シャドウガーデン第1のモブ   作:ことのはだいり

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第22話 8番目の繁華街『ミドガル王国上層部教団員しかいない説』

 シドとアレクシアの交際に衝撃を受けたのは生徒だけには留まらなかった。

 現在魔剣士学園会議室では、生徒会と教員、さらにはミドガル王国騎士団員まで巻き込んだ『愛の狂獣シタラ・アラヴァ対策会議』が行われていた。

 参加者は以下の通り。

 生徒会長ローズ・オリアナを筆頭とした生徒会。 

 数少ないシタラと交流が深い生徒である3年生の女子生徒ニーナ。

 一般学生の意見を参考にするべく呼ばれたシタラと同じクラスの優等生と目される男子生徒(ディアボロス教団員)。

 学園長不在のこの会議における最高責任者である副学園長(ディアボロス教団員)。

 幅広い知識を求められて呼び出された学園図書館の司書長(ディアボロス教団員)。

 先月シタラに暴行を受けた王都ブシン流最上位クラスの顧問にしてミドガル王国剣術指南役ゼノン・グリフィ(ディアボロス教団員)。

 ミドガル王国騎士団から招致された第三騎士団四番隊隊長(ディアボロス教団員)。

 同様に騎士団の所属であるが警察的な役割を主体とする捜査課の課長(ディアボロス教団員)。

 一部生徒を除いて事前に意思が統一されていたために会議は踊ることなく突き進み、ゼノンが婚約者としてアレクシアをシドから取り返すその日まで、シタラと親しいクレア・カゲノーの現状と同様に騎士団の体験入団という形で学園からシタラを遠ざけることに決まった。

 なお、この時の会議の様子と参加者の名簿は不思議なことにゼータに伝わり、シタラの追放に賛同した者たちはディアボロス教団関係者疑いでマークされるようになったという。

 シドの女避けとなりつつ学園を引っ掻き回して潜伏する教団員を炙り出しているシタラは、本人が役立たずの穀潰しだと自責の念を抱いて曇っている陰で無自覚にきちんと仕事を果たしているのだ。

 良かったなシタラ!

 七陰は君のことちゃんと評価してるぞ!

 シタラ自身が知ることは絶対にないけどな!

 

          ◯

 

 シドがアレクシアのポチとして過ごす日々の裏で、シタラは騎士見習いとして暴走していた。

 体験入団初日に騎士団の本部に到着した直後、シタラは凄い形相で駆け寄ってきたクレアからシドとアレクシアの関係について尋問を受けた。

 別に隠すほどのことでもないため真相を明かすと、安堵で胸を撫で下ろしたクレアはよくぞ伝えてくれたとシタラを称賛した。

 それ以降クレアが何かと優しくしてくれるためシタラにとって騎士団は学園よりもずっと居心地は良いのだが、彼女の本来の任務はシャドウガーデンのシータとしてシドの近くで命令を待つことであり、ミドガル王国騎士団に就職するつもりなんて欠片もない。

 それなのに今後も学園に籍を置き続けることを考慮すると体験入団をばっくれることはできない。

 日を追うごとに焦燥感がシタラを苦しめた。

 そしてシタラは……弾けた。

 どうやったって体験入団から逃げることはできない。だったら……ここで満足するしかねぇ!

 

「盗賊狩りだああああ! ヒャーッハッハッハッハァッ!」

 

 普段は一切遊びのない殺し方をするというのに、体験入団中のシタラはストレスで戦い方が荒っぽくなり、結果としてやたらと敵を痛めつけて殺した。

 

「踊れ盗賊……死の舞踏をなぁ!」

 

 ときには練習だからと得意でもない銃を使わされて素で急所を外して撃ちながら盗賊を追い回した。

 

「張り切れ♡ 張り切れ♡」

 

 ときには捕縛した盗賊を練習台として、新人の大半がゲロを吐いて涙を流す拷問官体験を笑顔で終えた。

 

「何やってんだろう私……こんなんじゃ……満足、できないよ」

 

 ときにはいきなりスンッと落ち着いて自嘲した。

 そんなシタラのやばさを目の当たりにしたミドガル王国の騎士たちと騎士団に潜伏中のディアボロス教団員たちは、敵味方を超えて同じ思いを抱いた。

 こいつと同僚になるのは絶対に嫌だ!

