シャドウガーデン第1のモブ   作:ことのはだいり

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第24話 五等分の8番

 誘拐されたアレクシアは無事に救出され、彼女の証言により騎士団内にゼノンを筆頭としたカルト宗教かぶれが多数潜入していることが判明した。

 匿名で届けられた猫の肉球マーク付き騎士団内不穏分子リストも手伝って、シタラが惨殺した騎士は全てディアボロス教団員であったと確認が取られたのが先日。

 シタラの盛りに盛られた罪状は大半が取り消され、残ったのは王女であるアイリス・ミドガルに対する不敬罪のみとなり、それに対する処分はしばらくの寮内自室謹慎という穏便なもので済まされることとなった。

 ディアボロス教団員とはいえ騎士を殺してしまったシタラ。

 多数のディアボロス教団員に入り込まれ、アレクシア誘拐やシドへの冤罪を止められなかった騎士団。

 あー!

 やらかしぃ! 

 やらかした!

 お互いにやらかしました!

 これはどっちもやらかしたから(有耶無耶にして)オーケーか。

 そうですね。

 そんな話がアイリス王女、アレクシア、シド、シタラの順番で届けられ、七陰の判断によりシタラは学園潜入を続行する運びとなった。

 そういうわけで寮の自室でひとり寂しく謹慎しているはずのシタラは今……五人に増えていた。

 

          ◯

 

 シャドウガーデンの一般構成員8番。

 シャドウガーデンの幹部シータ。

 ミドガル魔剣士学園の1年生シタラ。

 現状でも私はこれだけの数の顔を使い分けているというのに、最近になってガンマ様から今度新規に開店するミツゴシ商会支店の支店長をやってみないかと打診されている。

 七陰の命令は絶対とはいえ、さすがに身体がひとつでは手が回らない。

 いっそ私が複数いれば……と考えたところでふと私は思い出した。

 そういえば私分裂できるじゃん。

 いやでも前回は追い詰められて仕方なくやっただけで、好き好んで自分にスライムカッターぶち込みたくなんかない。

 せめてこう、背中からもうひとりの自分が生えてくるとか穏便な方法でなんとかしたい。

 そんなこんなで退屈な謹慎時間を有効活用して試行錯誤すること数日。

 私は無事、当初望んだ通りに背中から生やす形で分裂に成功した。

 できちゃった時は我ながらちょっと引いたけど、有用な技術であることには間違いないので、そこからさらにしっかり検証した。

 現段階で判明した仕様は以下の通り。

 無から生えてくるわけではなく私の肉体の構成要素を分けて作られるため、魔力や筋力は分割される。ただしアルファ様への愛は同じなのでスライム圧縮能力など愛の技法は弱体化しない。

 両手を恋人繋ぎにして額と額をあてればひとりに戻れる。前にイータ様に監禁されてた今の肉体に魂だけで舞い戻った時は記憶がごちゃまぜになって地獄の苦しみを受けたが、このやり方ならそれぞれの記憶を宿した脳ごと融合するので負荷が無い。

 同じ自分とはいえ、分裂中は別人である。それぞれ独自に考えて動くし、言葉にして伝えなければ互いに考えていることは分からない。

 最後にこれが一番大切なことだが、私はどんなに分裂しても必ずアルファ様を愛している。これさえ変わらなければ、自分がどれだけ増えても私の自己同一性は保たれる。

 

「さて、そういうわけだから、これからは私たちで役割分担して、これまでの五倍アルファ様のお役に立とう」

 

 とりあえず魔力と筋力の分割が許容量に収まる限界値の五人になって、私は参加者が全員自分の奇妙な会議を始める。

 

「司会進行は私……あー、全員同じだからイッチって名乗るね。イッチが司会進行やるけどいいよね?」

 

 イッチこと私が他の私に確認を取る。

 

「私……ニィは構わないわよ」

 

「ミィも了解」

 

「ヨツも大丈夫!」

 

「イツも平気です……もきゅもきゅ」

 

 さすが私だ、私の意図を汲んでそれぞれ判別がつくように別々のキャラ付けをしてくれた。

 

「それじゃ、まずは定番の自己紹介からかな?」

 

「いやちょっと待ちなさいよ。全員同じ私なんだから自己紹介も何もないでしょ」

 

 強気キャラで行くことにしたらしいニィの言い分はその通りだが、私は会議の司会なんてしたことがないので、典型的な流れを踏襲することしかできないのだ。

 

「それぞれキャラ付け考えたでしょ? それを語る感じで行こう」

 

「まあ、それならできなくもないか。じゃあ番号順であんたからやってよ」

 

