四代目カラクリ吉右衛門伝   作:於涼

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お久しぶりです。お待たせしました。メリークリスマス!


♦ 漆黒の特急の巻≪中編≫

 

 「犯人はまだ確実にこの列車内だ。逃しはさないさ…!」

 

 慣れた手付きで検死を行う探偵クンと世良。世良は不敵な笑みを浮かべながら凶器と思われる銃を睨みつける。

 探偵っていう生き物は皆こんな顔を浮かべるんだな、とオレは探偵クンを横目で見たが、意外なことに彼はどこか強張った表情であった。

 

 

 「とりあえず、オメ―らは蘭姉ちゃんたちと部屋に戻ってろよ!」

 

 探偵クンは少年探偵団の子どもたちに指示を出す。殺人事件の現場から子どもを離すことはもっともなことなのだが……カラクリ屋敷の件も一応殺人事件だったよな?あの時は割と子どもたちを連れ回していたがどういう判断基準なのだろうか。

 

 ええー、と不満の声をあげる子どもたち。だが、探偵クンは頑なに彼らが残ることを認めず、現場から追い出した。やっぱり、いつもより慎重だ。面倒ごとの予感がする。

 

 

 「オレも何の役にも立たないし……帰っていい?」

 

 オレは探偵クンを小突いてダメもとの問いを投げかける。

 

 「ダーメ♡」

 

 「さいですか……」

 

 やはり無償では逃がしてくれないらしい。案の定の答えに、オレはため息をつくしかない。どうしてこう、探偵クンと会う時は殺人事件に巻き込まれるのだろうか?彼の出先で毎日事件が起こっているとか?……まさかね。

 

 騒ぎが大きくなったからか、他の乗客も現場の部屋の前に集まってきた。黒羽と寺井さんたちもしれっとその中に混じっている。

 まあ、順当に考えると容疑者は同じ一等車両にいた彼らになってくるが、どうなのやら。殺人事件に関しては探偵クンの領域だ。オレたちは最低限の事情聴取に応じて、無暗に動かないでおくのがベストだろう。

 

 

「この名探偵毛利小五郎が、このベルツリー急行殺人事件の真相を見事見抜いてご覧に見せましょう!!」

 

 探偵クンに世良についでにオレと車掌さん、そして子どもたちの代わりにやってきた毛利探偵を加えて、犯人捜しが始まった。

 

 

 

 

 

 彼らは一等車両の乗客たちに聞き込み調査をすることに決め、一部屋ずつ回ることを決めたようだ。勿論小蓑夫人……もとい寺井さんとメイドの住友さんに化けた黒羽がいるD室の部屋にも尋ねることとなる。

 

 「A室の扉?私たちが通った時にはそんな扉開いてませんでしたわよ」

 

 色々当時の状況を聞かれる中で2人は淡々と受け答えをしていく。寺井さんのチョーカー型変声機もちゃんと稼働しているようで何より。

 会話がひと段落ついた時、「そういえば……」と車掌さんがオレの方に目を向ける。

 

 「お客様……事件が起こる随分と前ではありますが、小蓑様の部屋に入ってずっとこもっていたましたよね?どのようなお間柄で……?」

 

 探偵クンは良くも悪くもオレを”殺人”の犯人だとは思っていないだろうが、一応その他の周囲を納得させる言動はしなければならないか。

 

 

 「自分は小蓑夫人にご贔屓していただいている業者の者で……。今回は小蓑夫人のご厚意でこちらの列車に乗らしていただいたものですから、ご挨拶をと思い部屋を伺っていたんです」

 

 車掌さんと毛利探偵に視線を向けられた寺井さんは、コホンと小さく咳をする。

 

 「ええ。彼の言う通りですわ。ついつい老人の長話に付き合わしてしまっていたのです」

 

 オレはほぼ事実しか言っていない。だから、挙動不審になっていない……ハズ。

 

 

 「業者あ~?それにしちゃあ若すぎる気がするが……?」

 

 「もう!おじさんってば!忘れちゃったの?ほら、メモリーズエッグの時屋敷を案内してくれた整備士の子庵兄ちゃんだよ!」

 

 「えっと……ああ!あん時の学ランの小僧か!!」

 

 手を叩き満足気に頷く毛利探偵に、探偵クンが呆れた目線を送っている。毛利探偵事務所の内情がよく察せられる光景だ。

 

 

 その後も調査は続いたが、一等車両の乗客全員に話を聞いても推理の助けとなる証言は得られなかったようだ……毛利探偵目線では。

 

 「そうか、分かったぞ!アンタだな。犯人をB室にこっそり通したのは!!

