私が彼女を初めて見た時はまるで淡い雪みたいだと思った。純白の髪と肌。だが別に病人のような色ではなく、健康な人のそれだった。
瞳は閉じられ目は見えない。地味な色の着物を着て杖をついている。目が見えないから杖を持っているのは当然だろうと思っていたのだが、なくても変わらないらしい。
彼女の話は悟から聞いていた。自分にできた初めての友人だと嬉しそうに語っていたのを覚えている。私は悟の無二の親友であると自信を持って言えるが、彼女の話をいつになく嬉しそうな表情で語る悟を見て、柄でもなく会ったことすらない彼女に嫉妬してしまっていた。
私は悟から聞いた話から、勝手な想像をしていた。悟から聞いていたのは性格とかだけで、容姿に関わることはほとんど話してくれなかったから、顔とかは適当だったけど。それ自体は特に珍しいことでもないだろう。ただ、私のそれは普通のそれよりも度が過ぎていた。会ったこともない相手に対して、悟の友人というだけでここまでの興味を持てるのかと自分に驚愕したぐらいだ。
そして今日、彼女に会ってみて感じたことは、意外と落ち着いているということだ。悟の話を聞く限りでは少しやんちゃな感じだったのだけど、物腰柔らかで言葉遣いも丁寧だった。
それから少し話をしたのだけど、子供の時に悟と引き分けたらしい。本人は私の方が負けよりでしたけどねなんて事を言っていたが、それでも私は驚いていた。
悟から彼女は強いと聞いていたが、まさかそこまでとは思ってもいなかった。滅多に人を褒めることのない悟が絶賛していたことから、凄いのだろうとは考えていても流石にそれは予想外だった。
その後彼女に私の術式について話を聞かれて、一悶着あったのだが、今はその話はいいだろう。
私は今、彼女——道元絳禰と相対している。術式の使用を禁止した近接格闘戦。彼女は木刀を持ち、こちらは無手だ。だが彼女と相対するのは私だけではなく親友である悟も一緒だ。
彼女が刀を主武器として使っていることは既に悟から聞いている。そしてその腕前も。天与呪縛により身体能力も高く、更に呪力で強化してくるらしい。剣の達人が私たちよりも身体能力が上だという事実は恐ろしい。更に刀の間合いは広く、私たちが攻撃するのならばリーチの差で不利だろう。もっと言えば木刀をもう一本腰にさしており、場合によってはそれを抜いて手数も増えるだろう。
だが、負けるつもりはない。何せこちらは二人がかりであり、相方は自分の親友なのである。悟と二人であればどんな強敵であっても負けることはないと確信してる。
さあいつでも来いと思っていると、彼女が刀を正眼に構えた。
その瞬間、今まで感じたことのないようなプレッシャーが私を襲って来た。悟と対峙した時とも似ているが、僅かに違う。剣気とでも言うべきそれを真正面から受けて、私はほんの一瞬、硬直した。
その隙を彼女が見逃すはずもなく、気づいた時には私の目の前で刀を振りかぶっていた。
それを確認した私は即座にその場から飛び退き、距離をとる。
幸いにも追撃はなかったが、私はこの一瞬で理解した。彼女を術式なしで相手にするのは例え悟と二人がかりであっても困難である事を。
この一撃は私を見極めるためのものだった。私の反応速度、技術、かけひきなどがどの程度なのかを確認したのだろう。
そして私は守りに入れば勝ち目はないと判断した。数の利を活かして攻めなければあっという間に負けてしまう。
悟にその事を伝えようと思ったのだが、悟は私の方に顔を向けていた。その顔を見るだけで私は察した。私も悟も、全く同じ事を考えているのだと。
意思を通じ合わせた私たちは、会話もせずに飛び出した。私が左から、悟が右から攻める。二人の呼吸を合わせタイミングと場所、全てを完璧にし全力で拳を振るった。
悟は下方への蹴り、私は顔面狙いの拳。片方を防ぐあるいは躱すことができても必ず一撃は喰らわせることができる。決まった、と私は思った。恐らく悟も同じ事を思っていただろう。
だが、彼女は薄く笑った。
まず、私の腕が彼女の振るった木刀の柄頭で弾かれた。途轍もない力が加わり、腕は真上へと跳ね上げられる。そして返す刀で、悟の足へ向かった。
させてなるものかと意図的に体勢を崩しながら上段蹴りを放つ。しかし私の蹴りにはまるで意に介さず悟の蹴りを木刀で受け止めた。そして私の蹴りは頭を下げることで容易く回避されてしまう。
彼女は刀をくるりと回転させ、蹴りを放った直後の悟へと袈裟斬りを放った。しかし悟は木刀の横を叩くことで回避した。
刀を振るった直後の隙を見逃すわけもなく、私は彼女の背後へと攻撃を仕掛ける。だが、彼女は読んでいたのだろう。私の方を一瞥することもなくいつの間にか手にしていたもう一本の木刀で防がれた。
普段なら鞘で防ぐんですけどね、なんて事を言う彼女に私は僅かではあるが畏怖してしまった。まさに彼女は剣の達人である。私の趣味の格闘技とはレベルが圧倒的に違う。それなりの強さだという自負はあるが、幼き頃から修練を積んできた彼女に技術で勝てるなどとは到底思えなかった。
だから、なんだというのか。2人がかりで負けるなんてプライドが許さない。自分は負けず嫌いなのだ。そして自分と同じかそれ以上の負けず嫌いである親友の顔を見ると、獰猛に笑っていた。まるでこの戦いが楽しくて仕方がないとでもいうような楽しげな顔。
そして二人顔を見合わせ、再び彼女へと攻撃を仕掛ける。
今の私は呪霊を喰らうという憂鬱なことも忘れ、ただこの時間を楽しんでいた。
この後の戦闘描写は面ど……大変だからカットします。