「オッケー。私はイッチ。イメージしたのは頼れる先輩の私」

 

「次は私ね。ニィよ。モデルはナンバーズとしての強い私」

 

「ミィは……学園にいる時の物静かな私」

 

「ヨツはアルファ様を想って喜ぶ元気な私!」

 

「イツは料理人としての私です、もきゅもきゅ」

 

「いやあんたは食いしん坊の私でしょ」

 

 自分でボケて、自分でつっこんで、自分たちで笑った。本当にひとりだけでやってたらやべー奴だが、ちゃんと自分を複数にしてやってるから問題ない。

 

「じゃあ空気もいい感じに解れたところで、早速議論に移ろうか」

 

「持ってイッチ、いくつかの役割は議論するまでもなく適任が見つかったわ」

 

 ニィが私たちを順番に指差して言う。

 

「イッチは8番、私はシータ、ミィがシタラよ。ここまではキャラ付け的に確定でいいでしょ?」

 

 私が他の私を見回すと、みんなこくんと頷いた。

 

「じゃあ残りの役職だけど、ミツゴシ支店長と……あと何かあるかな?」

 

「イツの言う通り料理人さんとか?」

 

「ガーデンには8番もいる。同一人物がふたりいたらみんなびっくり」

 

「それに昔と違って料理当番は600人以上で持ち回りですからね。あまり出番は多くないと思います」

 

 私たちは頭を悩ませた。

 やがて名案を思いついたとばかりにヨツが手を叩いた。

 

「それなら私はお忙しいアルファ様の秘書として公私ともにサポートを……きゃっ!?」

 

 抜け駆けすんなよ殺すぞ!?

 既に役割が決まった私とニィとミィは同じことを考えたようで、適当に手に取った物をヨツに投げつけた。

 

「あんたは予備として役割なしで待機してなさい」

 

「賛成」

 

「異議なし」

 

「それなら私は支店長ですね」

 

 こうして私たちの役割分担は完了した。

 8番役のイッチ、シータ役のニィ、シタラ役のミィ、無職のヨツ、支店長役のイツ。完璧な布陣だ。

 

「それじゃあミィだけここに残ってもらうとして、他の私たちはガーデンに戻ろうか」

 

「ちょっと待って!? 私にも何か役割ちょうだいよ!」

 

「うっさいわね、ひとりだけずるしようとした罪人は黙ってなさい」

 

 ヨツを擁護する私はいなかった。当然だ。私たちは五等分の私、全員平等でなければならない。それを崩そうとするなんて許されないことだ。

 そこまで考えて私は気付いた。

 今私が首に巻いてるアルファ様の手作りマフラー、ひとつしかないや。

 

「あーっと、8番として急ぎでやらないといけない仕事があったのを思い出したから、もう行くね」

 

 他の私にばれる前に逃げようとして、残る全員の私に扉の前を固められた。

 

「くっ、さすがに気付くか」

 

「当然でしょ? ほらさっさと渡しなさい。それは一番責任の重いシータである私にこそ相応しいわ」

 

「学園が一番ストレス多い。だからシタラの私が持っているべき」

 

「私が一番アルファ様を好きなんだから!」

 

「無職は黙っていてください! それは慣れない商売をする私にこそ必要なものです!」

 

「わかった、わかったよ。いったんはずすから、みんなでスライム宝箱を作ってそこにしまおう」

 

 これから起きる騒動でマフラーが傷ついては困る。その思いは全員共通なので、五人で協力してシャドウ様の奥義を複数回耐えられるスライム宝箱を作り、マフラーを入れた。

 

「で、どうやって決める?」

 

「七陰じゃんけんならぬ8番じゃんけんはどうですか?」

 

「イツはじゃんけんで負けて素直に身を引ける?」

 

「できるわけないじゃないですか!?」

 

「どうして提案したの……」

 

「はいはいはい! アルファ様を一番愛してる私が持つのがいいと思う!」

 

「はぁ!? アルファ様を一番愛してるのは私に決まってるでしょ!?」

 

「聞き捨てならない。私が一番愛してる」

 

「アルファ様を一番愛してるのは私です!」

 

 どいつもこいつも好き勝手言いやがって!

 アルファ様を一番愛してるのは私だ!

 

「みんなそこだけは絶対に譲れないよね」

 

 私は手を叩いて私たちの注目を集めて宣言する。

 

「——だから大会を開こう」

 

 ルールは簡単!

 アルファ様への愛を叫びながら殴り合って、最後に立ってた私の愛が最強!

