『お客様へのお願い』
異変を見逃さないこと
異変を見つけたら、前の車両へ戻ること
異変が見つからなかったら、次の車両へ進むこと
8号車から外に出ること
『停車駅のご案内』
1-ツキノミヤ
2-カタス
3-キサラギ
4-ヤミ
5-ゴショウ
6-ヨモツ
7-ヒラサカ
8-
8の横の空欄には何も書かれていない
ミドガル魔剣士学園は原則として貴族の学び舎だ。
金で買える貴族位もあるため貴族としての身分を用意することはミツゴシ商会の力を持ってすれば容易い。私が貴族の生まれでないことは問題にならない。
しかしどんなに精巧に戸籍を偽装したとしても、虚空からいきなり人が生えてきたら違和感を覚える者は必ず出てくるだろう。
そこで私は学園入学に先んじて偽装身分であるシタラの存在を世間に認知されるべく、いくつかの貴族の領地を経由して少しずつ王都に向かっている。門を通る時の入領記録を残すのが目的なわけだが、なんだか気分は悪者の資金洗浄だ。
さて、現在も王都への旅の途中である私は、その道中で野生の遺跡に遭遇してしまった。
あー、困ったな。何もなかった場所に唐突に出現する野生の遺跡はだいたいろくなものじゃないんだ。右のひとりと左の複数人、どちらを殺しますかみたいな殺意の高い罠を私は沢山見てきた。
ちなみにそうなったら私は私が死ぬことを選んで自ら罠を踏み抜きアルファ様の愛に守っていただいて生還してきた。
トロッコに轢かれた程度で私を包むアルファ様の愛が負けるわけないだろ! いい加減にしろ!
先を急ぐ身でもないし、私が放置してシャドウガーデンの仲間が被害に遭うようなことがあれば慙愧の念に堪えない。
そういうわけだから、はい、よーいスタート。
私はシータになってから遺跡の入口に突入する。
あちらとこちらの境界を超えた瞬間、景色が切り替わる。私は気付くと陰の叡智『蒸気機関』の再現により普及した蒸気機関車の先頭車両にいた。
周囲を見ると壁に何個か看板があり、お客様へのお願いだとか停車駅のご案内だとか0号車だとか書いてあるが、私はそれらを全部無視した。
迷路なんてもんはなぁ、左右どちらかの壁に沿ってひたすら真っ直ぐ進めばいつかゴールに着くんだよ!
進路を前方にとれ!
退きません!
媚びへつらいません!
反省しませーん!
この私に逃走はないことだー!
こうそくいどうで全速前進DA!
「バクシンバクシーン!」
2つめの車両に入ると正面から知らないおっさんが歩いてきた。
なんだこのオッサン!?
私は棘ブレーキをかけずにバクシンしてオッサンを撥ねた。
だいじょーぶだいじょーぶ、コラテラルコラテラル。
シャドウガーデンでは一般人の巻き添え被害を躊躇しないように教えられている。
無関係な他人を気にして仲間が傷ついたら嫌だし、それにどうせ私たち悪魔憑きを迫害した連中だからだ。
仮に直接的な加害者でなくても何もしないをしてるので、こちらも同じことをしてやるだけなのだ。積極的に狙うことまではしないので自力で逃げるなりしてがんばれ♡ がんばれ♡
鬼畜外道大いに結構! アルファ様にいただいた私の優しさは仲間に分け与える分しかないのだ。
私は最古参の先輩という立場上、仲間がコラテルを躊躇して傷つかないよう、一般人の多い戦場では積極的に派手に暴れて巻き添えを出してみせてる。今回も同じことだ。
