転生したら禪院家の女でした   作:苦鳴

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 二話目


襲撃者 其の二

 確実に絳禰の命を奪うはずだった一撃は炎と化した絳禰の首をすり抜け、空を切る。

 

 襲撃者に確かな動揺が走る。

 

 誰であろうと油断をする勝ったと確信した瞬間、そして刀が首をすり抜けるという異常な状況に対する動揺。それを絳禰は見逃さず、攻撃を仕掛けた。

 

 両手両足は使えない。よって選択したのは頭突き。術式を使う時間などないと言わんばかりに即座に放ったそれには絳禰渾身の呪力が乗っていた。

 

 そして直撃の瞬間、

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――呪力が黒く光る。

 

 

 黒閃。それは打撃との誤差0.000001秒以内に呪力が衝突した場合発生する現象である。誤差0.000001秒以内に衝突した場合、空間は歪み、呪力は黒く光る。その威力は平均して通常時の2.5乗。更に黒閃を経験した直後、いわゆるゾーンに入る。普段意識的に行っている呪力の操作が呼吸をするかのように行われ、圧倒的な全能感に包まれることになる。黒閃を経験すると呪力の核心に大きく近づくことになり、黒閃を経験した者とそうでない者とでは天と地ほどの差がある。

 

 

 

 ようやく入った明確な有効打。この一撃には絳禰の呪力が大量に込められており、そこに黒閃による2.5乗の威力になった頭突き。一級呪霊にすら届きうるだけの威力を秘めていた。六歳にして黒閃を経験し、それだけの一撃を放ったのだ。まさしく快挙と言うべき出来事。

 

 完全に襲撃者の不意をついたそれは、完璧だった。

 

 絳禰にとってもこれは賭けだった。実は体を炎と化すこの技は一度も成功していなかった。しかし勝つためには今まで成功させていないそれを成功させる必要があると考えた。並大抵のことでは襲撃者の虚はつけない。そう確信していたからこそこの技を使うことに踏み切った。

 

 完成していない技を土壇場で成功させる実力。そしてそれをやるだけの度胸。そしてこの状況下で黒閃を起こすという強運。

 

 

 

 

 

 ―――しかしそれら全てを持ってしても襲撃者には届かない。

 

 ダメージを与えた。それは確かであるが、戦闘が困難になるほどのものではない。いくら黒閃を出したとはいえ、所詮は六歳児の全力。正式な呪術師のそれとは比べるまでもない。

 襲撃者の体を後方に大きく吹き飛ばしたが、攻撃の瞬間に僅かに反応され、同時に後ろに跳んで威力を僅かに殺していた。襲撃者にとって致命的ではない程度の威力。

 

 だが、それを考えない絳禰ではない。頭突きを行ってすぐに術式を発動し、襲撃者に追撃を仕掛ける。絳禰の頭の中に逃げるという選択肢は最初からない。この相手には逃げ出したところですぐに追いつかれてしまう。ならばここで勝つしかない。

 その考えのもと絳禰は術式を応用し襲撃者に突っ込んで行く。

 

 しかし速度が圧倒的に足りない。術式による高速移動だけでは先ほどまでと同様に避けられるだけだ。例え思わぬ一撃を食らった直後ではあるが、腱を切られ、満足に動かせない体で出せる程度の速度では襲撃者には届きえない。

 

 

(私なら出来る!)

 

 

 絳禰には考えがあった。今、この状況なら確実にできるという確信があった。黒閃を決めたことによる全能感。研ぎ澄まされた呪力操作。ゾーンに入っていることによる圧倒的な集中力。

 できない理由がないと思っていた。

 

(やれる!)

 

 

 

 

 

「秘伝 落花の情・操身」

 

 その瞬間、絳禰の速度が爆発的に速くなる。

 急激な速度の変化。それにはさしもの襲撃者も反応が遅れる。

 

 絳禰が選択したのは最大まで加速した上での跳び蹴り。脚に炎と呪力を集中し、さながらバッタの改造人間のような蹴りを繰り出した。

 

 その蹴りは今度こそ一切の回避を許さず襲撃者の腹にめり込んだ。

 

 

 

 

 

 ―――そして黒い火花は再び絳禰に微笑んだ。

 

 

 

 

 二回連続の黒閃。最高の一撃を更新した絳禰の蹴り。一度目とは異なり、術式の炎も纏わせた攻撃。それには襲撃者も思わず苦悶の声を上げる。

 

 あまりの威力に呪力で強化したはずの脚の骨が折れた。が、その痛みを無視して再び蹴りを放つ。跳び蹴りを放った直後の空中にいる状態。その状態から無理矢理体勢を変え、腰を大きく捻って威力を上げて放った。

