転生したら禪院家の女でした   作:苦鳴

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アッチ側

 真上に投げられた木刀が回転しながら落ちてくる。直哉はそれを見て、地面に着く瞬間を待っていた。

 

(アレが落ちたら速攻で勝負を決めたる!!)

 

 直哉には自信があった。相伝の術式である投射呪法。それを所有し、親譲りの才覚ですでに使い熟し始めていた。周囲は自分を神童だと持て囃した。自分より年上の兄たちにも負けたことなどなかった。術式を使えば誰も追いつくことができなかった。だから、目の前にいるこのムカつく女もそうなると確信していた。自分に逆らった生意気な女をどうしてやろうかということに思いを馳せていた。

 

 だが今日、禪院直哉は転生者(禪院絳禰)というイレギュラー(化け物)を知る。

 

 

 

 

 

 

 木刀が落ち、カランと音が鳴る。それを合図に直哉は全力で駆け出した。術式を使い、際限なく加速していく。直線で突っ込むなんてバカな真似はしない。縦横無尽に駆け、翻弄する。

 

(ハッ! 全然反応できてへん! 所詮女なんてこんなもんや!!)

 

 直哉は考えてもいなかった。絳禰がただ様子を窺っているだけだとは思ってもいなかった。普段相手にしているのが化け物で、この程度の速度では遅く感じてしまうことを。

 直哉は気づかない。女を見下しているからこそそんな考えは浮かばない。

 

(甚爾さんとは比べるまでもないですね。遅すぎです。)

 

 絳禰は油断はしていなかった。禪院家の次期当主と言うからには相応の実力があって然るべきと考えていたからだ。だが、実際はこんなものであった。落胆せずにはいられなかった。

 

(獲った!!)

 

 直哉は背後へ回り込み、蹴りを喰らわせようとした。絳禰は後ろに振り向いてこない。確実に仕留めたと確信した。

 だから、次に起こったことに直哉はすぐに反応が出来なかった。

 

「はあ、遅すぎます。」

 

(…………は?)

 

 直哉の全力の蹴り。それは振り向きもしていない絳禰に軽々と弾かれた。反応できていなかったのではないのか。そんな疑問が直哉の頭に浮かぶ前に目の前に木刀が迫る。

 直哉の蹴りを弾いた木刀は次に直哉の顔を狙った。避けたくとも術式による移動中に攻撃を喰らったことにより体が硬直して動かない。直哉は防ぐことも出来ず、無防備に木刀を叩き込まれた。

 

「アガァッ!!」

 

 痛みに悶絶する。しかしすぐに怒りがそれを塗りつぶした。その一撃には呪力が殆ど乗っていなかったのだ。威力を上げられるところを上げない。明らかに手加減されていた。

 女なんかに手加減をされた。それは直哉の逆鱗に触れた。

 

「ふざけんなやぁ!!!」

 

「……別に煽っているわけではないですよ。これが私とあなたの差です。」

 

 絳禰の中で直哉は相手との実力差も分からない子供という認識であった。感覚としては大人が子供と遊んであげているのに近い。本人には舐めているつもりは一切なかったが、客観的に見れば年上相手に手加減をして舐めているようにしか見えなかった。

 

「殺す!!」

 

 殺意が溢れ出す。だが悲しいかな。実際に絳禰と直哉の中には越えようない差があった。直哉は絳禰の本気を引き出すこともなく、終わるであろう。

 

「まあ、満足いくまで付き合いますよ。」

 

 

 

 ◇

 

 

 

(クソ、クソクソ! 何でや!? 何で届かんのや!?)

