「はあ、はあ、お前強いな。」
呼吸を乱しながら俺は横に倒れている奴に声を掛けた。
「貴方こそ。」
そう言った奴の顔は何処か楽しげで、満足そうだった。
「引き分けですね。」
「はあ!? お前の攻撃は俺に当たりもしなかっただろうが! だから俺の勝ちだ!」
なんて、そんなことを言ったけど自分でもそう思っていた。それどころか若干俺の方が押され気味だった気もする。だが、それは俺のプライドが許さなかった。自分でも分かってなかったみたいだが、どうやら俺は意外に負けず嫌いだったらしい。
その後、名字を教えてくれるとのことだが、なぜそこまで知りたいのかと聞いてきた。
それに対する俺の答えは単純だ。ただ誰かを探してたんだ。俺をこの世界で対等な場所で見てくれる誰かを。蝶や花なんかじゃなくて俺と同じ世界を見ている奴を。
だから、お前を見つけて嬉しかったんだ。俺は一人じゃないって分かったから。一人じゃないって教えてくれたから。
そんな奴の名前を知りたいと思うのなんて自然なことだろう。
いつまでもなんか言っているからさっさと言えと急かすと観念したのか仕方ないなあといった様子で口を開いた。
「私の名前は禪院絳禰。通称呪いの子です。」
それを聞いて俺は一瞬冷静さを失った。俺の家と禪院家は仲が悪い。家の奴らから禪院家について色々と聞かされている俺は思わず低い声を出してしまった。
するとコイツ——絳禰はさっき縛りを結んだから危害は加えられないなんてことを言ってきた。さっきの条件はこれを見越してのことだったのかと驚いた。この年でそんなことを考えているとかどんな人生歩んできたんだと思わなくもなかったが、それはどうでもいいことだ。
その後に自分が死んでも禪院家は喜ぶだけだ、なんてことを言い出したもんだからどういうことが聞き出してみると絳禰の禪院家での扱いを聞かされた。
絳禰の話を聞いて浮かんだ感想は禪院家はクソだな、ということだった。こんな奴をそんな風に扱っているとかバカだなとも思った。絳禰が成長して恨みを返しにきたらどうするつもりなんだと考えたが、コイツはそういうのにあまり興味がなさそうだなと感じた。
ただ、俺と対等な目線に立っているコイツがそんなことをされているのには腹が立った。だから今から禪院家を潰しに行こうと提案したのだが、それは止められてしまった。
色々と納得できる理由だったので仕方なく止めたが、それじゃあ俺の気はすまなかったので禪院家を潰すときは自分を呼ぶように言ったらそれぐらいならいいとのことだった。
こんな会話をしてるんだし友達でいいんじゃないかと思い、確認したが、そうだと思うとのことだった。正直少し嬉しかった。初めての友人なんだ、嬉しくないはずがない。
で、コイツがお互いに初めての友人ですね、なんてことを言ってきたので俺に友達がいないと決めつけられているようで思わず反応してしまった。
すると、いるんですか? と聞かれてしまったのでいないと答えた。で、絳禰はうんうんそうですよねとか言ってるみたいに頷いていた。
確かに事実だけどめちゃくちゃむかついた。だけど事実だから何も言い返せなかった。お前もいねえだろとか言ってやりたい気持ちもあったが多分コイツには無意味だ。だから黙った。
少し話した後、もう帰るらしく、地面から立ち上がった。
ではまた、なんて言われたけど、俺は思わず引き留めた。少し不思議そうな顔をしていたけどまだ言っていないことがある。
「友達なのに喋り方がよそよそしいだろ。もう少し軽く話せよ。」
俺がそう言うと困ったような声でこれが普通なんですよね、なんて言ってきたからどうしようかと思ったが、絳禰が名前で呼び合いましょうと言い出したのでそれに乗っかった。
俺は初めての友人ができたんだ。今まで世界には蝶や花みたいな人間しかいないと思っていた。でも、違った。
絳禰は俺について来れる。絳禰がいれば俺は一人にはならないって分かった。
友人なんて一生できないと思っていたけど、絳禰がいた。俺の唯一の大切な友人を不当な扱いをしている禪院家には軽く殺意が湧いたが本人が自分でやるって言ってるみたいだし、俺はその手伝いができればそれでいい。
だけどさ、やるって時は容赦はしない。俺の友人をそんな風に扱っておいてただで済むと思うなよ?
その後も俺と絳禰は何度も会った。お互いに家のことで面倒なことが多かったからそんなに頻繁にはあえなかったけど、友人と過ごす時間は楽しかった。
大体の時間は二人で呪術の修行をしていた。お互いに自分では思いつかない発想があったり、知ってる技術を教え合ったりで家でやるよりも何十倍も有意義だった。絳禰に反転術式のやり方を教えてもらったけど、全然できなくで悔しかった。でも、絳禰が使えているのに俺が使えないのはなんか嫌だったから家でもめちゃくちゃ修行した。だけど結局使えるようにはなっていない。
絳禰が使っていた簡易領域についても教えてもらったんだけど、難易度がイカれてた。反転術式を習得してなきゃできないとはいえ難易度が高すぎた。呪力操作もかなりのレベルが要求されるし結界術の練度もかなり必要だ。他にも色々と条件みたいのがあったけどどれも難易度がめちゃくちゃ高かった。
多分反転術式を使える奴でもこれ習得できる奴はほとんどいねえんじゃねえかなと思った。それだけに俺の二歳下の絳禰がこれを開発したという事実が重くなる。
「やっぱお前もおかしいよな。どうしたらそんなもんが思い浮かぶんだよ。」
「そうですかね? 元があればある程度難易度は下がると思いますし、そういうものを求めれば開発に踏み切るでしょう。」
俺が絳禰を褒めるようなことを言うと絳禰はいつも謙遜するようなことを言う。それが普通だとでも思っているのだろう。自分の実力は把握していても周りからどう見られるかはあまり分かっていないらしい。あまり人に関心がないとでも言えばいいのか、絳禰はそこまで他人に興味がない。一応気にはするけど優先度は高くないのだろう。
俺のことは友人だとはちゃんと思っていても敵になれば躊躇いなく殺しにくるだろう。普通に友人だと思っていてもそれがあいつの中にある何かを超えたらどうでもいい他人に成り下がる。
前に俺に掛けられた賞金狙いの呪詛師に会った時は何の躊躇いもなく首を刎ねていた。呪術師らしいと言えばいいのか、薄情だとか人の心がないとか言えばいいのかは分からないが敵なら命だろうと興味はないのだろう。
だから元々友人だったとしても敵なら関係はない。
それは嫌だしこの時間が楽しいからそんなことは絶対にしない。まあ、そんな決意をしなくても最初からそのつもりだけどな。
俺はお前をおいて行くことはしないから、お前も俺をおいて行くなよ。
主人公は北に爆走する人間。そこへの道筋に障害物があればどんなものでも破壊して突き進む。
本当なら