転生したら禪院家の女でした   作:苦鳴

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直毘人の主人公に対する期待が結構重め。


side禪院直毘人 其の二

 あの赤子が山奥に送られてから数年が経った。すでにあの赤子は成長して、六歳になった。だから、もし術式を持っているというのならばすでに発現しているであろう。六歳ならば幼稚園や保育園、小学校に通っていなければおかしいと言われるであろうが、この家の者が呪いの子と恐れておる子を外に出すはずもない。

 

 何より他家にこのことを知れたら間違いなく面倒なことが起きるに決まっておる。呪いの子のことに対してチクチクと嫌味を言ってくるに決まっておるのだ。知られる必要がない。何より家の汚点だと考えており、晒したくないだろう。

 

 ゴミのような食事を味覚がないとはいえ食べ続けているのにも関わらず、一度も残したことはないらしい。臭いことは間違いないだろうに、よくもまあ食べられるものだ。

 

 儂なら一口で吐き出しておるな。

 

 

 

 

 ふと、今あの子が何をしてあるのか気になった。だが、儂が直接訪れるわけにはいかん。誰か他の者を使いに出す必要がある。ただあの子の元に送れるような者はいないといっていい。適任な者は誰かおらんだろうか。

 

 そうだ、甚爾はどうだろう。あやつなら金を出せば動くだろう。儂の私財を使う必要はあるが、それで問題ない。

 

 

 そしてすぐに甚爾を呼び出した。

 

 

 甚爾はどうにも不機嫌な様子であった。どうせ賭けにでも負けたのであろうが、儂には関係ないことだ。

 

「お前に呪いの子の世話を頼みたい。報酬は払うぞ?」

 

「いくらだ?」

 

 世話を頼むといった時は露骨に顔を顰めたが、金を出すと言った途端顔が変わった。やはり甚爾を動かすには金が一番よな。

 

「一億やろう。賭けではあるがな。あれは稀に見ぬ傑物だと儂は思っておる。」

 

 一億と言ったが、正直言ってもっと出してもいいと思っておる。あれは間違いなく傑物だ。ここで金を使わずにいつ使うのかという話だ。

 

「……話はそのガキを見て見てからだ。それまでは何もしねえ。」

 

 あまり乗り気ではないようだが、実際に会ってみれば意外と気が合うのではないかと思うのだが、それは言わずに、その時を楽しみにしておこう。お互いに虐げられている者同士であるし、何かを持たない者同士なのだから、共通点も意外と多い。

 どんな結果になるかは分からんが、悪いようにはならんだろう。

 

 それから数日が経ったが、どうやら甚爾は絳禰の情報を集めているらしい。家の者の話を盗み聞きしているようだった。甚爾に話をしてくれる者などおらんだろうから当然の選択と言えよう。ただ、できることなら早く決めてほしいのだが。

 

 

 

 甚爾が儂の元にやってきた。以前ここに来たときとは違う、不快げな表情で、嫌悪丸出しであった。

 一体なにがあったというのだ?

 

「どういうことだ。呪いの子とか言ってビビってるガキにあんなゴミを食事として出してるとはおかしいだろう。」

 

 ああ、なるほど。そのことか。六年間ずっとあのゴミを食べ続けているのだ。儂がどれだけやめさせようとしてもだめだった。恐れておるくせになぜそんなことをするのか理解に苦しむ。

 

「なに、奴らはあわよくばそのまま死ねば良いと思ってとるだけだ。あのゴミを食べ続ければ食事を受け付けなくなって餓死するかもしれんだろう?」

 

「だとしても呪いの子を恐れてる奴らのすることとは思えねえな。それこそ何かあったらどうする気だ?」

 

「最初からそれを食べていればそんなことに気づくことはないだろう。」

 

 そんなわけがない。儂は甚爾にそんなことを答えながらもそう考えていた。

 

 儂が認めたあの化け物が自らがゴミを食わされていることに気づかないはずがない。気づいておきながら、ただ生きるためにそれを食しておるのだ。その異常な精神性は環境が作ったものではなく、もともと持ち合わせていたものだろう。それを絳禰に一度も会ったことのない甚爾は理解していない。

 

「あんたはそのガキに期待してるんじゃなかったのか? まるでそのまま死んでもいいみたいな言い方だが。」

 

「ん? ああ、そのことか。その程度を乗り越えられんような者が大成するはずもなかろう。」

 

 あの子ならばこの程度障害にもならんだろう。

 

 その後甚爾が絳禰を殺す可能性を仄めかしてきたが、想定内だ。恐らく家の者が依頼を出したのだろう。自分たちでは手を出したくない。ならば無能に任せればいい。そういうことだろう。馬鹿なことだ。甚爾に勝てる者などこの家には一人もおらんというのに。

 

 思わずその後殺しても構わんと言ってしまったが、大丈夫だろうか。絳禰を殺しても金は払われるだろうし、少し不安が残る。だが、二人を信じる他はないか。

 

 

 

 

 

 しばらく経ったのだが、再び甚爾が儂のもとに訪れてきた。何処か楽しげな様子で、珍しく機嫌も良さそうだった。この様子で儂に会いに来たのならば、絳禰に会いに行ったのだろう。上機嫌な様子を見れば儂の予想通りあの子と意気投合でもしたのだろう。さて、甚爾から見たあの子はどんなものだったのか。

 

「して、どうだった?」

 

「ありゃ一種の化け物だな。」

 

「お前がそこまで言うか。」

 

 正直驚いた。あの甚爾がここまで他人を素直に褒めるなど。女子に化け物という言葉を使うのはどうなのだとも思うが、それだけのものを絳禰は示したのだろう。

 

「信じられるか? あのガキ俺が心臓貫いたってのに反転術式を習得して復活してきやがったんだ。その前には黒閃も二回連続でだしてるしな。」

 

 ……なに言っておるのだこいつは。心臓を貫いただと?

