混乱させてしまった方々、申し訳ありません。
「して、どうだった?」
俺は帰ってきた後、すぐにジジイの元に赴いた。とりあえずジジイには報告をしておくべきだと思ったからだ。
すると俺が部屋に入って開口一番にそう聞いてきた。だが、俺の様子から殆ど確信しているようだ。
「ありゃ一種の化け物だな。」
俺はあのガキに会って感じたことを一切偽らずに話す。
「お前がそこまで言うか。」
「信じられるか? あのガキ俺が心臓貫いたってのに反転術式を習得して復活してきやがったんだ。その前には黒閃も二回連続で出してるしな。」
そう言うとジジイは酒を飲んでいた手を止め、信じられないといった表情になった。まあ、驚かない方がおかしいことだろう。まだ六歳のガキが反転術式を習得したなんて、昨日までの俺に言っても鼻で笑われるレベルだ。
「甚爾、お前一度殺したのか?」
思っていたことと違うところに反応してきた。もっと触れるところがあんだろうが。そこじゃねえだろ。
「傑物と言うには少し足りなかったからな。問題ないと判断した。」
「はあ……。結果としては反転術式を習得したからいいものの、六歳の幼子を殺すことに抵抗がないのはどうなんだ。」
何処か俺を非難するような言葉が出てきたが、それはあんなクソみたいな状況にあのガキを置いているこの家の人間に言われたくはない。俺の方がよっぽどマシだ。
「アイツも俺を暗殺者だと判断して襲いかかってきたから問題はねえ。」
正直な話あれが一番おかしい。何で返答しなかっただけで切り掛かってくるんだ。常に暗殺を警戒していたとはいえあれはないだろ。
「それで戦闘になったと? だとしてもやり過ぎだろう。」
「結果良ければ全て良しってやつだ。俺は金を貰え、アンタは傑物を見つけ、あのガキは反転術式を身につけた。誰も損をしてねえ。それで良いだろ。」
俺がそう言うとジジイは深くため息をついた。どこか頭が痛そうにして、俺を軽く睨んでいる。
「んだよ?」
「アレを生かすのがどれだけ大変だったと思っておる。だというのに殺されたらたまったものではないわ。」
なんでも、あのガキは殺される予定だったらしい。それをこのジジイが止めたという。傑物になると判断したにしても、赤子の時にそこまでするとは大きく賭けたもんだ。それだけの何かを感じたということなんだろうが、俺には理解できない。
「ま、あのガキに護衛と修行を頼まれたからな。もうそんなことはねえよ。」
「!? お前がタダで頼まれたのか!?」
「そんなわけねえだろ。あのガキは後払いではあるがちゃんと報酬も提示してきた。それなりに割が良さそうだったからな、受けることにした。」
あれは伸びる。今から恩を被せておけばかなりのものが見込める。金のなる木を逃すつもりはねえ。
「まあ、よい。だがいずれここに連れて来い。自分の目でも確かめてみたい。」
「あいよ。」
そうして俺は手をヒラヒラと振りながら部屋を後にした。
それからガキの修行が始まった。ある程度はこの間の戦闘で把握しているが、黒閃といった要素もあったため、現在の力を確かめることにする。
術式の方は俺にはどうしようもないが、体術なら教えられる。このガキもそのつもりで俺に修行を頼み込んできたのだろう。
やはり、この歳ではあり得ない練度だった。一撃一撃が六歳の女だとは思えないような重さで、純粋な身体能力もあり得ないほど高い。これは流石におかしいと思い、少し試してみたのだが、どうやらこのガキも俺と同じフィジカルギフテッドのようだ。身体能力よりも感覚器官に偏っているようではあるが、これは大きなアドバンテージになるだろう。
本人にそのことを指摘してみるとそのことは一切気づいていないようだった。比較対象がいないのだから当然だろう。視覚と味覚を先天的に失うことによる強化か。俺と少し違うが、同類だろう。呪力も術式もあるとはいえ、扱いは俺よりも酷い。世界はそんなものなんだと再び感じた。
それと後で分かったことだが、このガキはもう一つ天与呪縛があったらしい。天に愛されてんのか嫌われてんのかわかんねえな。
このガキはイカれてる。そう理解するのにそう時間はかからなかった。だが、一番イカれてると思った出来事が一つある。
ある日のことだ。いつものようにガキと修行をして、話をしていたのだが、自分の弱点は何かという話になった。
「やっぱ、体力だろ。技術的には問題ない上、回復もできるし基本的には隙がねえ。」
「うーん、やっぱりそうなりますか。」
だが、どこか不満げな様子だった。弱点が少ないことは間違いなくいいことだというのに、何を不満に思うことがあるというのか。
「視覚がないっていう明確な弱点も克服してるし、それぐらいだろ。」
