええ?どーゆう状況??

 目を離していた数分の間に何が起こっていたのか。って……

 

 「いや、そっち窓──」

 

 なんとカメラの目線が展望台の窓ガラスへと猛スピードで近づいている。オレが無線を繋げる間もなく、つんざくようなガラスの割れる音が響くと共に、ホー太郎の視界は夜空で埋め尽くされた。満月が綺麗だ……なんて言っている場合じゃない。

 

 

 「おい!黒羽、黒羽!!」

 

 『……』

 

 返事がない。オレは咄嗟にテーブル横の窓を覗く。そしたら、何とそこには落下していくアンティーク車が!!

 

 オレがぎょっと目を見開かせた瞬間、イヤホンから大音量で爆発音が鳴り響いた。

 

 

 「えっ、死んだ?」

 

 いや、待て。まだ音が聞こえる。ホー太郎が今の爆発で壊れていないということは……

 

 

 

 『あー、もしもし子庵?今青子連れてハンググライダーで脱出したんだ。展望台に悪りい奴らをテグスで縛り付けたから警察が向かうように誘導してくれると助かる!あっ、あと大丈夫だと思うんだが一応車を落とした付近に怪我人がいねえか確認しといてくれ」

 

 「おっ、おう……無事で何よりで……」

 

 何ともなかった様子で淡々と指示をだしてくる黒羽にオレは引きつった笑みを浮かべるしかなかった。てか車に中森さんも乗ってたのかよ……。

 

 

 なるほど。オレの想像以上に千影さんの言う通り黒羽は突拍子で、小泉さんの言う通り無茶なことをする奴だったらしい。だけど、黒羽のそんな奇想天外な部分に人は魅かれるのだろう。オレ自身も含めて……

 

 

 

 

 

 

 

 「ったく母さんよォ!18年前の悪党、まだ捕まってねえんならそう言えよな!!お陰で恨み買いまくって大変だったんだぞ?」

 

 翌日、黒羽はブルーパロットで千影さんに抗議の電話をしていた。どうやら尾行者の正体は18年前に黒羽の両親に痛い目を合わされた闇商人だったらしい。まあ、そんな気はしてた。だが驚いたのは千影さんも元々”ファントムレディ”という怪盗をしていたという話だ。どうやら怪盗キッドの始まりはファントムレディの義賊業を黒羽の親父さんが引き継いだことにあったらしい。……とんでもなくスゲー両親だな。

 

 

 『でも、捕まえてくれたんでしょ?大活躍じゃない!二代目怪盗キッド♡

 あっ、子庵くんもありがとね!』

 

 「いえ……自分は大したことしてないので」

 

 電話から聞こえる千影さんの声はこの上なく上機嫌そうだ。

 

 

 『そうだそうだ、寺井さんから聞いたわよー!快斗、青子ちゃんを助けてハンググライダーで飛びながらお姫様抱っこしたんですって?さすがお父さんの子ね!どう、キスはしてないの?』

 

 「なっ!する訳ねーじゃねえか!!あんなお子ちゃまな女に!」

 

 『ふふっ、恥ずかしがっちゃって!

 あとあと!子庵くんにはそういう好きな子いないの?』

 

 巻き込まれた。

 

 「いや、自分はそういうのは特に……」、と返しても千影さんの一方的な恋バナ質問は止まらない。オレと黒羽は1時間ほど新手の拷問のような時間を過ごした。そして千影さんは最後に、

 

 

 

 『そうそう!例の悪党…郷津会長の弟子みたいなのがいてね……未だに同じ手口で私腹を肥やしているらしいのよ!証拠の品とかはお母さんが昔頑張って集めたから、アナタたちにそいつらも懲らしめて欲しいの!証拠品リストはメールしといたからヨロシクさん!』

 

 なんて無茶を言い残して電話を切っていった。

 

 

 黒羽の突拍子で、無茶をするところは千影さんの遺伝子から受け継いだものだと確信したし、何なら千影さんの方がヤバいんじゃ……という疑念が浮かび上がった。

 

 オレはそっとカウンターの奥で品のある仕草でコーヒーを淹れる寺井さんの様子を窺った。……何十年もこの家族の付き人をやってるこの人って超スゴイのでは?

 オレは寺井さんの偉大さを改めて実感した。

 

 

 

 




紅子さまの占いは百発百中!!
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