四代目カラクリ吉右衛門伝   作:於涼

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今年の映画を観た記念に更新。
犯人の逃走手段ダイナミックだったね。


♦ 最強の発明家の巻

 

 この度怪盗キッドの”マジックショー(盗み)”の裏方を始めたオレだが、これが中々いいバイトだった。道具の開発や整備が主な仕事であり、材料費は黒羽の方から出してくれるのでオレとしては思う存分機械いじりができて楽しい。そしてなんと、怪盗キッドの付き人である寺井(ジイ)さんの手伝いをすると、彼が店主を勤めるバーで晩ご飯を御馳走してくれる。

 

 充実した福利厚生に感動したオレは、泣きつく先輩を見捨て居酒屋を喜々として辞めた。そして、今日も今日とてそんな少し珍しいバイトに放課後励んでいるわけだ。

 

 

 「そういや黒羽、お前怪盗業の資金どこから捻出してんだよ?いま作ってるレーザー銃もそうだが結構な材料費するぞ。宝石を盗んでる、っても全部持ち主に返してるんだから儲けなんてねえだろ」

 

 

 「あー、資金?オレの死んだ親父が有名なマジシャンで遺産が結構あるんだ。それを元手に寺井ちゃんが投資で増やしてくれてんだ」

 

 

 「へー、流石初代怪盗キッド。表の顔も凄かったんだな」

 

 

 「そうだろ、オレの親父はすげえんだ!」なんて言ってにやけながらノートパソコンをカタカタさせる黒羽を尻目に、オレは銃のパーツを組み立てていく。黒羽は初代怪盗キッドであった父親を死に追いやった裏社会の組織の目的を阻止すべく、怪盗キッドを継いだらしい。

 

 

 「坊ちゃま、子庵くん。息抜きの飲み物はいかかですかな?」

 

 

 作業に打ち込むオレたちに声をかけるのはメガネをかけた初老の男性。現在オレたちが居座り、怪盗業の拠点としているプールバー『ブルーパロット』の店主の寺井さんだ。

 

 

 「オレはオレンジジュース!」

 

 

 「自分はブラックコーヒーで」

 

 

 「承知しました」

 

 

 注文を受け、カウンターの向こうで粛々と準備をする老紳士。オレが働いていた居酒屋と雰囲気があまりにも異なるため、まだどうも慣れない。

 彼は初代の時から付き人をしているらしく、何でもできる人だ。ホントに何でもできる。オペレーターはもちろん、現場の仕込み、車の運転、何ならヘリの操縦までする。この人61歳だぞ、凄すぎないか!?

 

 ああ、と不意に寺井さんが声をあげた。

 

 

 「子庵くんに少し相談したいことが……」

 

 

 「?」

 

 

 オレは作業の手を止め顔を上げる。

 

 

 「以前、メカの類は私では用意できないため科学者兼発明家である私の友人に依頼し制作して貰っているとお話をしたことは覚えていらっしゃるでしょうか?

 協力人、とはいっても友人はれっきとした表の世界の人間なため、バーで行うマジックショーで使う道具だというテイで依頼しているのです。ですので法外な改造を行える貴方が来てくださって感謝しているのですが、大元の機体は引き続き友人に依頼しようと思っていまして」

 

 

 寺井さんは黒羽にグラスを、オレにはマグカップを差し出しながら、思案気にこちらを見た。

 テーブルの端にマグカップを寄せながら、オレは寺井さんの言葉に頷く。

 

 

 「オレはその方がありがたいですね。一から作れと言われたら大掛かりなモノは時間的に厳しいところもあったので……」

 

 

 「では今後の道具制作はそのような手順で図りましょう。……早速、その道具関係で一つ頼みたいことがあるのですがよろしいでしょうか?」

 

 

 「追加で必要なものがでてきましたか?」

 

 

 寺井さんは「いえ……」と呟きオレの前に一枚のメモ用紙を置いた。

 

 

 「例の私の友人に依頼していたものが完成したようなので受け取りに行っていただきたいのです」

 

 

