シャドウガーデン第1のモブ   作:ことのはだいり

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第2章 ミドガルの中心で愛を叫んだエルフ
第16話 制服着てないやん! 制服姿が見たかったから注文したの!


 私は永遠の絶頂を手に入れた。

 なぜならかつて喪ったアルファ様の手作りのマフラーをこの手に取り戻したからだ。

 それはつまり、いつでもどこでもアルファニウムを摂取できることを意味する。

 くんくん。

 すんすん。

 くんくんすんすん。

 くんくんくんくんすんすんすんすん。

 右の鼻腔と左の鼻腔、アルファニウム摂取の速さ比べか……。

 クンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンッ!

 スンスンスンスンスンスンスンスンスンスンスンスンスンスンスンッ!

 クンスンクンスンクンスンクンスンクンスンクンスンクンスンクスンッー!

 あっ、あっ、あっ、あっ、あっ!

 私アルファ様とひとつになってる!

 来る、なんか来る、来ちゃう!

 アルファ様の濃いのが私の中に入って来る!

 来て! アルファ様! 私の中に来て!

 アン! アン! アン! アン! アン! 

 アン! アン! アン! アン! アン!

 ア、アッ〜!

 うああ、おっうおっ、おおーッ!

 もっとか!? アルファ様のもっと欲しいのか?

 もっと……いやしんぼめ!

 もっと嗅ごう! 嗅ぐぞ私もっと嗅ぐぞ!

 くすぅう〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜んッ!

 くんくんくん。

 すんすんすん。

 くんすくんす。

 くんくんすんすん。

 くんくんすんすん。

 くんすんくんすんくんすん。

 くんすんくんすんくんすん。

 くんすんくんすんくんすん。

 くんすんくんすんくんすん。

 くんすんくんすんくんすん。

 おっ、も、もう無理、出さないで我慢するの限界……逝ク逝ク逝ク逝ク……ンアッー!

 それから私の魂は肉体から飛び出てしまったが、誰かにコネコネされてポーカーチップにされることもなく無事に身体に戻り、マフラーを清めてから心地の良い脱力に任せて床に就いた。

 これで今夜も……くつろいで熟睡できるな。

 

          ◯

 

 暇さえあればアルファニウムを摂取する日々を送り、お薬を段々と抜いていった結果、最近の私は体調が良くなり規則正しい生活をおくるようになった。

 私の名は8番エーケーエー『魔球』のシータ。

 年齢15歳。実年齢分からなかったからアルファ様と「おなじがい〜」ということで誕生日ごと同じにした。

 自室はアレクサンドリアの拠点にある。

 結婚はアルファ様としたい。

 仕事は『シャドウガーデン』の構成員で毎日遅くとも夜8時までには終業するよう言われた。

 薬はやめたし酔えない酒を嗜むこともない。

 部屋に戻ってから夜11時過ぎまで必ず3時間はアルファニウムを摂るようにしている。

 寝る前に温かいアルファニウムを摂り20分ほどの洗濯でマフラーを清めてから床に就くとほとんど朝まで熟睡さ。

 アルファ様の赤ん坊になれたような気分だよ。

 これまでと違って疲労やストレスを残さずに朝目を覚ませるんだ。

 うん? 何を話してるのかって?

 私は常にアルファ様を求めて生きているということを説明しているのだよ。

 そんな私は今日も元気にお仕事に向かう。まずは七陰会議に顔を出させてもらう予定だ。そこでこの先の大仕事に関する説明をいただけるらしい。

 数日前、七陰からの指令が私に与えられた。

 その内容はもうすぐシャドウ様が入学するミドガル魔剣士学園に新入生として入学し、シャドウ様に侍れということ。

 シャドウ様のことがお好きな七陰の皆様を差し置いてなぜ私がそんな任務を与えられたのかというと、七陰の誰が行くかで盛大に揉めたからである。

 普段なら七陰同士のマジ切れ禁止、揉めたら七陰じゃんけんで決着をつける。

 しかし今回ばかりはシャドウ様と過ごす学園生活を全員が心の底から求めているので、運任せの勝負に出るくらいなら全員が平等に身を引いて、私にその役目を託そうということになったらしい。

 七陰の皆様は他の七陰が行くのは嫌だって言ってるのに、私ならいいのはなぜだろう?

