転生したら禪院家の女でした   作:苦鳴

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貸し

「それで、本題は何でしょう?」

 

 別にこのまま関係ない話をしていても問題はないのだが、なるべく早く聴いたほうがいいと思い、聞き出すことにした。

 

「ああ、実はな、恵の奴が術式を発現しやがった。」

 

 なるほど? それでどうするべきか悩んでいると?

 

「それは……祝福すればいいのかどうなのか困りますね。」

 

「だろ? それで問題の術式なんだが十種影法術なんだ。」

 

 うわあ、よりによってその術式?

 

  禪院家に知られたら即座に当主候補に祭り上げられるだろう。数百年前に六眼と無下限呪術の抱き合わせと相打った程の術式だ。その性能はかなりのものだろう。禪院家は才能大好きなクズ一族だから恵くんを手に入れるために何をするか分からない。ひょっとしたら津美紀ちゃんや瑠璃さんに手を出してくる可能性だってある。

 

「となると私が呪術を教えればいいのですかね? それが頼みたいことですか?」

 

「ああ、そうだ。」

 

 やっぱりそうか。ただなあ、私は人に教えるのは多分苦手だからなあ。

 

「私はあまり教えるのが得意ではないと思いますが大丈夫ですか?」

 

「お前なら問題ねえだろ。術式が違うとはいえ呪力の操作とか基本的な部分はお前以上の適任はいねえ。そもそも他に頼める奴はいねえしな。」

 

 まあ別に断るつもりは最初からなかったけどここまで言われて断るわけにはいかないよね。外せない用事があるなら話は変わるけど今はそんなものはないし。

 

 そういえば恵くんに意思の確認はしたのだろうか。私たちの間だけで話を進めてしまっていて本人が知りませんでしたとかはよくない。普通だったら甚爾さんが伝えているんだろうけどこの人はそういうの忘れがちだしな。念の為確認しておくか。

 

「恵くんは何と?」

 

 流石に話してるよね?

 

「いや、アイツにはまだ何も言ってねえ。」

 

「………。」

 

 ええ………嘘でしょ? そんな大事なこと本人に言わずに進めるつもり? それはダメでしょう。

 

「嫌だって言ってもやらせるからな。それにどうせ二つ返事で了承するだろ。」

 

 なぜ、そう言い切れるのだろうか。あの子はまだ呪術がどんなものか分かっていない。このまま家族と何も知らずに暮らしていくことだって極めて難しいとは言えるが不可能ではない。ならば誰がこんな碌でもない世界に入ってくるというのか。私なら全力で海外逃亡するね。

 

「そうなんですか? そうは思えないんですけど。」

 

 嫌でしょ、親戚のお姉さんに教えてもらうとか。このくらいの年の男なら恥ずかしいんじゃないかな。

 

「……お前も面倒くせえよな。」

 

「?」

 

 言っている意味が分からず思わず首をかしげた。今の会話に私が面倒くさいと思われるような要素はなかったと思うのだけど。

 甚爾さんは呆れたような雰囲気で私の方を見ているようだけど絶対におかしい。だって当然の事しか言ってないのだから。

 

「まあ良い、やってくれるんだろ?」

 

「……やりますけど。」

 

 どうにも納得いかないなあ。私のどこが面倒くさいというのか。本人の意思を確認していないのに周りが勝手に話を進めるのはおかしいというのは至極真っ当な意見だと思うのだけど。ちゃんと本人のことを考えているのだからむしろちゃんとしてると言ってほしい。私は他の人のことも考えられる女なのだ。まあ、考えても他に優先すべきことがあれば無視するだろうけど。

 

「ところで、京都からここまでずっと通うのは無理ですし、あまり時間は取れませんよ? そのあたりはどうするつもりなのですか?」

 

「ああ? 別にお前もこっちに来ればいい話だろ。」

 

「なるほど。東京の高専に通うことにすればこちらに引っ越して来れますね。ただ、そうなると早くても一年以上後になりますけど。」

 

 いや別に無理すれば来れないこともないけどそれじゃあ私が修行する時間がなくなってしまう。いくらなんでもその時間がなくなるのは許容できない。だって私が強くならなきゃ意味ないから。

 

「週に何日か来てくれりゃあいい。」

 

「二日で。」

 

「まあ……いいかそれで。金は――お前はいらねえか。じゃあ貸し一つってことで。」

 

「貸し三つが妥当ではないですかね。」

 

 ここはむしり取れるだけむしり取るんだ。甚爾さんに貸しを作る機会なんて滅多にこない。貸しがあればタダで甚爾さんを動かせる。裏社会で術師殺しの名前で知られている人間を簡単に動かせるのだから良いことしかない。

 

 ちなみ術師殺しの異名は呪術師(呪詛師)を殺しまくって賞金を稼いでいたらつけられたらしい。ネームバリューはあるから依頼が来やすくなるのだろうけど私だったら恥ずかしい。もちろんカッコいいって気持ちもあるけど正直な所そんな風に呼ばれるのって恥ずかしいでしょ。なんか、ねえ。

 このことで甚爾さんを煽ったら思いっきりぶん殴られた。痛かった。

 

「チッ! 仕方ねえ、それでいい。」

 

「じゃあ、私はもう寝ますので明日の朝、甚爾さんから恵くんに伝えてくださいね。」

 

「あいよ。」

 

 甚爾さんからの話が終わったので、私は借りている部屋に向かっていった。

 

 早く寝よう。




きっと主人公も何かしらの呼び名はつけられる。
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