転生したら禪院家の女でした   作:苦鳴

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罪の意識

 導火線に火が着いた爆弾を兵藤は振りかぶり、投擲の構えをする。気合いとともに絳禰が囚われた結界の内部へと投げ入れようと全身に力を入れる。

 

 だが、投擲の瞬間兵藤の体が硬直し、爆弾が地面に落ちた。

 

 驚愕の声を上げようとする兵藤であったが、声すらも出せず、そのまま地面に受け身も取れずに倒れた。導火線の火はまもなく爆弾へと到達し、大爆発を起こすだろう。だが、体を動かすことができない兵藤にできることは術式を使い身を守ることだけだった。

 

 その直後閃光と轟音。木々は倒れ、大地は抉れ、粉塵が巻き上がる。

 

 煙が晴れるとそこには傷だらけの兵藤の姿と無傷で佇む絳禰の姿があった。

 

 倒れ伏し死に体の兵藤の下に絳禰が悠々と近づく。対して兵藤の顔は苦痛と疑問で満ちていた。

 

 先程までなんの問題もなく動けていたはずの体が突然動かなくなり、自身の決め手だったはずの爆弾で術式で身を守ったとしてもそれを容易く貫通する痛手を受けたのだ。

 

 そして敵である絳禰はまったくの無傷なのだ。あの結界は中からの攻撃は通さないが、外部からの干渉は素通りするというものだった。であれば、防御に秀でた術式を持たない絳禰の方がダメージを喰らうはずなのだ。だというのに実際は擦り傷さえ負っていない。

 

 なぜなのだ、とそんなことばかりが頭に浮かぶ兵藤だったが、気づけば絳禰が自身の前に立ち、見下ろしていることに気づいた。兵藤からは絳禰がどんな表情をしているかは見ることが叶わないが、自身が見下ろされているという事実に屈辱を感じた。

 

「何が起こったのか疑問に思っているでしょうから、一から説明してあげますね。」

 

 なぜ突然体が動かなくなったのか、なぜお前は無傷なのか。

 

「まあ、簡単な話ですよ。あなたの体の全身に毒が回っただけの話です。いつ毒を盛ったのかという疑問の答えはあの煙です。あの煙は目眩し用ではなくあなたに毒を吸わせる目的で使ったんですよ。」

 

 兵藤がそれを聞いて思ったことは納得であった。自身の術式を破る手段があるのであれば目眩しなど使う必要はなかったはずだからだ。だが、同時にもう一つ疑問が湧く。その毒で自身を殺さなかったことだ。しかし、絳禰はその疑問も同時に解消するようだ。

 

「毒を使って殺してしまえば死後に呪霊になる恐れがありますから、やるなら自分の手でやらなくてはいけなかったので、このような面倒な手を取らせてもらいました。」

 

 術師の死後、死因が呪いによるものでなければ呪霊となるケースが稀にある。絳禰の記憶にはもう既にないが、原作では禪院直哉が自我も残した上で呪霊となった。そして呪霊となった後と前とでは、なった後の方が強く、兵藤が呪霊となった後でも同じことが起こると予想される。

 

 反射などという厄介な術式を持った呪詛師が呪霊となればその厄介さはとてつもないものとなるだろう。絳禰としてもそんなものを相手するのはごめんだった。わざわざ仕事を増やすような真似をするはずもないのだ。

 

「爆発に関してですが、私にはそもそも熱とかそういった攻撃は通じないのですよ。それはそれとして、慣れない拡張術式を使っていたからか自身の守りである反射を疎かにするのはいただけませんね。」

 

 兵藤は拡張術式を使う際、ある一つの縛りを結んでいた。自身以外を術式の効果対象にするなど、兵藤の実力では不可能だった。だから、それを成すために自身の守りを弱めた。自身に使っていた反射の上限を他のものに術式を使っている間は下げるという縛り。それにより普段であれば軽々反射できるような威力の爆弾でも重傷を負ったのだ。

