シャドウガーデン第1のモブ   作:ことのはだいり

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 鋼(スライム)、草(お薬)タイプ。


第10話 滅相もない、こいつは各能力値が74-94-131-54-116-20しかなく、使える技も『どくどく-じこさいせい-ぜったいれいど-だいばくはつ』しかないモブでございます

 己の反省に限界を感じ、悩みに悩み抜いた結果。

 彼女がたどり着いた贖いは。

 感謝であった。

 自分自身を育ててくれたアルファへの限りなく大きな恩。

 自分なりに少しでも返そうと思い立ったのが。

 一日一万発、感謝のスライムカッター!

 魔力を整え、拝み、両の掌の間でスライムを圧縮。

 祈り、構えて、放つ!

 一連の動作を一回こなすのに当初は8〜9秒。

 初日は一万発を放ち終えることができなかった。

 終わらなければ倒れても寝させない。

 薬を飲んでまた放つを繰り返す日々。

 二週間を過ぎた頃異変に気付く。

 一万発放ち終えても日が変わってない。

 齢50を超えるまで続ければ完全に羽化していただろう。

 しかし30年以上40年未満もシャドウガーデンがこいつを放っておくはずもなく。

 8〜9秒かかっていたのが確実に8秒でできるようになったところで、強者との戦闘中にやるには大き過ぎる隙であることに変化はなく。

 結論から言って、あまり意味のない過酷なだけの修行であった。

 8番はもっと睡眠をとった方がいいんじゃないか? 今際の際だぞ。

 

          ◯

 

 有給休暇の申請は一ヶ月以上あったが、そんなに長く不在にされると困る上に心配であるため、シータと8番が同一人物であると知るニューに命じて迷子を探させた。

 およそ二週間後にシータを発見したニューによると、シータは一日中スライムカッターの練習をしているのだという。

 最初はまさか有給休暇をとってやることが修行だなんてストイック過ぎるわと呆れ、そういえばシータが遊んでる姿を見たことがないなと思い至り、もしかして遊び方を知らないのではと驚愕し、今までその事実に気付けず遊び方を教えてやれなかった私が悪いという結論を出してアルファは曇った。

 とはいえせっかく頑張ってるシータに訓練を止めろと言えばやる気を削いでしまうに違いない。

 シータの頑張りを無駄にしないためにできることは何か。

 考え抜いた末にアルファは訓練の成果を確かめる機会を与えてやることにした。

 

「デルタ。任務を頼んでもいいかしら?」

 

          ◯

 

「アルファ様がシータ倒せって言ったのです。だから今から戦うのです」

 

 デルタ様の宣告を聞いて、アルファ様がパーティーを台無しにした罪で私に死刑判決を出したのだと悟った。

 即座に手持ちの即死毒を煽ろうかと考えたが、アルファ様が執行人としてデルタ様ほどの方を送ってくださったのだ。デルタ様の爪で首を落とされることで私の最後の奉公とすべきだろう。

 ぺたんと地面に座り込み、俯いて首を差し出す。しかし断頭台の刃はいつまで待っても落ちてこない。

 

「シータ何してるです?」

 

「ひと思いに切り落としていただこうかと」

 

「それじゃデルタが任務に失敗する! アルファ様、シータと戦えって言った!」

 

 なるほど、醜く足掻いて嬲り殺しにされろというわけですね。

 だったら盛大な死に花を咲かせることにいたしましょう。

 私は残っている気分が良くなる薬を全て飲み込む。致死量を飲んだので明日には死ぬが、どうせ今際の際だから関係ない。

 テンション上げろ!

 私の生前葬だ!

 デルタ様を前にスライムを圧縮する余裕はないが、私は普段から圧縮済みのスライムをいくつか携帯している。

 これでどうにか隙を作って外殻形成までやり遂げなければ、アーティファクトでこの場を見ているはずのアルファ様に何の見所も用意できないまま私はデルタ様に瞬殺される。

 そんな終わり方は望まない。

 だからさらに卑怯な手を使う。

 予想通りデルタ様は搦め手を使わず正面から突っ込んで来た。その進路上に投げた一発目の圧縮スライムを、吹き飛ばし効果に重点を置いた調整で解放、爆発させる。

 デルタ様は軽い爆発程度では怯みもしないが、私の目的は私自身を吹き飛ばして距離を開けること。

 私は爆発の衝撃で骨が数本折れた。この程度は必要経費だ。目論見通り戦闘開始時点より距離を稼げたのだからお釣りがくる。

 薬の瓶を投げ、それをスライムカッターで打ち抜き、そのままデルタ様に当てる。デルタ様は不意打ちでスライムカッターを放っても頭や心臓など重要な部分を絶対に逸らす。それでも手足の先に掠らせるだけなら可能だし、薬液を注入できれば十分だ。

