四代目カラクリ吉右衛門伝   作:於涼

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♦ 水色緋色の巻

 

 美味し美味し…

朝から何も食べていなかった身にはメロンパンのほど良い甘さが沁みる。

 

 

「ったく…たかが購買のパンだってのにとんでもなくウマそうに食うなあ…」

 

 

 呆れたようにジト目でオレの様子を隣で窺っているのはクラスメイトのかいとー…じゃなくて、黒羽というそうだ。

 

 この購買のパンを奢ってくれたいい奴である。そして今は屋上でランチタイムだ。

 

 

「それでよ…そのー、何でオメーはオレのことを……」

 

 

「んん?ああ、怪盗キッドっていったこと?」

 

 

 次はホットドッグ!と手を伸ばしながら答えると黒羽は「しー!!」っと必死の形相で顔を近づけてきた。

 

 

「デカい声で言うな!まあ、そのことだ…。何で顔合わせた途端そうだと思ったんだ?怪盗キッドの顔なんていつも帽子とモノクルに隠れて分からねーだろ?」

 

 

「昨日仕込んだ追跡カメラを解除し忘れてしまってな。お前がお月見?か何かしてるの見ちまったんだ。悪いな、プライバシーを侵害して」

 

 

「いや、プライバシーとかそういう問題じゃ…」

 

 

「まあ心配すんな、別にお前悪い奴じゃなかったし?誰にも言わないしさ」

 

 

 一応証拠というか、ポッケに入れっぱなしだったホー太郎を取り出し黒羽に見せる。

 

 確かに、昨日の件は悔しかったが怪盗キッドが宝石を返してくれたお陰で報酬がたんまり貰えた。そして今日からまた普通のバイト生活に戻る。もう過ぎ去ったことより次の利益を見据えなければ。夜勤に備えてエネルギー補充を…

 

 

「カメラ!?確かに屋敷でオレを見ていたのは分かってたが、帰りに電磁波探知機で確認した時には何も反応がなかったぞ…。いったいどうやって……」

 

 

「こいつには探知阻害機能、風景と同化するステルス機能、そして僅かな光でも効率よく電気に変換することでハイスピードの移動も可能にしていてなあ」

 

 

「そんな盛り沢山の機能をこのサイズで実現することなんておかしいだろ…。そういや何とか衛門が…とか言ってたな。けど、さっき青子に聞いたオメーの名は……」

 

 

 ホー太郎をつまみながら唸る黒羽に、オレはホー太郎の羽に彫られた「三水」の紋を指す。

 

 

「”三水吉右衛門”は名跡だよ。オレんちは代々からくり職人で名前を継いでるんだ。歌舞伎役者とかと似たよーな感じ。本名は子庵鍵太郎(しあんけんたろう)。まあ適当によろしく」

 

 

 「ふーん」とオレにホー太郎を返しながら考える素振りをする黒羽。

 

 

「ていうかよ。同じクラスなのに話したことがなかったのって、オメーがいつもうつ伏せで寝てるからだよな?オレ以上に不真面目なやつがいるもんだなーってぼんやり思っていたが、そういや顔すら見たことなかったぜ」

 

 

「いやー、例の職人家業が上手くいってなくてさ。おかげで放課後はバイトづくめで授業中に睡眠時間を確保するしかなくて…」

 

 

 黒羽は微妙そうな顔をするが、オレだって好きでこんな状態でいるんじゃない。すべてはクソ親父のせいなんだ。うん。

 

 

 ああ…それにしても焼き立てのパンが美味い。いつもの主食は冷めきった商品の余り物だからなあ。

 黒羽にも黒羽なりの理由があって裏の顔を持っているのだろう。このパンをありがたく頂戴して、深く詮索しないのが吉。あと、”怪盗”ってカッコイイな。「裏の顔は職人!」てやってる100倍カッコイイ。

 

 

 

 

 午後の授業はいつも通り先生の声を子守唄にぐっすりと寝て、ノロノロと居酒屋のバイトへと向かった。

 

 

 ああ、いつものことながらとんだブラックバイトだ。もっと人雇えよ。オレと先輩だけでゴールデンタイムのホールをやらせるのは気が狂っている。けど、ブラックだからこそ長時間シフトに入れるんだよなー。

 

 

 だが、今月は高島さんの件のお陰で相当な収入が得られた。生活費から余った分で材料を揃え、あの人の娘さんへのプレゼントをちゃんと用意できそうだ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌る日

 

 そんなこんなで自作したプレゼントを持っていつもオレの生活の面倒を見てくれている人の家を尋ねる。

 

 

 オレの住んでいる江古田町の隣町にある高層マンション。その上階までエレベーターで昇る。

 

 そしてある1801室のインターホンを鳴らすと、カチャリと重厚なドアが開く。

 

 

「やあ!鍵太郎くん。久しぶり、元気にしてたかい?」

 

 

 

「うん、ピンピンしてるよ。秀吉兄さん」

 

 

 出迎えてくれたのは顔立ちは整っているものの、ぼさぼさの髪に無精ひげを生やしっぱなしの何とも残念な青年。

 

