私は今東京行きの新幹線に乗っている。直哉と戦ってから四日経ったが、彼は何の問題もなく今まで以上に修行や任務に打ち込んでいるらしい。
直毘人さんから真希と真依に修行つけてくれるように頼んでくれたらしいんだけど、すごい嫌そうな顔をしていたらしい。何で俺があんなカスどもに、なんてことを言っていたとのことだ。
だけど結局はやってくれるらしいし、よかったよかった。
いくら私が何か言ったところで二人への暴言は止められないだろうけど、暴行を加えることはないだろう。他に頼むのはちょっとって感じだ。だってどれだけ直哉がマシになったとはいえ禪院家の考えが染み付いてるからな。それでギリギリなんだから他の奴らに任せるなんてこと絶対にできない。そんなことしたらあの二人がどんな目に合うか。
一度助けたわけだし流石に情は湧く。甚爾さんからの頼みがなければちゃんと面倒を見てあげていたかもしれないけど、頼みたいことがあるっていうしね。
「それにしても頼みって何なのでしょうか。大抵のことなら甚爾さん一人で何とかできるでしょうし、思い浮かばないですね。」
私はそんなことを呟きながら窓の方を見ていた。
景色が見えるわけではないけど、その光景を想像するだけで少しは楽しいものだ。予約する時に窓側の席を指定したからこうして楽しめる。目が見えないのだから意味ないだろとか言ってくる人がいるかもしれないけどそれがどうしたって言うんだ。窓越しとはいえ外の様子を把握しているから楽しめないわけじゃない。海とか富士山とかは見える場所に行っても見えないけどある程度近くの距離なら分かるんだ。
「すみません、隣失礼します。」
私が窓の方を向いていると、通路側から声をかけられた。どうやら隣の席を予約した人らしい。先程駅に停まっていたし、その時に乗ってきたのだろう。ちょっと遅いと思わなくもないが、違う場所から入ってしまったとかだろう。
「どうぞ。」
「あなたは何処まで?」
座席に座るなり私に話しかけてきた。二十代半ばの女性だろうか。恐らく旅行か何かだろう。一人旅とは羨ましいな。今の私もそう言えなくはないのかもしれないけど親戚の元に行くっていう用事だから少し違うかな。私も家を出たら色んなところに行くんだ。
「東京にいる親戚に会いに行くんです。久しぶりに会うので楽しみです。」
「そうなんですか。良いですね。」
「そういうあなたは?」
普段だったらあまりこういう会話はしないけど、たまにはこういうのも悪くないよね。
「私は旅行の帰りです。休みをとって名古屋を観光してました。明日から仕事なので少し憂鬱ですけどね。」
「名古屋ですか。私は京都にずっと住んでいるんですけど、名古屋には行ったことないので少し羨ましいです。というか、そもそも京都の外に行くこと自体あまりなくって。」
「あ、京都の方でしたか。こう言ったら失礼かもしれないですけど喋り方があまりそんな気がしなかったので、てっきり前は東京のあたりに住んでいたのかと思いました。」
うーん、やっぱりそうか。京都に住んでいるくせにずっと丁寧語で関西弁が一切ないからな。いやでも禪院家に京都の喋り方している人が思い浮かばないのだけど。直哉は大阪っぽいし直毘人さんは全然だし。ま、そういうものとして納得しておくとしよう。
「生まれも育ちも京都ですね。まあ確かに私みたいにずっと丁寧な話し方をしているのは珍しいかもしれないですね。友人相手にもこんな感じなので。」
「ああー、気持ちは分かります。私もたまに親とかにも敬語で喋ってしまうんですよね。仕事での癖がどうにも抜けなくてついうっかり。」
社会人とかになるとそうなるのか。会社勤めだと上下関係とか厳しそうだし、そういうのに慣れちゃうんだろうなあ。私は常日頃からこんな感じだしどうしようもないけど。その話し方やめてって言われても直すのは多分無理だし。
「大人になると色々と大変そうですね。私はまだ十四歳ですからまだまだ先のことですけどね。」
「え、中学生!?」
なんかめちゃくちゃ驚かれた。そんなに私老けて見える? それはちょっとショックなんだけど。いや、前世の年齢を考えた精神年齢は倍以上あるけどさ。そういうことじゃないでしょ。
「そうですが何か?」
「いや、全然そう見えないというか。てっきり同年代、最低でも大学生ぐらいかと。」
「私ってそんなに子供っぽくないですか?」
これで老けてるとか言われたら普通に凹む。
「ああー、その、子供っぽくないというか、大人びているというか。ていうか中学生なら今は学校に行っている時間じゃない?」
この人急に話し方が変わったな。やっぱりさっきまでのは自分と同じぐらいだと思っていたからで子供だと分かったからだろうか。いやまあ、別に良いんだけど。
「両親が二人共数日間海外に行くことになったのでその間親戚の家でお世話になるんですよ。」
まあ嘘だが。私の両親なんて名前すら知らん。
「なるほど。それなら納得だ。」
「まあその間は東京観光をするつもりなので実質旅行ですけど。」
「……ちょっと? いいのそれ?」
咎めるような声で問いかけてきたが、私には関係ない。だってそもそも学校なんて通ってないし。
「問題ないと思いますよ? だって普通に旅行で休む人とかもいますからね。」
「そういうものかぁ。」
「そういうものです。」
「「………」」
その後は会話が途切れて無言の空間がしばらく続いた。でも、たまにはこういう時にあった人と話をするのも悪くないと思ったので、話しかけることにする。
「すみません。」
「なに?」
「その、駅に着くまで話し相手になっていただけませんか?」
これで拒否されたらめちゃくちゃ恥ずかしいな。
「ええ! もちろん! 誰かと話をするのは楽しいからね!」
お、やった。嬉しい。
「では、名古屋旅行がどのようなものだったか詳しく聞かせて頂いても?」
「いいわよ! でも、その前に自己紹介からね! 私は高梨美香! よろしく!」
元気だなあ。最初の印象とは大違いだ。
私の自己紹介はどうしよう。この人は呪術師じゃないから呪いの子なんてことを言うわけにはいかないし。ま、趣味でも言えばいいか。
「私は道元絳禰です。趣味は音楽を聞くことです。よろしくお願いします。」
「絳禰ちゃんね! よろしく!」
ちなみに道元という名字は直毘人さんに用意してもらった偽名だ。家としても私を禪院として外出させるわけにはいかないしこうしたというわけだ。少なくとも東京に行っている間はこれで通すつもりだ。
「それで、名古屋ってどんな感じだったんですか?」
「そうね、まず一日目は―――」
そんな風に東京に着くまで美香さんと話していた。
何か起こると思いました?
起こらないんですよこれが。