禪院家当主、禪院直毘人。
相伝の術式である投射呪法を持ち、最速の術師と呼ばれる男。禪院家二十六代目の当主であり、特別一級術師。その術式は歴史が浅く、一秒間を二十四分割し、頭の中で動きを作り、自動でトレースするというもの。この術式の使用難度は高いが、天性のコマ打ちセンスと時間感覚により完璧に使いこなしている。
趣味はアニメ鑑賞という思いも寄らない趣味を持っており、最近の解像度やらフレームレートを上げたがる風潮を無粋だと思っており、強いこだわりが見られる。
昼間から酒を飲む酒カスではあるが、禪院家のドブカスどもとは違い、まだマシな方と言える。
でだ、私は今、この爺さんになぜかめちゃくちゃ睨まれている。顔だけで人を殺せそうだ。普通の六歳児だったら間違いなく泣いてるね。私にはそんな脅しは無意味だがね。
「して、なぜ急に街に行ってみたいなどと言い出したのだ?」
あー、やっぱりそれは聞かれるよね。回答を用意しておいて良かった。
「実は俺がこいつの所に通ってたら何処から来てるのかって聞かれたんだよ。んで、正直に答えたら行ってみたいって言われてな。あんたに許可を取らないわけにはいかないからここに来たってわけだ。」
……ということにしてある。
「ふむ、話の筋は通っておるな。ならばよかろう。」
おおっ! もっと時間がかかると思っていたからこれは嬉しい!
「……と言いたいところなんだがの。」
へ? 許可くれるんじゃないの?
「不思議そうな顔をしておるがのう、娘。お主の意図が掴めんうちは許可など出せんわ。」
ああー。流石にバレるか。当主相手にこれは舐めすぎたか。
「意図、ですか?」
これでゴリ押しできないかな。
「上手く隠しておるようだが、その鋭き牙が隠しきれておらぬぞ。」
「……へえ。」
まさか気づくとは思ってもいなかった。自分では完璧に無害なか弱い子供に擬態しているつもりだったんだけど、現当主の目は誤魔化せなかったらしい。
「俺からみてもほぼ完璧に隠してたと思ったんだがな。どうして分かった?」
「簡単なことよ。儂の殺気を正面から受けて、平然としているような者がそこまで弱い訳がなかろう。」
……なるほど。それは盲点だった。甚爾さんと比べてかなり弱めだったから然程気にならなかったんだよね。
「人にあれだけ気をつけるように言っといてお前がミスってんじゃねえか。」
「あはは、申し訳ないです。その時の感想はなんか殺気放ってきてるなーってことだけだったんですよね。よく考えたら普通の子供がそんな平然としているわけないですよね。失敗しました。」
「それで、呪いの子よ。甚爾を連れて何をしに来た? この家を潰しにでも来たのか?」
ん? なんかものすごい警戒されている。そこまで警戒されるようなことをした覚えはないのだけど。
あ、甚爾さんが面白がって笑ってる。
「いえ、
「かっかっか! そうかそうか、ならばその時を楽しみにしておこう。それはそうとでは何故ここに来た? ただ外に出たいだけではなかろう?」
どうしよう。普通にその通りだったんだけどそれを言ったら評価が下がるよな。
「ええ、勿論です。外に行き、呪霊を探して戦い、実戦経験を得ることが目的です。基礎は磨けても実戦に勝るものはないですから。まあ、外に行ってみたいという気持ちはありますけどね。」
「成程のう。だが、儂がそれを許可する理由がないな。」
チッ、やはりそう来たか。禪院家に叛意をもつ危険分子をわざわざ外に出すだけの利がなければ動かないだろう。だから無害な子供を装っていたのだけど、それは失敗してしまった。
だけどちゃんと相応の手札は持っている。
「ええ、ですがそれは私が差し出すものによる、ですよね?」
「かかかかっ! 余程の自信があると見える。どれ程のものを出してくるつもりだ?」
ここで出し渋らずに全力で叩きつける!
「術式の中和が可能な簡易領域の詳細を纏めた指南書なんてものはどうでしょう?」
「!?」
ふふ、驚いてる。流石にこれは驚かざるを得ないだろう。私が簡易領域を独学で習得しているという事実、そしてそれを更に高性能なものにしたという快挙。
「……それは事実なのか?」
「ええ、勿論です。ここで嘘を吐くような真似はしません。」
そうして直毘人は少し考え込むようなそぶりを見せる。
「……よかろう。禪院絳禰の外出を禪院甚爾の同伴という条件でのみ認めよう。」
勝った!
なお難易度。