 

 今度は襲撃者の顔面に突き刺さる。

 

 しかし襲撃者は体勢を崩さない。そして三回の打撃を受けたというのに血の匂いも肉が焼けた匂いもせず、目立った傷もない。

 

 

 

 ―――怪物。

 

 

 

 そんな言葉が絳禰の頭によぎる。黒閃を二回、術式を全力で使用した上での蹴り。いくら絳禰が子供だと言ってもそれを無傷と言っていい様子で受けきり、平然としているという事実は絶望するには充分すぎる。

 ならば絳禰も絶望し、生きることを諦めるのか。

 

 

 

 ―――否。

 

 

 

 この世に生まれ落ちた時、すでに絶望など済ませてある。一度死に、そして再び生を得た。そしてそのときに誓ったのだ。今度の生では悔いなんて残らぬように、幸せに生きるのだと。そのためには諦めることも、妥協することも、絶対にしない。

 

 それは生まれてすぐに願ったこと。絶対に叶えてみせると意気込んだこと。そのための力が欲しかった。理不尽な運命を跳ね返せるほどの力が欲しかった。そして彼女は無意識のうちに縛りを結ぶ。破った際の代償もとてつもなく重いものを。

 

 絳禰が結んだ縛り。それは幸せに生きるために、死ぬために、諦めることと妥協することを禁止しした。破った際の代償は絳禰の寿命。幸せに過ごすための時間というかけがえのないものが失われていくのだ。

 その失われる寿命の時間は場合によって異なり、生きることを諦めたり、幸せになることを諦めたりすれば全ての寿命がなくなり、即座に死亡する。また、日常での少しの妥協や諦めなどでも寿命はそれなりに削られる。

 

 寿命を失う、最悪命を失うかもしれないというとてつもなく重いリスクを背負い、結んだ縛り。それが絳禰にもたらした力は呪力運用の効率化、そして呪力出力の強化である。

 

 

 

 些細なことでも諦めたり妥協したりすれば寿命が削られるという縛り。絳禰は今まででほとんどその縛りを破っていない。破ったものも、眼が見えない、味覚がない、この世界に生まれたなどという覆しようのないことばかりで、それら以外のほぼ全てを諦めず、妥協せずに幸せを目指してきた。

 

 

 そんな絳禰が諦めることなどあるはずがない。

 

 

 

 

 

(私は、必ず、幸せに―――)

 

 

 

 

 パシッ

 

 

 

 

 

 

 ドゴオッ!

 

 

 

 

 

 そんな絳禰の覚悟を、想いを、決意を、襲撃者は嘲笑うかのように攻撃を手で振り払い、顔に拳を叩き込んだ。

 

 絳禰の思考が停止する。黒閃を決めたことによる全能感が吹き飛び、眼の前に刀が迫るのをただ感じていた。死が自らに迫ったことにより世界が遅く感じられた。それはタキサイア現象と呼ばれるもの。人間の感情により知覚の時間精度が高くなる現象。情報の処理速度が著しく上昇し、あらゆる情報が高速で処理される。

 自身の死が迫っているという状況、黒閃を決めたことによるゾーン状態。それらにより世界の全てがゆっくりと感じられた。だが、たとえ分かっていても体がそれについて行くことはない。

 

 

 

 一瞬が何秒にも何分にも引き伸ばされる感覚。

 

 

 

 ―――その感覚が途切れ、現実に引き戻される。

 

 

 

 まず最初に貫かれたのは目だった。そして次は手のひら。

 順々に体中をめった刺しにされる。声を上げる暇さえもない流れるような超速の連撃。絳禰の体のあちこちから血が吹き出す。

 

 そして最後に心臓を突き刺した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 仰向けで倒れた絳禰は空へと手を伸ばそうとしていた。その顔は自身の血で汚れて真っ赤だった。

 

「わ…ぁしは、ぃき、の…て、しぁわせ、を……。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 空に伸ばそうとしていた絳禰の手から力が抜け、地面にパタリと落ちた。

 

 

 

 

 ―――呼吸はもう、止まっていた。




諦めるということを禁止する代わりに圧倒的な呪力出力と効率を得た。しかしその代償はあまりに重く、破ることは許されない。

幸せになるために得た力は、誓いを破れば幸せを奪うもの。それでも、未来(幸せ)に手を伸ばす。





首を炎に変えた技はできたら優位に立てるなと思ったのとカッコいいなと思ったから修行してた。かなり無茶苦茶な解釈をしまくってようやく実現させた。

操身は本来呪力で攻撃を弾くという領域対策の落花の情を応用したもの。呪力で自分の体を細かく弾き強制的に動かしてる。怪我してるところにそんなことをしたら当然痛い。
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