戦闘描写難しいよぉ。
絳禰は今年で六歳になった。
術式の修行もやり続け、火力が大幅に上がった。思いついた拡張術式もいくつかは成功し、格段にやれることが増えた。着実に力をつけた。
体術と剣術の修行も激しいものになった。戦う相手がいないから対人戦闘はできないけど、少し遠出して呪霊を相手に戦いをして実践的に鍛えている。だからそれなりにできるようになってきているはずだ。
呪力の操作だってものすごく向上した。流れるようにとまではいかないけど、だいぶ上手く動かせるようになった。このまま行けば六眼みたく原子レベルで操作することは不可能だけど、細胞レベルならできるようになるんじゃないかなって思ってる。
呪力による周囲の知覚。これが一番向上したと言える。以前の限界だった半径三十メートルから大きく距離を伸ばし、半径六十五メートルほどにまでなった。
視覚、味覚を除いた五感三つはより一層研ぎ澄まされた。
全てにおいて五歳のときとは比べ物にならないほど強くなったはずだ。でも、歳の割には強いかもしれないけど、こんなものでは全然足りない。まだまだ習得できていない技術はたくさんあるし、きっと二級呪霊にだって勝てないだろう。私の目指すべきところは九十九由基みたいに呪術師として海外を放浪することなのだから、特級レベルの力が必要となるだろう。
できれば原作開始前にそれだけの力をつけて海外に逃げ出したい。
◇
絳禰は今日もいつも通りに修行を終えて、最後に休憩として瞑想を行っていた。
絳禰は修行終わりの瞑想が好きだった。乱れた呼吸を整えて精神を落ち着かせる。そのときの感覚がたまらなく好きだった。
(ああ、静かな夜だ。)
カサッ
(ん?)
何か聞こえたため、その音に反応するが、なんともなかったのですぐに意識をもど―――
「――ッ!」
絳禰はその場から即座に飛び退いた。冷や汗をたらし、呼吸もわずかに乱れている。
「ハアッ、ハアッ。」
(誰だ!? この距離まで一切気づくことができなかった! 違和感を感じて熱感知を行っていなければ気づかないで終わっていた!)
絳禰は警戒を最大まで跳ね上げ、役に立たないと判断した呪力による知覚―――仮称呪力感知を即座に解き、機能する五感と熱感知に集中した。
そしていつでも対応できるように刀を構えて謎の人物に声をかける。
「あなたは一体なんのようでここに来られたのですか?」
少し待つが、返答はない。
「そう、ですか。私を殺しに来たのですね? ですが、私も黙って殺されるつもりはありません。」
息を吐き、戦闘に入るためのスイッチを入れた。
(この距離まで近づいてきたということは、恐らく近接戦闘が主体。そして相手は大柄な男性。対して私は六歳になったばかりだ、体格差は大きい。ならばせめて刀を使い少しでもリーチを伸ばしたほうが得策だ。今更私を殺しに来たことと私に一切気取られずにここまで近づいたことを考えると相手は相当の手練れ。)
(最初から全力で行く!)
「術式解放 【焦眉之赳】!」
ドンッ!
そして即座に姿なき襲撃者へと攻撃を仕掛けに駆け出した。
呪力で強化した足で大地を踏みしめ、人外の速度で襲撃者を襲う。絳禰が選択したのは真っ向斬り。上段より繰り出されるその一刀は常人の眼には捉えきれぬほどの速度を持っていた。そしてそれは並の相手ならばこの一撃で屠れたであろうほどの一撃だった。
初撃で決められなければ勝てる可能性はなくなる。そう判断したからこその一撃。
―――しかし襲撃者はそれを容易く上回った。
絳禰の渾身の一撃を軽々と見切り、まるで挑発するかのように振り下ろされた刀をギリギリで避けた。
(――っ! 避けられた! いや、まだだ!)
