山口勝平さんのキャラ愛が凄い
くわあ、っと大きなあくびを本能のままにする。
いつも通り睡魔と戦いながら教室に向かうと、何やら黒羽が女子生徒2人に囲まれていた。
一人はよく授業ノートをを写させてくれる親切な中森さん。もう一人は長髪のどこか冷たい雰囲気をまとった美少女。一か月ほど前に転校してきた子だ。日本人形のモデルにできそうだとぼんやり眺めていたため顔は覚えている。確か名前は…
「いいなー、快斗のヤツ。幼馴染とかいう中森さんだけでは飽き足らず、紅子様にまで声をかけてもらえるなんて」
”紅子サマ”だそうだ。
話を聞いていると、どうやら黒羽たちは怪盗キッドが時計台を盗むと予告状を出したという先日のニュースで見た話題だった。
そう、そのことでオレは黒羽に話したいことがあった。
「子庵くんがお昼起きてるなんて珍しいね!」という中森さんの感嘆を横目に、昼休みに黒羽を飯に誘う。
そして、屋上で居酒屋からタッパーに詰めて持ってきたおかずを食べながらオレは黒羽に話を打ち出した。
「おまえ時計台を盗むんだってな」
「”キッド”がな」
黒羽はどこか諦めたような表情で弁当の風呂敷を解きながら答える。
「まあ、あんなデカいものを丸まる盗るなんてことは無理だから世間は時計の短針についているダイヤを狙っていると噂しているが…。その短針のダイヤっての、だいぶきなクセーぜ」
オレは黒羽に書類の冊子を投げる。
「数年前、オレの祖父に市のお偉いさんから内密の依頼があってな。駅前の時計台の針を交換してほしいってね。歴史的価値がある針をちゃんと管理・修復したいんだー、とか言われて大金を提示されたジジイは依頼を受けたようだが」
「へー、オメーのじいさんが」
「まあ、正規の業者じゃなくてうちの店に依頼してる時点で怪しいよ。この書類を見る限り修復された後の短針が再び戻されたのか、どこかに保管されたのか明確な記述がない。外された針、そこに埋め込まれた宝石の行方は何処へやら、ってな」
黒羽は書類はペラペラとめくり、ニヤリと口角を上げた。
「予想はしていたがこれは黒だな。短針のダイヤが本物か偽物かはどうであれオレのやることに変わりはねえが、この件をみすみす見逃すってのも一市民として良くねーよな?」
「なんだ、偽物だって感付きながら予告状だしてたのか」
「時計台のオーナーは他にも暗い噂が多い。そして、今回時計台を価値あるものとしてテーマパークに売り出そうとしているのも良からぬ思惑あってのことだろうだからその売り出しの計画をパーにさせて貰おうと思ってね」
へー、めっちゃ義賊っぽいこと考えてたんだ。
怪盗キッドは盗んだものは必ず返すという奇行を繰り返しており、世間は愉快犯だの警察にビビっているだの真の大きな目的があるだの色々噂されているが、黒羽はマジで世のため人のためとかいうお人好しな理由で怪盗をやっているのだろうか。
……何かしっくりこないな。
「なあ、子庵。お前もこの件気になるか?」
「まあ、オレの身内の仕事で嫌な奴が私腹を肥やしてるのはちょっとムカつくなーって程度には」
じゃあ決まりだ、と黒羽は朗らかに、だがどこか冷涼な気配をまとってオレに笑いかける。
「”カラクリ吉右衛門”。お前も今回の仕事手伝ってくれ。なあに、足のつくようなことはさせねえよ」
この時の彼の瞳の色ほど、深い青をオレは他に知らなかった。
・・・
「不審人物を発見次第、ただちにワシに報告!館内の各ブロックを警戒中の各員は、ワシの指示があるまで誰も通すな!任されたエリアを死守するんだ!」
怪盗キッドが予告した満月の夜、オレは何とも慌ただしくうるさい現場に突っ立ていた。
ここは時計台の一角、警備に当たる警察の通信室だ。
一際怒鳴り声を挙げ警備に熱心になっているのはキッド専任の中森銀三警部。名前から察せられる通りクラスメイトの中森さんの父親とのことだ。
