「そういやお前どうやって本読んでるんだ?」
ある日、甚爾さんが唐突にこんなことを聞いてきた。
「今までスルーしてたが、目が見えねえのに読めてるのはおかしいだろ。どういうことだ?」
ああ、そういえばまだ言ってなかったっけ。甚爾さんの前で普通に読んでるから説明した気になってた。
「なんて言えばいいんでしょうか。少し説明が難しいんですよね。」
「ああん?」
甚爾さんが怪訝な表情をしているが一体どう説明すればいいものか。自分でも完璧に理解できているとは口が裂けても言えないからなあ。
「呪力、ですかね。大気中に呪力が満ちているのは呪術師でもそれが自然だと思っているから分からないんですよ。だけど私はそれを完璧に認識しているんですよね。つまり私の呪力感知はどこか人と違うんですよ。まあ、これも視覚がないことの影響でしょう。」
「で、それがどう関わってくるんだ?」
「呪具ってありますよね。あれは呪力が込められていますが、呪具でなくても僅かに呪力は帯びてるんです。いや、帯びているというより付着していると言った方が近いですかね。例えばこの鉛筆です。」
私は手元にあった勉強用の鉛筆を手に取った。それに集中すると私にしか見えない世界が見えてくる。きっと六眼であってもこれは捉えられないのではないかと思う。……いや、どうだろう。できるのかもな。
それはともかく、私にはほんの僅かな呪力が鉛筆に付着しているのを感じられる。勿論これは呪具ではない。だけど、私にははっきりと分かるのだ。この世のあらゆるものは少なからず呪力が付着している。例外は天与呪縛で呪力がなく、呪いを弾く甚爾さんぐらいなものだろう。甚爾さんですら身につけている衣類で分かるようになったし。
「勿論、このノートや教科書も呪力が付着しています。それで、物によって付着している呪力の濃さが違うんです。だから、紙に印刷された文字は僅かに紙より濃いですから、その濃さで文字を認識しているんです。」
「……キモ。」
!?!?!?
「はあ!? なんですかそれ!? 人に尋ねてきてそれですか!?」
なんなんだその顔は。ヤバい奴を見たような顔をしやがって。実際に顔が見えている訳ではないがそれぐらいなら分かるぞ!! なんでドン引きしてるのさ!?
「いや、てっきり触覚で僅かな凹凸を感じ取ってんのかなぐらいにしか考えてなかったのにそれは引くわ。凄いを軽く通り越してヤバいわ。バケモンだろ。」
ひ、ひどい。なにもそこまで言わなくていいのに。確かに自分でもヤバい能力だなあとか考えてたけども人に言われるのは辛い!!
「い、いや、勿論欠点もありますからね?」
「ああ、それもそうか流石にデメリットも無しにそんなことできるわけねえよな。」
「ええ。本を読む時はその感覚を本だけに集中しなければいけないので常時行なっている感知が切れてしまうんですよ。」
これは中々の欠点だろう。常に襲撃の危険を想定する必要がある私にとっては感知能力が一つ失われるだけでもかなり痛い。今はなんとか周囲の感知もしながらできないか試しているところだ。
「ああ、あとはテレビや携帯などの電子機械の画面に表示されているものは読めませんね。」
そういうのだと呪力の濃度がほぼ一定だから分からないんだよね。あれは光を出しているだけだからどの部分が光っているか認識できない私は読めないのだ。だからスマホとかを持っても電話にしか使えないだろう。それだったら他の連絡手段を使えばいい。わざわざ高い金払ってそんなものを使う必要はない。
「で、他は?」
「?」
他? なにを言っているのだろうか。そんなものはない。
「おいまさか無いのか? マジか……。」
「普段行っているものが一時的とはいえなくなるんですよ? かなり大変だと思いませんか? それに携帯とかは使えないんですよ? 少し不便じゃないですか?」
「お前は別になくても問題ねえだろ。」
なんてことを言うんだ! そんなわけがないだろう! 感覚の一つがなくなるんだから違和感ありありに決まってるじゃないか! それに将来はスマホなんてものも作られるし、それらが封じられるとかかなり痛いじゃないか。しかも私はアニメを見ることができない。私の趣味の一つが……。
「多分視覚がないからこその能力でしょうね。天与呪縛も良いんだか悪いんだか。……普通に綺麗な景色とかを見てみたかったから悪いですね。」
「ああ……。お前も色々と大変だな。」
そんなこんなで今日は甚爾さんに同情されて終わった。
これで幼少期の話はお終い。後は他キャラ視点と主人公紹介。