あれ懐玉・玉折の後に投稿するつもりだったのに。寝ぼけて投稿したのかな……。
「さて、呪術についてお話ししていきましょう。」
「「お願いします。」」
甚爾さんの家に帰った私は、私はいらないなと思った手錠を甚爾さんに渡し、約束通り恵くんに呪術について教えることとなった。
ちなみに手錠を渡した時の甚爾さんの反応は普通だった。まあ使いようはあるから貰っとくか、とのことだ。私はそれの上位互換みたいな呪具を持っているからいらなかったけど、甚爾さんなら上手く扱うだろう。
その後に甚爾さんに呪術について教えるように頼まれて、元々そのつもりだったこともあり今こうして教えているというわけだ。恵くんだけでなく津美紀ちゃんにも教えているのは、恵くんがこの世界に入ってくる以上、彼女も無関係ではいられないからだ。知識を持っているだけでも大きく違うものだ。
「では、呪術とは何かについて説明します。」
なるべく子供にも分かりやすいように説明しないといけないから難しいと思うけど、できる限り頑張ろう。
「簡単に言えば、呪術とは呪力を使った技術のことです。ああ、呪力についても説明しなくてはいけませんね。」
「呪力とは人が生み出す負の感情、つまりは怒りや憎しみといった気持ちから作られます。呪力は全ての人間が持っているものです。それを知覚し、コントロールできる人間が呪術師と呼ばれます。呪力総量は人によって異なり、本人の才能に左右するといっても良いでしょう。呪術師は才能が八割と言われる理由の一つがこの呪力です。」
ほんと、私は呪力多くて良かったよ。それだけは禪院家に感謝かな。
「でも、お父さんは呪力がないって言ってたよ?」
「甚爾さんは特殊な例です。それについても後で説明しますが、今は続けます。」
あのバグみたいな人を例にしてはいけない。統計を取るときも一つだけ大きく離れている外れ値は省いて計算するのが普通なのだから。
「この呪術で何ができるか、それは呪霊というものを祓うことができます。呪霊は通常の手段では攻撃を通すことができません。お巡りさんが持っている銃を使ったところで傷を負わせることすらできないんです。呪いは呪いでしか祓えないとはこういうことですね。」
「じゃあ呪術が使えない人は逃げるしかないってことか?」
「そもそもの問題なんですが、呪術師ではない人に呪霊を見ることはできないんです。」
「何で?」
「呪霊というのは、先程言った呪力が集まって生まれた存在です。人が抱いた負の感情がある場所に溜まり、その感情が大きければ大きいほどより強力な呪霊となります。」
もし自然災害などに向ける恐怖から生まれた呪霊がいればそれは間違いなく特級呪霊だろう。それも相当強力なはず。私が生きてる間にそんなのが生まれてこないといいなあ。
「まあ要するに、呪霊というのは呪力の塊みたいなものなので、呪力を知覚できない人には見えないということですね。」
「なるほど。」
「では、本題の術式について説明していきましょう。」
「俺にもあるんだよな?」
あるよ。それも術式ガチャ大当たりの十種影法術だ。正直羨ましい。色々と面倒なことになりそうなことを加味してもその術式のポテンシャルは焦眉之糾とは比べ物にはならない。
「そうですね。……折角ですから実際に使ってみましょうか。今式神を呼び出すことはできますか?」
「分かった。」
私がそう言うと恵くんは手で犬の形を作り、呪力を高めた。
「来い、玉犬。」
二匹の犬が現れる。毛並みはフサフサで、影だとはとても思えない。かなり大きな犬だから人によっては怖いと感じるかもしれないけど、私は可愛いとしか感じない。本当は白色と黒色とで違う見た目なのだが当然私はそんなことわからないわけで、この子たちの区別はつかない。呪力も同一のものであるため、だめなのだ。
多分、全部の式神が呪力的には同じだろうから、ただ呪力を感知しただけでは区別はつかない。それは戦闘においてはそれなりに有利だろう。まあ、相手の術式によってはそれが不利に働く場合もあるだろうし、結局は相性と本人の運用しだいか。じゃあ、ビシバシ鍛えていこう。
「大きなお犬さんだね。」
見た目は犬というより狼じゃないか? 実際に見てるわけじゃないからなんとも言えないけどその大きさで牙と爪が凶悪な犬とかもはや狼だと思う。デフォルトでこの式神がついてくるっていうんだからそれだけでも当たりだよね十種影法術。
羨まし———くないわ。