それにオッサンはたぶん無関係な一般人じゃない。遺跡では稀によく出現する亡霊だ。
私は例の絵画の一件でお化けがマジに存在すると知り、色々と調べてみたのだ。そしたら世の中には結構、そういう存在が溢れてることが分かった。というか何度か遭遇してた。英雄オリヴィエ(推定)とか。
これまで遭遇しなかったと思い込んだのは私がことごとく敵をお化けだと認識できなかったせいだ。だって物理で倒せる相手をお化けとは思わないじゃないか。私は今でも絶対に倒せなくて接触したら即死させてくる奴だけがお化けだと思っている。
「バクシンバクシーン!」
車両が変わるたびに同じオッサンが現れるので、やはり亡霊で間違いない。
ついでにオッサン以外にも赤い気体が天井から吹き出てきたり全身白タイツの変態が突っ込んできたりオッサンが二人に増えてたり横の乗降口が開いてたりと変化はあったが、全部無視して前だけ見て進んだ。
車両ひとつ進むのに10秒もかからない。
遺跡の探索が一時間ほどで終わったこともない。
だから私は出発から一時間を超えて300以上の車両が続いても別にそういうモンかと思い、他にいっぱいある大事なことを考えていた。具体的にはアルファ様のこととかアルファ様のこととかアルファ様のこととかだ。
そうやって無心もといアルファ様心で進み続けてどれほど経ったか。
気付くと壁にたくさんの血の涙を流す生首が飾られた薄暗い変な車両についていた。車両番号は8となっている。嘘つけ絶対もっとあったぞ。
「ふっざけんなよテメェェェェェ! ルール守れよおぉぉぉぉぉ!」
そしてそこに待ち構えていた全身の皮膚を失っている筋肉剥き出しの大男が、なんか意味不明なことを喚いている。
よし、ボス戦だな!
やっぱ迷路はゴリ押し総当たりで進むに限る!
私は多分これが一番楽で早いと思うよ!
◯
第8魔界より来たりし8番遺跡とでも呼ぶべきこの遺跡の主、『腥れし者』はブチギレていた。
悪魔とでも呼ぶべき趣味の悪さを誇る腥れし者は、ルール通りに恐怖に耐えながら必死に8号車まで来た獲物に、「いったいいつから8号車が出口だと錯覚していた?」と告げて絶望した瞬間の首を刈り取って収集してきた。
以前、偶然にもシータが何も考えずに行き着いた迷路の真理。入口と出口が別物なら、出口の先は元いた場所であるはずがないのである。
だから今回の場合も0号車にこそ本当の出口があると言える。
かつての被害者のひとり、『投稿者:シータの◯ンボ気持ちよすぎだろ!』さんは言った。
『なんで遺跡に機関車があるんだよ!? 時代はどうなってんだ時代は!?』
つまり0号車の時点で異変なので、ルール通りなら前の車両に戻るのが正解だ。
しかしこの遺跡の性格の悪さは筋金入りで、0号車は先頭車両であるため前の車両が存在しないのだ。腥れし者には初めから獲物を逃がすつもりなんてないのである。
それなのにせっかく用意した恐怖演出をことごとく轢殺して突き進んだ脳筋エルフは、偶然で異変なし車両を連続で引き当ててついにここまで来てしまった。
やってられるかクソが!
ゲーム開始直後にバグでエンディング呼び出して終わりって、そんなもん見させられて何が楽しいんだテメェ!
