分かってはおったけど、やっぱり絳禰ちゃんは強いなぁ。投射呪法で全力で加速しとるのにそれと同等以上の速度を身体能力と呪力強化で出してくる。術式の開示をしてなかったら不味かった。開示してもギリギリ上回ってるって感じやしアッチ側の人間化け物すぎるやろ。
まだアッチ側には遠そうやけど、このままなにもできずに終わるつもりはあらへん。
術式に関してはまだ開示してないものもあるし、それで決める。全部を開示してしまったら完全に勝ち筋がなくなってまう。いくつかの情報を与えてその情報で本命を隠す。
流石にこれには絳禰ちゃんも対応できんやろうしそれで術式を使わせたい。これにも対応してくるようならホンマもんの化け物やな。
◇
「ここからは刀を使ってみますか。戦い方も変わりますし丁度いいでしょう。」
そう言うと絳禰ちゃんは腰に刺していた刀を抜いた。
多分素手でも刀を使っても実力はあんまり変わらんやろうな。どっちも同等レベルで身につけとる。だけどさっきまでの素手での戦闘に慣れてる俺にとっては厄介と言う他ない。
絳禰ちゃんが持ってる刀は呪具ではあるけど四級か三級程度のもんやろう。そんなにええもんを持っとるはずがないしな。だけどそんなことはほとんど関係あらへん。絳禰ちゃんが使えばどんななまくらでも凶器に変わる。
刀は正眼に構え、尋常じゃない剣気を放っている。前に扇の叔父さんと戦ったことがあったが、これと比べると可愛いものやった。絳禰ちゃんには俺を殺すつもりなんてないやろうにここまで気圧されるとかどんだけやねん。
「行きます。」
その言葉とともに絳禰ちゃんが動く。俺が実力で劣ってる以上こっちから攻めなければ勝ち目なんてないってのは分かっとるんやけど、どうしても絳禰ちゃんの戦いが見たいんよ。
(はっや!? 刀持っててそれかいな!?)
絳禰ちゃんが真っ直ぐ俺に突っ込んできて、突きを放ってきた。俺の喉を狙ってきた神速の突きを間一髪で避ける。
確実にさっきよりも速くなっとる。さっきまでは腰の刀の重さが邪魔やったんか? イカれとるやろ。まだ上がるんかい。
絳禰ちゃんが突きを放った体勢のまま、刀の向きを変えたのが見えた。横に避けた俺の方に刀が向いている。そしてそのまま片手で横薙ぎに刀を振るった。
振るわれた刀を屈むことで回避する。今絳禰ちゃんは刀を振るった直後の防御が薄い体勢。懐に潜り込み拳を振るう。
だがそこに絳禰ちゃんの膝が迫る。引くべきか、それとも被弾覚悟で当てに行くか。
そんなの、考えるまでもない。ここで退くような男が絳禰ちゃんの横に並べるわけがない。ダメージは最小限に抑えて一撃を当てる!
呪力を膝が当たる部分に集中、拳を振るう。俺の腹に膝がめり込む。ゲロ吐きそうなほど痛かったが、死ぬ気で耐えた。そして俺の拳が絳禰ちゃんの腹に届く。
ガッ!
ありえない音が響いた。人の体と体がぶつかっただけでは決してでないような音や。
殴った俺の手はまるで鋼鉄を殴ったみたいに痛かった。どんな硬さしてんやと内心愚痴りながら絳禰ちゃんの攻撃を警戒して一度退く。
(やっぱダメか。これはアレやらんとどうしようもないな。しゃーない、覚悟決めるか。)
さっき退く時の一瞬で細かい傷を大量につけられた。腕とか胴の血管が集まってるところをあの一瞬で斬りつける技量はかなりのもんや。それに多分、失血死せんように傷は浅くつけられとる。は、そんな余裕もあるんかい。お陰でまだ戦えるし、感謝しとくわ。
まだ仕込みは終わっとらん。それまで悟られんようにせんとあかんしやられんように戦い続けんといかん。難易度高すぎやろ。
絳禰ちゃんの周りをグルグルと高速で疾走する。
力は速さと重さ! 最高速度でぶち抜いたる!!
強く地面を踏み締め、絳禰ちゃんの元に駆ける。刀なんて長物を持っとるんや。リーチは長いが懐に入り込めば俺の方が有利や。まずは初手の攻撃を躱す!
