ああ、やっぱり戦うのは楽しいな。自分が今まで磨いてきた技術を誰かを相手に試して改善点を見つけたり、自分の今の立っている場所を明確にしたり出来る。
命を賭けた戦いというのはそこまで好きではないけれど、こういう模擬戦みたいなものなら大歓迎だ。
今回は術式も使っていないし、落花の情とかの技術も使っていない。私が今使っているのは呪力操作と刀の技術だけだ。それだけでも楽しいものは楽しい。正直なところ私は術式を使うよりも刀を振ったりしている方が好きだ。
もちろん、術式の修行も楽しいことは楽しいのだけど、前世で激しい運動が出来なかった分、体を動かすことが楽しくて仕方がないのだ。
悟の拳が迫る。脇腹を狙ったそれを私は後ろに下がることで回避する。が、後ろからは傑さんの蹴り。このままでは直撃する。
私は後ろに倒れ込むようにして体勢を低くすることでその蹴りを避ける。その蹴りは私の前髪を掠り、前からきていた悟の方へと向かう。だが脚が空中でピタリと停止し、私の方へと降ってきた。
私は地面を転がるようにしてそれを避けた。そして跳ね上がるように上体を起こし、再び攻撃を仕掛けてきた悟の方へと向き直る。顔面狙いのストレート。フェイントをかけるでもなく、無造作に放たれたそれは私に怪我を負わせるには十分の威力ではあるが、工夫もない攻撃など避けることになんの苦労もない。
避けた後にその腕を掴み、投げてやろうかと考えていたのだが、今までとは腕に込められていた呪力の様子が異なったので、ただ回避するだけにとどめる。
拳を回避し、腰に刺しておいた木刀を握り、抜刀する。私の攻撃の中でも一、二を争う速度の居合斬りだ。真剣ではなく木刀であるため、僅かに速度は劣るが、それでも申し分ない速度。ガラ空きの胴に叩き込む。
しかし、攻撃が当たる直前で木刀が何かに引かれ、軌道が乱れた。
速度も落ちてしまい、容易く見切れるようになってしまったことで、この攻撃は呪力で守りを固めた悟に易々と止められてしまった。
だが、あの引っ張られるような感覚、あれは十中八九悟の術式の仕業だろう。無下限呪術、術式順転【蒼】。通常の無下限呪術を強化した“引き寄せる力”だ。
この模擬戦は術式の使用は禁止だ。それは悟も分かっているはずだというのに使い出したのはバレなければ使っていないのと同じということだろう。多分、楽しくなってきて使いたくなってしまったのだ。相変わらず我慢ができない子どもみたいだ。
じゃあ私も対抗してバレないように術式を使うか、ともに思ったのだけど、私の術式は炎を出すという非常に目立つものなのでそれは困難だろう。
かといって、このまま悟だけが術式を使うというのは私にとってとてつもなく不利だ。あの無下限呪術利用した打撃いや、いちいちそう呼ぶのはめんどくさいからとりあえず蒼拳と呼ぶことにする。
とにかく、蒼拳を使っているときは私が避けたとしてもその拳に私自ら当たりに行ってしまう。バレないように最小限で使っているからか引き寄せる力自体はそこまで強くなく、抵抗は簡単なのだけどその度に行動が制限されるのがとにかくうざい。
普段通りにギリギリで回避しようとすると必ず直撃することになるから少し大袈裟に避ける必要があるのも厄介だ。
あの吸い込みを利用した上で全力で殴られれば間違いなくメチャクチャ痛い。今は出力が弱めだからそこまでじゃないだろうけど、これが模擬戦ではなかったら出力最大で引き寄せられてやってらんねえよとなること間違いなしだ。多分それ食らったら私でも少しダウンする。
悟一人を相手にするのであれば対処の仕方はあったのだけど、今回は傑さんもいる。悟が術式をコッソリ使い始めたのも察したみたいで、それと合わせるような動きをしてくる。悟も悟で傑さんの攻撃が当たるようにサポートをしている。この連携は中々見事なもので親友であるというのがよく分かる。お互いに信頼し合っているのだろう。
まだ一度も攻撃を喰らっていないとはいえ、このままでは時間の問題だ。流石に術式を使用されたら基本的な技術だけでは対処しきれない。
なら、使うか。
別に使わないと決めていたわけではないし、これに二人がどう対応するのかも確かめたい。これは術式ではなく単なる技術な訳だからこの模擬戦のルールを破ることもない。よって、何の問題もない。
本音を言うなら私も術式を使いたいところではあるけれど、これは術式なしの模擬戦。バレないように使えるのなら何の問題もないのだけど、そうではないから仕方がないのだ。
これは今後の課題になるかな。バレないように術式行使が可能になれば戦いでもそれなりに有利になるだろうし、まだ先の話ではあるけど領域展開後の術式が焼き切れるというのを利用して不意打ちができるようになるかもしれない。
私の辞書に卑怯という文字はない。不意打ち、奇襲上等だ。使えるものは何でも使わないとね。
さてと、そろそろ仕掛けようかな。
木刀に先程までよりも多くの呪力を込め、二人を弾き飛ばす。
「【我流簡易領域】」