そんな術式持ってたら私の場合は完全に子供を産むためだけの孕み袋として扱われてこんなに自由にできなかった気がする。やっぱ禪院家はクソ。はっきり分かんだね。
「玉犬は今の二人よりも全然強いのでもし何かあったら頼るといいですよ。」
「はーい。」
「ただ、式神に頼り切りになると自分が狙われた時に対処ができなくなるので最優先で自分自身の強化をします。結局最後にものを言うのはフィジカルですから。」
恵君が式神を呼び出すのは影絵を作る必要があるため、指が一本でも欠損すれば呼び出さない式神が出てくるかもしれない。反転術式が使えるようになれば話は別だけどそうでなければ式神がいない時の想定はしておいた方がいい。
結論は呪力を込めてぶん殴れ。やはりパワー。パワーは全てを解決する。だからこそ天与の暴君は化け物みたいな強さを誇るわけだ。手先も器用で頭もいいとか欠点ないな甚爾さん。ギャンブルが下手なこと以外。私も天与呪縛なら五感とか呪力回復じゃなくてフィジカルギフテッドが良かった。禪院家での扱いも誤差みたいなものだろうし。
「子供の頃から筋トレをしていると成長に影響するらしいのでその辺りは徐々にですが、体の使い方を学んで持久力をつけていきます。まあ、とりあえず鬼ごっこでもしましょうか。」
「鬼ごっこ? 遊びがしたいわけじゃないんだけど。」
「子供扱いしないでほしいな。」
二人して私の提案に文句を言う。言いたいことは一応わかる。鬼ごっこなんて子どもの遊びなのだから自分たちも子供扱いで本気で鍛える気がないと思われたのだろう。だけど私はそんな無駄なことはしない。鍛える気がないならそもそも引き受けるつもりはないのだから。つまり鬼ごっこをしようといったのもそれなりの考えがある。
「そういった反応をすると思ってましたよ。ですがこれにはちゃんと意味があるんです。」
私がそう言うと二人は納得はしてないけどとりあえず話は聞いてみようという雰囲気で私の方に向き直った。さて可愛らしい生徒たちがちゃんと話を聞く体勢になったところで軽く説明といきますか。
山の中を二人の子供が駆け抜ける。私の中ではフィジカルギフテッドが基準になっているから遅く感じるがこの年齢であればそんなものだろう。木々が生い茂り、凹凸した山道を走る二人を追いかけるのは蜻蛉のようなもの。ようなもの、と言ったのはその大きさが30センチほどあるからだ。蜻蛉は空中で一回転なんてして遊びながら二人を追いかける。
蜻蛉の速度は二人よりも少しだけ遅い。それでも空を飛ぶことができるというアドバンテージは凄まじい。
「うわ! 追いつかれる!」
二人が躓きかけた根っこも空を飛べる蜻蛉には関係がない。小回りを活かして確実に追い詰めていく。
「何楽しそうにしてんだよ。捕まったらおやつ抜きの上に親父と組手なんだぞ! あのゴリラと組手なんてできるかよ!」
津美紀ちゃんの楽しげな声が聞こえる。それと対称的に恵君は嫌そうな声だ。やっぱりこういう遊びには罰ゲームがあった方がやる気が出るものだろう。ただおかしいな。甚爾さん手加減とか上手いからそこまで必死になる理由はないと思うんだけど。
呪力を細い細い糸のように操作して指先で糸の先のものを操る。実際には呪力の糸なんてものは存在していないがイメージを固定するために糸繰り人形を参考にした。これをしていると私の呪力操作を鍛えることもできるし、二人の体力も鍛えられて一石二鳥というわけだ。そのうち最適な走り方も身につけるだろうから三鳥かな。
糸の先にあるのは蜻蛉。私が偵察役兼特攻生贄役として作り出した式神である。ちなみに種類は秋茜で名前は夕日。赤色の蜻蛉だし炎のイメージとも被っているからちょうどいいかと思ってそうした。なお一度もこの式神が活躍したことはない。実質この鬼ごっこが初お披露目である。心做しか夕日も楽しげだ。これまで一度も使って来なくてごめん。これからも使うことはないよ。
などと考えながらも操作は淀みなく行う。二人がこのままでは追いつかれてしまうと思うような距離を維持し、適度にあと少しのところまでいかせる。余程速度が落ちたりしたら流石に捕まえるが、そうでない限りは捕まえない。あっさり捕まったら楽しくないから最初はこの方向性で行く。何をするにも楽しい方が長続きするものだ。何度かやっていればいずれはバレるかもしれないがしばらくはこのままで行こう。
さて、これが終われば朝におじいちゃんおばあちゃんがよくやっている太極拳でもやらせようかな。