しかしシータにはそんな腥れし者の趣味嗜好から出た文句なんざどうでもいいこと。
今この時においては速さこそが正義なのだ。
腥れし者はブチギレてますが、シータはボスを倒せればいいので問題ありません。
シータはお得意の不意打ちでスライムカッターを放った。大概の敵はこれで死ぬ。
しかし腐っても第8魔界より来たりし魔の者。肉体をゴムのように変形させて、人間には不可能な動きで回避する。
さらにはこの遺跡のループする異常な空間を創り出した能力の応用で、伸ばした拳がシータの外殻に触れてその硬さを認識した瞬間、ワープホールを作って中のシータの前に拳を出現させた。
「うそっ!?」
外殻を力技で破壊された経験はあれど透過された経験はなかったシータは動揺し、腹に風穴を空けられる。なお普通なら死ぬけど自己再生できる奴には軽傷だ。
しかし自信の源であるアルファとの愛の巣を攻略された事実は重く、史上最大のピンチだと思い込んだシータは、ここで最近習得した切り札の使用を決断した。
それは——連日のアルファニウム過剰摂取が押し上げた愛の極地。
「なんだその構えはぁ!?」
無意味と分かった外殻を溶かし、腹の穴を再生して平然と立ち上がったシータは、自分の胸の前で両手でハートを作り、言霊を乗せる。
「アルファ様真拳奥義——聖域展開! 『好き好き大好きアルファ様ワールド』!」
腥れし者の支配するおぞましい領域が、シータのアルファへの愛で明るく塗り替えられていく。
そこは、天より温かなアルファの魔力の光が降る、どこまでも続く白い空間。
さらには腥れし者とシータの周囲を輪のように囲う形で、これまでにシータが目に焼き付けてきたあらゆる姿の無数のアルファが現れる。
「8番、いつまでも私の隣にいて」
「シータ、大好きよ」
「8番、いつもありがとう」
「シータ、あなたは家族よ」
「8番、結婚しましょう」
シータがこれまでにアルファに言われた言葉とこれから言われたい言葉が洪水のように浴びせかけられる。
「私も一番アルファ様が好きー!」
はしゃぐようにぴょんぴょん跳ねながら回転するシータが自分で創った幻影に大きく手を振って返事をする傍らで、腥れし者がシータの固有聖域の能力影響下に置かれる。
「なんだここは……ファル……いったい、ファル……どうなって……ファルファル……ファルファルファルファルファルファルファルファルファアルファアルファアルファアルファアルファアルファアルファアルファアルファアルファアルファ」
この空間に一歩でも踏み入った魂は、瞬時にシータの愛により汚染され……。
その結果——死ぬまでアルファのことしか考えられなくなるのだ。
◯
アルファ様アルファ様アルファ様この世界に生まれてきてくださってありがとうございます私と出会ってくださってありがとうございますアルファ様は美しくて綺麗で可愛くて素敵で凛々しくて格好良くて強くて無敵で完璧で可憐で優しくて輝いていて眩しくて温かくて素晴らしくて心地良くて嬉しくて楽しくてエルフで魔剣士で七陰で第一席で15歳で女神でお母さんでお嫁さんで世界一でアルファ様を見てるとワクワクしてドキドキしてウキウキしてムラムラしてくんかくんかすんすんすーんしちゃいますアルファ様と一緒にいたいですアルファ様と一緒に遊びたいですアルファ様と一緒に笑いたいですアルファ様をお助けしたいですアルファ様のお役に立ちたいですアルファ様に幸せになってほしいですアルファ様の家族になりたいですアルファ様と結婚したいです死んだらアルファ様の子供になりたいですアルファ様と七陰の皆様との関係性が羨ましいですベータ様みたいにアルファ様の一番最初の女の子の同志になりたかったですガンマ様みたいにアルファ様と難しい話ができるようになりたいですデルタ様みたいにアルファ様に武力面で一番に頼られたいですイプシロン様みたいにアルファ様のお耳に良い音楽をお届けしたいですゼータ様みたいにアルファ様が知りたい全てを教えしてさしあげたいですイータ様みたいにアルファ様のお役に立つものを作り出したいですシャドウ様がずるいですあんな方に勝てるわけありませんアルファ様とシャドウ様はお似合いで末永