 イータ様特性、微量の投与でクジラとか動けなくする強力な睡眠薬だ。デルタ様なら数秒で解毒してしまうとは思うが、この距離に数秒が加われば私は8番からシータになれる。

 そんな私の考えは楽観的過ぎた。

 睡眠薬を受けてなおもデルタ様は問題なく動き、スライム爪で私の腹を抉り飛ばした。

 

          ◯

 

 8番の魔力探知範囲の僅かに外にある高台から、観客たちが双眼鏡を使って模擬戦闘の見学をしている。

 

「これって……」

 

「ええ。デルタの勝ちね」

 

 暴君の爪痕、8番の柔肌に刻む!

 

          ◯

 

 必死に魔力を巡らせて風通しが良くなった腹を修復していく私の前で、手足を広げて仰向けに寝転んだデルタ様が気持ち良さそうな顔で寝ている。

 色々と想定外は起きたがイータ様の睡眠薬は私の期待以上の効果だったらしい。

 まさかあのデルタ様と敵対しておきながらシータになる前に決着が付いてしまうとは。拍子抜けだ。

 しかし、まだ終わりではないらしい。

 私の魔力探知が新たな魔力を察知した。

 

          ◯

 

「何か発明したら報告しなさいっていつも言ってるでしょーが!」

 

 ベータがイータの肩を掴んで揺さぶる。

 

「んー……ベータがシータみたいに実験を手伝ってくれたら考える」

 

 この場にいる全員が、アルファすら把握していない強力な睡眠薬をシータが所持していた理由を察した。

 

「ベータ、今はいいわ。これで終わったらあの子も物足りないでしょうし、もう一戦追加よ」

 

 デルタの寝落ちを悼む暇もなく、戦地に投入されたのは。

 13番目のナンバーズ——ニュー。

 

          ◯

 

「シータ、あなたの胸をお借りします!」

 

 えっ、おっぱい?

 しまった……おっぱいに反応したせいで外殻張り損ねた。

 そうか、どうせもう始末するから、シータの正体を隠す必要がなくなったのか。

 しかしデルタ様に続いてニュー様とは、アルファ様はらしくないことに私の傷の深さを見誤ったらしい。

 確かにニュー様は強い。ディアボロス教団は男ばかりだし、シャドウガーデンはエルフと獣人ばかりなので、おそらくニュー様は人間の女性としては世界最強だ。人間の域を超えた唯一の人間の女性と言ってもいい。

 それでも、禁じ手なしの私をナンバーズの手で処刑させたいのだとすれば、戦力の逐次投入なんてせずに残る全ナンバーズを一斉に投入すべきだった。

 まあ結局、今の持ち札を考えれば、そうなっても勝つのは私だが。

 

          ◯

 

 模擬戦のつもりで来ていたのに、初手不意打ちで撒き散らされた媚薬を吸って戦闘不能となったニューの淫靡な呻き声に耳を塞ぐ暇もなく、戦地に投入されたのは。

 堅実——ベータ。

 緻密——イプシロン。

 彼女たちが到着するまでの僅かな時間、8番は先程おっぱいに動揺して展開し忘れた外殻を完成させた。

 今ここに姿を現し、戦地に君臨したのは最強のナンバーズ。

 魔球——シータ。

 戦闘をあくまで仕事と割り切り、過去の敗北以来今なおシータの要塞を破壊する目処を立てられずにいたベータは、戦闘不能二名を救出して撤収。

 シータに挑むは、あらゆる分野で一番を目指す向上心と巨大な偽乳をその身に宿した七陰の一柱。有用でありながら誰もやらない……否、誰も実現できない魔力による遠隔斬撃を極めつつある怪物。

 

「天然が戦わずして敵前逃亡した今、あなたを倒せば明確に格付けが決まる。勝つのは……この私!」

 

