「じゃ、行こうぜ!」
質問も終わり、悟を除く他の二人ともある程度は仲良くなったところで外に出ようと悟が教室のドアの方に向かっていく。その後から夏油さんと家入さんがヒョコヒョとついていく。まあ、グラウンドとかでやるのかな。
「何処へ行くつもりだ。」
が、その前に教室の扉が開け放たれ、いかつい大柄の男性が現れた。顔には青筋が浮かび、プルプルと震えている。この様子だと悟は怒られるな。
……これ、私も怒られるのでは?
「あっ夜蛾センじゃん。いやちょっとコイツを案内してやろうと思ってな? ほら夜蛾センも忙しいし悪いことじゃないっしょ?」
悟は上手いこと口を回してこの場を切り抜けるつもりだ。さほど悪い手でもないだろう。もっとも、それは平然と嘘をつける人間でなければ意味がなかったわけだが。
「そうか。」
「そうそ——」
「フン!」
ゴッ
悟の脳天に拳が振り落とされた。
「貴様ら全員座れ!」
「「「「はい!」」」」
そのあまりの剣幕に、多分座らなくても良かったであろう私も思わず座ってしまった。そして他三人の流れるような正座。それは常日頃から怒られて正座をさせられているのだろう。
「お前らはまともに客の応対もできんのか! 客と戦おうなどふざけているのか!」
「でも、本人も納得しているわけだし別によくね?」
ゴン!
余計な事を言った悟の頭にたんこぶがまた一つ増えた。阿呆か。
「そういう問題ではない! それに俺に何の断りもなくやろうとしたな! せめて承諾を取れ!」
「では、許可をいただきたい。」
「そういうことでもない!」
ゴン!
たんこぶ頭の人間が一人増えた。元々団子頭だからそんなに大差ないかも。
まあ、流石に私がずっと黙ったままというのもよくないということで、口を開くことにした。できるだけ頑張るから、君たち三人は過度な期待をしないでほしい。
「あの、夜蛾さん。」
「何かね。」
ふーーー、いや怖。
「すみませんでした。」
「む?」
「実は悟と以前会ったことがありまして、その、久しぶりに会えたことでテンションが上がってしまったんです。軽率な行動をしたことは謝ります。私にも非がありますので、怒るのはそこまでにしてあげてくれないでしょうか。」
ふふ、ここで謝罪し他の減刑を願うことで私の心象を良くする。マイナスから第一印象が始まったのならばその直後にまともな様子を見せればプラスへと転じる。悟のような問題児を抱えているとなれば効果覿面なはずだ。
このまま説教に時間が取られるのが嫌だっていうのもあるけど。
「……分かった。」
よし!
「だが、模擬戦は許可できない。」
「何故でしょうか?」
「君は客だ。君にもしものことがあっては困るのだ。」
まあそうでしょうね。素性は偽っているとはいえ、禪院家の関係者であることは分かっているわけだし。あんな家でも立場は高いから高専としては関係悪化なんて絶対に避けたいわけだ。別に私に何が起きても大丈夫なのだけど、それを知る手段はないわけで。
「だけどコイツ反転術式使えるし問題なくね?」
ゴンッ!
折角私がいい感じにまとめてたのに悟がまたも余計な事を言って拳骨を喰らわされた。流石にこれは私も擁護しようがない。痛みで悶えているみたいだけど、そのまま苦しんでくれ。そう何度も助けてあげないよ。
「そうですね……。では、普段通りの授業を見せていただければ。そろそろ姉妹校交流戦も近いですし、丁度いいかと。」
「二年、三年は今日出払っているから一年だけだが、構わないか?」
「ええ。できればその時に私も参加させてもらえれば嬉しいのですが……。」
「俺が監視している時であれば許可しよう。」
「ありがとうございます。」
これぐらいが限界だろう。本気で戦うことはできないから軽くはなるけど、何もできないよりはマシだ。悟は文句を言うだろうが、これでも頑張った方だし、十分だ。術式なしの格闘戦であれば多少激しくても問題ないだろうしきっと満足できるだろう。
「では、全員十分後にグラウンドに集合だ。遅れた奴はグラウンド百周してもらう。絶対に遅れるなよ。」
それだけ言うと夜蛾さんは教室を出ていった。
「んだよケチくせえなあ。」
「そうは言っても仕方ないだろう。何かあってからでは遅いのだから。夜蛾先生の言うことは正しいよ。」
「私は別にどうでもいいけどねー。」
……私結構頑張ったと思うのだけど、私には何もなし? あのままだと説教はもっと長引いて、たんこぶの数も増えていただろう。少しぐらいは感謝してくれてもいいのではないだろうか。
悟が私に向かって感謝している様子を想像してみよう。
「んくふっ。」
やば。
「あ? 何笑ってんだよ。」
「思い出し笑いです。」
前に悟が謝っていた時のをベースに想像してみたけど、予想以上に面白かった。違和感ありすぎてやばい。
「どうでもいいけど私はもう行くよ? アンタらも遅れないように気をつけなよ。」
「あれって私もですかね?」
一応客だし私は大丈夫だったりしない?
「そりゃそうだろ。」
「流石に私たちよりは軽めだとは思うけどね。」
「そうですか。」
そっか、そっかあ、私もかあ。グラウンド百周ぐらいなんともないけど、問題児扱いされるのは癪だしさっさと移動することにしよう。
「あ、最後の奴全員にジュース奢りな。」
「!?」
悟のその一言を合図に私たちは全力で駆け出した。