 その名は羽田秀吉(はねだしゅうきち)

 

 

 こんな見た目だが、資産家の息子で自身は将棋界で「太閤名人」ともてはやされている凄腕のプロ棋士。そして書類上ではオレの保護者だ。

 

 

 招き入れられた部屋の中は独身男性らしいというかかなり散らかっている。散乱している服を寄せ、隙間が生まれたローテーブル横の一角にオレは案内された。

 

 

「いやー。ちょっと見ない間にまた大きくなったね。えーと、確かこの辺に仕事先の人から貰った良いお菓子をしまっていた筈……」

 

 

 ごそごそと物で溢れかえった籠を漁る秀吉兄さん。

 

 

 彼とオレの関係は”血が繋がっていない親族”といったところか。オレの祖父三代目三水吉右衛門の妻である今は亡き祖母の生家が羽田家なのだ。

 

 

 そして秀吉兄さんはその羽田家の養子。

 出奔した父の方の親族に宛てがないオレは、祖父の死後幼いころからよく世話を焼いていてくれていた羽田家へ頼ることとなった。

 

 

「三水のおじいさんが亡くなってからもう一年か…。法律関係がごちゃごちゃしていてねえ。こちらから細々とした支援しか出来なくて本当に申し訳ない」

 

 

「いやいや、羽田家もお金周りは色々大変なんでしょ?光熱費とか学費払って、貰えてるだけ十分だって」

 

 

 でもー、と眉を下げる秀吉兄さん。屋敷をたずねる際、羽田のおじさんはいつも気難しい顔をして俯いている中、秀吉兄さんは「弟も欲しかったんだ」と幼いオレの遊び相手をよくしてくれたものだ。将棋では手を一切抜かずボコボコにされた思い出もあるが…。

 

 

「それよりもさ、今日は兄さんにプレゼントを預けに来たんだ。あの子に渡しておいてくれよ」

 

 

「へっ?あの子って誰のこと?」

 

 

「ほら、兄さんの娘さん!誕生日が近いって言ってたよな」

 

 

「ぼ、ボクの娘ーー!?」

 

 

 顔を真っ赤にして叫ぶ秀吉兄さん。

 

 

「ほら、この間あの写真を見てそういえば誕生日もうすぐだ、って言ってたじゃないか」

 

 

 そう言ってオレが指を指したのは海辺を背景に一人の水着姿の女の子が移る写真。活発そうな女の子の目元は秀吉兄さんとよく似ている。

 

 

「水臭いよなー、オレにも言ってくれないなんてさ。数年前別れた由美さんとの間に娘さんがいたなんて驚いた。ほら、このプレゼント持って会いに行ってあげなよ」

 

 

「待って、違うよ!その子はボクのもとの家の妹!これは昔撮った写真なんだ。今は丁度君ぐらいの年齢だよ」

 

 

 秀吉兄さんはスマホを取り出して画面をオレに見せつける。

 

 

 そこに映っているのは軽快に笑う高校生ぐらいの中性的な人物。確かに口元から覗く八重歯が部屋に飾られた女の子と一緒だ。

 

 

 そ・れ・に、と兄さんは言葉を続ける。

 

 

「由美タンとボクは別れてない!!ボクが最強の棋士になるまで待って貰ってるだけなんだ!」

 

 

「そ、そう……」

 

 

 物凄い剣幕にオレは圧倒されるしかなかった。

 

 

 しっかし、なーんだ。娘さんじゃなくて妹さんか。

 

 

「じゃあ、このプレゼントのカラクリ。子供っぽ過ぎるかな」

 

 

 オレが風呂敷から取り出したのはふさふさしたピンク色のウサギのカラクリ。

 

 

「うーん、子供っぽいというか、何というかハードボイルドだね」

 

 

 眉をひそめる秀吉兄さん。凄いかわいいじゃないか。ピンクのウサギが眼帯に葉巻を咥え、ピストルで相手を見定めている姿なんて子どもに大うけだろ。

 

 

「こいつは見た目は可愛いが、射撃の腕はピカイチなんだ。”あれを撃って”って登録された人物の声で命令すると音声認識して、ターゲットにゴム弾を撃つんだ。面白いだろ?」

 

 

「子どものオモチャにしては危ないよ……。けど妹も君が作る緻密なカラクリには興味を持ちそうだ。ありがとう。また送っておくよ」

 

 

 秀吉兄さんは疲れたようにため息を着く。

 

 

 もう少しここでくつろいでいこうかと、オレはリモコンを手に取り部屋のテレビをつける。

 

 

 すると画面一面に表示されたのは、月夜のもと不敵に笑う真っ白な怪盗。

 

 

『緊急速報、怪盗キッドからの予告上です!次のターゲットは江古田町のシンボルマークの時計台と見られています。警視庁はこの件について……』

 

 

 

 ……時計台なんてデカいモンどうやって盗むんだ?

 

 

 アイツ面白いこと考えるなー

 

 

 




まじっく快斗の登場人物の名前には「色」が含まれている特徴があるので、あの一家を絡ましても良いかなーって。

話の展開はまじっく快斗1412の流れに沿おうかと思ってます。
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