転生したら禪院家の女でした   作:苦鳴

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扇さんは前座だったのさ。
四日連続で投稿します。


疾駆 其の一

「それで、俺にも術式を使ってくれないんか?」

 

 む、どうしましょうか。あれは一種のパフォーマンスみたいなものだったんだけど、またやることにするのかどうかか。

 

「そうですね。使わせてみせてくださいと言っておきましょう。」

 

「はっ! やったるわ!!」

 

 煽りのような台詞を言ったのだが、直哉は心の底から楽しくて仕方がないと言わんばかりの笑みを浮かべた。……まったく。私は別に戦闘狂じゃあないってのに。

 

 でも、以前戦った時よりも遥かに強くなっているみたいだし、少し楽しみではあるかな。はたしてどんな修行をしてきたのやら。あなたの今の強さを見せてくれ。

 

 少し、楽しみだな。

 

 

 

 

「では、始めぃ!!」

 

 直毘人さんが開始の合図をした。だけど最初は様子見かな。

 

「俺の術式は投射呪法。」

 

 術式の開示か。術式開示による術式の強化を最初からしてくるとは本気だな。

 

「自分の視覚を画角として一秒間の動きを二十四分割したイメージを頭の中で作りそれをトレースする術式や。動きを作るのを失敗したり過度に物理法則を無視した動きを作れば自分が一秒間フリーズする。」

 

「これの拡張で手のひらで触れた相手も俺と同様に二十四分割した動きを作れなければ一秒間フリーズする。術式による加速は限度があるが、何度でも際限なく重なることができ、段階的であれば音速にも到達する。」

 

「一度設定した動きをしている時は動きをキャンセルできないという欠点はあれどそれを前提として動きを作ればいい話や。

 これで開示は終わりや。さ、始めよか。」

 

 その言葉に私はどうしようもなく自分の口角が緩んでいくのを自覚した。私を目標の一つとしてこれまで修行を重ねてきた人が今私に挑んでくるのだ、喜ばずにはいられない。負けてあげるつもりは微塵もないけど、この戦いは楽しみだ。

 

「行くで!」

 

「いつでも。」

 

 

 

 直哉が私の方に突き進んでくる。情報を開示した術式を使用することで凄まじい加速だ。今は真っ直ぐ私に向かってきているが、そんな馬鹿正直に正面から仕掛けてくるはずがないだろう。

 

 背後に回るか頭上に跳ぶか。それとも私の周りを走り回り速度を限界まで上げてくるのか。

 

 何にせよ、どんな攻撃だろうと対応してみせる。

 

 

 直哉が大きく跳躍した。この勢いなら余裕で私の体を越えていくだろう。背後に回る気か?

 

 私の頭上に差し掛かった時、手に呪力を集中させたのが分かった。その高さからでは攻撃は届かないはずだ。なら、飛び道具か? 以前会った時は武器を使うことを忌避していたが、今の直哉なら使う可能性もあるだろう。

 

 その答えはすぐに分かった。直哉の握りしめられた手から無数の石礫が放たれた。一発一発にそれなりの呪力が込められており、傷はつかなくとも痛みはあるだろう。まあ、だから何だという話だ。痛みを感じた程度で動きを止めるようなことはない。それは直哉も分かっているだろう。何が狙いだ?

 

(分かっとったけど、気にも留めんか。まあ別にそんなものを期待しとったわけやないけどな。そのまま俺の狙いを考え続けとき。どうせ分からんやろうからな。ビックリさせてその綺麗で無表情な顔を変えたる。)

 

 

 直哉が駆ける。彼の強みは術式による圧倒的な速度。だけど直線的な動きならば容易く止められる。接近してきてはいるが、大振りな攻撃はないと見ていいだろう。

 

 放たれた拳が私の顔に迫る。歳下の女の顔面を狙うことに一切の躊躇もないことには思うところはあるがそんなことを考えている場合ではないと思考から追い出す。

 

 今にも私の顔に突き刺さろうかという拳を弾く。だがそれだけでは終わらない。怒涛の連撃が私を襲う。主に両腕を振るうが、たまに呪力を目一杯込めた蹴りが混じる。ここで気をつけなくてはいけないのが直哉の手のひらだ。

 

 手のひらに触れようものなら術式の効果が強制される。もう少し時間が経ち、慣れることができれば対応も出来るだろうが今の状態では少し厳しい。そのため拳の近くに触れないように攻撃を捌く。

 

 直哉が横から薙払うような蹴りを放った。私は後ろに大きくのけぞるようにすることでそれを回避する。そしてその勢いのままバク転をし、距離をとる。

 

 だが、直哉の術式は速度に秀でた投射呪法だ。すぐに私の目の前にきた。そこに私は牽制として正拳突きを放つ。避けられることを前提とした攻撃のため、当然容易く避けられるが問題はない。直哉が避けたタイミングで斜め上へと全力で跳ぶ。

 

 天井に足をつき、足場として今度は地面に跳躍した。そこから壁、天井、柱、地面と縦横無尽に移動する。

 

 チラリと直哉の方を見るが動いている様子はない。これはカウンター狙いだろうか。

 

 自身の体の周りに簡易領域を展開する。体に纏わせるように展開しているので私が簡易領域を使っているとは悟られないはずだ。

 

 カウンターが狙いだというのならそんなことができない攻撃をするのみだ。ただ速いだけではダメだ。急激な速度の変化で確実に決める。

 

 足に呪力を集中。先程までの動きよりも遥かに速度を増して直哉の方に跳ぶ。地面を踏み締め、全力で跳んだ。地面にはヒビが入ったようだが私には関係ない。禪院家の人間が後で修復するだろう。

 

 私自身が弾丸となって直哉の元へ飛ぶ。

 

 しかし直哉の目は私の動きを完全に捉えていた。

 

「見えとるで!!!」

 

 私の動きを完全に捉え、蹴りを放つ。このままいけば間違いなく私の体に直撃するだろう。私自身の速度と直哉の呪力を込めた蹴りによりかなりのダメージを負うだろう。

 

 だが、私はすでに簡易領域を展開している。そして私はその範囲を広げた。

 

 蹴りが私に当たる直前で両腕を地面に突き出し、体操のハンドスプリングの要領で回転し、直哉の蹴りを避ける。

 

 そのまま空中に飛び出した私は簡易領域の効果で術式が僅かに弱まり速度が落ちた直哉に体が反転した状態で蹴りを顔面に叩き込んだ。

 

 ドガッ!

 

 私の放った蹴りは直哉の顔に止められていた。僅かに後退させることはできたがダメージは思いの外少ないみたいだ。呪力を顔に集中して防いだらしい。

 

 このままの体勢でいるわけにもいかないので直哉の体を蹴り、距離をとった。

 

「いったいなあ。でも、止めたで。勘やったけど顔に呪力集中してよかったわ。でなかったら今ので負けてたわ。」

 

 今のをここまで完璧に防がれるとは思っていなかった。防がれることは分かっていたがほとんどダメージがないとは思ってもいなかった。

 

 以前よりも大きく成長しているのだと実感した。

 

 もっと、続けよう。




これで戦闘狂じゃないんですって。
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