「でも、気づいてないだけで他にもあると思うんですよね。それを知っているか知らないかでだいぶ変わりますし、できれば見つけておきたいですね。」
このガキは一体何をそんなに恐れているのだろうか。反転術式も使えるのだ、勝つことはできない相手であっても逃げることぐらいは可能なはずだ。
「呪力の枯渇もすぐに回復するお前には関係のない話だしな。」
「そうなんですよね。術式の威力と範囲も申し分ないですし、何か問題点は……。」
そこまでして弱点を探す必要はないと思うのだが、本人にとっては重要なのだろう。なら、俺も手伝ってやるか。
「反転術式だか術式反転は呪力を倍使うんだろ? それはどうなんだ?」
反転術式に術式反転。正直、この歳で習得しているのは異常だ。俺が原因ではあるが、ヤバいだろう。
「呪力消費に関してはあまり問題ではないんですよ。反転術式もアウトプットができるように練習してますしね。
……そういえば反転術式は毒に対処するのは難しいんでしたっけ。天与呪縛で毒にも強くはなっているでしょうが、甚爾さんほどではありませんしね。」
なるほどそういえば確かに反転術式での毒の対処は難しいという話だった。俺に毒は効かないが、コイツはそうでもないだろう。毒に対する対策を考えておくのは悪くないだろう。
「いいんじゃねえか? だが、どうするつもりだ?」
俺がそう聞くと黙り込んだ。どうやら方法を考えているらしい。術式でも応用して対策するのだろうか。
そんなことを考えていたのだが、予想もしていなかったことを頼んできた。
「毒の一覧と現物を手に入れていただけませんか? できれば強力なものから。」
「それは構わねえが、どうする気だ?」
現物を求めることは予想していたが、そこからどうする気かまでは分からなかった。どうせおかしなことを始めるつもりなのだろうと思いながらも聞いてみる。
「普段、食事に混ぜ込まれて暗殺されないように匂いを覚えておくんですよ。それと、自分で摂取してみて耐性をつける狙いもあります。フィジカルギフテッドならばそれぐらいできるでしょう。」
このガキは強力な毒を優先で頼んでおきながら、自分で摂取してみると言いやがった。フィジカルギフテッドとはいえ、俺よりも弱い体の奴がそれをやるのは自殺行為だ。それを自分から進んでやろうというのか。そんなことをしても存在しない毒を操るような術式を持った敵がいれば無駄になる可能性が高いというのに、自ら苦痛を味わおうというのだ。正気ではない。
「死ぬかもしれねえぞ。それに苦しむはずだ。」
「それが何か?」
俺は絶句した。このガキは自分が苦しむことに対して何の抵抗もない。それどころか死への恐怖がまるでない。
やっぱ、このガキはイカれてる。
「ハッ! 分かったよ! 待ってろ!」
そうして毒を持ってきたのだが、それを摂取して血を吐きながら耐えてやがった。神経毒や出血毒など、ありとあらゆる毒を摂取している。もう体中が毒に蝕まれ、いつ死んでもおかしくない状態だ。
だが、そんな状態でも毒を取り込むのをやめない。さらに俺との修行も一切泣き言を言わずに行っている。このガキはセンスや発想もおかしくはあるが、一番は精神性だと改めて認識した。
「ハア、ハア。あと少しで掴めそうです。」
唐突にこんなことを言い出したが、反転術式で解毒できるようになるのだろうか。ここまでしてやるとは理解ができないな。
「フゥー」
いつになく集中している。
「いきます!」
どうだ? 体を治すよりも解毒の方が難易度が高いだろうが、このガキならやれるという信頼がある。
「でき、ました。」
呼吸を乱しながら、成功したことを伝えてくる。これで、弱点を一つ消したことになるだろう。まあ、祝ってやるか。
「良かったな。だが、術式による毒とかはどうなんだ?」
「解毒の仕組みは完全に理解しましたから、対応は可能です。」
「マジか。」
そのために大量の毒を用意させたのか。一種類だけだとその毒しか解毒できない。だが、解毒の仕方を確立すればどんな毒でも解毒が可能だ。だからといって普通やるか?
「まあ何はともあれ、これで大丈夫です。甚爾さんもありがとうございました。」
俺は改めてこのガキはイカれているとわかった。
その後もイカれたエピソードは沢山ある。
六眼のガキと優位な縛りを結んだだの、呪力の濃さがどうのこうので本を読んでいるだのだ。
それに俺が結婚するって言った時には自分のことのように喜んでいやがった。なぜかは自分でも分からないが、そこまで悪い気分ではなかった。
コイツには驚かされることがこれからもあるだろう。だが、取引した以上、最後までついて行ってやるよ。
これで毒は効かなくなった。即効性の毒はフィジギフで耐えてから治す。死ぬことはない。