背後から奇襲をかけるが絳禰ちゃんが反応出来んはずもなく、反転して刀を横薙ぎに斬り払う。だが、それは予想済みや。その攻撃を前提として動きを作ってあるから当たることはない。斜め上へと跳躍し、絳禰ちゃんの頭上へと躍り出る。
跳躍や落下の勢いを利用して踵落としを絳禰ちゃんの頭目掛けて放つ。すると先程振るったばかりの刀をいつのまにか戻しており、それを振るい俺を迎撃する。
俺の足も呪力で強化しているため、俺の足が斬れることはなく、衝突したところから衝撃波が辺りに撒き散らされる。土埃が舞い、僅かに視界が悪くなるが、関係はない。このまま刀をへし折ったる。
が、この攻防を嫌ったのか刀で俺の攻撃を軽く受け流す。受け流された俺の足が地面に思い切り叩きつけられ、大地が割れる。
体勢を崩した俺に、腰の捻りを加えて威力と速度が増した刃が迫る。これを受けたら死ぬ。そんな感想が浮かび、全力で地面に向かって飛び込み、回避する。そこで横へと振られていた刀がピタリと止まり、下にいる俺に向かってきた。
その刀を刀身を横から殴りつけることで強引に軌道を逸らす。再び懐に飛び込もうとするが、下から斬り上げがくる。それをのけぞることで回避し、再度振り下ろされる前に後ろへと下がる。
心なしか今日は普段よりも調子がいい。普段であればもっと早く終わっていた。やはり自分の憧れの一人と戦っているからやる気が出る。だからいつも以上の力が出ているのだろう。だが、最高のパフォーマンスをしても届かない。
成功するかは賭けになるが、やるしかないだろう。
「これで最後や! 行くで!!」
駆ける。
駆ける、駆ける、駆ける。駆け抜ける。
未だ届かぬ強者へと駆ける。強者たちの領域へと手を伸ばす。
俺の手の中にはさっき拾っておいた石が握られとる。最初の頃に絳禰ちゃんに投げ、避けることも防ぐこともされんかった。それを再び全力で投げる。呪力で腕を強化し、礫を強化し、弾丸を放つ。
俺が何かを投げる動きをしていることに気づいたようだが、先ほどのことがあり、警戒は薄い。
そこに大量の弾丸が殺到する。すると驚いたように表情を変えた。
今投げたのは先程のものとは違い、投射呪法を使い、弾丸を加速させている。自身だけではなく手のひらに触れていたものにも術式を強制する性質を応用し、石の動きを作った。先程までとは比較にならん速度や。
この速度の攻撃をまともに喰らうのはまずいと考えたのか、簡易領域を展開したらしい。恐らく全ての弾丸を叩き落とすつもりだろう。
領域内に侵入した弾丸が高速で振るわれる刀に粉々にされていく。そして俺はその隙に絳禰ちゃんの背後に回る。
当然絳禰ちゃんもそれには気づくがまだ石の弾丸に対処しとる。それでも十分間に合うと判断したのだろうが、それじゃあ遅い。先程までの速度が最高速度だなんて誰も言ってへん。
俺の投射呪法は24fpsが限界やった。でも、それじゃあアッチ側に行くには全然足りん。だから超えた。今の俺の限界は30fps。まだ一日に一、二回ぐらいしか出来んけど、24fpsが最大やと思ってる絳禰ちゃんにこれは対応出来ん!!
急激に速度が上がった俺に、絳禰ちゃんは今日初めて驚愕の表情を浮かべた。
このままでは攻撃を喰らうことを悟ったのだろう。呪力で全身を強化しだした。俺の攻撃を耐えようというのだろう。俺の手のひらに触れられても動ける自信があるからこそ何やろうが、今の俺は30fpsで動きを強制させられる。24fpsに慣れ切った絳禰ちゃんにこれを防ぐ術はない!!
そして俺の手のひらが絳禰ちゃんの体に触れる。絳禰ちゃんは動きを作ろうとしたようだが、失敗したらしく動きが止まる。これにも対応するようやったらいよいよ打つ手なしやったけど、ちゃんと通じた。これで決める!!
なぜか確信があった。根拠のない、自分でも奇妙だと思う自信があった。ただ、出せると思った。
俺の拳が絳禰ちゃんに当たった瞬間、視界に黒い火花が現れた。
———黒閃!!!
人生初の黒閃。最高速度の状態から放たれたそれは大きく絳禰の体を吹き飛ばした。
絳禰の体が壁に打ちつけられ、壁が大きく凹む。壁の一部が崩れ落ち、砂煙が立ち昇る。
「どうやぁ!!!」
直哉が、吠える。