 

          ◯

 

 自分たちの忙しさも考慮してシャドウとの学園生活を公平に諦めた七陰が次に考えたのは、自分たちの目の届かない場所でシャドウに悪い虫がつかないかということだった。

 最初は高い変装技術を習得していることを理由にシャドウと面識のないニューが立候補したが、七陰はそれを却下した。

 なぜならシャドウを世界一かっこいい男だと思っている七陰にとって、シャドウが出会う女を全て惚れさせてしまうことが確定事項だったのだ。

 普通の女の子だとシャドウに恋してしまいます。

 だから、アルファ狂いのグラビティラブラブボールを送り込む必要があったんですね。

 アルファ以外の七陰はさすがに付き合いが長いので、シータがアルファに向ける視線は自分たちがシャドウに向けるものと同じであると気付いている。

 外から客観的に見ることができない当事者のアルファだけはシータの真意に気付けないが、シャドウに対してまったく異性としての関心を持っていない様子を何度も見ているので信頼している。

 

「おっはようございまーす! 8番来ましたー!」

 

 近頃はアルファセラピーのおかげで常時テンションが高めのシータが会議室に入ってきた。前と違ってお薬で無理に気分を上げてるわけでもないし、まともな方法でシータが幸せになれてる分には何よりなので、現状に関しては七陰全員喜ばしく思っている。……薬よりはましだろうけどアルファセラピーも言うほどまともだろうか。

 それと七陰全員はおかしいって? ああ、イータ? あいつはシャドウガーデンに帰属意識がないことを公言してるけど、長く連れ立った家族に対する思い入れは欠片くらいなら持ってるぞ。実験台にするのは、それはそれ! これはこれ!

 

「おはようシータ。さっそくで悪いけど、あなたに着て見せてほしい服があるの」

 

「お任せください! 逆バニーから生き恥ウェディングドレスまで、どんとこいです!」

 

 首を傾げたのはベータとゼータ以外の五人。

 作家なので知ってたベータは顔を赤らめて自分がそれらを纏ってシャドウに迫る姿を妄想していた。あー、ダメダメえっち過ぎますぅ! で、でも、どうしても見たいと言ってくださるのであれば、特別に……。

 諜報部なので知ってたゼータはシータがそういう知識を得られるような本を読んでると察して「やっぱり好きなんだねそういうの」とにやにやしていた。性教もだいぶ酷かったものね。

 

「着替えは向こうで」

 

「いえいえ、お待たせするわけにはいきませんから! ここで大丈夫です!」

 

 スライムスーツを一気に溶かして脱ぎ、全裸にマフラーのみの姿になろうとするシータ。

 女子しかいないので問題ないと言えばそうなのだが、これに凄まじく慌てたのがイプシロン。

 

「わあぁぁぁぁぁ! 駄目駄目駄目!」

 

 イプシロンの教えを受けたシータは偽乳を少し盛ってるのだ。シータの盛り乳がばれるだけならともかく、それが発端となって自分まで疑われる恐れがある。

 イプシロンは散らばりかけたスライムに遠隔で干渉して、シータのスライムスーツを維持させる神業を成し遂げた。これもまたシータの愛と同様、想いの力の賜物だ。

 

「女の子が肌を見せていいのは好きな人に見せる時だけよ!」

 

「えっ……なら問題ないのでは?」

 

 ほんとだ! お前の場合はそうだな!

 

「とにかく! 早く! 試着スペースに! 行きなさい!」

 

「あっはい」

 

 イプシロンの圧に負けたシータがパーテーションで囲われた空間に消える。衣擦れの音が聞こえて間もなく、出てきたシータはスライム製ではない本物のミドガル魔剣士学園の女子制服を着ていた。スライムはどんな服にでも変形させられるが、初見の服は練習しないとボタンが足りなかったりと失敗するので現物を用意したのだ。

 あああーっ、これはシータのイメージじゃない……嘘だろこいつ普通にかわいいぞ。

 性癖の開示といこう。

 心の内を晒すという制約と誓約により変態強度を底上げする。

 諸君、制服が好きだ。

 諸君、制服が好きだ。

 諸君、制服が大好きだ。

 ブレザーが好きだ。

 セーラー服が好きだ。

 ……あと他何がある?

