転生したら禪院家の女でした   作:苦鳴

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他キャラ視点書き終えたら十話とだいぶ長くなったけどこんなに長くていいのかな。

だって本編より書くのノリノリだったんだもん。仕方ない仕方ない。


side禪院甚爾 其の三

 呼吸も止まり、完全に死んだこのガキを見て、どこか言い表しようのない感情を抱いていた。ガキを突き刺した刀を見やると真っ赤な血が滴っている。これはこのガキから戦闘中に奪ったものだ。俺と同じ、虐げられてきた奴の武器。虐げられても折れることなく進み続けてきた奴のもんだ。

 

 最初はここに捨てていこうかと思ったが、そう思うと捨てる気はなくなっていた。

 

 いずれ家の奴らを叩きのめしてこの家を出ていくつもりではあるが、その時に使ってやろう。お前の分まで禪院家の奴らは痛めつけておいてやるよ。どうせ俺がこんなものを持ってたって隠しゃバレやしねえからな。

 

(じゃあな。)

 

 俺はガキに背を向けて歩きだした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ——風が吹いた。

 

 

 

 

 

 

 

「何処、行くんですか?」

 

 声が聞こえた。ありえない声が。

 

 この声は既に死んでいるはずの者の声だ。間違いなく心臓を貫いて殺したはずだ。

 だから、生きているなんてありえるはずがない。

 

 俺はゆっくりと後ろに振り向いた。

 

 そこには殺したはずのガキが、立ち上がっていた。血で濡れた髪の毛を振り乱しながらも、どこか神秘的な雰囲気だった。

 

 そこから、ベラベラと聞いてもいないのにどうして生きているのかを喋り始めた。先程までのあまり喋らないときとは印象が違う。反転術式を成功したらしく、ハイになっているのだろう。

 

「だけど死に際で掴んだ! 呪力の核心!」

 

「あはは、ははははは!」

 

 ガキは高笑いをしながら新しい動きを見せた。何も手に持っていないにも関わらず、居合の構えをとった。だが、コイツには術式がある。何が出てきてもおかしくはないだろう。炎の剣を生み出しての高速抜刀だろうか。

 

「我流 簡易領域」

 

 ——は?

 

 

 目の前のガキが行ったのは簡易領域。シン陰流が一門秘伝の縛りで門下生にのみ伝えているという技術。それをコイツは見たことがないはずだというのにも関わらず、やりやがった。

 そしてその簡易領域が一瞬で広がり、領域内に取り込まれる。

 

 そこからは瞬く間だった。

 

 ガキの手元に炎の刀が顕現し、居合の動きで刀を振るった。最初の一撃と比較しても圧倒的な速度。呪力で強化していようとガキが出せるようなものではない。間違いなくこのガキは脳のリミッターを外してやがる。

 

 炎の刀は急激に刀身が伸び、俺を両断しにかかる。本能的にこれを受けては不味いと思いこちらも刀を振るった。だが、接触した途端一瞬の抵抗もなく刀が溶けた。

 

 俺に刀が迫る。思わず全力で跳び避けた。少なくとも当たっていたらただでは済まなかった。

 

 ——ああ。

 

 ジジイの言った通りだった。このガキは間違いなく傑物だ。ならもう、俺に戦う理由はない。

 

 俺に飛び掛かってこようとしているこのガキに向かって俺は始めて声を出した。

 

「降参だ。」

 

 ガキの動きが止まる。そして少しの静寂の後、ガキが反応を示す。

 

 

 

「———は?」

 

 俺が敵意をしまい戦闘体勢をとっていないというのに目の前にいるガキは不満そうな、不審そうな声を出した。どうにも警戒を解くつもりはないようだ。

 

「は? じゃねえよ。降参っつってんだろ。」

 

 再度意思を示しそちらもやめるよう促す。だが、このガキはあろうことか同じ言葉を返してきた。

 

「———は?」

 

 何だこのガキめんどくせえ。理解はしているみたいだが感情が追いついていない感じだ。だからもう一度はっきりと言ってやった。正直これ以上このガキと戦うのはめんどくせえからさっさと終わってほしい。

 

 その後俺の方が全然強いのだから戦いをやめる理由がないだの何だの言ってきたが、そもそも俺からこの戦いを始めたわけじゃねえ。確かに見極める目的はあったが、襲いかかってきたのはガキの方だ。

 

 その後こっちの事情を伝え、お前が悪いと言ったのだが、このガキは「とりあえずあなたの言い分はそれでいいですね?」などと言ってきた。当然言い分もなにもないと反論したのだが、聞く耳を持たずにベラベラと俺が悪いかのように話し始めやがった。

 

 それを聞いて腹が立たないはずもなく、柄にもなく言い争いになった。

 

 

 

 

 

 

 で、こうなった。

 

「ええ! 本当に禪院家ってクソですよね!」

 

「ああ、あの家にはゴミしかいねえ!」

 

 話してみるとこのガキも普通に禪院家に対して不満を持っていた。虐げられている者同士、気が合わないはずがなかったのだ。そうして話は弾んでいく。

 

「私が権力を手に入れたらすぐにでもあんな家叩き潰してやりますよ!」

 

「おお、いいじゃねえかそれ! そんときは俺も混ぜろ!」

 