くお幸せになってくださいでも私も近くに置いて欲しいです実子でも養子でも使用人でも妾でもペットでも家畜でも奴隷でもどんな形でもいいのでお傍にいたいですそのためなら何でもします家事も農業も漁も畜産も訓練も雑用も頑張ります怖いけど戦いも頑張ります沢山殺します死ねと言われたら死にますごめんなさいやっぱり死にたくないです私知っちゃったんです死んだら私はアルファ様のいないどこかに行ってアルファ様のことを忘れてアルファ様と二度と会えなくなってそれなのに悲しいとも苦しいとも辛いとも嫌だとも思えなくなってしまうんですそんなの嫌ですずっと一緒がいいです私はまだアルファ様に伝えたいことがたくさんあるんですありがとうございますアルファ様私を見つけて救って拾って慰めて慈しんで励まして温めて包んで癒やして与えて満たして抱き締めてくださって本当に感謝しています私はアルファ様が好きですアルファ様に恋してますアルファ様を愛してます求めています望んでいます目指しています崇拝しています敬愛しています尊敬しています痺れています憧れていますアルファ様のおかげでこんなに成長できましたアルファ様が七陰の皆様にシャドウ様から貰った風車を分け与える姿を見たから私は優しい子になれました間違わずに済みましたまた私を叱ってください躾けてください教えてください導いてくださいアルファ様と色んなことがしたいですしたいことがたくさんあります溢れてますアルファ様と一緒に読書をして感想を伝え合いたいですアルファ様と一緒に働いてお金を貰ってお互いに思いを込めた品を贈り合いたいですアルファ様と一緒にエルフらしく森の中を散策したいですアルファ様と一緒に歌を歌いたいですアルファ様と一緒にお布団の中で丸くなりたいですアルファ様と一緒に未知を解き明かしたいですアルファ様アルファ様アルファ様好きです好き好き大好きアルファ様アルファ様アルファ様アルファ様の全てが大好きです顔も形も匂いも魔力も体温も声も味も肌も髪も爪も目も口も鼻も耳も手も足もお腹もアルファ様を構成する全てが神ですアルファ様が神様です超越してます至上です至高です神々しいです神秘的ですアルファ様好きアルファ様大好きアルファ様大大好きアルファ様大大大好きアルファ様大大大大好きアルファ様大大大大大好きアルファ様大大大大大大好きアルファ様大大大大大大大好き七陰にちなんで七回言ってみました嘘ですほんとは私もいれて八回でしたアルファ様のことがいっぱいちゅき〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜♡
◯
展開された聖域が手乗りサイズの球体に圧縮され、腥れし者を閉じ込めた。
自分だけ外に出てきたシータが周囲を見回すと、そこにあったはずの遺跡は跡形もなくなり、ピンクのハートマークだらけの黒い球だけが残されていた。
聖域展開を初めて使ったので何が起きたのかシータにはよくわかっていないが、無意識のうちに効果を知ったのかとりあえず遺跡の主は球の中でアルファに関する超ありがたいお話を永遠に聞くことになる気がしたので、羨みながらも無力化に成功したと判断したシータはバケモンボールを拾って天高く掲げた。
「よくわからないけど、強かった亡霊ゲットだぜ!」
幻聴で『ピッピ○チュウ』が聞こえた瞬間にタイマーストップ。
8番遺跡RTA防御特化エルフ全速前進チャート、記録は一時間十八分十八秒でした。
ご視聴ありがとうございました。
聖域展開に巻き込まれたたくさんの生首も、例外なく魂に愛を流し込まれ、やがて歌い出した。
シータの◯ンボ気持ちよすぎだろ♪
◯ンボ気持ちよすぎだろ♪
シータの◯ンボ気持ちよすぎだろ♪
(アルファに背後から抱きしめられるシータの幻影)
気持ちよすぎだろ♪
(頭を左右に振り始める生首たち)
シータの◯ンボ気持ちよすぎだろ♪
◯ンボ気持ちよすぎだろ♪
◯ンボ♪
(生首巨大化)
気〜持ちよすぎだ〜ろ〜♪
(アッアッアッアッアッー!)
◯〜♪
ン〜♪
ボ〜♪
この後、遺跡に囚われていた被害者の魂は昇天した。
カゲマスでは『ストライクコンボ』の概念があるので、◯の中は当然『コ』です。