 悪いな、制服の範囲を女子学生服に制限することでさらに効果を上げているんだ。

 とにかく変態がかわいく見えたとすれば、それは制服の効果に他ならない。

 七陰も制服の魔力にやられてしまったようで、休日にショッピングで新しい服を試着した女友達に対する反応のように、口々にかわいいと言ってシータを照れさせている。アルファに至っては娘の晴れ姿を見る母親のような気分で記念写真を撮影していた。

 

「ウェヒヒヒヒ……」

 

 おい、こいつちょっと溶けてるぞ。

 

「アルファ様、私かわいいですか?」

 

「ええ、とっても」

 

「カワイイヤッター!」

 

 褒められて喜ぶのは大いに結構。

 かわいいが最強ってことに間違いはないが、かわいそうはかわいいことも真実だ。

 

「ちょっと待ってよ!」

 

 叫んだベータにデルタが「何です?」と返す。

 

「逆に考えるのよ。こんなにかわいい子が近くにいたら……逆に周囲の視線を一手に集めてしまうわ!」

 

 ——確かに!

 七陰の心の声が一致した。

 シャドウという最高にかっこいい男が華を持って歩けば、蜜を求める虫けらが群がってしまうに違いない。

 

「しまった……盲点だったわ」

 

 アルファでさえも今は頭の中がピンク色に塗り潰されているようだ。

 

「じゃあ女子生徒ではなく男子生徒として潜入するのはどうでしょう? 一応、男子用の制服も用意してあります」

 

 ガンマに促されて再びシータが着替える。男子制服を纏い、女子らしさを減らすために前髪をオールバックにしたシータは、まるで人外ボイスのキグルミ系配信者の中身が自分スイッチオンした姿のようにボーイッシュでイケてる男装の麗人となった。

 

「もうちょっと身長伸ばせるかしら?」

 

 イプシロンの緻密な指示の元、シータが体格を調整していく。

 ああ、七陰はこいつの体格が可変なの知ってるぞ。プロテイン事件のこともシャドウの教えで解決したこともな。どんなに現実離れしていても、シャドウができると言えば疑問を持たないのが七陰なんだ。

 そして巨匠イプシロンが完成させた男装シータを見た七陰は、シャドウと肩を組む男装シータを妄想して、腐った沼に引き込まれる自分を含むたくさんの女を幻視した。

 

「こっ、これは……」

 

「すごくいいんだけど……なんか踏み込んじゃいけないような……」

 

「シータはオスだったのです?」

 

「生えてません」

 

「生やす?」

 

「生やしません」

 

 考えたことはあったがシャドウに対して勝ち目がないと知ってるからシータはそれを求めなくなったのだ。

 

「……用心棒みたいな屈強な大男になれる?」

 

「なれますけど、この服が破れるのでスライム着てきますね」

 

 ゼータの指示を受け、服を脱いでスライムスーツを精度の低い男子制服に変形させたシータがゴリラになる。

 これだよ、これ! これこそ、このシータのイメージ!

 身体はゴリラ! 頭部だけ美形! ダンベル何キロ持てるか質問してそうなアンバランスさが面白い!

 七陰の皆がほっと息を吐いた。

 

「これなら大丈夫そうね。とても近づき難いわ」

 

「えっ」

 

 アルファは褒めたつもりでも、シータにはそう受け取られなかったようで、しゅるしゅると縮んで跪き、がっくりと頭を垂らした。

 その姿を見たゼータは、横目にデルタを捉えながら、名案を思いついてにやりと笑う。

 

「むっ! なんか腹立ったのです! メス猫お前何考えた!?」

 

「ワンちゃんには関係ないから安心しなよ。ねえシータ、ちょっとそのまま大きくなってよ」

 

「……うっす」

 

 七陰の命令は絶対。シータはおとなしく四つん這いのまま大男になる。

 ゼータはシータにスライムで作った首輪とリードをつけた。

 

「よしっ、番犬の完成」

 

「メス猫ぉ! そっちがその気なら!」

 

 デルタがシータの頭にスライム猫耳を、シータの尻にスライム猫尻尾を追加した。色合いはゼータの体毛と同じ金色だ。

 

