転生したら禪院家の女でした   作:苦鳴

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ちょっと1〜3個前の話のサブタイ変えました。


依頼

 悟たちと別れ、甚爾さん宅に着く頃にはとっくに日も暮れてもう夜10時ぐらいだ。中学生がこの時間に出歩いていれば補導対象だが、流石にそんなヘマはやらかさない。誰にも出くわさないように道を選んで帰ってきた上、私の見た目は少なくとも中学生には見られないという自信がある。

 

 ただ、問題があるとすればこの時間に帰ってきたことを瑠璃さんに咎められるかもしれないということだけだ。甚爾さんはそういうことは全く気にしないだろうし、津美紀ちゃんと恵くんはもう眠っている時間だろう。

 

 あらかじめ遅くに帰ってくるということは伝えておいたのだが、それでも中学生ぐらいの歳の女の子がこんな時間まで出歩いているとなると心配になるのだろう。

 

 心配するだけ無駄なのだけど、そういう人がいてくれるのは幸せなことなのだろうな。

 

 

 

 ガチャリとドアを開ける。玄関で靴を脱ぎ、なるべく大きな音を立てないように抜き足差し足で歩く。間違いなく寝ているであろう二人を起こすわけにはいかないのだ。

 

「おう、帰ってきたか。」

 

 まあ、甚爾さんにはバレるに決まってるんだけど。どれだけ音を消そうと努力してもドアが開く音は隠せないから甚爾さんの耳ならバレバレだ。とはいえ、バレたところでなんだって話だけどね。

 

「結構楽しかったです。たまにはこういうのもいいものですね。」

 

「なら良かったじゃねえか。ま、とりあえず風呂にでも入ってこい。」

 

「わかりました。ありがとうございます。」

 

 言われた通りに風呂場に行こうとしたのだけど、瑠璃さんが顔を見せないのでどうしたのかと思って甚爾さんに聞いてみたところ、二人を寝かしつけた後疲れて眠ってしまったらしい。育児って大変なんだなあと思った。

 

 

 

 

「やっぱり風呂は良いものですね。」

 

 風呂上がりに、リビングでくつろいでいた甚爾さんに向かってそう言った。

 

 私は風呂が好きだ。一日の疲れが癒され、体の中の汚いものが抜けて綺麗になっていくようなあの感覚。入浴というのは素晴らしいものだ。五感のうち二つが生まれつきない私でも触覚で楽しむことができるのだ。

 

 もし風呂が好きではない人がいたら正気を疑うだろう。日々の暮らしの中で疲れ切った体と心を癒してくれるのは趣味か入浴ぐらいなものではないだろうか。最近はシャワーだけで済ます人も多いと聞くが、それは実に勿体無いと言わざるをえない。5分とか10分程度湯に浸かるだけでも大分違うし、そのぐらいの時間はとった方が心にも余裕が生まれるだろう。

 

 呪術界から逃げおおせた後の私の夢の一つに温泉巡りがある。日本各地、世界各地の温泉を訪れてみたいものだ。湯によって効能とかも違うし、飽きることは一生ないだろう。

 

「ああ、そういやお前に依頼だ。」

 

 風呂に入ってポワポワしていた私の思考が甚爾さんのその言葉でクリアになる。

 

「内容は?」

 

「呪詛師の暗殺。」

 

 思わずへえ、と呟いた。基本的にそういった依頼は私ではなく甚爾さんに回されるのだが、今回は何かしらの事情があるのだろうか。あるいは私が東京に来ているという情報を得たからこそ私へ依頼してきたのか。

 

「本当は俺に依頼してきたんだがな、俺はもう予定が入ってんだ。で、その代わりにお前に依頼が来たってわけだ。」

 

「なるほど。」

 

 そういうことなら納得だ。今まで呪詛師の相手をすることはあっても殺すという指示はなかったから不思議だったんだ。子供だからとそういうことには抵抗があったのかもしれない。だけど今回、最初は甚爾さんに依頼が行き、その後に私に回ってきたということはそれなりに難易度が高いのだろう。

 

 甚爾さんは術師殺しとして有名だし、私もその弟子として界隈では有名になっている。依頼料はそれなりにするし、わざわざ依頼する人なんて金持ちかよっぽど相手が厄介かの2択だ。

 