 

 自身の攻撃が一向に届かず、手加減された攻撃を浴びせられ続けた。手加減されているとはいえ木刀で何度も打ち込まれたため、赤く腫れ上がっているところが多くあった。

 どれだけ攻撃をしても容易く捌かれ、あるいは避けられた。もう既に自分の実力に対する自信などないに等しかった。年下の女に手加減された上で無様に負けている。その事実はいくら認めたくなくても覆しようがなかった。

 

 そして再び吹き飛ばされる。もう呪力も体力も尽きていた。それでも、自分から仕掛けたこの勝負。負けを認めるなどプライドが許さなかった。

 

「クソがぁ……。」

 

「……少し、侮っていたかもしれません。」

 

 地面に倒れ伏してなお、諦めることなく向かってくるところを見て、絳禰は思わず感心したような声を上げた。これだけ打ちのめされてもその目は死んでいなかった。ここまでやれば心が折れるだろうと思っていたため、意外であった。

 

「少し戦えば、心が折れて帰ってくれるものだと思っていました。けれど、あなたは倒れずに私に向かってきている。先程までの非礼を詫びます。あなたは強い。」

 

「何や……。何でや。何で……。」

 

 まさしく茫然自失といった風で、先程までの威勢が何処かへ消えた。もう既に女だからという考えは消えていた。目の前にいるのは自身よりも強い者であると認識した。

 

「私とあなたでは環境が違ったんですよ。確かにあなたも修行はしていたでしょう。ですが私はしなければ死ぬという理由が大きかったんです。命懸けで修行をしているのですから、他の人より伸びるのは当然だと言えるでしょう。」

 

 あくまで自身との差は環境や意識の差によって生まれたものであり、あなたの修行が足りなかったわけではないと伝えていた。

 それを聞いて直哉は愕然とした。自分に勝ちながら驕ることなくただただ上を目指している姿勢。敗れた相手を尊重する心。他にも絳禰から様々なことを感じた。

 

「……君は、強いんやなぁ。」

 

 そして思わず絳禰を認める言葉がでた。自分でも無意識に出た言葉。それはすなわち敗北を認める言葉でもあった。

 

「ありがとうございます。どうでもいいと思っていましたが、褒められるというのは案外嬉しいものですね。」

 

「なあ、君名前は?」

 

「あれ、知らずにここに来たんですか? まあいいですが。私は絳禰です。よろしくお願いします。直哉さん。」

 

 名前も知らずに襲ってきたのかと軽く驚いたが、名乗れと言われたのなら名乗るほかない。できればもう絡んでこないでくれと気持ちを込めて名乗った。

 

「絳禰ちゃんか。ええ名前やね。俺も君みたいにアッチ側に行ったるからな。」

 

「? アッチ側ですか?」

 

 はてアッチ側とは何だろうと首を傾げた。この様子だと強さを認めたからこそ出た言葉ではあるのだろうが、一体どういう意味なのかまでは分からなかった。

 

「そうや。絳禰ちゃんや甚爾くん、それに悟くんみたいな人たちのことや。みんな、他の奴らとは違う本物の強者ってやつや。」

 

「甚爾さんと悟は分かりますけど、私もそこに入るのですか? 些か力不足だと思われますが。」

 

 普段から甚爾にボコボコにされている身としては、少し疑問だった。甚爾は呪力から脱却した天与の暴君。五条悟も六眼と無下限呪術という特別なものを持っている。そこに自分を並べるのは違うのではないかと思った。

 

「そんなことはないやろ。絳禰ちゃんも普通にアッチ側や。」

 

「そうなんですかね?」

 

「何でそんなに自信ないんか知らんけど、絳禰ちゃんは強いやん。」

 

「お前みたいなカスがとか何とか言ってませんでしたっけ?」

 

 流石にあの暴言が無かったことになるわけがない。女だからと差別的な数々の発言。ネットに知られたらボロクソに殴られるほどのものであった。

 

「それは謝るけどな? 絳禰ちゃんも悪いと思うで。あん時弱い振りしとったんやろ? そら分からんよ。」

 

「おお!? ちゃんと弱く見えてましたか!? 直毘人さんにはあっさりバレたのでてっきり演技が上手くできていないのだと思ってました!」

 

「お、おおう。」

 

 絳禰のあまりの勢いに直哉は少し引いた。予想以上の食いつきであった。

 

(そういや、さっき悟くんのこと親しげに悟とか呼んどったな。……深く考えんようにしよ。)

 

 英断である。




転生者とかいう一番意味不明な存在が何か言ってる。
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