  密室だっただなんて言ってるが、本当は隣の部屋に通じる隠し通路扉とかがあるんじゃないのか?」

 

 毛利探偵が車掌さんを詰め始めた。探偵でないオレでも分かる……証拠が不十分過ぎると。本業の探偵である探偵クンと世良は尚更の事、顔を歪めていた。

 

 「……ったく。子庵兄ちゃん、部屋に仕掛けなんてなかったよね?」

 

 「ん?ああ……あの鈴木の相談役殿が作ったとは思えないほどなーんも無しだった……あっ」

 

 黒羽と似たノリで話しかけられたため自然に返事をしてしまったが、余計なことを口走ってしまった気がする。

 

 「やっぱり!子庵兄ちゃんが言うなら確かだね」

 

 無邪気()に笑顔を浮かべる探偵クンに、世良は首を傾げる。

 

 「どうして彼が言うなら確かなんだい?業者とか言ってたから、この列車の関係者とか?」

 

 「子庵兄ちゃんは機械や建物の設計についてすっごく詳しいんだよ!ボクが前に遭遇した事件でも、居合わせた兄ちゃんが大活躍してね……」

 

 「へえ……!それはぜひ詳しく聞きたい話だ」

 

 何かを見定めるように凝視してくる世良。

 

 「やめてくれよ、大げさな……」

 

 オレが頬を引きつらせるほど笑みを深める探偵クン。……オレはやっぱり探偵って生き物が苦手だ。絡繰り人形を鑑賞するように、こちらの一挙手一投足を好奇心が抑えきれないとばかりに輝く瞳で見つめてくる。オレは大したものじゃない、と言いたいところだが、どうも今は少しばかり重要な秘密があるもんだから困った話だ。

 

 

 毛利探偵が車掌さんを詰め寄る中で、この一等車両が作られた経緯についての話が出てきた。列車のオーナーである次郎吉相談役と懇意にしていた資産家の要望によって特別豪華な車両が用意されたが、運行直前である5年前にその資産家は一家丸ごとパーティー中に起きた火事で亡くなってしまったとのこと。そして、小蓑夫人が親族の唯一の生き残りであり、他の一等車両の乗客も被害者含めパーティーに参加していた資産家の関係者であるという。

 

 ……そういや、昔馴染みの美術品の卸業者から愚痴を聞いた気がする。得意先の羽振りの良い絵画コレクターが突然亡くなってしまった的な話を。まさかそれが小蓑さんの親族だったとは。

 

 「小蓑さんが資産家の家族って……おい、小僧!小蓑さんから何か話を聞いたことはねえのか?」

 

 「いや、オレもその時はまだ家業を継いでなかったんで詳しいことは何とも……。人聞き程度には、火事の噂は聞いたことがありましたがご本人からは……ねえ」

 

 どこか棘のある物言いが多いご婦人だとは思っていたが、そんな重い過去があるとは全く知らなかった。……ジジイから引継ぎなんてものはほとんどされてないからな!

 

 火事の件を含め、改めて聞き取り調査をすることとなった。ついでに、探偵クン発案で少年探偵団が見た不審な人の後ろ姿と似た人がいるか確認するために、各乗客の走り去る後ろ姿を動画に撮るらしい。

 

 

 

 

 

 一人目は資産家の友人である能登氏、そして二人目は資産家御用達の絵画鑑定士の安東氏……

 

 

 「……!もしかして安東さんって卸業者の花田さんと知り合いだったりします?」

 

 彼が鑑定士だと聞いて、咄嗟に尋ねてしまった。

 

 「あ、ああ。彼とは長年の付き合いになる仲だが……どうして君がそれを?」

 

 「ほら、その……自分”カラクリ屋”の者でして……」

 

 美術品界隈の中で”カラクリ屋”の名は良くも悪くも有名だ。界隈の深いところにいる花田さんの取引相手ならば、それなりにこちらの事情にも詳しいだろう。だが……こちらもちゃんとした筋の業界人の知り合いを一人でも増やしたいところなのだ。ぜひとも名刺交換をして、あわよくばお得意様の紹介を一人や二人ほどしていただきたい。

 

 「では、君は”三水”の……」

 

 「ええ、まあ。ただ自分は子庵と名乗ってますがね」

 

 「子庵!?……いや、そういえば彼が婿養子に入ったという噂を……そういうことか」

 

 

 珍しい。

 

 三水ではなく、子庵の苗字に反応されるとは。

 

 

 「安東さんはその……、父と知り合いで?」

 

 ”子庵”の姓はオレの父親のものだ。母の死後、カラクリ屋の看板に泥を塗り出奔した男。……オレが貧乏生活を強いられている元凶。

 

 「いや。直接的に会ったことはない。ただ、若い頃彼の作品を見たことがあってね。君の前で言うことではないかもしれないが……酷く感銘を受けたんだ」

 

 忘れられない記憶なんだ、と彼は窓の外の遠くの風景を見て独り言のように呟いた。

 

 「……悪いが私が君にできることは何もない。専門も工芸ではなく絵画だしね。陰ながら応援してるよ」

 

