転生したら禪院家の女でした   作:苦鳴

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扇さんの焦眉之急はこの小説ではあれは蒼炎だったということでこのまま進めます。きっとあれは炎を全て束ねて炎に見えないほど凝縮されているということなんでしょう。


邂逅

 昨日は素晴らしい一日だった。あの後いくつかゲームをやったがどの試合も私が一位で終えることができ、私の手持ち金は膨れ上がった。まあ、これだけ膨れた金も等級の高い呪具を買えばすぐにすっからかんになるわけだけど。ただ金は金。違法賭博で儲けた金だろうと使うものは使う。というわけでちょっと奮発して高い肉を買って帰った。私が食に金を使うのは無駄だけど他の人のためだったら問題ないよね。

 

 素寒貧になった甚爾さんは私に金を借りて今日は競馬に賭けに行った。負けてくるんだろうな、という確信はあったけど私のことではないので笑顔で送り返した。

 

 そして私が何をしているかというと東京観光だ。本当は二人に稽古をつけようと思っていたのだけど平日は小学校があることを忘れていた。瑠璃さんもパートで家にはいない。というわけで洗濯と掃除を終えた私は暇なのだ。一週間ここに滞在する予定だったのでもちろん初めから計画は立てている。絶景とか私が楽しめないものは全部消去して雰囲気が楽しめる場所。まあつまり日本庭園とかそんな場所だ。

 

 こうして縁側に腰掛けていると心が落ち着く。普段は気を張り詰めているからこういう場所だと心置きなくリラックスできる。

 

 風の音に水の音、虫の音、木々の揺れる音、自然の発する声を聞きながら冷たい水を飲む。普段何とも思わずに飲んでいる水もこうして飲むと美味しく感じるから不思議なものだ。ここまで軽く走ってきたから体が熱っており、そこで冷えたお水を飲むというのは味覚がない私でも楽しめるものだ。

 

 そしてそこら辺のスーパーで買った串団子の元。各ご家庭できな粉やあんこをかけるようなのだろうけど、私にそれは必要ない。何も乗っていない素材そのままとも言えるその団子を私は口に運んだ。暫し団子を口内で転がしながらその食感を楽しんだ。

 

 そういうものとして食べれば餅や団子などのもちもちと弾力のある食感は私の口を喜ばせてくれる。欲を言えばこれにみたらしの味でもついていればよかったのだけど、今はどうしようもない。私は自然と人の技術が作り出した静かな空間で六本ほど購入した団子を一つ一つゆっくりと食べ進めた。

 

 団子も食べ終わり、縁側に寝転がるという人がいれば迷惑極まりない行為をしていたところ何人かの少女の声がした。多分私と同じぐらいの年齢だろうか。中学校の地域の調査みたいな時間で来たらしい。そこまで聞いて私は盗み聞きは良くないなと意識からその声を排除した。まあ、午前中からこんなだらしないことをしている人間がいる場所にやってくることはないだろう。

 

 ……などと思っていたのだけど、私の予想に反して彼女たちは私のいる建物の方へ向かってくる。ここは公共の建物だから私が占有しているわけではないのだけど、わざわざこんな格好をしている人間のところに来る理由がわからない。姿が見えなかったというのなら話は別だけど。

 

 カラカラと引き戸が開く音がする。それに伴って話し声が一層大きくなった。本当に楽しそうな声だ。こういう場所であっても友人とともに訪れるのであれば楽しい記憶になるのだろう。

 

 人が訪れたのだからこのだらしない姿勢をやめてちゃんと座る———なんてことはなく、私は少女たちの一団をあまり気にしないようにしてそのまま寝転がる。こうして寝転んでいるとお日様の光が暖かい。ポカポカと陽気な天気はお昼寝日和というやつだ。少しだけここでお昼寝をしていくのも悪くないかなと私は思った。

 

 そんな私のふわふわとした気分は一つの声に遮られた。

 

「あの、すみません!」

 

 声をかけてきたのは先ほどの少女たちの中の一人だ。まさか声をかけてくるとは思っていなかったから驚きだ。穏やかな気分に入ってきたことは少しだけモヤっとしたけれど、それ以上に好奇心が膨らみ、気にならなかった。

 

「何?」

 

 声をかけられたというのに寝転んではいられない。緩慢な動きで私は上体を起こし、話しかけてきた真意を尋ねる。

 

「私たちとお話ししませんか!」

 

 ……どういうことだろうか。わざわざ知らない人間に話しかけて話したい? 意図がつかめない。

 

「ほら、お姉さんも困惑してるでしょ。迷惑だろうから行くよ。」

 

「やだー! 綺麗なお姉さんとお話ししたいー!」

 

 今のやり取りで大体のことは理解した。五人組の一団の中で私に声をかけてきたこの子が他を引っ張ってきたらしい。それにしても綺麗なお姉さん、か。

 

「まるでナンパだね。」

 

「ち、違いますよ!? ちょーっとお話がしたいなーって思っただけですから!」

 

「それがナンパっていうのよ。」

 

 ナンパか。生まれて初めてされた。特に危険もない出来事だし、少し面白がっている自分がいる。ビーチなどのありふれた場所ではなくこんなお座敷で、それも男ではなく同性の女性からだ。こんなナンパは他にはないのだろうか。

 

「それで、ナンパ師さんはどうやって私を誘うの?」

 

「え、あ、え?」

 

 私が少し揶揄うように誘いにのったかのような言葉を発すると彼女は面白いように動揺した。

 

「あの、本気にしなくていいですよ。この子、綺麗な女の人が好きなだけなので。」

 

「うーん、お誘いに乗ってもいいけど、私は目が見えないから辞めた方がいいんじゃない? ナンパするならもっと他の人にしな。」

 

「何言ってるんですか! そんなの些事ですよ些事!」

 

 熱意がすごいなこの子。ただ、ここまではっきりと褒められて悪い気はしない。彼女は私を褒め殺しにする勢いでお誘いしてくる。それを友人たちは迷惑だからやめなさいと宥めている。その光景はとても微笑ましく思った。だから普段であれば絶対に行かないのだけど、珍しくついて行ってもいいかなんて思った。

 

「ねえ。」

 

「はい?」

 

「あなたたちみんなが迷惑じゃないというのであれば誘いに乗ってもいい?」

 

「大歓迎ですよ!」

 

「あんたは一旦黙ってて。」

 

 騒がしい一人を除いた四人は顔を突き合わせた。その間ただ待っているだけ、というのも退屈だったからその一人と話をした。好きなものは何か、何しにここに来たのか、といった単純なものだけど、私が何かを言うたびに彼女は楽しそうに笑っていた。

 

「先生に聞かれたらこれも社会体験、てことでよろしくお願いします。」

 

 思いの外話し合いはすぐに終わったらしい。正直断られると思っていたのだけどいいみたいだ。じゃあそれも楽しそうだし着いて行こうかな。

 

「じゃあ、私ここら辺には慣れていないからエスコートはお願い。」

 

「任せてください!」

 

「ああ、それと自己紹介してなかったね。私の名前はあかね。明るい音って書いて明音。よろしく。」

 

「はい! 私は佐藤由花です! よろしくお願いします!」

 

「私は葉山藍です。」

 

「私は日佐宮子。」

 

「幸田鏡花です。」

 

「私は天内理子です。」

 

 

 

 …………星漿体がいるじゃないか。

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