 だからといって虐めて追い出そうとすれば反撃されるという確信があった。

 そこで臆病者どもが頼った相手こそが、ミドガル王国騎士団の誇る絶対強者、アイリス・ミドガル。

 シタラの悪行をあることないこと吹き込まれたアイリスは、しかしシタラが騎士団に相応しくないと見切りをつけることなく、若さゆえの愚かさを先達である自分が矯正してやろうと決意した。

 色々と前口上はあったが、初めて対面したシタラとアイリスのやり取りはだいたいこんな感じだ。

 

「おい、決闘しろよ」

 

「いいぜぇ! 満足させてもらおうじゃねぇか!」

 

 ——決闘!

 

          ◯

 

 アイリス・ミドガルはミドガル王国における最強候補のひとりと言われている。

 ただしそれは表の人間だけで格付けをすればの話だ。

 実際に剣を交えた私の所感としては、アイリス王女なんてアレクシアに毛が生えた程度でしかない。

 シャドウガーデンと比較すれば600番代相手なら運が良ければ勝てるかもしれない程度。

 ディアボロス教団と比較してもチルドレン1stの下の方と同格といったところか。

 なんというか魔力量ゴリ押しでこれまで勝ってこれちゃったんだろうなって感じで、はっきり言って戦ってもつまらない類の存在だ。

 今のやり方をアイリス王女が変えないとすれば、数年後にはアレクシアと力関係が逆転するだろう。

 ざぁこ♡

 表の世界でイキってるだけの凡夫♡

 壁にぶつかったことがないから本当の努力の仕方を知らなくってかわいそー♡

 たぶん私なんかより才能はあるんだろうけどね……どんな宝石も磨いてないならただの石ころだ。

 だからアイリス王女が私の足の下で絨毯になっている現状は、私にとっては当然過ぎて何も面白くないのである。この感情、まさしく不満足だ。

 

「半端な気持ちで入れると思うなよ……真の強者の世界によぉ!」

 

 私はアイリス王女の後頭部に踵を乗せてぐりぐり動かした。

 

「……って、もう聞こえてないか」

 

          ◯

 

 アイリス王女でさえ……!

 アイリスが絨毯にされた姿を見て、多くのまともな騎士は終わりだと悲嘆に暮れた。

 彼らはアイリスこそが最強の魔剣士だと信じて疑わずにこれまで生きてきたのだ。

 一方、騎士団に潜伏しているディアボロス教団員はラウンズやネームドチルドレンといったアイリスより格上の存在を多数知っているため、それほど大きな衝撃は受けなかった。

 最初に決闘に割り込んだのは、なんてことはない下っ端ディアボロス教団員。

 

「行くぞ! 恐れるな! 戦場に出ろ!」

 

 遠巻きに決闘を見守っていた他のディアボロス教団員たちも後に続く。

 

「アイリス様を守る肉の盾になるぞ!」

 

「みんな一緒だ! 怖くない!」

 

 魔人ディアボロスなんてものを信仰する連中は上から末端まで例外なく異常者の集団である。

 彼らを衝き動かすのは出世欲と、いくら狂人でもこの場で自分たちを殺しはしないだろうという安心感であった。アイリスほどの強者と戦ったのだから、さすがに少しは消耗しているだろうという打算もあった。

 異常者たちの狂気は正常だった騎士にも感染した。

 

「そうだ、アイリス様こそ我らミドガル王国騎士団の誇り!」

 

「あんな気狂いチビに汚されてたまるか!」

 

 善良な一般騎士と邪悪なディアボロス教団員の奇跡の共同戦線がここに成立し、ミドガル王国騎士団は一丸となってシタラに剣を向けた。

 それに対するシタラの返答は、クレアを見て学習してしまった両手で突き立てた中指と——横腹を蹴飛ばされたアイリスであった。

 

「きっ、貴様ー!」

 