幼馴染の父親をへっぽこ警部呼ばわりし怪盗として翻弄させている事実にオレは黒羽に呆れを通り越して感心さえしてしまった。「警部もキッドを追い回すことを生き甲斐にしてんだからいいんだよ」と黒羽は言っていたが、それにしても良くやるなあ。
「いやー君すまんね。警部キッドが来るまではずっとあの調子だろうから話を聞くのはもう少し後で良いかな」
「いえいえ、自分は大丈夫ですよ。音ゲーでもして時間を潰しています。現代っ子には暇つぶしなんて楽勝ですよ」
気を遣ってくれた警察官に軽く手を振りオレは部屋の隅の適当なパイプ椅子に腰を掛ける。そして有線イヤフォンをつけスマホをいじる。
「”坊ちゃま”。聞こえるか」
『ああ、三水。問題ない……がいくら本名は呼び合わないって言っても”坊ちゃま”はやめろ』
今、オレは「友達が家の蔵整理してたら話題の時計台についての書類が出てきたみたいなんですよー、ちょっと警察の方に見て欲しいそうで」という感じで黒羽から中森警部に紹介されたという形でこの部屋にいる。警察もオーナーの良くない噂は耳に入れていたようで、いくらか捜査をしていたみたいだ。だが明確な証拠は得られないまま時計台の取引の期日が迫っているということで、キッドの予告日でありながらオレは至急呼び出されたわけだ。
そして、この部屋からならリアルタイムで警察側の動きを知れる、っと。
部屋の空気がより緊張感を増してきた。キッドの予告時間0時が迫ってきたのだ。
オレはスマホを触り周囲に飛んでいる周波数帯を特定し、チャンネルを合わせる。
『こ ら三番機、現在 空に異常 し』
するとかなり荒いものの警察間での無線通信がイヤフォンから聞こえてくる。
「よーし、そのまま警戒を続けろ」
中森警部が満足そうに応答している。
「坊ちゃま、ジイさんが得た情報通りの配置だ」
『おい、まだ言うか。まありょーかい。じゃあオレは計画通り警官に化けて潜入するぜ。何かそっちに動きがあったらまた教えてくれ』
怪盗キッドのアシスタントをやっている”ジイさん”とやらが電話で黒羽のことを「坊ちゃま」呼びしていたのが面白くて真似をさして貰っている。オレの仕事はここで警察の動きを窺うこと。まあ、もう一つあるがそれは後々……。
「おい、どーなってる?ヘリが一機多いぞ!!」
中森警部の疑問に部下の男性が警視庁の応援だ、と返すが警部は「要請していない」と不機嫌そうだ。
まあヘリ一機ぐらいはどうってことないか。アイツの潜入ルートは空ではない。っと、思っていたのだが……
「なにい!?キッドを館内で発見しただとお!?」
『やべえ!何かバレた!今日の警部冴え過ぎじゃねえか!?』
急に大ピンチだ。だが、指揮官である中森警部もこの状況に困惑している。彼の通信を傍受していると現場の警官曰く「その泥棒が他人に成りすます変装の名人なら普通、人が覚えていないことまで記憶している可能性があるからと…警視庁から応援に来たという少年が…」とのこと。
ええ、アイツ警官の免許書番号一目見ただけで覚えてたのか!?キモイまである。今回はその頭の良さが仇となったのか。
中森警部が無線の通信先を変えた。
どうやら先ほどの警視庁から応援に来たとかいうヘリに繋げたようだ。
中森警部になだめるように返す同僚の男性の声。そして突然若い男性の声に切り替わった。
「? 黒羽の声?」
『んあ?オレの声が何だって?』
周波数を丁寧に合わせオレは彼らの会話を注意深く盗み聞く。
『彼は今、犯行前に正体を暴かれ動揺を来たし彼の計画は歯車は狂い始めている…確保するには絶好のチャンス!』
「何なんだお前は!?」
オレと警部の疑問が一致する。そして黒羽に似た声の若い男性はこう答えた。
『工藤新一…、探偵ですよ』
