「ありがとうございました。お話できて楽しかったです。」
「ええ、私も楽しかったわ。」
「また、何処かでお会いしましょう。」
東京駅に着いたので、美香さんと別れることになった。美香さんも東京で降りるらしいけど、方向が違った。もう会うことはないかもしれないけど楽しい時間だった。また会えたらもう一度話をしたいなんてことを思うぐらいには。
きっとこれから家に帰って、明日からいつも通りに仕事に行くのだろう。美香さんは私がいる世界とは違う世界に住んでいるんだ。呪術のことを知らない一般人が私と交わることはもうきっとない。でも、叶うならまた、他愛のない話をしたい。
「じゃあね!」
そう言うと美香さんは私に背を向けて歩き出してしまった。少しの間その後ろ姿を眺めていたけれど、人を待たせているのだからそういうわけにもいかないと思い、私も歩き出した。
「それでは、また。」
叶わない願いだと分かっていても、これぐらいは許されるだろう。だから、いつか、また。
◇
そこには大柄で人相の悪い、まさに悪人、というような顔の男が立ち尽くしていた。周りもそんな男を避けているのかその周りには不自然に空間が空いている。
「アイツいつ来るんだ?」
その男は伏黒甚爾。弟子の禪院絳禰を呼びつけて現在到着を待っているところである。ここには三十分ほど前からおり、すでにイライラしてきている。本来ならもう少しゆっくりくるつもりだったのだが、そうせざるをえなかった理由があった。
「もう着いた頃だと思うわよ?」
「久しぶりに絳禰さんに会えるから楽しみだなー!」
「……まだ?」
それはこの三人である。甚爾の家族が絳禰に早く会いたいと駄々をこね、少し早めに家を出たのだ。その結果がこの有様なのだが、もう待ちきれないらしい。
「アイツ目立たない格好で来るって言ってたからな。気づいてない場合もあるぞ。」
そう言いながらも甚爾はそれを心の中では否定していた。アイツが目立たないわけがないと。
(アイツ意外に抜けてるからな。どうせ目立つ格好してんだろ。)
そんなことを考えていると出口の方が少し騒がしくなってきた。周りの人間も自然とそちらに目が向いていた。だが、人混みで何があるのかは分からない。だが、甚爾の聴覚ならばどんなことを話しているのかぐらいは分かる。
「和服着てるよ。」「綺麗なひとだね。」「杖なんて持ってるけどどこか悪いのかな。」「肌が真っ白で綺麗だなあ。」
集中して聴いてみるとそんな言葉が聞こえてきた。ああ、これはアイツだなと甚爾は確信して、やっぱり目立ってんじゃねえかと思った。
あれだけ目立たないような格好をしてくるとか言っておきながらこれだけ目立っている弟子をどう揶揄ってやろうかと考えを巡らす。だが、その前に騒ぎの中心人物が姿を現した。
「甚爾さんお久しぶりです。瑠璃さんに津美紀ちゃん、恵くんも。」
自分への注目など意にも介さず平然と甚爾たちに声をかけた。一切迷わずに真っ直ぐ進んできたみたいだが、コイツなら不思議ではないと思い、甚爾はすぐに挨拶を返した。
「よう。待ってたぜ。」
「絳禰さん! 久しぶり!」
「久しぶり。」
「ゆっくりしていってね。」
甚爾が挨拶を返すと家族も次々と挨拶をしていく。子供達は絳禰に会えたことが余程嬉しいのか満面の笑みを浮かべている。それが分かったのか絳禰もどこか嬉しそうだった。
「じゃあ行くか。」
「そうですね。」
甚爾が先導するように先頭を歩き出すと全員それについて歩き出した。
「それにしてもお前かなり目立ってたぞ。」
「え。黒のカツラ被ってきたんですけど。それでもダメですか。」
「いや、それよりも目立つところがあんだろ。」
「?」
絳禰は何のことを言っているのかまるで分からないといった風に首を傾げていた。だが、子供たち二人が呆れたような声を出した。
「……服。」
「あ。」
間抜けな声を出した。
「そんな服着てる人はいないからね! 絳禰さんには似合ってるけど目立っちゃうかも!」
「……………。
そんなことより今日はどんな用で?」
恵と津美紀の小学生二人にも気づくことを自分が気づかなかったことが恥ずかしかったのか、絳禰は黙ってしまった。が、切り替えの早い方である絳禰はすぐにそんなことはどうでもいいと言わんばかりに他の話題を振った。話を逸らしたとも言う。
「それは家に着いてからだ。さっさと行くぞ。」
「そうだよ! 早く行こう!」
だがそれに甚爾が答えることはなく、家で話すとのことだった。それに、絳禰の腕に津美紀がひっついて、袖を引っ張られてしまったので諦めた。自分と会うのをこれだけ楽しみにしてくれていたというのにそんな話をするのは良くないなと思い、津美紀と恵の二人に話しかけることにした。
「津美紀ちゃんも恵くんも小学校はどう? 楽しく過ごせてる?」
「絳禰さん、話題が親戚のおばさんみたい!」
「おい待て津美紀。いくら事実でも失礼だろ。」
「………………。」
絳禰は一瞬泣きそうになった。年下二人に親戚のおばさん扱いされたのは流石にこたえたらしい。まあ、血縁関係的には親戚の伯母なので間違いというわけではないのだが。
「だってよ、おばさん。」
「あはははは、絳禰ちゃんは大人っぽいからね。」
「甚爾さん? 酷くないですか?」
「「ははは!」」
そんな風に話をしながら歩いて行った。
美香さんはもう出ません。