転生したら禪院家の女でした   作:苦鳴

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これ主人公視点で本編に書けよって自分で思った。


side五条悟 其の二

 どうやら俺のことには最初から気づいていたようで、声をかけてきた。少し驚いたことは驚いたがコイツなら不思議ではないだろうと思い納得する。

 

 気づいているのなら隠れている必要もないとそいつの目の前に降り立った。

 

 そいつは正面から見ると何処か大人びているように感じた。俺より年下のはずなのに、俺よりも歳が何歳も上なんじゃないかと思ってしまった。

 

 呪力は俺とほとんど同じ量だ。それだけの呪力量なのだからそれなりの名家の出か。御三家の俺と並ぶほどの呪力となれば少なからず噂になると思うのだが、こんな奴の噂は聞いたことがなかった。呪術界は女が軽視される傾向がある。それで家の人間に虐げられているのだろうか。よく見れば服もボロボロだし、扱いは相当悪いのだろう。

 

 だが、コイツはそんなものは関係ないと言わんばかりに立っている。家でどんな扱いをされているかは知らないが、そんなものは些事だと思っているのだろう。花や蝶が何かをしてきても大した気にならない感覚だろうか。

 

 だとすれば俺と話が合うかもしれない。

 

 

 

 姿を現した俺はコイツに強いなと素直に褒めた。

 

 俺が誰かを褒めるようなことは今までなかった。褒められるだけのものを持っていた人間がいなかったのだから当然だろう。だけどコイツはそれだけのものを俺に見せた。

 

 俺が褒め終わると俺が誰かと聞いてきたので素直に自分の名前を答えた。すると少し考えた様子を見せてから口を開いた。

 

 コイツも俺を知っているようだった。まあそれも当然だろう。俺が生まれた時はそれはもう大騒ぎだったらしいし、情報は出回ってるだろう。それが分かると目の前にいるコイツは微妙に顔を顰めた。まるで会いたくない人間に会ってしまったみたいな反応だ。その後乾いた笑いもしていたが、そんなことはどうでもよかった。

 

 コイツの反応には少し腹が立ったが、自分が名乗ったのだから相手も名乗ならければ不公平だと思い、尋ねた。

 

 するとコイツはフルネームを名乗らずに名前だけを名乗った。自分の家名を名乗らなかったのだ。色々と事情があるのかもしれないがそんなことは俺には関係なかった。

 

 その後も教えるように迫っていたらあまりにも教えてくれないのでイラっとして胸ぐらを掴み上げた。そして俺と戦って俺が勝ったら教えるように迫った。これならコイツの名字を知るだけでなく実力も分かるんだ。一石二鳥だと思った。

 

 するとようやく折れたのか、こんな提案をしてきた。

 

 いくつかの条件を呑んでくれるなら構わないとのことで、四つの条件を俺に提示してきた。

 

 だが、俺にとってはそんなことはどうでもよくて、ただコイツと戦えるという喜びと名前を知れるという喜びであまり条件については考えていなかった。迂闊ではあった。相手がふざけた縛りを結ばせようものなら俺はタダでは済まなかったかもしれない。そう考えるとコイツは善人ではあるのだろう。

 

 それを了承してすぐに、開始の合図もろくにせずに攻撃を仕掛ける。

 

 出力最大の術式順転【蒼】ほぼ予備動作なし、呪力の起こりなしで放たれたそれをこの女は容易く飛び避けた。僅かに焦ったような声で合図はどうしたなどと言ってくるが、戦場で敵が合図なんてするわけがねえと言ってやったら納得したのか何も言わなくなった。

 

 

 

 

 

 気づいた時には俺の首元に刀が迫っていた。呪力強化に落花の情を応用した高速の剣撃。反応することはできなかったが、俺の無下限の術式に阻まれそこで止まる。

 

「……やはりその術式は厄介ですね。常時発動出来るわけではないでしょうが何かしらの手段を有していなければ触れることすらできずに負ける。ただその欠点は六眼がなければまともに運用できないほどの難易度。……何で五条家はそんなのを相伝にしたのでしょうか?」

 

「知るかよ!」

 

「まあ、関係ない話ですし考えるのはやめておきましょうか。」

 

 

 その後も俺の攻撃は一度も当たらなかった。【蒼】で引き寄せても殴る前に引力から抜け出して、引かれた勢いも利用して攻撃を仕掛けてきた。当然その攻撃も無下限に阻まれるが、そのタイミングで俺が攻撃を仕掛けても軽く避けられた。多分根本的に俺とは身体能力が違う。俺が呪力で強化しても相手は元々高い身体能力を強化するのだ。それで敵うはずがない。

 

 どういった理屈かはわからないが、俺の術は発動する前に察知されて完璧に避けられる。察知されても避けられないように広範囲の攻撃も行ってみたが、まるで効果はなかった。

 

 体術で勝負を挑んでもみたが、相手の身体能力も高い上、技量も高い。俺もかなり体術には自信があったがそれ以上だった。とはいっても、俺の術式で阻まれる以上俺が有利だ。術式も使って吸い込むような打撃も放っているため、ただの技術だけの奴よりも俺が強い。

 

 ただ、気になることがあった。

 

 俺の目は相手の術式がわかる。当然コイツも持っている。見たところ炎を出して操る術式らしい。だけどコイツは今まで一度も使っていない。舐めているのかと思ってしまった。だから、苛立ちながら問いただした。

 

「おいお前。何で術式使わねえ。」

 

 するとコイツはめんどくさそうな声を出した。

 

「いや、術式に阻まれるものを使って無駄に呪力を消費するつもりはありませんから。」

 

