恵くんに加えて津美紀ちゃんも鍛えることになった次の日、私は一人歩いていた。元々用事があったし、二人は昨日初めての稽古で慣れなかったのか疲れて動けないらしい。なんだかんだで甚爾さんも参加して体力作りをさせられていたから当然と言えば当然だろう。
と、いうわけで私は今日は完全にフリーなわけである。いや、最初から予定は入れていたから何を言われようとも変わらないかったけど。それでも嘆願されたら少し気が引けてしまうからちょうどよかった。
あ、でも甚爾さんがただ休む日なんて作らないだろうから何かしらの修行は二人ともやらされるんだろうな。強く生きてほしい。でも、自分の子供の分私の時よりも幾分か優しいだろうからマシだと思う。その分頑張らなきゃだけどね。恵くんは特に。
まあ、今日の私には関係ない話だし用事を済ませることにしよう。
あと三十分程で東京都呪術高等専門学校だ。ふふ、悟は元気にしているかな。
◇
「はあー、めんどくせぇー。てか、夜蛾セン呼びつけておいて遅刻かよ。」
机に腰掛け不機嫌そうにそう言ったのは五条悟。呪術高専の一年生である。
「先生も忙しいということだよ。それはそうと悟、机に座るのは行儀が悪いからやめた方がいい。」
団子頭に特徴的な前髪の青年が五条悟を諌める。
「あ? 見てる奴はいねえんだし問題ねえだろ。」
「あのねえ、普段からそんなんだとダメな場面でもやってしまうんだ。普段から気を付けておくに越したことはないよ。」
「えー、でもあんた達なら最悪咎められるだけで済むでしょ。」
この三人の中で唯一の女性、未成年にも関わらずタバコを吸っている。女性の呪術師が少ない中で術師をしている珍しい人だ。この世界では男尊女卑の思想が強いため女性は軽んじられることが多い。
「だろうな。で、結局今日は何で呼び出されたんだよ。そもそも夜蛾セン来ねえし帰ってよくね?」
「良いわけあるか!」
ゴツン!!
いつのまにか背後に立っていた大柄の男性に五条悟が拳骨を喰らわされた。常日頃から拳骨を喰らっているというのにこの男は全く懲りないのである。
「あ、ようやく来た。で、今日は何で集められたんですかー?」
「……客だ。」
「客ぅ? まさか俺たちに案内しろってのか? やだねめんどくさい。」
「そうですね、そんなのは先生が対応すれば良い話でしょう。」
「だよねー、何であたしらがそんなのやらなきゃいけないのって感じー。」
三人それぞれが思ったことを口にしたが、共通してめんどくさいからやりたくないという本音があった。これに夜蛾正道はキレた。日頃から問題ばかり起こすこの三人に対して溜まっているものもあり、それがこの場で弾けた。顔に青筋が立ち、こめかみはピクピクと動いている。
それを見た三人は流石にマズいと思ったのか訂正をしようとするが時すでに遅し。夜蛾の怒りが爆発した。
「悟! 傑! 硝子! そこに座れ!!!」
「「「はい!」」」
それから夜蛾の説教が暫く続いた。
「大体お前たちはな——。」
「傑、お前が余計なこと話すからだろ。」
「私は特に何もしていないだろう。君がいつまでも喋っているのがわるい。」
「それを言うなら私は何もしてなくない? 完全にアンタら二人のとばっちりじゃん。」
「いや硝子もめんどくさいとか言ってただろうが。」
三人は小声で話していたようではあるが、流石に目の前で喋られては気づかないわけがなかったらしい。先程よりも更に怒りで顔を歪め、子供が見れば秒で泣き出すような顔をしていた。
「貴様ら、気づかないとでも思っているのか?」
「「「あ。」」」
当然、説教は長くなった。
では頼むぞ、と夜蛾は教室を出て行った。だがこの三人が真面目にするわけがなかった。
「女らしいけど何しに来んだろうな。」
「コネを作りに来るんじゃないかい? ほら、悟は御三家の人間だし。」
「ああー、それはあるかもねー。あんた性格は悪いけど見てくれは悪くないし。」
「何にせよ、生意気な奴だったらシメてやろうぜ。」
案内を頼まれていたというのに手を出す気満々である。きっと後でまた夜蛾の拳骨を喰らうことになるだろう。
その後も話をしていたが、音もなく教室の後ろの扉が開いた。それに誰も気付いた様子はない。足音を消し、そろりそろりと三人に近づいていく。
「大体よ———」
「久しぶりですね、悟。」
「は? なん———」
ガン!
なんだテメェと言おうとした悟の頭に杖が振り下ろされた。突然のことだったため術式を使う暇もなく無防備に受けてしまった。
驚いた三人が後ろに振り向くとそこには杖を持った女がいた。それに対する反応は三者それぞれ。団子頭の青年は今の今まで全く気づくことができなかったと驚愕で目を見開き、タバコを咥えた女性は悟の間抜け面を見て面白がっていた。
一方、杖で理不尽に殴られた本人は驚き固まっていた。まるでいるはずのない人間を見たかのようなそんな顔。らしくなく驚いていたので残りの二人はこんな顔もするのかと珍しいところを見れたと思っていた。
「客ってお前かよ、絳禰。」
「ええ、来ちゃいました。」
そう言って女——絳禰は微笑んだ。
「来ちゃった♪」が言いたかっただけ。