「ぜぇ、ぜぇ……。」
「お疲れ様でした。」
術式を使った絳禰ちゃん相手に俺は手も足も出ずに降参した。少しの間頑張ってみたんやけど、これ以上は間違いなく死ぬと直感的に察したので五分も経たずにギブアップやった。
始まった瞬間に手に持った二刀を振い、炎の斬撃を飛ばしてきよった。速度もふざけた速さやったし、火力もふざけとった。斬撃が通過した地面が溶けるとかどんな火力やねん。
その後も刀を一本増やして手数も増えたことで俺の寿命が縮まった。遠距離から死の斬撃が絶え間なく襲ってきた。それを死ぬ気で避けた。術式を全力で使用せんと死ぬと思った。今まで何度も出来なかった30fpsを黒閃を決めたことと死を感じたことで常時使えるようになった。
そこから何が引き金になったんかは知らんけど俺に突進してきた。なんか炎を噴射してさっきよりもめちゃくちゃ速かった。
炎は長さが不規則に変化するからいつ攻撃が来るかも分からんし、大変やった。ノーモーションで即死の攻撃が飛んでくるとかちょっと反則すぎん? 刀を振るう速度自体はさっきよりも遅かったから、避けられるようにしてくれてたんやろうけどそんなん関係なかった。
どんな動きをするか分からない炎を常に警戒せなあかんからギリギリで避けるなんてこと許されんかった。多分少しでも炎が当たればそこから延焼するんやろうな。エグいわぁ。それに今回は刀に炎を纏わせてるだけやったけど本当ならもっと攻撃手段はあるんやろ。
「はぁ……。少しは差が縮まったと思っとったんやけどな。気のせいだったみたいや。」
予想にはなるけどあのまま術式を使わなくても俺に勝てたんやろうな。先に術式を使わせてみろみたいなことを言ってたから一定ラインを越えたことで使ってくれただけやろう。
やっぱ、遠いなぁ。
「そんなことはないですよ。」
内心落ち込んどったら、絳禰ちゃんが俺の考えを否定してきた。完膚なきまでに負けたのに、何がそんなことないんやろか。
「正直に言うと、攻撃を食らうつもりはなかったんです。防御か回避をしていれば良いと思っていました。ですが、直哉さんは私に重い攻撃を完璧に当ててみせました。あの瞬間は私の思考を上回ってましたし、黒閃まで決めたんです。あれ、結構痛かったんですよ。」
そうなんか。すぐに立って何事もなかったように振る舞ってたけど、痛かったんか。俺の攻撃が絳禰ちゃんにしっかりと届いたってことやし、嬉しいなあ。
「まあ、痛みなんて我慢すればいいだけですし、内臓にも損傷はありませんでしたからそこまで支障はありませんでしたけどね。」
……うん、もう何言われても驚かんようにしよ。
もうこれ以上は俺の体に悪いということで、早々に医務室へと運ばれた。本音を言うならもう少し絳禰ちゃんと話していたかったけど、しゃあないな。自分が弱かったからこうなったんやし。
医務室に運ばれたけど、目立った傷はなかった。刀傷も細かいものばかりで、すぐに治るだろうとのことやった。呪力で守っていたから、骨折もなく軽い打撲で済んでいた。
だけど、絳禰ちゃんが手加減したからこんなもので済んだんやと思うと悔しくて仕方がなかった。もっと色んな技があるだろうに、俺相手やとほとんど使ってくれんかった。使うまでもないと判断したんやろうけど、見たかったって気持ちが強い。きっと甚爾くんやったら最初から全力で戦ってたんやろうな。
結局は俺の力不足やった。以前絳禰ちゃんに負けた時より強くなったと思っていた。でも、それじゃあ足りなかったんよ。俺が修行している間に絳禰ちゃんも修行しとる。それに多分絳禰ちゃんは俺の何倍も修行してるんやろう。そら差が縮まるわけがない。
俺は心のどこかで満足しとった。術式を24fpsから30fpsに変えて、自分は十分やったと思ってしまったんや。
ふざけとるんか?
あの人たちと同じアッチ側に行くのにそんな気持ちで行けるわけないやん。何満足してんねん。十分なんてない。
あの人たちと並ぶ?
追い越してやるぐらいの気持ちを持たなきゃダメやろ。
今日戦ってみて改めて分かったけど、絳禰ちゃんは孤独や。甚爾くんや以前名前を出していた悟くんがおるのに、一人だけ違う景色を見とる。ただ強いだけやなくてもっと違う、大きな何かを抱えとるんやと思う。
隣に誰かが立っていても結局自分は独りなんだみたいな顔しとる。自分を理解できる人間はいないと思っとる。
諦めてるわけやない。
望んでるわけでもない。
ただただそういうもんやと思っとる。
だから最初から何も思っていない。
でもな? そんなん寂しいやん。自分が独りやっていうのをただの事実として捉えとるとか、本人は何も思ってないつもりかもしれんけど、絶対にそんなことない。
何を抱えてるんか知らんけど、いつか必ず追い越して独りだなんて思わんようにしたる。
まだまだ遠いけど、君をずっと独りになんて絶対にせん。
必ず君が心から笑えるようにしたるから、
待っといてな。
直哉が一番絳禰のことを理解しているという事実。
もっとも、全然足りない。
転生してるなんてこと誰も思いつかないし本人も言うつもりはない。だから誰も隣に並べない。
前回までのサブタイトルが疾駆其の一、其の二、其の三と疾駆が三回。
これで