四代目カラクリ吉右衛門伝   作:於涼

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♦ ■■の共犯者の巻

 

 いつの間にか侵入していた不審者こと、怪盗キッドこと、クラスメイトの黒羽快斗。

 玄関の戸棚の上に置かれたカラクリを堂々と物色するその姿からは、ちっとも自身が不法侵入者である自覚は無さそうだ。

 

 

 「おい、人ん家の鍵をピッキングするとはどういう了見だ?このコソ泥」

 

 「いやあ…、お前より早く着いちまったみたいで暇だったからよ…。ちょっとカラクリを見せてもらおうかと」

 

 「お前根っからの泥棒性分だな。けど、その辺の奴はいじらねえ方がいいぜ」

 

 

 注意したその瞬間、黒羽が触ろうとしていた仏頂面をした日本人形が「キイィー!」と甲高いうめき声を上げ黒羽の人差し指に噛みつく。

 

 

 「痛って!」

 

 

 と、黒羽が小さい悲鳴をもらす間に屋敷中から電子音特有の耳を突き刺すような警報音が鳴り出す。うぃーん、と黒羽の真上の天井がスライドし、その隙間から落ちてくる金だらい。

 

 

 「!!?」

 

 

 人形に意識を取られていた黒羽はもろに金だらいを脳天に受け、その悲鳴は声にもなっていなかった。

 

 

 「さっさとそこ動かないとまだ落ちてくるぞ」と教えてやると黒羽は猫のような俊敏さで後ろに飛びのいた。その移動先にも罠はあるのだが、それは死人が出かねないものなので戸棚の取っ手に擬態したレバーを下げ罠を解除しといてやる。

 

 

 「この家、ある意味カラクリ吉右衛門三代分の集大成といえる作品なんだ。そこら中にトラップが仕込んである。オレも全部は把握してねえから下手に触らない方が身のためだぜ」

 

 この三水邸は初代からカラクリ吉左衛門が拠点としている場所だ。「泥棒対策」という名分で各代の吉左衛門の趣味でいじくり回されどんな忍者屋敷よりも罠だらけとなっている。

 

 正直住みにくいし、人を気軽に招けないしでどうせもう独り身なんだから、この土地を売っぱらって引っ越すことも考えたのだが、屋敷は危険物件だし取り壊そうにも迂闊に手をつけられないのでオレはこのだだ広い屋敷を貧乏ながら住処としている。

 

 

 「おっかない屋敷だな……。しっかし、前の金庫もそうだが流石だな。天下一の絡繰職人”カラクリ吉左衛門”ってのは」

 

 

 黒羽は底に「成敗」と記された金だらいを押しのけ立ち上がった。

 

 

 「調べたぜ、”カラクリ吉左衛門”のこと。幕末に活躍した奇怪喜快とその作品を評価された凄腕の絡繰職人。骨董品コレクターの界隈では有名で高値で取引されているという。そして、風の噂では現代も彼の技術を継ぐ子孫が代々付き合いがある家とのみ商売をしているとか」

 

 

 そう言って黒羽は金だらいの裏に小さく彫られた三水の紋をなぞる。

 

 

 「別にそんな大したものじゃない。確かに、初代は活動的な人だったから世間にも様々な影響を与えた。けど、今では門下生すらおらずこんな若造一人しか残っていない廃れた職人流派の名だ」

 

 

 今のご時世食べてもいけないような職で、オレの代で途絶えるような廃れてしまった技術。残るのは初代の名声だけである。

 

 

 「確かに、職人業としての”カラクリ吉左衛門”のカラクリ屋は明治以降は細々としか活動せず、世間からは忘れられていった。だが、経営難、技術が途絶える危機に陥るほどの状態になったのはここ十数年のこと。オメーのジイさん、三代目の弟子が17年前一斉に去ってしまってからだろ」

 

 

 黒羽が見上げるのは廊下の壁に飾られた各代の吉右衛門の肖像画。そして三代目とその門下生が屋敷の前で集まって撮られた集合写真。

 気難しい顔をしたジジイの隣に微笑を浮かべ佇む和服姿の女性がオレの母、そして4人いる弟子らしき男性たちのうち、一番小柄で下手な笑顔を張り付けた青年がオレの父らしい。17年前、オレが生まれたばかりに死んだ母と去った父。オレはこの写真でしか両親の姿を知らない。

 

 

 「ジジイはほとんど喋らなかったが、婿入りして四代目を継ぐ予定だったオレの父が母が亡くなってから自暴自棄になったのか、何かやらかしたらしい。そして信用を失ったカラクリ屋からは多くの人が去っていった」

 

 

 ジジイはジジイで、職人としては腕が良かったが、いかにも職人気質といった風に頑固で無口なコミュ力がない人だった。去る弟子を止める術は持ち合わせていなかったのだろう。

 黒羽はやけに熱心に集合写真を見つめている。何か思うことでもあるのだろうか。

 

 

