水着を着た後、どうしようかという話になり、先程の四人組からビーチバレーのコートがあると聞き、ビーチバレーをやることになった。
四人も誘ったのだけど、もうそろそろ帰るらしく断られてしまった。残念。
チーム分けは女子チーム男子チームだ。男女で分けるのは不公平だーなんて硝子さんと抗議してみたんだけど私がいるからイーブンだって言われた。反論はできなかった。
「ルールはどうしますか?」
「呪術なしであとは何でもありでいいだろ。21点先取で。あー、あとブロックはなしにしとくか。」
「デュースありの1セットでいいかな。あと、硝子は呪力の使用をありにした方が良いんじゃないかな。」
ということになったので、早速始めることにする。サーブをどちらが先にするかはジャンケンで勝った方。手の動きで判断できる私と目で判断できる悟はジャンケン禁止の令が出ているため、硝子さんと傑さんの戦いだ。
なお、硝子さんが負けてしまい、相手が先にサーブを選んだので私たちは先にレシーブだ。
サーブは悟がやるらしく、指の上でクルクルとボールを回している。この様子だと本気で打ってくるだろうから身構えておく必要があるだろう。あの二人は負けず嫌いだし本気でくるはず。さっき私に負けているから尚のこと。
ただ、開始の前に硝子さんに一言言っておく。
「最悪、真上に高く上げてくれれば私がどうにかします。」
「了解。」
そしてそこら辺にいた人に始めの合図だけ頼んであり、開始!という声が上がった。
「喰らえ!」
悟は初っ端からジャンプサーブ。素人がやるには難易度が高いはずなのだけど、そこは流石悟と言ったところで、容易く成功させた。
ボールは一直線に私の方へ向かってくる。私を狙ってくるだろうなとは思っていたが、ここまで露骨だとは思っていなかった。もう少しこう、コートの角を狙うとかはなかったのだろうか。これじゃあ簡単に取れてしまう。
まあ、正面に来たボールをレシーブし損なうわけもなく、フワリと綺麗に硝子さんの少し前の方に上げた。
「ナイスー!」
「クソッ!」
硝子さんと悟の反応が対照的だ。硝子さんは私が上げたボールの真下へと行き、悟はすぐさま守備の位置に移動した。
ネット近くへの高い山なりのトスが上がった。それを確認し、私は助走を開始。
勢いが乗りづらい砂地であるため、通常よりも踏切を意識する。助走の勢いをそのままに、上へ。
滞空中に相手コートの二人の位置を確認し、狙う場所を決める。悟はコートの左後方、傑さんは右前方。なら、狙いは——
ボールを捉える。
私の狙い通りに右後方へと鋭いスパイクを放った。だが、スパイクを打った瞬間、これは決まらないと分かった。
「はっ! 読めてんだよ!」
だって、悟が動いていたから。私が狙うであろう場所を予測していたらしい。悟はあっさりとボールに追いつき、レシーブしてみせた。かなり回転もかけて、速度もそれなりにあったはずだけど、そんなことは天才には関係なかったらしい。
容易く上げられたボールは傑さんがトスを上げ、悟がスパイクの体勢をとった。
が、これは恐らくフェイントだろう。体の動きがスパイクのそれではない。
私が腰を落とした様子を見て、悟が口角を吊り上げた。上手くいくとでも思っているのだろう。だけどそうはいかない。
「甘ぇんだよ!」
「甘いのはそちらですよ。」
予想通りに悟はフェイントで決めにきた。本当であれば効果的な手ではあるのだろうけど、それは読まれていなければの話だ。
「悟、さっきから上げられてばかりじゃないかい?」
「うるせえ!」
「あっはは!」
何だろう。こんなことをしたのは今までで初めてで、誰かとこんな風に遊んだことなんてなかったのに、どうしようもなくこの時間が楽しい。もっと、この時間を楽しみたいと思っている。
ああ、そういえば前世では楽しそうに遊んでいる人たちを見て、羨ましがっていたんだっけ。自分もみんなと同じように遊んでみたいと思っていて、結局は叶わなかった。だからこそ今この時間が楽しくて仕方がないのだろう。
私の今世の目標は幸福な人生を送ることだし、今はまさにその時間を送っている。
私はこの先の未来に地獄が待っているということだけは知っているけど、その詳細は覚えていない。私が覚えているのは主人公が特級呪物である宿儺の指を飲み込んだことから始まったということぐらいなものだ。
はたしてそれだけの知識でこの先やっていけるのかと不安に思うこともある。だけど、この楽しい時間のためなら、もう少しだけ頑張れると思うんだ。
そんなことを考えながら、私は全力でスパイクを打ち込んだ。
「痛っ!」
あ、傑さんの顔面に思いっきり当たった。痛そう。
「さあさあ男ども。約束通り私たちに奢ってもらおうか。」
試合には私と硝子さんのチームが33対31で勝利した。かなりの接戦だったし、白熱していた。そのせいかは分からないけど、20点目ぐらいから周りに人が集まり始めて応援が飛び交っていた。男子チームには女性の声援、女子チームには男性の声援だ。
私たちは全員顔が良いみたいだから異性に応援されることの方が多いのだろう。悟と傑さんが決めた時には黄色い声援ばかりだったし、私か硝子が決めたときは野太い声が多かった。
それで今は試合前に決めていた勝者が敗者にかき氷を奢るというルールの執行中だ。
味を感じることのできない私だけど、今みたいに暑い時に飲み食いする冷たいものは美味しいみたいな感覚を味わうことができるので、ちょっと楽しみだったりする。
「じゃあ私はブルーハワイで。」
「あ、私も同じものをお願いします。」
「俺も同じので。」
「私はいちごをお願いします。」
私はとりあえず硝子さんに合わせたんだけど、悟も同じらしい。で、違うのは傑さんだけ、と。悟が何か言いそうな気がするんだけど、どうだろう。
「一人だけ違うもの頼むのかよ。」
「食べたいものは人それぞれだと思うよ? わざわざ人に合わせる必要はない。」
「こういう時は揃えるもんだろ。」
「はあ、やれやれ。」
あらら、これは軽い喧嘩になりそうな感じ? この二人は頻繁に喧嘩しているみたいだし、硝子さんも見慣れているんだろうな。喧嘩する分には良いけど周りに迷惑かけるようだったら止めないとね。
「来いよ。そっちでけりつけてやる。」
「一人で行けよ。それとも私がいないと寂しいのかい?」
「あ?」
一触即発の空気。どう収集つけるのかなと観察していたのだけど、思わぬところからストップがかかった。
「ほら、四人分だ!」
ドン! とお盆に乗せられたかき氷が私たちの前に開かれた。その音は二人の争いを止めるには十分だったらしい。
「兄ちゃんたちも喧嘩は辞めな。どうせ名前が違うだけで味は変わんねえんだ、気にすることでもねえだろ。」
まあ、色が分からない私には関係ないことだったんだけど。
「ま、そういうことだよね。ほら男ども、金払え。」
硝子さんの言葉で二人は項垂れて、大人しく自分の財布からお金を出していた。
その際に、全員分払った方が潔くてかっこいいですよね、と私が呟いたらそれを聞いた二人がまた喧嘩しそうになったけど店主さんがさっさと払えと脅しをかけてきたので大人しく従っていた。
なお、食べたかき氷はとても美味しかったことをここに記しておく。