私は今、非常に困った事態に巻き込まれている。私は前話で禪院直哉と戦うことになり、そして勝利した。そして彼は私に対する認識を改め、認めてくれた。甚爾さんや悟と同格に扱っているのだけはやめてほしいが、そこまで大した問題ではない。
ああ、私が読者たちを認識しているということは忘れてくれたまえ。変な電波を受信しただけだからな。
とまあ、そんな冗談はさておき、私は本当に困っているんです。
「なあ、絳禰ちゃん♡ お兄ちゃんって呼んでくれんかな♡」
……なにこれ。
いや、本当になにこれ。さっきまで私のことをボロクソに罵ってきていた人が急に豹変して語尾にハートがついてると錯覚するような声で話しかけてくるんです。本当に気味が悪い。これ、どうすればいいでしょうか。
◇
「ハア〜。ほんとに絳禰ちゃんはすごいなあ。しかもエラい別嬪さんやし。将来ろくでもない男に捕まらんか今から心配やわ。」
「別にお世辞を言わなくてもいいですよ。私を嫁にもらいたいなんて思う方がいるわけがありませんから。」
目が見えない、腕に痣がある、常に敬語で話すから可愛げもない。しかも御三家出身だ。そんな私をもらいたいなんて思う人がいるわけがないだろう。血は御三家のものだし、それなりに利用価値はあるから嫁ぐなら術師の家系にされるだろう。だけど私は結婚するつもりなど毛頭ない。一生独身で楽しく過ごすんだ。
「何言うてんねん!! 絳禰ちゃんみたいなええ女を男が放っとくわけがないやろ!! 男は獣なんや!! 気をつけんとあかんで!!」
本当にどうしたというのだ。女は男の後ろを歩いとけば良いんじゃなかったのか。なんで急にシスコンみたいになったんだ。
軽く恐怖を覚える。もはや別人でしょ。
「なあ、絳禰ちゃん。やっぱりこんな山小屋やのうて、本邸に来うへんか? 此処やと色々大変やろ。」
む。これは少し悩ましい提案だ。別に行ったせいで言われる数々の暴言はどうでもいいが、他の人の技術を学べるチャンスでもある。でもなあ……。
「ありがたいですが、遠慮させていただきます。そちらに行くと色々と面倒事が多そうですから。」
「チィッ! あのカスどもか。本当にろくなことをせん。俺が当主になったらすぐにでも絳禰ちゃんが不自由なく過ごせるようにしたる。それまで待ってくれや。」
うーん、直哉が当主になる頃には私は禪院家を出ていくつもりなんだけど、やる気に水を差すのもどうかと思うし、黙っておこう。
「では、当主になって私の上の立場になったらお兄様と呼んで差し上げますよ。」
「ホンマか!? お兄ちゃん頑張ったるわ!! すぐにあんな老いぼれ叩き落として俺が当主になったる!!」
「正々堂々自分の力を示した上で勝ち取ってくださいね?」
なんかすごいやる気を出してるけど、そんなに私にお兄様呼びをされたいのだろうか。ただ、外道な手を使ったりしてほしくはないので、しっかりと釘を差しておいた。何がどうしてこうなったのやら。
アッチ側の人間には敬意を払う人間だしこうなってもおかしくはないかと思った。
直哉が当主になる前に家を出るつもりだから無駄な努力になる。残念ながらお兄様とは呼んでもらえない。