 場所はこの地図に書いております、と渡されたメモ用紙に軽く目を通してオレは返事一つで了承した。丁度このレーザー銃の出力装置の出来の良さに感服していたところだ。ぜひその製作者とは会ってみたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 数か月前に元バイト先の先輩から譲ってもらった愛車の原付を走らせること30分ほど。閑静な住宅街の中に少しばかり風変わりな邸宅を見つけた。広い敷地の中に立つ楕円型にガラス張りとどこか近未来的な屋敷。

 うん、分かりやすく科学者の家って感じだ。

 

 道路わきに原付を停め、ヘルメットを外しながらインターホンを鳴らす。寺井という者の使いであることを伝えると、扉はすぐに開いた。

 

 

 「おお、君が寺井さんが言っておった子庵くんか。わざわざ取りに来てもらってすまんのお。今ワシの車は修理に出してしまっていてなあ。ほれ、とにかく家に上がってくれ」

 

 

 そう言って朗らかにオレを出迎えたのは、豊かな髭とお腹を持つ初老の男性であった。彼が寺井さんの友人、阿笠博士のようだ。

 

 

 「いえいえ、依頼したのはこちらですから。ではお邪魔します」

 

 

 発明家の屋敷もオレの家のように何か仕掛けがあったりするのだろうか?流石にウチの家のような即死レベルのものはないだろうな……などと若干警戒しながらオレは阿笠邸に踏み入れた。

 

 

 廊下では何もトラップは発動しなかった。そしてその先にあったリビングは思いの外整理された部屋だった。独り身の発明家なんて聞いてたから、おぞましいものを想像していたのだ。

 

 案内されたソファに腰をかけ、オレは改めて阿笠博士に顔を向ける。

 

 

 「一応ご挨拶をさせていただきますと……つい最近から寺井さんのところでバイトを始めました子庵鍵太郎です。これからは注文のやり取りを自分がさせていただくので、どうぞよろしくお願いします!」

 

 

 オレが軽く頭を下げると阿笠博士は眉を八の字にさせた。

 

 

 「そんなに畏まらんでくれ、ワシはしがない発明家じゃ。……隣人の君と同じ年ごろの少年には作ったモノを”ガラクタ”呼ばわりされておるしの。寺井さんから聞いておると思うが、ワシは阿笠ひろしじゃ」

 

 

 そう言って手渡してもらった名刺を見ると、その名前の字は”阿笠博士(あがさ ひろし)”。すげえ、博士(Dr.)になるべく生まれてきた人だ。

 

 

 「阿笠博士こそ、そんなに謙遜なさらないでくださいよ!自分、機械類の整備士として雇われてるんで、貴方の作品をいくつかバラさせていただいたんですがどれもこれも高い技術力やオリジナリティある発想が詰め込まれていて……。ぜひお話をしたいと思っていたんですよ!」

 

 

 そんなオレの言葉に阿笠博士は照れくさそうに笑いながら少しばかりてっぺんが寂しい頭を搔く。

 

 

 「それで…、今回依頼していた小型ジェットエンジンが完成したとお聴きしたのですが……」

 

 

 本日の要件を伝えると阿笠博士は「もちろん」と部屋の隅にあった段ボールを持ち上げテーブルの上に置いた。

 そして、中から40cmほどの白に塗装されたジェットエンジンと設計図を取り出した。オレはそれらを受け取り、じっくりと観察する。

 

 

 「へえ、この小さいサイズでファンの二枚重ね構造を実現したのですか!タービンの形状も面白い……確かにこれならば要望通りの耐久を満たせている」

 

 

 オレの専門は絡繰りなので基本動力源がない前提で制作をしてきたため、今まで高出力の動力を見据えた機械をあまり触ってこなかった。そのため、一流の技術者の設計図を見れるのはとても勉強になるし有難い。

 

 

 「うむ、基準値は達成しているハズじゃ。しかし……ラジコンに取り付けるためのエンジンと聞いたが、それにしては高い基準値じゃったのお」

 

 

 「ああ、そうなんですよ。うちのバーでよくショーをしているマジシャンが、この度屋外で大掛かりなイベントを開催することになっていて……。マジックの演出用のため派手に動けるものが欲しかったんですよ」

 

 

 今この場で適当にでっち上げた話だったが、阿笠博士は納得してくれたようで「ほうほう」と相槌をうった。

 