 「よくこんだけ当事者しか知らないようなこと調べたな。ウチのカラクリに泥棒として何か興味があんのか?」

 

 

 重々しくなった空気に耐えかねてオレがちょっと軽い調子でたずねると、黒羽は「まあな」と頭を掻いた。

 

 

 「オレは怪盗キッドとしてとあるビックジュエルを探している。そして日本にあるビッグジュエルの所在をリサーチしてると、いくらかが初代カラクリ吉右衛門が作ったとされる絡繰に隠されている可能性があった。カラクリ吉左衛門やカラクリ屋に興味を持った理由はこれだ」

 

 

 「へえ…」

 

 

 確かに怪盗キッドは宝石をターゲットにしては盗み、そしていつも何故か返却しているとニュースで行っていた。特定の宝石だけを狙っているならば辻褄が合う。

 

 

 「それにさ」

 

 

 黒羽は不意に言葉を続けた。

 

 

 「子庵。オメーに興味が湧いたんだ」

 

 

 「えっ、ごめん。オレは女の子の方に興味があって……」

 

 

 「オレだってそういう意味では微塵も興味ねーよ!

  何でこの文脈でそうなるんだ…?あっ、そういやこいつの国語の成績2だったな…」

 

 

 怒鳴られた。いや、だって。意味深な雰囲気で言われたもんだから…。

 黒羽は咳払いをして改めてこちらに顔を向ける。

 

 

 「お前の”技術”に興味を持ったんだ」

 

 

 「技術?オレの職人としての腕なんて自分で言うのも嫌だがホントに未熟だぞ。現にお前も高島さんの家に盗みに入った時余裕で罠を解除していったじゃねえか」

 

 

 「ああ、触ったから分かるが確かに子庵の”カラクリ職人”としての腕は悪いとはとても言わないが初代や先代には届いていない」

 

 

 だけど、と言って黒羽はポケットから何かを取り出した。手のひらほどの丸いフォルム……。時計台の件の間黒羽の様子を確認するために追わせていたホー太郎だ。

 

 

 「オメーの凄さは他にある!伝統的なぜんまい仕掛けの精密なカラクリと、最新鋭の電子機器の融合。それが成立することによって生まれる機械のエネルギーの効率性や複雑な動きは四代目カラクリ吉左衛門、オメー独自のもんだよ」

 

 

 黒羽は両手でホー太郎を包み込む。そしてその手を薙ぎ払うように動かすとホー太郎は手のひらから消えていた。どこに行ったかと辺りを見回していると、当然ポフンと乾いた音がした。

 気がつくとホー太郎はオレの肩に乗っていた。『クルッポー』と電子音むき出しの鳴き声をあげる。

 

 

 「そこでだ。オレはオメーにその技術力を活かして”怪盗キッド”を手伝って欲しい!もちろんキッドはれっきとした犯罪者だ。それを手伝え、っていう意味の重さは分かって―――…」

 

 

 

 「いいよ」

 

 

 

 

 「へっ、いいの?」

 

 

 

 お互い無言で向き合う。何で黒羽はあんなにも驚いた顔をしているんだ?

 

 

 「いや、よかねーだろ」

 

 「だからいいって。黒羽から頼んできたのに何が不満なんだよ」

 

 

 「いや、いいんだけど?こんなにあっさりお前了承していいのか?もうちょっと悩むことあるだろ!!」

 

 

 「まあ、お前犯罪者って言っても凄い良い奴だし。あと怪盗ってカッコイイ」

 

 

 「マジか……オメー」

 

 

 出会ってまだ数日。だけど、黒羽がスゲー頭が良くて、運動神経が良くて、調子乗りで、良い奴なのは分かった。コイツはオレが持っていない物をたくさん持っている気がする。

 そのことと、”怪盗”という言葉の響きがオレには酷く魅力的に感じられるのだ。オレは高校生男子だがまだ中二病真っ盛りなのでしょうがない。

 

 

 「そうだ、少しだけ聞きたいことがある」

 

 

 「お、おう。もっと説得苦労するかと思ってたからそれぐらいなら…」

 

 

 オレに無いものを持つ黒羽。きっとその決定的なものの一つ。

 

 

 

 「黒羽はどうして怪盗キッドをやっているんだ?」

 

 

 黒羽は良い奴だ。そんな彼が罪を犯してまで続ける怪盗キッド。

 

 

  

 「……これから共犯者になるんだ。詳しいことは追々説明するが、簡単にいうなら…………敵討ち。そして……」

 

 

 ふと、私服姿の黒羽に、白いシルクハットとマントが重なった。

 

 

 

 「憧れを、超えるために」

 

 

 

 いいね。

 最高だ。

 

 黒羽は持っている。オレに誰も授けてくれなかった、いまだ見つけられていないもの。

 

 形の本質、アイデンティティ。

 

 

 

 

 コイツの隣にいれば見つかるかもしれない。

 

 

 オレは、■■から救われるかもしれない。

 

 

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