「ええ、もちろんですよ!」

 

 さっきまでの警戒は何処へ行ったというのか。俺と一緒に堂々と家への叛意の言葉を叫んでいる。こんなことを言っているのを誰かに聞かれたら不味いが、俺もコイツも周囲の索敵は怠っていない。間違いなく近くには誰もいないようだ。

 

 すると突然、何かを思い出したかのような顔をした。

 

「あ、そういえば今更ですが自己紹介をしていませんでしたね。私の名前は禪院絳禰。六歳です。」

 

「ああ、知ってるよ。お前のことは世話係に決められたときによく聞かされたからな。」

 

「まあ、そうでしょうね。」

 

 なぜがこのガキ——絳禰は納得している様子だが、それは嘘だった。コイツの名前なんて今まで知らなかった。家でも呪いの子としか呼ばれておらず、名前など知りようもなかったのだ。当然、先ほどコイツに話した明日から世話係にされたというのも嘘だった。もっとも、ジジイの依頼もあるし、今ならやっていいとは思っているが。

 相手が名乗ったならばこちらも名乗らないわけにはいかず、名乗る。

 

「まあそれはいいとして、俺の名前は禪院甚爾だ。ああ、禪院呼びはやめろよ? 虫唾が走る。」

 

 

 

 

 

 

 

 

「———ふぉえ。」

 

 なんか変な声出しやがった。

 

 

 

 

 ガキが変な声を声を出したので、何かあったのかと聞いてみる。だが「何でもない」と返された。流石にあんな変な声を出しておいて何でもないことはないだろうと思い、再び聞いてみたのだが返事が返ってこない。何か考え込んでいるようだ。

 

「まあそうですね。より一層、修行に打ち込まなければいけないなと、思っただけです。」

 

 だそうだ。誤魔化されたが、ここで触れるのは違うだろう。とりあえずはそういうことにしておいてやろう。

 

 

 

 いつまでもここにいる訳にはいかないため、話を切り上げて帰ることにする。

 

「あ、待ってください。」

 

 が、ガキに引き止められる。何かあるのだろうかと振り返るが、何やら真剣な顔をしている。この顔は取引をしたがってる奴の顔だ。内容には想像がつくが、差し出せるものは何もないだろうにどうするつもりだというのだろうか。

 

「私と契約をしませんか?」

 

 やはり契約の話だった。はたして内容は俺の予想通りかどうか。

 

「私の護衛と修行をしてほしいんです。」

 

「報酬は?」

 

 これまた予想通りの内容だった。俺のことをあれだけで暗殺者だと判断するほどそういったことを警戒している奴だ。護衛を頼んでくるというのは当然と言える。修行もこれまで一人でやっていたのだから指導者がほしいと思っても仕方がないだろう。

 だが、これが取引である以上は対価が必要だ。今差し出せるものはないはずなのでどうするつもりなのか聞いてみるが、考えがあるらしい。

 

 コイツが話し出したのは自分の将来性について。六歳で黒閃を決め、反転術式も会得しているという事実で俺を雇おうとしている。俺もコイツが大成することはもう疑っていないが、そこにどれだけの報酬を出すかが問題だ。だが、それは杞憂であり、最低でも億は出すと言ってきた。

 

 これはあくまでとりあえずの設定であり、実際に払う額はそんなものではないだろう。コイツは契約が終わったなら言った額より多くの金を払うタイプだ。

 

 だが、俺も常に護衛ができるわけではない。その間に襲われてしまい俺の預かり知らぬところで死んだ場合はどうするというのだろうか。俺としてはそれでもジジイから報酬はもらえるため問題はないが、コイツにとってはそうはいかない。死んだから報酬は払えませんは信用を大きく損なうことになる。はたしてどうするのだろうか。

 

「それに関しては私の死後、私の肉体より呪具を作り出すことで解決できます。呪力が0の人間以外に使うことができないという縛りをつけておけば甚爾さん以外に使うことはできなくなりますし、効果の底上げにも出来ますしね。」

 

「ほう? 出来んのか?」

 

「はい。間違いなく。」

 

 なんかおかしなことを言い始めやがった。死んだら自分の体を呪具にする? コイツは正気で言っているのか?

 念の為確認はしたが、出来ると言い切り、躊躇いは一切ないらしい。コイツの術式は炎を出していたことから炎を操る類の術式だろう。扇のジジイが同じ術式だったが、あれは呪具を作り出すような術式ではなかったはずだ。ならば、どうやって作るというのか。

 

 そう思っていたら急に早口になり、ぶつぶつと話し始めた。先程までの様子とは一変しており、もはや別人と言ってもいいだろう。このままでは永遠に喋っていそうなので、慌てて止める。

 

「いや、もういい。契約を結んでやるよ。」

 

 俺がそう言うとコイツは何処か不満げな、まだまだ話し足りない、といったような顔をした。この様子だと、今止めなければずっと話に付き合わされただろう。

 

 ともかく、ここまで説明できるというのなら、問題はないだろう。さっさと切り上げて帰ることにしよう。

 

 

 その後も色々と注文をつけられたが、ようやく帰れることになった。

 

 これは直毘人のジジイにいい土産話ができたと思いながら、ここをあとにした。

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