 そう言って彼は目を閉じた。

 

 

 

 ……くそお!名刺を貰えなかった。久しぶりにちゃんとした筋からご新規様を見つけられると思ったのに!!やっぱり一度悪評を買うと警戒されるか……。

 

 オレは「ありがとうございます!」と営業スマイルで会釈をしながらも、内心では金蔓を逃したことに歯を食いしばっていた。

 

 

 「何というか……キミって本当に”仕事”をしてるんだね。さっきまでの寝ぼけた雰囲気と全然違って驚いたよ!」

 

 安東氏の部屋を出た後、突然世良に肩を組まれた。何だ?コイツの馴れ馴れしさは。アメリカ人って皆こうなのか?

 

 「それでさ……さっき君の父親が養子?とかで苗字がどうのこうのーって話してたけど詳しく聞いていい話だったりする?」

 

 やっぱりアメリカ人って馴れ馴れしいのだろうか?プライバシーってものを知らないのか?……いや、プライバシーって観念が無いのは”探偵”だから、って可能性もあるか。まあ、大した話ではないっちゃないし別にいいけど……。

 

 

 「うちは父親が婿養子なんだよ。オレが幼い頃に両親はすでにいなくて、職人家業をやってる母方の家で育てられたんだがオレの苗字は父方のものでさ。たまにだけど、業界に詳しい人には不思議に思われるんだ」

 

 「へえ。実際、何で父方の苗字を名乗っているんだい?」

 

 「それがオレ自身もよく分からなくてさ。祖父に聞いたら『うちの名は不必要に目立つ』としか言われなくて……何代もその名で職人業やってきたのに今更なんだよって感じだよなあ」

 

 そりゃあ俺だって父親には良い印象はないし、カラクリ屋の家業にはそれなりに愛着を持ってやっているのだからどちらかというと三水を名乗りたい。しかし、目立つから面倒と言われればそうっちゃそうだし、名前の変更手続きするのが面倒だし、といった感じでなあなあにしていた。

 

 「ふーん。キミも苦労してそうだね」

 

 向こうから聞いてきた割にはそっけない世良の相槌。……やっぱ何か苦手だ。

 

 

 

 安東さんの部屋の次に訪ねたのが小蓑夫人のD室。先ほどと変わらず名演技で話の辻褄を合わせる黒羽と寺井さん。しかし……それにしてもやけに具体的な話もするな。

 あれ?もしかして二人とも小蓑夫人の過去知ってた?ちゃんとそこまで調べてた?……もしかしてオレ、態度に出るからと渡される情報を二人に選別されてたりする??

 

 車椅子生活になった原因は火事であり、勿論今もまともに立てない。

 そう話す小蓑夫人の代わりに、後ろ姿の確認は住友さんもとい黒羽が行うこととなった。

 

 廊下を内股気味で走る黒羽と、それをスマホで録画する世良。こんなことで暴かれる怪盗キッドの変装ではない。黒羽の走るシルエットは完全に中年女性のものだった。

 ……探偵クンはいったい何を確認しているんだろうか?

 

 チラリと探偵クンの様子を伺うと、何やら小蓑夫人に尋ねごとをしていた。寺井さんもそれに特に慌てた様子もなく受け答えしている。

 やっぱり今日は全体的に……何というか丁寧だな。探偵クンの行動。

 

 小蓑夫人の後は資産家の孫の元婚約者である出波女史を確認し、容疑者全員から聞き取り調査を終えた。……いや、そういえば。

 

 「オレもずっと一号車にいたから一応容疑者に入るんじゃないの?後ろ姿とか確認しなくていいのか?」

 

 探偵クンがオレを疑っていないのは分かるが……調査資料とするならば必要になるのではないだろうか。そう思ったのだが……。

 

 「えー!子庵兄ちゃんはボクたちと知り合いだし、犯人じゃないでしょう?ね、おじさん!!」

 

 「まあ、どうせ子どもたちの主観で後ろ姿を判断するなんて証拠にならねえしな。ガキどもの探偵ごっこの一環みてえなもんだし別にいいだろ」

 

 と、免除された。よく分からん。

 

 撮った動画を別車両にいる探偵団の子どもたちに一応見せに行くと世良が買って出たので、オレもついていくことにした。探偵クンか世良かだったら、まだ世良の方がマシだし。

 

 探偵クンも「そっちの仕事も大事だしね。頼んだよ!」と手を握ってぶんぶんと振ってから、開放してくれた。よく分からん。

 

 

 

 

 

 やっぱり推理とかいう小難しいものはオレの性に合わない。探偵クンも余裕そうな顔してたし任せておいて大丈夫だろう。うん、彼が事件に意識を向けているうちにとっととトンズラするに限る。

 

 そう一人で頷きながら、オレは世良を追って一等車両を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

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