 

「まあ、その術式がなければあなたはもう死んでいたわけですし、産んでくれた親にでも感謝するといいんじゃないですかね。」

 

 その言葉は兵藤にとっては何より許しがたい言葉だった。兵藤にとって親とは、自身を虐げてくる恨むべき相手だった。そんな奴らに感謝をするなど何があったとしてもありえないことだ。

 

 そしてそれをするように促してきた絳禰が憎かった。今すぐこの手で殺してやりたかった。自身の快楽のためではなく、呪詛師として一人の人間を呪い殺したかった。

 

 だが、その体は動かない。毒を盛られ、体は痺れて動かない。爆発を防ぎきれず、体はボロボロだった。反転術式で傷を癒そうにも頭がうまく働かず、正の呪力を練ることができない。だんだんと意識はボンヤリとしていき、今にも途切れそうだ。

 

 体は動かず術式の維持も不可能。もう、死ぬしかなかった。

 

「せめて苦しまないように殺してあげます。」

 

 嫌だった。

 怖かった。

 苦しかった。

 

 自分が死ぬという状況に陥ってようやく兵藤は自身の罪を自覚した。

 

 死とはこうも恐ろしいものだったのかと、今まで殺してきた人たちも同じ気持ちだったのだと。

 

 兵藤の目には幻影が見えた。今まで殺してきた全員が凶器を持って自身に襲いかかってくるというげ幻影を。

 

 兵藤は恐怖のあまり声を上げる。しかし喉が震え、それが言葉になることはなかった。命乞いの言葉を告げることができず、刃が振り下ろされるのを赤子のように震えて待っていることしかできなかった。

 

「さようなら。」

 

 その言葉を最後に、兵藤の意識は永遠に途切れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 面倒な相手だったけど、割とすぐに終わったかな。反射の術式自体は強力だったんだけど、それを使う人間がそこまでだった。呪力という最大の弱点を補ったことでもう問題ないと判断したのだろう。

 

 実際反射の術式はほぼ無敵みたいなものだし、勘違いするのも分からなくはないけど、何にでも攻略法というのは存在しているのだからそこで思考を止めちゃいけないんだよ。

 

 今回でいえば毒。呼吸で吸い込むものには反射なんて作用しない。食べるものや飲むものに毒を仕込まれても同様だろう。術師だから毒で殺した場合呪霊になるかもしれないという前提がなければ、今回の仕事もどこかで適当にご飯に毒を盛れば終わる話だった。

 

 別に馬鹿正直に真正面から戦う必要なんてまったくないのだ。呪霊を相手にしているならまだしも人間相手であればいくらでも殺す方法はある。甚爾さんにそういう手段はたくさん教わっているしね。教えてもらっている時は流石術師殺しだなあとか思ったりもした。まあ、甚爾さんの場合は天逆鉾で大体なんとかできるんだけど。

 

 人間、あるいは知能の高い呪霊は厄介だが、だからこそ通じる手もあるのだ。高い思考能力を有しているからこそ逆にそれを利用することができる。

 

 多分、私の手札的には人間を相手にするのが一番強いかな。あまり規模の大きくない地味な、でも強力な手札を多く持ってるわけだし、周囲の被害とか面倒な問題もスルー可能だ。

 

 

 それにしても、初めて人を殺したわけだが、特に何かを思ったわけでもなかったな。一度自分が死を経験しているから他人の死に立ち会っても何か思うことがあると思っていたのだが、結局他人は他人ということだったのだろう。

 

「……とりあえず報酬を貰いに行きますか。」

 

 死体は要らないと言われたため、仕事を終えたことを証明できるものをいくつか持ち、残りは遺体も含めて全て燃やして灰にした。

 

 立ち去った私の後ろで灰がサラサラと風で流されていた。




前回簡易領域の説明をしていたのは煙から意識を逸らすためと毒が効かなかった場合の保険として出力を上げるため。
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