んー、あー、そうだ!テレビで話題の高校生探偵とかいうやつだ。「日本警察の救世主!」とかいって特集されてったっけ。
「おい、坊ちゃま!何やら凄く頭の切れる探偵がヘリから無線で現場に指示を出してるみてえだ」
『探偵?白馬の野郎は今日本にいないはず……』
「こっちで通信妨害しようか?」
『いや、それはオメーにリスクがありすぎる。……何、問題ねえよ。オレは神出鬼没の大怪盗、キッド様なんでな!!』
すると黒羽は軽くせきをした。その声色はやや低くなっていく。
『現在目標は警官の変装を解き階段を下って逃走中!至急応援を…』
……すげえな。
黒羽は通信中だった警官にとって代わり声を真似て警察の動きを妨害に出た。綿密な通信によるやり取りを逆に利用しやがった。
そしてオレのスマホの時計が0時を示した瞬間、時計台の鐘の音が辺りに響きわたる。
「時計の針が消えただと!バカな!?」
中森警部の怒号。彼は物凄い剣幕で部屋を出ていった。向かうのは時計台の機関室だろう。
無事、ジイさんとオレが仕掛けておいたスクリーンの仕掛けが機能したようだ。スクリーンで針のない文字盤を映しあたかも消えたように見せるトリックが……
『そのトリックはフェイク…彼は恐らく今スクリーンの裏で短針についている宝石を…』
「うげ、黒羽!例の探偵が色々感付いているぞ!さっさと逃げた方が良い!!」
『へっ!?』
その瞬間パアン!!と、銃声が黒羽から、中森警部の通信からも聞こえてくる。
「おい大丈夫か!?」
……返事がない。オレは急いで黒羽に付けていたホー太郎のカメラを確認する。
そこに映るのは銃で繋をはがされたらしいスクリーンを纏い時計台のもとに群がる観衆に飛び降りる黒羽。あいつはスクリーンと観衆に紛れ見事逃げ切った。
無線では中森警部がヘリの同僚と探偵を発砲の件で責め立てている。ごもっともだ。
そして文字盤に残されたキッドの暗号に頭を悩ましている。だが、警部たちはそれらしい推理が思い浮かばなかったようで、暗号が解けるまで文字盤を重要証拠物件として警察で取り押さえ、移築はキャンセルさせる流れで決まっていた。
あの頭の切れる探偵くんがその場で解いてしまうんじゃないかと肝を冷やしたが、分かったのか分からなかったのか彼は何も言わなかった。
「作戦成功だ!やったー…」
オレは喜びのまま黒羽に伝えようとしたが、カメラに映る黒羽はもはやあの派手な白いスーツを脱ぎ捨て、”黒羽快斗”になっていた。そして彼と向き合うのは中森さん。
「…プライベートは侵害しちゃいかんよな」
やはり黒羽には、”黒羽快斗”として守りたいものがあったようだ。
オレは今回こそ、ホー太郎に撤収の指示をきちんと出した。
そして席を立ち近くにいた警察官に声をかける。
「警部さん大変そうですし、自分は今日は資料だけ置いて帰りますね。また確認おねがいします」
「えっ、君これは……!!」
オレは警察官の引き留める声が聞こえなかったふりをして部屋を去る。これでもう、オーナーは言い逃れできないだろう。黒羽に見せた書類、そしてジジイが記録していた緻密な”もとの短針”のデザインのスケッチ。これだけあれば警察はすぐさま捜査を進展させるはずだ。
達成感を胸いっぱいに時計台を後にしたオレ。
帰る先はもちろん家である”カラクリ屋”こと三水邸。
江古田の中でも江戸時代からある寂れた地区の一角。入り組んだ小路の奥にオレの家はある。初見さんに発見してもらう気など更々ない立地だ。
「はあー、今日はホールワンオペなみに疲れたわ」
「いやーマジで助かったぜ子庵。それにしてもオメー貧乏だって言ってたけど家結構でけえな」
独り言になぜか返事があった。
「ど、ドロボー!お巡りさんこいつです!!」
「おい!マジで電話かけようとすんな!」
残念ながらオレのプライベートは守られなかった。