夜、甚爾さんの家で私は甚爾さんと対面で向き合っている。
昼間に私と遊んでいたから津美紀ちゃんと恵くんは疲れて眠ってしまっている。私と会えたのがよほど嬉しかったのか大はしゃぎしていたから仕方ないだろう。子どもの相手は少し疲れるけど、まあ楽しかったからいいか。たまにはこういうのも悪くないって思っているし。
ちなみに二人は瑠璃さんがベッドに運んでいる。さっき手伝おうとしたのだが私がいない間に話をしちゃってと言われて渋々引き下がった。
「………お前には感謝しなくちゃいけねえな。」
はて何時本題に入るのだろうかと思っていたのだが、唐突にこんなことを言われた。甚爾さんに感謝されるなど本当に、珍しいことだ。だからすぐに何に対して言っているのかは分からなかった。
「と、言いますと?」
「瑠璃のことだよ。お前がいなきゃアイツは死んでた。」
「ああ…そのことですか。」
二、三年ほど前のことだろうか。瑠璃さんが体調を崩したことがあった。そのときはたまたま私も一緒にいて、大急ぎで病院に連れて行ったのを覚えている。本人は大したことはないと言っていたけど、誰一人そんな言葉は耳に入ってなかった。
一番慌てていたの甚爾さんだった。普段の冷静さはどこへ行ってしまったのか、えらく取り乱していた。その間は子供二人を落ち着かせる役割を私がした。いつも冷静な甚爾さんがそんな風だったから二人もいつもみたいに明るい顔ではなく泣きそうな顔だった。そんな二人の相手をするのは大変だったけど前世では妹がいたこともあってなんとか落ち着かせることができた。
「お前がいなきゃアイツは多分死んでいた。」
「助けられて良かったと今でも思っていますよ。」
病院に連れて行って検査をしてみると瑠璃さんに悪性の腫瘍が見つかった。しかも発見するのが遅れてしまったのか、かなり進行していた。そのまま入院して治療をしても助かるかどうかは五分五分、いや正直に言うと可能性はかなり低かった。体のあちこちに転移していてもう手遅れだということを暗に伝えられた。
その時の甚爾さんの心情はどんなものだったのだろうか。私には推し量ることはできないけど、絶望で包まれていたことだけは分かった。瑠璃さんは大丈夫だよ、なんてことを言っていたが甚爾さんの耳には入ってはいなかった。
あのときの甚爾さんは本当に酷い状態だった。毎日のように一日中色んなところを駆けずり回って助ける方法を探し回っていた。当然その間は子どもたちは放置しているようなものだから私がよく様子を見てあげていた。あのときはまだ禪院家から近い場所に暮らしていたから良かったけど、今だったらかなり不味かった。
そんな甚爾さんの様子を見て、いくらフィジカルギフテッドであろうと流石に疲れるだろうと思った私は家に帰ったところで不意をついて強制的に眠らせた。普段だったら対応できていたであろうに簡単に眠らせられたということはそれほど疲れが溜まっていたのだろう。とりあえず私は眠った甚爾さんを寝室に運んでベッドに転がした。
その朝起きた甚爾さんに殺気までぶつけられて掴みかかられたがちょっとOHANASIをしたら大人しくなった。で、その流れで私も瑠璃さんの命を救う方法を探すのに協力することになった。それまでも手伝おうとは思っていたのだが、瑠璃さんと子供たちを放っておくわけにもいかず不可能だった。
それでようやく頭の冷えた甚爾さんと分担して探すことになった。
そして一ヶ月半後、甚爾さんが一回使い切りであらゆる怪我を治す呪具を手に入れてきた。呪具の値段はまあ、うん、瑠璃さんの命を救うためと考えれば安いものだろう。
その呪具で治せると希望を持ったのだけど、効果があるのは欠損など負傷だけで病などには効果がないらしかった。やっとの思いで手に入れたものが意味のないものだと知って甚爾さんの心は折れかけていた。だけど私にはそれがあれば瑠璃さんを救う方法があった。
そして手術当日。呪術のことを一般人に知られるわけにはいかないので呪術師が利用する病院で行うことになった。
私が行ったのは悪性腫瘍を私の術式で一瞬で消滅させ、その後例の呪具で完全に修復することだった。腫瘍の部分だけを消滅させるにはかなりの呪力操作が必要だったけどなんとかできた。私が反転術式をアウトプットできればもっと楽だったんだけど、無理だったから呪具がなければこの方法は使えなかった。
なんとか治療が完了して瑠璃さんは無事に復帰できたし私も甚爾さんからお礼にちょっと良い呪具をもらってこの件は終わったと思っていたんだけど、未だに私に感謝しているらしい。別にそんなに気にしなくていいのに。私だって瑠璃さんを助けたいと思っていたわけだし。
「まあ今はこの幸せな日常を噛み締めてください。これまで禪院家では碌な生活を送っていなかったわけですし。」
なんて、そんな事を言って私は微笑んだ。
私も、必ず幸せになってみせますから。
主人公が最後にすっごい死亡フラグっぽいことを言っていることに書き終わった後で気付いた。