直毘人さんに扇と戦う旨を知らせたのだが、どうせなら家の者で集まって観戦するとのことで、明日に持ち越された。
私は見せ物か。
扇とは今日の昼頃に戦うことになっている。それまでに準備は万全にしておかないと。着いてすぐに戦わされることになっても動けるようにウォーミングアップはしておこう。あとは武器の手入れもしとかないと。
「準備はどうだ?」
「はい。万全にしてあります。」
私が修練場に着くと、すでに直毘人さんがおり、私に話しかけてきた。念の為早めに着いておこうと思って三十分ほど早く着いたのだが、もう既に何人かここで待機していた。みんな早いな。そんなに私が痛めつけられるのが見たいのかな。性格悪いなあ。
「久しぶりやね、絳禰ちゃん。」
「お久しぶりです。直哉さん。」
まあいるよね。普段は会わないように避けていたんだけど直哉は私に会いたかったみたいだし、今日私がここに間違いなく現れるのだから来ない理由がない。間違いなく面倒だから会いたくなかったけど。
「扇の叔父さんと戦うんやってな。頑張ってな。ま、絳禰ちゃんなら余裕やろうけどな。」
「直哉さんがそういうことを言ってもよろしいのですか?」
「別に構わんやろ。どうせ絳禰ちゃんが勝つんやから。」
なんか妙に私のこと信頼してるんだよな。子供の頃に直哉に勝ったからかな。でも子供の頃の話だしそこまで信頼するようなことにはならないと思うんだけど。
「期待を裏切らないように精一杯頑張りますよ。」
「絳禰ちゃんは謙虚やなあ。」
「そんなものではないですよ。やるからにはそれなりのものを見せなくてはいけませんから。」
自分と同じ術式の相手。そんなのと戦うのだから圧倒的に勝たなくてはいけない。甚爾さんに修行をつけてもらっていたのだからそれだけのものを見せてやる。
そういえば術式使った方がいいのかな。術式を使った上で格の違いを見せつけるかそれとも術式は使わずに完全に叩きのめすか。どうしようかな。
うーんとりあえずは術式なしで戦おうかな。
◇
禪院真希は困惑していた。いつも通り実の父である禪院扇に殴る蹴るなどの暴行を加えられている時に突然現れた年上の女性。白い髪の毛に肌、閉じられた瞳。思わず美しいという感想が浮かぶような人だった。その女性は呪いの子と父に呼ばれていた。そんな女性が父の暴行を止めようとしているのだ。
名前を聞かれた時は警戒して思わず妹を背中に隠したが、見れば自分たちよりもボロボロの服を着ていた。呪いの子と呼ばれていて今まで一度も見たことがなかった人だったことを考えると普段はどこかに閉じ込められているのではないだろうか。
何故呪いの子と呼ばれているのかは知らないが、少なくとも自分たちを助けてくれようとしているのは確かだ。自分たちよりも十歳ほど歳上に見えるが、まだまだ子供と言える歳だ。それなのにあの父と戦って大丈夫なのかと心配になっていた。
助けてくれようとしている人が酷い目に遭うなんてことは耐えられない。だからどうか勝って欲しいと願っていた。
だけどやっぱりどうしても不安でしょうがなくて、妹の手を強く握っていた。妹を見るとやはり不安そうにあの人を見ていた。
するとそんな自分たちの様子に気がついたのだろう。先程あの人と話していた男が私たちの方に向かって来た。男が近づいて来ているという事実に思わず体が強張る。妹はブルブルと震えてしまっている。もし何かしようというものなら私が必ず庇おうと決意した。
だが、そんな考えとは裏腹に男は困った様子だった。
「そんなに警戒せんでもええよ。別に俺は君らに危害を加える気はないしな。」
そんな言葉を言ったって信じることなんて出来はしない。今までそう言って近づいて来て裏切られてきたのだ。信じられるのなんて自分と妹、それと今自分たちのために戦ってくれているあの人だけだ。
「これは何を言っても無駄そうやね。だけどこれだけは言っとくわ。俺個人としては君は気に入らん。甚爾くんの紛い物っていうだけで殺意が湧く。でもな、絳禰ちゃんが君らを助けようとしてるのに俺がそれに手を出そうとするようなことは絶対にせん。」
そして今気づいた。この男は当主の息子で次期当主候補筆頭と言われている男だ。この男はクズばかりの禪院の男の中でもマシな方だ。所々に女を見下すような発言はあるが、手を出してくるようなことはない。そればかりか、見下されたくないのだったら強くなれなどと言っている。女を見下しているというより弱い奴を見下している印象だ。
そんな奴があの人のことを尊重しているようだった。この男は私のことを紛い物と呼び、私のことを虐めてやりたいと言っているのに、あの人が助けようとしているからという理由で何もしていないのだ。ならばあの人はそれだけ強いのだろうか。
「あの人は強いのか?」
「愚問やね。絳禰ちゃんは俺たちとは違ってアッチ側におるんや。扇の叔父さんなんて相手にならんよ。」
「でもあの人は虐げられてるんだろ。そんなに強いのに何でなんだよ。」
「呪いの子だからなんやと。ほんま、くだらんよな。絳禰ちゃんの強さも理解できんくせして自分が強くて偉いと思っとる。甚爾くんも絳禰ちゃんもやろうと思えばこの家潰せるんに。」
どこか苛立たしげな様子になったが、要はあの人が下に見られているのが気に入らないんだろう。強い者が正しく評価されず虐げられている。確かにおかしなことだ。
「甚爾くん? 誰だそれ?」
「絳禰ちゃんの師匠みたいな人やよ。何年か前に家の人間軒並み倒して出ていったんよ。あの時のあいつらの顔は見ものやったわ。今まで馬鹿にしてた甚爾くんのに完膚なきまでに負けたんやから。」
コイツが強いと言う絳禰さんの師匠か。よっぽど強いんだろけど、何でそんな人が虐げられてたんだろう。
「あの、何でその人は虐められていたんですか?」
「ん? もう一人居たんか。気づかんかったわ。」
真依が遠慮がちに私の後ろから顔を出してビクビクしながら声を出した。怖いなら無理しなくてもいいのに。
「甚爾くんは呪力がなかったんよ。でも、誰よりも強かった。それをアイツらは理解してなかったんや。呪具がなければ呪霊を払えない? それがどうしたんや。お前らやって武器ぶら下げとるやろ。甚爾くんは呪具さえあればどんな呪霊だって簡単に払えんねん。」
コイツが強さだとかアッチ側に強く執着していることだけは分かった。多分コイツの色んな基準は強さなんだろう。絳禰さんのおかげで女に対してもそこまでの差別意識を持っていない。……まあ、他と比べればまだマシなぐらいだけど。
何にせよ、そこまで強さに執着しているコイツが一つの目標として定めている人の戦いが今から始まる。
「真依、絶対に目を逸らすなよ。」
「うん。」
「ま、どうせ絳禰ちゃんが勝つんやし、気楽に見ときなや。」
最後まで見届けなくちゃ。