避けられた刀を即座に襲撃者に向けて振るう。が、これも一切当たらない。焦眉之赳の炎を刀に纏わせているため、間合いを見切るのは困難なはずだが、それを完全に読み切られていた。術者本人にもわからない炎による不規則な間合いの変化。それを完全に見切ったうえで絳禰の一手一手を観察している。
やろうと思えば今すぐにでも反撃に転じることができる。それをしないのは絳禰に対しての煽りか、それとも絳禰が行うことへの興味によるものか。
―――弄ばれている。
それは戦っている絳禰自身がすぐに気付いた。こちらが攻撃をしているというのに襲撃者は一切攻撃の素振りを見せないのだ。もしかしたら私を殺しに来たわけではないのかもしれない。一瞬だけそう考えた絳禰だが、襲撃者の強烈な殺意を感じ、即座にその考えを捨てる。
(どうする!? こちらが完全にあらゆる面で下回っている時点で相手の意表をつくような攻撃でなくては意味がない! やるなら相手が完全にこちらを仕留めたと確信したその時! それで確実に仕留める!)
刀に纏わせるだけでは攻撃は当たらないと判断して炎の範囲を拡大する。高火力の炎による面の攻撃。
これに対して襲撃者はようやく動きを見せた。
ゴウッ
放たれた炎に対して襲撃者が行ったのはただ拳を前に突き出すだけ。
それだけで炎が消し飛んだ。
(なっ!?)
絳禰はその瞬間僅かに硬直した。それは0.1秒にも満たない僅かな時間だった。しかし、襲撃者にとっては致命的な隙。当然それを見逃す筈もなく、即座に仕掛ける。
襲撃者の拳が絳禰の顔面に突き刺さる。それはとてつもなく重い一撃だった。速く、鋭いその攻撃に絳禰は反応出来ず、呪力による防御も間に合わなかった。
とてつもない痛みとともになすすべなく後ろに吹き飛ばされる。すぐに体勢を整えようとするが、襲撃者の動きははそれよりも速い。
容赦ない連続攻撃が絳禰を襲う。足、拳、膝、肘。あらゆる場所から繰り出される攻撃はその一撃一撃が途轍もなく重く、絳禰を殺すだけの威力を秘めていた。
こちらが何かをする前にそれを察知した襲撃者がそれを潰す。絳禰に一切の反撃を許さない。絳禰はただただ殴られていた。出来たのは呪力で体を覆って守ることだけだった。
(このままでは嬲り殺しにされて終わる! 距離を離さなくては!)
そう判断した絳禰は炎を最大火力で全方向に放出した。
(これで———)
しかしそれすらも襲撃者相手には意味がなかった。
自身が燃えることすら構わずに絳禰を殴り続けた。
蓄積したダメージ、修行終わりの消耗した体力。それら全てが積み重なり、絳禰はもう限界に近かった。今すぐ倒れてもおかしくないほどだった。
(まだ、まだだ!)
しかし絳禰は倒れない。倒れたらそこで終わりだと理解していた。故に倒れない。決して倒れてなるものかと歯を食いしばる。
そして必ず来る反撃のチャンスを待っていた。
ゴガッ!
耐え続けてきた絳禰の顎に強烈な一撃が入る。絳禰の視界は霞み、一瞬だけ意識を失った。
それでも絳禰は倒れない。
「倒れて、たまるかぁー!」
ゴギャッ!
一向に倒れない絳禰を見て、イラついたのか定かではないが、襲撃者は絳禰の両腕の骨を同時に蹴り折った。
「あぐあっ!」
絳禰が痛みに思わず声を上げる。
腕から力が抜けた瞬間、襲撃者は絳禰の手から刀を奪い取った。
襲撃者はその刀で絳禰の喉を貫いた。先ほどまでとは違い、打撃ではなく斬撃。絳禰の体から血が吹き出す。
喉を潰されて、声を発することはできない。よって呪詞による出力の強化は不可能となる。もっとも、この状況ではそもそも不可能な話ではあるが。
喉を潰されたことにより、絳禰は反射的に手で押さえようとした。しかし、腕が動かない。
体中から血が吹き出す。絳禰が認識できないほどの速度で振るわれた刀。あらゆる箇所の腱を切られ、体が崩れ落ちる。
「がっ!」
そして刀が首に振るわれる。絳禰は腱を切られ、その場から動けない。
―――つまり、詰み。
襲撃者が振るう刀が絳禰の首を捉え、
―――すり抜けた。
本当なら一瞬で主人公が殺されて終わってる。