転生したら禪院家の女でした   作:苦鳴

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こんな感じでいいのだろうか……。


side五条悟 其の一

 俺は生まれた時から特別だった。

 

 呪術界の御三家である五条家に生まれ、数百年ぶりの六眼と無下限呪術の抱き合わせ。それはもう大層喜ばれた。最近の五条家は禪院家と加茂家の二家より発言力が落ちていたらしい。そこに俺が生まれた。喜ばないはずがないだろう。

 

 だから俺は甘やかされて育った。ほしいものは何でも与えられた。それだけ期待が大きかったのだろう。

 

 俺はその期待通りに、呪術で圧倒的な才能を見せた。呪術師の世界は才能がものを言う。術式だってその一つだ。

 

 呪術を学んで一年も経つ頃には俺に勝てる奴はほとんどいなくなった。その今勝てていない奴らだって俺がもう少し成長すれば簡単に追いつけるような奴らしかいなかった。

 

 

 

 

 

 ———つまらない。

 

 

 

 

 

 誰もが俺を天才だと言う。ああ、確かにそうだろう。俺は天才だ。それは紛れもない事実。

 

 だが、お前らは何だ?

 

 大した力もないくせに俺の力を当てにして、自分たちの権力にしがみついている。お前らは俺が生まれるまで何をしていたんだ? 俺はお前ら以上に努力して今の力を手に入れた。強くなっているという実感があって楽しかったので修行は積極的に行った。だけどお前らは俺の半分も努力をしていない。

 

 それなのに自分はここまでと諦めて俺を天才だと持て囃す。俺はそんな奴らを見て馬鹿馬鹿しく思った。俺よりもずっと全員弱いのだ。

 

 そうして他の奴らが俺とは違う弱く儚い生き物だと知った。

 

 それを知ると世界に一人取り残されたような気分になった。周りの人間全てが蝶か花のように見えていた。俺が何かをすれば簡単に壊れてしまうような脆いもの。それが俺の人間への印象の全てだった。

 

 この世界には俺一人しかいない。俺を理解できる奴はいないし、俺が蝶や花だと思っている奴らを俺は一生理解できることはないだろう。

 

 俺以外の全てが脆く、儚い。

 

 きっと俺は一生この世界に独りぼっちなんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ———そう、思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ある日のことだった。

 

 いつも通りにつまらない家を抜け出して街を歩いていた。別に何か目的があったわけではない。ただあのつまらない場所から抜け出したかった。外には見たことがないようなものがたくさんあった。それは俺の興味を引いた。食べたことのないような美味しい食べ物に美しい景色、面白い娯楽なんかもあった。

 

 だけど、何処を見渡しても、目に見える人間は蝶や花しかいなかった。俺は少しだけ期待していたのだろう。きっと家の外には俺と同じ世界にいる人間が必ずいるはずだと。そんな夢みたいなことを思っていた。一般人は呪術のことなど知らない。なら俺と同じ景色を見ている奴なんているはずがなかったというのに。

 

 そう思うと何故か虚しい気持ちが湧いてきた。

 

 いるはずのない人間を探したところで無駄だと理解した。もう、探すのはやめようと思った。存在しない人間を探したところで何になるというのだ。

 

 その時、一つの呪力を感じた。ここからそう遠くない場所で、覚えのない呪力。俺を探しにきた家の奴らではない。

 

 それなりに近くにいるはずなのに今まで全く気づかなかった。恐らく呪力を日頃から隠蔽しているのだろう。なぜそこまでしているのかは分からないが、この目を持つ俺がこの距離まで知覚できなかったのだ。かなり高度な隠蔽技術だ。

 

 その術師に興味が湧いた。どんな人間かは分からないがそれなりの実力を持った奴だろう。

 

 その後呪力が感じたところに行くとそこは競馬場だった。

 

 何でだよ。

 

 しかも結構長い時間ここにいたのは分かっていた。そいつは賭博好きか。とりあえず呪力を追いかけよう。

 

 

 

 

 

 ようやく追いついたのだが、そこはデカい廃病院だった。見た感じ呪霊もそれなりの数がいやがる。なるほど、奴はこいつらを祓いにきたのか。

 

 ちょうどいいから戦っているところを見てみようと決めたところ、帳が張られた。入れなくなってしまっては困ると思い、急いで中に入った。その時にそいつの意識がこちらに向いた気がしたが、気のせいだろう。まだ視認もできていないのに気づくはずがない。いや、それなりの実力の術師のようだし気づくか?

 

 

 

 そこにいたのは白い女だった。ボロボロの服を着て不健康そうな白い肌に俺と同じ白色の頭髪。歳は俺と同じか少し下ぐらいだろう。刀を腰に差し、病院の中を悠然と歩いている。それと目が見えないようで、まぶたを閉じて歩いている。それなのに周囲の様子を把握しているようで、杖も持たずに普通に歩いている。音、あるいは呪力、それともその両方という事も考えられる。

 

 だが特筆すべきはそこではない。

 

 そいつの呪力操作だ。流れるように淀みなく呪力を操作している。俺よりは数段劣るが、六眼もない人間があれだけの精度なのはイカれてるとしか言いようがない。天与呪縛という可能性もあるが、それは俺の目が否定した。天与呪縛も恐らく視覚を失ったことにより他の五感が強化されているとかそんなところだろう。

 

 つまりアイツは自分の実力だけであれだけ緻密な操作をしているのだ。感じられる呪力もかなり上手く隠していてこの目がなければ気づけたか怪しいレベルだ。

 

 コイツなら、何か見せてくれるんじゃないかと期待した。

 

 

 

 目的だろう呪霊がある程度の距離まで近づいた時、俺の目が異変を捉えた。そいつの体に正の呪力が見えたのだ。

 

 

 

 ——ありえない。

 

 

 

 そんな言葉が頭の中に浮かんだ。正の呪力を生み出す反転術式は高等技術だ。使える人間は限られているし、俺だって使えない。それを俺より歳が下であろう人間が平然と使っているのだ、そう思ってしまっても仕方ないだろう。

 

 

 そいつは刀に手を掛け、何か呟いた。その瞬間、簡易的な領域が展開された。勿論呪術戦の極地たる領域展開ではない。シン・陰流にもある簡易領域の類だろう。だが明確に異なるのはその行使に反転術式を習得していることが求められることだ。反転術式で生み出した正の呪力を領域の形成に用いている。それと、平然と正の呪力と負の呪力を同時に操作してやがる。相反すると言ってもいい力を同時に行使するなど並の呪力操作では不可能だ。分かってはいたが呪力操作は俺を除くと一番かもしれない。

 

 それに恐らくだが奴はシン・陰流の簡易領域は実際に見たことはないだろう。あれを元にしているにしてはあまりにも似ていないのだ。確かに両方とも結界術の応用ではあるのだろうが見たところ構造も難易度も全然違った。当然こちらの簡易領域の方が難易度は上だ。結界の作りも独学、あるいは教本だけを読んだみたいだった。これは自分で作り上げた術だと考えるのが妥当だろう。

 

 その後、そいつはあっさりと呪霊を祓った。

 

 

 

 期待せずにはいられなかった。

 

 俺に何かを見せてくれるんじゃないかって。

 

 だけど、これでだめだったら本当に最後にしようと思った。

 

 これ以上期待して裏切られても虚しくなるだけだから。

 

 

 

 だから、

 

 

 

 だから、

 

 

 

 どうか俺を失望させないでくれ。




五条悟から見ても主人公は異常。
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