「あなたたち! シータをおもちゃにしないで!」

 

 アルファに一喝されて犬猫が威嚇しあいながら引き下がる。

 

「アルファ様ぁ……御二人を止めてくださりありがとうございます」

 

 半泣きのシータが立ち上がる。首輪とリードと猫耳と猫尻尾をつけたバランスの悪い体型の大男のまま。

 ……あっ、すっごい面白いことになってる。

 もうちょっとだけ弄ってあげたい。そんな親しい間柄ゆえのいたずらごころが七陰の内から湧き上がった。変化させることの優先度を付与された七陰は、シータをもっと変貌させたくて我慢ができなくなった。

 

「ごめんなさいシータ、もうちょっとだけあなたの可能性を探求してもいいかしら?」

 

「もちろんですアルファ様。何なりと御命じくださいませ」

 

 シータは涙をひっこめて着せ替え人形になることを受け入れた。手のひらドリルのごとき変わり身の早さだ。滅私奉アルファを信念とするシータにとってアルファの命令は全てに勝るのである。

 

「そのまま服だけ脱いでくれる? 下着は残していいから」

 

「うっす」

 

 ベータに言われてシータがスライム男子制服を溶かし、上半身と下半身に女物の下着だけ残した状態となる。周りに見られない部分だったのでシータは男物の下着にするのを忘れたのだ。

 

「毛量が物足りないわね……アフロにしましょう」

 

「うっす」

 

 ガンマが桜色のスライムアフロをシータに被せる。猫耳はアフロの上にずらした。

 

「メス猫になれ」

 

「デルタ様それ消えにくいのでせめてスライムで……あああああ!」

 

 オールバックなので露出していたシータの額にデルタが『メヌねこ』とインクで書いた。肌につくと洗っても簡単に落ちないやつだ。

 

「シータも女の子なのよ……かわいらしくしてあげなきゃかわいそうじゃない!」

 

「ありがとナス!」

 

 イプシロンがハート型のスライムサングラスをシータにかけた。

 

「バカ犬になって」

 

「私の名前はポチ! みんなよろしく!」

 

 シータが自分のスライム首輪を操作して『ポチ』と書かれたプレートを付け、犬の芸のお座りみたいにヨツンヴァインになる。

 さらにシータは舌を垂らして喘ぐように息を粗くする。ヤケになっているのだ。

 

「ハッハッハッハッ」

 

「人為変態して」

 

「アォーーン!」

 

 垂らした舌にイータが注射針を刺して薬液を注入する。シータの肉体に混合獣類『パラサイトエンペラー』の形質が発現し、女性用下着に変形させたスライムを貫いて股間から「チュー、チュー」と鳴くつぶらな瞳の顔がついた黒いミミズのようなものが生えた。

 なんということをしてくれたのでしょう。

 普通にかわいいミドガル魔剣士学園女子新入生だったシータは、七陰の匠の技により、猫耳アフロでハート型サングラスで額にメヌねこと書かれて首輪とリードで首から下が屈強な大男で女性用下着上下のみ装備した半裸で股間からパラサイトエンペラーを生やして尻から猫尻尾を生やしたポチに生まれ変わりました。

 達成感に酔っている七陰はシータがぷるぷる震えてることに気付かない。

 シータの名誉のために断言しよう。こいつはよくバケモンになるが好きでそうなっているわけではなく、できることなら女の子らしく最初の女子制服姿のようなかわいい姿でいられることを望んでいるのだ。

 だから今の姿は非常に、ひっじょーに、不本意だった。

 

「これで完成ね! 記念写真を撮りましょう!」

 

 アルファにカメラを向けられたシータは、バカ犬面のまま力ない笑顔を作ってダブルピースをした。

 

          ◯

 

 後日、シータ(ビフォー)とシータ(アフター)の写真を見せられて、アルファに「同級生になるならどっちがいい?」と聞かれたシャドウは、即決でシータ(ビフォー)を選んだ。

 冷静になったアルファは「でしょうね」と頷いた。

 8番あらためシータあらためシタラちゃん、普通にかわいい女子生徒としてミドガル魔剣士学園に入学決定!

 

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