 魔力の斬撃を雨霰のように放つイプシロンの神技が戦場を平坦に変えた。

しかし巻き上げられた土煙の中から現れし、その黒い球体に傷ひとつなし。

 反撃の一閃で偽乳を切り飛ばされた瞬間に逃げ出したイプシロンを呼び戻す暇もなく、戦地に投入されたのは。

 七陰筆頭——アルファ。

 

          ◯

 

 イプシロン様との激戦を経てなお死なずにいる私に業を煮やしたか。

 ついに私の待ち望んでいたお方が、私を処刑するために来てくださった。

 これでようやく死ねる。

 いい人生だった……。

 

「前みたいにわざと負けたら怒るわよ! 全力でぶつかり合いましょう!」

 

 ようやくアルファ様から死を賜わるのだと感極まっている隙をつかれて、先んじてそんなことを言われてしまった。

 戦場はイプシロン様によって障害物が排除された屋外。スライムカッターの射線を遮るものはない。

 相手はアルファ様。

 私は既に死が確定した身なので、もうこれで終わってもいい、だからありったけを……と愛を振り絞って作った史上最硬のスライム要塞内に身を隠している。

 なんだこの状況は?

 オイオイこれじゃ……私の勝ちじゃないか。

 実は私はシャドウ様の最大の攻撃を受けても一撃だけなら耐えたことがある。アルファ様への愛はシャドウ様のお力すらも超えて私の身を守ってくれたのだ。

 私はアルファ様こそが至高の存在であると確信しているが、アルファ様の戦闘力がシャドウ様に及ばないという事実だけはアルファ様本人が認めているので私も認めている。シャドウ様でも破れないものをアルファ様が破れないことは確実だ。

 つまり私は絶対的な安全地帯から一方的に攻撃できるのだ。負けようがない。

 そしてこの場で勝利を得た場合、明日にも私はイータ様の薬の過剰摂取で命を落とす。

 そんなの嫌だ!

 アルファ様にはちゃんと私を殺す瞬間を記憶していただいて、私が死んだ後もしばらく……100年以上は引きずっててほしい!

 だから私に負け筋を作るためにも、私は一見強化のように見えて実は弱体化する技を使うことにした。

 

「——性癖転換」

 

 私は指を合わせて心の形を作り、それを逆転させて心を切り替える暗示をかけた。

 球状の外殻が私の肌に密着し、つやつや黒光りする虫の外皮のようになって私を覆う。その姿、人型に進化したゴキブリのごとし。

 この姿になる利点は特に無い。外殻の硬さは変わらず、むしろ複雑な形状変化のために集中力を奪われる。表面積が減るのでスライムカッターの射出起点も減る。あえて利点を探すとすれば、見た目のキモさで威圧できること……そして四肢が自由なので戦闘のどさくさ紛れに抱き着きを狙えること。

 どうせ死ぬんだ!

 そのぐらいの欲を出してもいいだろう!

 性癖転換の暗示はここで臆さないためにしたんだ!

 今の私は受けじゃない……攻めだ!

 頭の中で瞬時に如何にして寝技をかけるか検討し、生涯最高の動きでアルファ様に迫った私の抱擁は……しかし黒の乱入者に阻まれた。

 

「我が名はシャドウ! 陰に潜み、陰を狩る者!」

 

          ◯

 

 シータの修行の成果と思われる姿についつい言い放ちかけた「気持ち悪い」という言葉をアルファが必死に飲み込んでいたために動けずにいたその一瞬、なんか乱入してきた陰の実力者。

 魔力の輝きに脳を焼かれ、前世にてトラックのライトを魔力と思い込んで突撃し、魔力に満ちたこの世界に転生せし者——シャドウ。

 アレクサンドリアに遊びに行き、留守番のゼータに聞いて七陰の何人かがシータと戦闘訓練していると知ったシャドウはリベンジをするべく馳せ参じた。

 シャドウはとある難題の答えを探し求めている。

【問題】核で蒸発しないためには?

【答え】核になればいい。

 これがシャドウの行き着いた最新の答えだったが、陰の実力者の弟子であるシータはシャドウとは別の答えを見つけていた。

【問題】核で蒸発しないためには?

【答え】核シェルターになればいい。

 その手があったか!