 シタラの右手側から普通の騎士が、左手側からディアボロス教団員が斬りかかる。

 シタラは右の騎士を峰打ちで昏倒させ、左のゴミを輪切りにして殺した。

 シタラはゼノンを殺し損ねたことを反省して、今後は推定ディアボロス教団を見つけたら悪・即・殺で行くことにしたのだ。

 なお、殺していい奴かどうかの基準は嫌な視線の有無という曖昧なものだが、今のところ的中してるので問題ない。

 

「はっ?」

 

 突如同僚が死んだことに呆ける騎士たち。

 シタラは彼らに侮蔑の目を向けて言い捨てる。

 

「おにーさんたちさ、味方がピンチだからって一対一の決闘に割り込んで、こーんなか弱い女の子に集団で襲いかかってるのに、自分たちは殺されないって高を括ってたでしょ——んなわけねぇだろ皆殺しだ」

 

 再び中指を立てるシタラは久しぶりにキレちまっていた。

 ナツメの作品を読んだ影響で実はちょっと楽しみにしていたキラキラ学園生活が蓋を開ければ鬱々としたぼっちの日々。

 それでも学園のガキ共はシタラを避けるだけで直接的な攻撃まではしなかったから我慢できた。

 しかし学生の倍は生きてる大人どもは徒党を組んでシタラを直接害そうとしてきたのだ。

 シタラはアイリスをぼこったが、あくまで模擬戦の範疇で後遺症が残らないよう加減したのに!

 その模擬戦だってアイリスの方からふっかけてきたのに!

 ふざけんなよどいつもこいつも!

 

「ウォシャアアアアアアアアア!」

 

 デルタ直伝の咆哮を轟かせ、ここにシタラとミドガル王国騎士団の戦争の幕が切って落とされた。

 

          ◯

 

 数時間後、数百の負傷者と数十の死者(全てディアボロス教団員)を出したミドガル王国騎士団の戦力は、いよいよあと数名しか残っていなかった。

 

「貴様ら四人か。私が許す、名乗れ」

 

 返り血を被っていない部分を探す方が難しい状態のシタラが魔王のごとき尊大な態度で言った。

 

「俺は『獅子髭』のグレンだ」

 

「そして私は『隊長』のジャンだ」

 

「『課長』グレイ」

 

「50年ほど前は騎士団員だった……この『ブシン祭優勝者』の司書長が許しませんよ」

 

 ちなみにグレン以外はディアボロス教団員だ。

 シータになれず、毒なども使えず、剣一本で戦わねばならないシタラ。

 アイリスよりも強いと怪しまれるため本気を出せずにいるディアボロス教団の三人。

 普通に全力で戦ってるけど、はっきり言ってこの先の戦いについてこれない実力のグレン。

 戦況はかろうじて拮抗していた。シタラが殺しにかからないグレンを盾とすることでディアボロス教団の三人は幾度もの危機を乗り越えていた。

 そして、ついに決着が——つかなかった。

 

「大変です! アレクシア王女が行方不明になりました!」

 

 訓練場に乱入してきたホグ◯ーツにでも通っていそうな無粋な若い男の名はマルコ・グレンジャー。

 

「現場の状況から誘拐されたものと思われ、容疑者として交際関係にあった魔剣士学園の生徒シド・カゲノーが……ぐわぁっ!?」

 

 マルコは乱入ペナルティとしてダメージを受けた。

 

「逃げた! あいつ走って逃げたぞ! 追え!」

 

 マルコを突き飛ばして部屋を出たシタラはそのまま騎士団本部の外に出て、事実確認のために学園へ向けて走り出した。

 戦争とはいつだって虚しいものだ。

 神聖な決闘の結果を受け止められず、学生相手に総力をあげて襲いかかるという不名誉を被り、大量の死者を出したミドガル王国騎士団。

 この後学園に戻れるのか怪しくなったシタラ。

 乱入者によって中断となったこの戦争、参加者それぞれの被害を分析して検証した結果——関わったら負け!




8番はアルファジャンキーであってもバトルジャンキーではないので、盗賊とはいえ他人をいたぶっても満足できなかったようです。
ただし、それはそれとしてディアボロス教団関係者は苦しみ抜いた末に滅ぶべしと思っています。
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