 

 

 「いやあ。いつも寺井さんからの注文は作り甲斐があってのお。マジック用だから多少羽目を外して出力を上げていい、機能も色々付け加えていいと言って貰えて……。マジック道具とは良いもんじゃのう」

 

 

 「ええ。マジックだからビックリするぐらいが丁度いいですもんね……(多分正規のマジック用のものはこんなにリミッター外さねえけど)」

 

 

 彼は自身が一応犯罪に加担していることになっているとは露知らず楽しんで仕事を受けてくれているようだ。まあ、個人開発でこんな性能を求められることなんてそうそうないから技術を持て余しているのだろう。

 このジェットエンジンは怪盗キッドが使うハンググライダーに取り付ける予定だ。黒羽曰く好ましくない向きの風の中でも多少は無理が効くものが欲しいとのことだ。まさか人一人が飛ぶために用いるものとは説明できないので、出力の上限突破やハンググライダーへの設置はオレが行う予定だ。

 

 

 「納品ありがとうございます。報酬はすぐ銀行口座に振り込ませていただきます。……ところで、個人的な興味なのですがそちらの装置が非常に気になっていまして」

 

 

 オレがソファの横に置かれていた、大人の半身ほどの大きさがある鉄製の卵のようなものに目をむけると、阿笠博士は嬉しそうに笑った。

 

 

 「これは”自動スイカ割り機”。ボタン一つ押すだけでスイカを任意の当分で切り分けてくれる優れモノなんじゃ!ワシの今年一番の自信作なんじゃが、発表してもいまいち売れなくての……」

 

 

 そこから阿笠博士は装置を実際に動かしながら、仕組みを細かく説明してくれた。

 

 

 ……凄い!!素晴らしく技術の無駄遣いだ。

 

 だが、それが良い。

 

 

 そこからオレは阿笠博士と意気投合し日が暮れるまで自動スイカ割り機について語り合った。最後は個人的なメールアドレスまで交換し、いつか種抜き、皮むき機能まで搭載した装置を作ることを固い握手で約束した。

 

 

 

 

 こうして、オレには新たに「阿笠博士と語る」というバイトでの楽しみが生まれた。

 居酒屋バイトを離れ、熱中して機械いじりができる環境を満喫しているオレだったが、夜遅くまで作業してしまうため寝不足で学校を睡眠時間としている生活には結局変わりなかった。

 

 

 機械をいじり、機械いじり、たまにオペレーティングを手伝い、また機械をいじって……。

 

 そんなこんなで、怪盗業の裏方バイトに慣れてきた頃。

 その日も品を受け取りに阿笠博士のお宅にお邪魔していたのだが、机の上には見慣れないおもちゃのようなメカが散らばっていた。

 

赤い蝶ネクタイの裏に色々とボタンがある装置、この間依頼したジェットエンジンと似たものがタイヤの近くに取り付けられたスケボーなど、用途が全くもって分からないおもちゃにしては本格的なメカが揃っていた。

 

 

 「何ですかコレ?」

 

 

 「ああ、最近近所に親戚の子どもが引っ越してきてのう。その子がこういったメカメカしい類のものが好きで、ねだられて作ったんじゃ」

 

 

 「へえ、確かに男の子とかなら秘密兵器みたいな感じでテンションあがりそうっすね」

 

 

 

 

 今時のおもちゃはこんなのが流行ってるのか……、とその時オレは軽く受け流した。

 

 

 

 

 

 しかし、後から思えばこの日は重大な日だったのだ。

 

 

 

 

 

 

 阿笠博士の持て余していた技術力、秘めていた発明家としての欲望が惜しみなく披露され始めた日なのだと。

 

 

 

 

 彼は黒羽やオレにとって重要な協力者であると同時に、回りまわってある意味最大の敵となるのだった。

 





阿笠博士ラスボス説再臨(違う)
技術系スペック持ち主人公としては取り扱わずにはいられない御仁。

ちなみに阿笠博士が怪盗キッドのマジックアイテムの制作に携わっているのはアニメ公式です。ちょこちょこ犯行現場に行ってるだろうに気づかないもんなのでしょうか。
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