 それを聞いて俺は少しがっかりした。期待していた分、落差は大きかった。まるで数十年来の親友に裏切られたかのような、そんな気持ちになった。

 

 ああ、結局はコイツも俺の術式を破れない。技術はあっても俺と並んでくれるような奴じゃなかったんだ。

 

 そう思ってもうやめようとした。

 

 だけど、目の前にいるコイツの表情を見て気が変わったんだ。

 

 少なくとも、諦めているような顔はしていなかった。それどころか、楽しそうな表情すらしていた。

 

 それを見て俺は考えた。はたしてコイツは突破する方法が一つもないと言っただろうかと。無駄に呪力を消耗するのを避けているだけで何かしらの突破口が見つかれば使ってくるのではないかと。

 

 その推測は当たっていた。

 

「……本当はこのまま精神的に消耗させて隙を作るつもりだったのですが、気が変わりました。そんなことしてもつまらないですし、何よりあなたに失礼ですからね。」

 

 雰囲気が変わった。先程までの動きは確かに精神的に消耗させるためにわざと長期戦をしていたのだと否応なしに理解させられるような冷たい気配。背中に氷柱を入れられたようなそんな感覚。コイツは何も諦めてはいなかったのだと、俺に勝つつもりなのだと分かった。

 

「行きます。【我流簡易領域】」

 

 その言葉とともに正の呪力が生み出された。

 

 これは先ほど呪霊に使っていた技だろう。これに一体何の効果があるというのかと思っていたのだが、すぐにその効果はわかった。

 

「これは……。」

 

「気づきましたか。そうです。これは術式の中和効果があります。もっとも、効果はほとんどないみたいですけど。」

 

 なんて、そんなことを言っていたけど、俺にはどうでもよかった。俺の術式を破れるかもしれない。その事実を知れただけで喜ばずにはいられなかった。

 

 誰も、俺に届かないと思っていた。期待していたのは事実でも、どうせ俺に届くことはないと心の何処かで思っていた。どうせコイツも俺に触ることなんて出来ないと。

 

 だが、どうだ。

 

 確かにまだ破ることはできていないが俺の術式を弱めている。時間をかけるかもう少し練度が高ければ容易く破れたかもしれない。

 

 嬉しくないはずがなかった。やっと俺と同じ世界にいる奴を見つけられたんだ。

 

 だが、今ではまだ足りない。これじゃあまだ破れない。俺より年下なのだから仕方ないしもう何年かすればできたかもしれない。

 

 でも俺は今が欲しいんだ。

 ようやく見つけた人間なんだ。

 俺が見込んだ人間なんだ。

 

 お前なら出来るだろ。

 

 俺の元まで来てくれるだろ。

 

 だから、来い!

 

 

 

 

 

「術式反転【寒威】」

 

 空気が、凍った。——不用意な発言で気まずくなること、ではない。何の比喩もなくそのままの意味で空気が凍てついた。大気中の水蒸気が凍り、キラキラと光を反射して美しく幻想的な景色が周りには広がっている。俺の吐く息も冬の時みたいに白くなっていた。

 

「何の———」

 

 何のつもりだ、と聞く前に気づいた。俺が寒さを感じている。まだこれは序の口で気温は下がり続けている。どこまで下げることができるのかは知らないが、俺が寒さを感じている以上はまずい。このままでは低体温症になる恐れがある。

 

 確かにこれは盲点だったと言うしかないだろう。気温というのは直接俺に害をなすわけではない。だから普段も気温に合わせて服装を変えている。もし俺に直接働きかけるような術なら無下限が阻む。だが、この術が影響を与えているのは俺ではなく周囲の環境だ。ならば俺は防げない。普段であれば防げたとしても今はコイツの術で出力が弱まっている。

 

「ハッ! 楽しくなってきたなぁ!」

 

「我慢比べといきましょうか。」

 

 

 

 それから俺らはこの極寒の中戦い続けた。俺は無下限で温度を保つことに慣れ始め、コイツは本来の術式で体温を一定に保っていた。このままでは負けはないが勝てもしない。それは俺もコイツも分かっていた。だから、お互い自然と口から言葉が出ていた。

 

「「次で終わりにしようか(しましょうか)!」」

 

 最大限に呪力を高め、渾身の攻撃を放とうとする。

 

「術式順転最大出力【蒼】!」

 

 全てを吸い込む無限を放つ。

 

「【烈日・天穿】!」

 

 眩い光を放つ炎剣を突き出す。

 

 

 

 

 

「ダメ、でしたか。」

 

 そう、気落ちした声が聞こえた。だが、俺の頭には違うことが浮かんでいた。

 

 俺の放った【蒼】は紙一重で避けられた。範囲も威力も最大で今俺にできる最大の攻撃をかろうじてとはいえ避けられた。それは悔しくもあったが、特筆すべきところは他にある。

 

 俺の首元には俺から3センチほど離れた場所に炎を刃が突き立てられていた。それは俺の無下限を半分ほど貫通していて、今も俺の喉に喰らいつかんと無限とせめぎ合っている。

 

 俺の心は歓喜で埋め尽くされていた。この刃は確かに俺に届きうるのだと。コイツなら俺と対等になってくれるって確信した。

 

 だけど俺もコイツも、疲労で地面に倒れてしまった。

 

 戦った影響でもう廃病院はボロボロで、帳の降りた空が見えていた。自由の象徴である空もいつもは俺の孤独を表しているようで気に入らなかったけど、今なら好きになれそうだ。




技はちょっと後にまとめて説明します。
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