 

「傑物と言うには少し足りねえと思ったからな。問題ないと判断した。」

 

 問い詰めてみるも、そう流された。ここで更に追及したところで殺しても構わんと以前言ってしまったからそれを出されて終わりだろう。

 反転術式を習得したから良かったものの、そうでなければ死んでいたということか。何やっとるんだコイツは。

 

「アイツも俺を暗殺者だと判断して襲いかかってきたから問題はねえ。」

 

 いやあの子も血の気が多いな。この口ぶりだと絳禰が襲いかかったようだし、予想通りヤバい奴なのは確定だろう。

 

 その後も甚爾の話に振り回され、頭が痛くなったが絳禰の相手も引き受けるようだし、かねがね上手くいったと言えるだろう。甚爾が絳禰の護衛と修行を引き受けたと聞き、驚かされはしたがもともと頼むつもりではあったので願ったり叶ったりだ。

 

 ひとまず絳禰の問題についてはこれで良いだろう。久しぶりにあの子に会いたいものだ。

 

 あの子を儂のもとに連れてくるように話した後、甚爾は部屋から出ていった。

 

 

 

 

 

 

 

 甚爾が今度絳禰を連れてくるらしい。本当は今日連れて来るつもりだったらしいが絳禰に急すぎると止められたらしい。コイツ、儂に何も言わずに連れて来る気だったのか。このクソみたいな所にいきなり連れてくるのはアカンだろう。儂もやることがあるのだからもう少し考えんか。

 

 そうして甚爾が絳禰を連れてきた。久しぶりに見る絳禰は健康そうではあった。長く伸びた白色の髪に閉じられた瞳、淑女然とした立ち振る舞い。神秘的な雰囲気を醸し出していた。健康ということはあのゴミをしっかりと食べているということだろう。髪も整えられており、手入れも欠かしていないようだ。よくもまああの環境でそんなことができるものだ。

 

 見ると、呪力の流れが呪術に触れたことが無い者のそれだ。歩き方も戦いなど経験したことがないようだ。儂でさえ事前に甚爾から聞いていなければ騙されたであろうほどの完璧な擬態。それでいて警戒は一切怠っていない。何かがあれば即座に動き出せるだろう。

 

「して、今日は何用だ。」

 

 これは茶番だ。すでに甚爾からどうするのかは聞いてある。故に、これは絳禰を試すためだ。先程から殺気を放っているが、微塵も恐れる様子がない。

 

「こいつが外に行ってみたいって言い出してな。許可を取りにきたんだ。」

 

 嘘つけ。お前が誘ったんだろうが。儂が頼んだようなものではあるがな。

 

 その後甚爾と少し問答をしたが、これからが本題だ。絳禰の奴を見極めんとな。

 

「ふむ、話の筋は通っておるな。ならばよかろう。……と言いたいところなんだがの。」

 

 僅かに顔が変化したな。まさかこのまま許可を出すわけがあるまい。

 

「不思議そうな顔をしておるがのう、娘。お主の意図が掴めんうちは許可など出せんわ。」

 

「意図、ですか?」

 

 わざとらしく質問などしてきおって。どうせ分かっておるだろうに。

 

 儂が擬態しきれていないと指摘すると、薄く笑みを浮かべた。

 

「……へえ。」

 

 ゾワリ

 

 纏う空気が変わった。先程までの無害な様子をから一変して抜き身の刃のように危険な雰囲気を放っておる。

 

 これは想像以上じゃな。

 

「俺からみてもほぼ完璧に隠していたと思ったんだがな。どうして分かった?」

 

「簡単なことよ。儂の殺気を正面から受けて、平然としているような者がそこまで弱いわけがなかろう。」

 

「人にあれだけ気をつけるように言っといてお前がミスってんじゃねえか。」

 

 ……事前に知ってたのだから当然だろう。

 

 絳禰が普通の子ならそんなことはなかったから失敗したなどと言っておるが、知らなかったらそんなことはせんかったし、気づくこともなかっただろう。今でも十分だというのにさらに擬態能力を高めるつもりか。

 

 その後、この家を潰すつもりはあるのかと聞いてみたが、今のところはないとのことだ。……甚爾、お前は何を笑っておるんだ。まさか二人でやるつもりか?

 

 そういえば外に行く理由を直接聞いていなかったため、本人に直接聞いてみることにする。甚爾が連れてきただけだが、何かしらの目的はあるだろう。

 

 すると呪霊と戦うことが目的だとのことだ。確かに修行はしていても実践経験がなければあっさりと死にかねない。そういう意味では正しい選択だろう。まあ、儂がタダで許す理由はないがな。

 

「成程のう。だが、儂がそれを許可する理由がないな。」

 

 こう言えば何かしらのものを差し出してくるだろう。相応のものを示してみろ。

 

「術式の中和が可能な簡易領域の詳細を纏めた指南書なんてものはどうでしょう。」

 

 

 

 

 

 

 ……………は?

 

 

 術式の中和が可能な簡易領域だと? そんなものをこの子が作り出したというのか? 

 

 はは、化け物め。

 

 

 当然そんなものを出されては許可を出さないわけにはいかなかった。甚爾から話を聞いていてある程度覚悟はしていたが、予想の遥か上に行きおったわ。

 

 将来が楽しみだな。

 

 

 

 

 

 

 後日渡された簡易領域についてのまとめたものを読んで、思わず地面に叩きつけた。

 

 あんなものできるわけあるか!!!




習得できる人がどうせいないと分かって差し出したものだしね。
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