 呪術師なんてやってる以上人を殺すことなんて別に珍しい話ではない。私が子供だから、とかそんな理由は通用しないのだ。何気に私は人を殺したことがない。そんな私に人が殺せるだろうか。

 

 殺せるだろうな。

 

 私の人生においては他人なんて基本どうでもいい存在だ。人間がアリを潰したところで何も思わないように人を殺したところで私は特に何も思わないのだろう。

 

 それは人としては褒められたことではないのかもしれない。だとしても、どうせ人間みんな自分が一番なんだ。自分のためならばなんの躊躇いもなく他人を蹴落とし、殺す。人間とはそういう醜い生き物だ。

 

 どれだけ社会が正しい、正しくないとを言ったところで私には関係ないのだ。私は私が生きたいように生きる、ただそれだけ。

 

「依頼料は後払いだってよ。受けるか?」

 

「受けますよ。ああ、ただ依頼料のことで相談したいことがあるんですが。」

 

「それは自分で連絡しろ。で、受けるってことでいいんだな?」

 

「はい。」

 

「向こうにお前が依頼を受けることにしたって言っとくから、明日にでも連絡してくんだろ。」

 

 本当なら携帯なんて持ってても使わないのだけど、電話ができないのは困るからという理由で電話用として携帯を所持している。写真機能とか普通の人だったら嬉しい機能が多いんだろうけど、目が見えない私には無用の長物だ。金もかかるし、電話機能しか付いてないものを買うのが私にとってはベストだった。

 

「とりあえず今日はもう寝ます。おやすみなさい。」

 

 というわけで使っていいと言われた客室に行き、一日を終えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして朝、早朝四時に起きて日課のランニングをしていた時に、ズボンのポケットに入れていた携帯が震えた。恐らく依頼についての連絡だろう。予想していたよりも早かったが、私としてもなるべく早い方が良い。

 

「はい、もしもし。」

 

『もしもし。』

 

「時雨さんですか?」

 

『おう。で、お前が依頼を受けるんでいいんだな?』

 

 時雨さんの声はいつもとは違い、私を気遣うような様子がみられた。私を心配しているのだろう。それなりに付き合いは長いし、心配するような実力じゃないと分かっているだろうから、“人を殺す”ということについて心配しているのだろう。

 

「ええ。なので依頼内容の詳細を教えて欲しいのですが。」

 

『それについては直接会って話す。場所は、そうだな。競馬場でいいか?』

 

「いいですけど、私一応未成年ですからね?」

 

 というか十四歳で女子中学生の年齢だ。JCだぞJC。そんなところに行ったら即座に叩き出されるよ。

 

『周りも五月蝿えし丁度いいんだよ。』

 

「はいはい。分かりましたよ。行けばいいんですね?」

 

『じゃあ、詳細は後で。』

 

 そのまま電話を切りそうな雰囲気だったので、思わず静止の声をあげる。怪訝な様子で私の次の言葉を待っているらしい。

 

 依頼料についてはなるべく早いうちに話しておいた方が私にとっても依頼主にとっても良いはずだ。

 

「依頼料についてなんですが。」

 

『そこは自分で交渉しな。仲介人に言ったところでなんの意味もねえよ。』

 

「向こう側にも悪い話ではないと思うので、とりあえず伝えていただければ。」

 

『まあ、一応聞いてやるよ。』

 

「払う金を少なくしてもいいので、呪具についての情報をくれませんか?って聞いていただけるとありがたいです。」

 

『お前呪具なんてほぼ使わねえだろ。』

 

 確かにそうだ。私の戦闘スタイルは基本的に刀を使うか無手かだ。そこに術式を絡めるとはいえ呪具なんて使わない。だから呪具を所有するだけの理由がないように思えるかもしれないが、そうではない。

 

「手札が増えるというのはいいことですから。それに、甚爾さんに仕事を頼んだ時の報酬にもなるかもしれないですから。」

 

 拡張術式のお陰でどれだけ大量の物資だろうと手ぶらで持ち運びできるし、持てるだけ持った方が得だろう。一回で自壊するという縛りでも結べば等級の低い呪具でも火力は出るはずだ。

 

『分かった。伝えておく。』

 

「お願いします。」

 

 人生初となる殺し。はたしてどうなることやら。




前話との落差が酷い。
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