倒れ伏した絳禰を見下ろしながら、襲撃者は内心驚愕していた。
六歳とは思えぬ戦闘技術、術式の練度、呪力操作。そして何より、戦闘の中で垣間見える思考能力の高さ。
即座にこちらとの実力差をはかり、真っ向勝負では勝ち目がないと悟り速攻で決めに来た。その攻撃がかわされた後もこちらの隙を作る、あるいは待っている様子だった。実際に首を狙った一撃はスカされ、その隙に一撃を決めてきた。勝ちを確信した際の油断、それを最初から待っていたのだろう。
それだけでなく周囲の地形を利用したり、術式の使用では思いもよらぬ使い方を大量に見せた。
すでに死んだ相手に興味はないが、この一戦は、この子供は、一生自らの記憶に残ると確信させた。
最後に目の前にいる絳禰を目に焼き付け、帰るために背を向ける。
戦闘の最中に奪った刀はなんとなく持ち帰りたい気分だった。刀を腰に差し、ゆっくりと歩いていく。一歩一歩踏みしめながら、血で濡れた道を歩く。
―――風が、吹いた。
「―――何処、行くんですか?」
背後より聞こえたありえないはずの声。この世にはもう存在しないはずの人物の声。
その声に思わず反応し、振り返る。
そこには幽鬼のようにゆらりと立ち上がってくる無傷の絳禰の姿があった。
「なぜ私が生きているのか不思議ですか? 心臓を貫かれたはずの私が生きているのが。」
そう、絳禰は心臓を貫かれたのだ。人間ならば必ず命を落とすほどの重症。今ここで立ち上がっているはずが無かった。
「私はあなたに体中を刺されると認識した直後、それを防ぐことは諦めました。それが叶うような速度の攻撃ではありませんでしたから。」
ならばどうして絳禰は生きているというのか。
「私は防御を諦めて致命傷を負わされた後に傷を治すことだけに意識を集中させました。つまり、反転術式ですね。」
「呪力とは負のエネルギーであり、故に負傷を治すという正の事象を起こすことは不可能。その負のエネルギーである呪力と呪力を掛け合わせ、正のエネルギーへと変える。そしてその正のエネルギーを持って全ての負傷を治しました。」
「とは言っても、言うは易く行うは難し。どれだけやろうとしても今まで出来たことなんてありませんでした。習得しようと自分の体をいじめ抜き、命を危険に晒させてもできるようになりはしませんでした。」
「だけど、死に際で掴んだ! 呪力の核心!!」
「あはは、ははははは!」
絳禰はハイになっていた。普段はあまり話す方ではないはずの絳禰が饒舌になっていた。黒閃の全能感とは比べ物にならないほどの高揚感。
「
そして絳禰が動き出す。自身の幸せを奪おうとする、命を奪おうとする敵を排除するために。
我流 簡易領域。それは絳禰が編み出した、シン・陰流 簡易領域とは似て非なるもの。
絳禰の簡易領域の元となったシン・陰流 簡易領域は弱者のための領域と言われ、領域の必中効果を中和する効果がある。
そして簡易領域内に入ったものを全自動反射で迎撃する居合夕月や抜刀など様々な応用法がある。
が、絳禰のそれは従来のものとは前提が大きく異なる。もっとも大きな相違点は行使に正の呪力が必要なことだろう。反転術式というそもそも習得している人物が少ない技術を使えることが絶対条件という時点でその難易度がわかる。更に結界術の習熟が必要になる。
その他にも多くの能力を必要とする超高難度の技。それが絳禰が編み出した簡易領域である。
その効果は領域の必中効果の中和のみならず、術式の中和も可能としていた。領域展延と異なり、使用の際に術式が使用不可能になるというデメリットもないぶっ飛んだ技。その効果は元となった簡易領域を全て上回る。
だが、それは今は関係がない。重要なのはシン・陰流の簡易領域の応用でもあるオートの攻撃。それを即興でプログラムを一つ組み上げ、速度を上げる。
「居合、烈日っ!」
簡易領域を広げ、襲撃者を簡易領域内に取り込んだ。そして術式により作り出した炎の刀を高速で振るった。
炎で作り出した物であるために形は変幻自在。振り始めた直後、刀身が伸びる。
反転術式を習得したことによりどれだけ負傷しても問題なくなったため、脳のリミッターを無理矢理外し限界を超えた膂力を出す。
落花の情、簡易領域、限界を超えた膂力、凝縮された赤白い炎。
それらをもって高速の一太刀が振るわれる。
それに対して襲撃者が選択したのは迎撃。その手に持った刀を振るい、絳禰の攻撃を迎え撃つ。
―――接触の瞬間、刀がドロリと溶けた。
日本刀を鍛錬する時の温度は約千二百度。しかしこの炎はそれを優に超す二千度にまで達する。
刀が溶けたのを視認した瞬間、襲撃者は驚異的な反応を見せ、即座に飛び退いた。その後、手に持った半ばから溶けた刀を見やり、後ろに投げ捨てた。
絳禰が作り出した刀はすでに役目を終えたと言わんばかりに消えていた。しかしその火力には襲撃者も警戒を抱かざるを得ない。今の一撃を喰らえばただでは済まないと分かった。絳禰も今の攻撃を再び振るい、当てることができれば勝つことができると確信した。
―――その時襲撃者が今までにない動きを見せた。絳禰は何が起きてもいいように、身構えた。
(何だ、何が来る!?)
襲撃者は両手を上に上げる。
「降参だ。」
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―――
「―――は?」
主人公「死に際で掴んだ! 呪力の核心!」
襲撃者(そこは人として死んどけよ。)
作者 「そーだそーだ!」