 悔しさを感じながらも、でも防御するより避けて攻撃する方が好きなんだよなあと弟子の真似をするつもりはなく、自分の答えと弟子の答え、どちらが上か実際に試して決めることにした。

 結果……敗北したのはシャドウ、正確にはシャドウが模した核爆発だった。

 当然だ。じゃんけんを考えれば分かる。核同士ならあいこになって負けないだけだが、核と核シェルターなら核シェルターが勝つということだ。

 じゃあ核シェルターを核で破るためにはどうしようかと考え続けること半年以上、ついに答えを見つけたというタイミングでこのビッグウェーブ、乗るしかない。

 そして乱入した戦場にいたのはシータではなかった。

 シャドウが前世の時に漫画で見たことがある、火星で人型に進化したゴキブリにクロカタゾウムシを混ぜた奴だった。

 いや、クロカタゾウムシというより……シータの核シェルターに似ているような。

 進化したゴキブリと思い込んでいる存在の生態が漫画と同様だと考えていたシャドウは、そこそこの怒りを抱いた。

 貴様、奪ったな……シータの、能力!

 祈れ、そして祈る知能があるなら教えてやる。

 弟子の遺体の弄びは、師匠の怒りを買うと!

 良かったなシータ、その人あんまり他人に興味がないのに、ちょっとだけ気にかけてもらえてるぞ。

 そして抱いた怒り以上にわくわくしていた。シータは死んじゃったみたいだけどこいつもシータ並みに硬そうだし殺していい奴だろうから、シータで加減して試そうと思っていた戦法を手加減無しで実践できるのだ。

 ちなみに普段であればシャドウは魔力の質でゴキブリ人間がシータであると気付いたはずだが、この時シータは薬の効果と無理なスライム形状変化で魔力が乱れ過ぎていて、同一人物だと判定されなかった。

 ゆえに事故が起きる。

 アルファをかばってゴキブリ人間の寝技をあえて受け、地面に背中を着けたシャドウは、そのまま上方に『奥義ライジング・アトミック』を放つ。今となっては古い技、しかし周囲の味方を巻き込むことなく放てるアトミックだ。

 青紫の魔力の柱が天を裂き、宇宙空間すら貫く。やがて眩しい光が収まる頃、ゼロ距離で奥義を受けたゴキブリ人間……無傷。しっかりシャドウを抱き締めていたため、宇宙空間に放逐されることもなかった。

 

「いいじゃないか! それでこそ挽回のしがいがある!」

 

 アトミックに使う魔力をスライムソードに纏わせ、凝縮する。魔力光はまず刀身に宿り、峰のみに収束し、ついには切っ先の一点のみに集中する。

 

「刮目せよ! 『残光の太刀』!」

 

 ゴキブリ人間の横腹に突き立てようとスライムソードを変形させ動かした瞬間、ゴキブリ人間は真上に跳躍して回避した。

 

「避けたか……つまりこいつは、その核シェルターであっても防げない!」

 

 シャドウが投擲したスライムソードがゴキブリ人間の腹のど真ん中に突き刺さる。

【問題】核シェルターを蒸発させるためには?

【答え】先に穴を空けておけばいい。

 

「ライジング……」

 

 ゴキブリ人間が放った何かがシャドウの片足を切り落とし、照準がずれそうになる。

 しかしアルファがシャドウを支えることで解決!

 シャドウとアルファ、言葉を交わす必要のない完璧な連携!

 でも、ちゃんと言葉を交わすことって大切だと思うよ。実際君ら結構すれ違ってること多いし。

 

「アトミック!」

 

 陰のラブラブアトミックを受けたゴキブリ人間は、腹に空いた穴から膨大な魔力を流し込まれて膨張、空高くで大爆発した。

 

「御二人とも末永くお幸せに! アルファ様! あなたのおかげで、私は本当に幸せでした! もし次も人に生まれ変われるのなら……その時は、御二人の子供に」

 

 シータはきたねえ花火となって死んだ。

 

「……えっ?」

 

 立ち尽くして降り注ぐ血と肉片の雨を浴びたアルファは、模擬戦なので当然手加減すると思っていたシャドウがなぜか本気で奥義を放ったという理解不能な現実にたどり着き、続いて自分の顔に付着したものが何であるか理解し、絶叫した。

 




 でぇじょうぶだ、リカバリーアトミックで生き返れる……よな?
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