 説明を聞いた私たちが同時に中指を立てる。クレア様に教わって以来お気に入りなんだ。

 

「上等よ、やってやろうじゃない」

 

「絶対に勝つ」

 

「最強は私だよ!」

 

「負ける気がしませんね」

 

「よし、それじゃ……」

 

 殴り合いだああああああああああ!

 

          ◯

 

 最近のアレクシアはとても気分がいい。

 誘拐されて散々な目に遭った反動か、いろんなことが上手くいくようになった。

 姉であるアイリスとの確執が少し解消された。

 自分の剣に対する迷いが消えた。

 ミツゴシ商会でいい感じの下着を手に入れた。

 恋愛は……べ、別にポチのことなんかなんとも思ってないんだからね!

 とにかく何かと運勢が上向いているアレクシアは、現在かなりの不運に見舞われている友人に幸せのお裾分けをしてやろうと思い立った。

 謹慎中で退屈しているだろうから、ミツゴシ商会で購入した話題のチョコレートやコーヒーを贈って、ポチに関する話を聞いてやるのだ。

 べ、別にポチに興味があるわけじゃないのよ!

 シタラが出せそうな話題なんてそれくらいだろうから、仕方なく我慢して聞いてあげるだけなんだから!

 アレクシアは以前無許可で作った合鍵を使い、断りも入れずにシタラの部屋に踏み込んだ。

 そしてアレクシアは手荷物を落として硬直した。

 

「ぶっ殺してやる!」

 

「きゃあ自分殺し!」

 

 なぜかシタラが五人もいて、激しい取っ組み合いを繰り広げているのだ。

 アレクシアは幻覚を見たのかと思って自分の目を擦った。

 

「アルファ様を一番愛している私はひとりだけだって言ったわよね!? それが私よ! 残念だったわね!」

 

「くっ、自信過剰なシータのニィが強い!」

 

「みんなで協力してあの暴走機関車を止めましょう!」

 

「頑張れ私たち、応援してる」

 

「ミィずるい! 高みの見物で漁夫の利なんて駄目なんだから!」

 

 駄目だ何も変わってない。

 常識的に考えて人が増殖するわけもないので、おそらく五つ子とかそんな感じだと思うけど……なんで部外者立入禁止の寮に集まって喧嘩してるのよ!? 不法侵入よ!?

 自分の所業を棚上げして大義名分を手にしたアレクシアは、どれがシタラでどれが不法侵入者か判別できなかったので、五人全員を床に正座せて横一列に並ばせた。

 

          ◯

 

 アレクシアに見られたときは焦ったが、なんか五つ子だって勘違いしてるみたいなので話を合わせることにした。

 

「で、どれがシタラなの?」

 

「私がシタラ」

 

 ミィが挙手すると、アレクシアが鼻で笑った。

 

「確かに見た目はまったく同じだけど、さすがに騙されないわよ。シタラはそんなに落ち着いてないし、もっとアホっぽい話し方をするわ。実際考えなしに騎士団で暴れたアホだし」

 

 私たちはみんなショックを受けた。

 ……私アレクシアにそんなイメージ持たれてたんだ。

 

「ちなみに誰がシタラだと思う?」

 

「一番能天気そうなそいつ」

 

 アレクシアが指差したのはヨツだ。

 

「無職だもんね」

 

「卑怯者だもの」

 

「私の邪魔したから」

 

「もきゅもきゅ」

 

「酷い! 私は飾ってない素顔の私なんだから、今の悪口全員に刺さってるからね!」

 

 なるほど半泣きのヨツは確かにアホっぽい。

 

「ところであんた、いつもの暑苦しいマフラーはどこやったの? 見分けつかないからつけといてよ」

 

「は?」「あ?」「え?」「えっ!」「もきゅ?」

 

 他の私が睨みつけるのを無視して、ヨツがにやにやしながら口を回す。

 

「あー! そうだよね! マフラーしてないと分からないよね! 私がシタラだからマフラー巻くの当然だよね!」

 

「ちょっ、ふざけ」

 

 気持ちはわかるけど乗るなニィ戻れ!

 むかつくけど私たちを五つ子と思い込んでいるアレクシアの認識ではマフラーはシタラのものだ。それを否定しようとすると話が拗れて収拾がつかなくなる。

 私がニィを抑え込む前で、ヨツが悠々とスライム宝箱を開いてマフラーを奪いやがった。

 額に青筋を立てて見守る私たちに見せつけるように、ヨツがゆっくりとマフラーを首に巻いた。

 

「じゃーん! いつも通りのシタラの完成! ねっ、アレクシア、私がシタラで間違いないでしょ?」

 

「ええ、いつも以上にアホ面だわ」

 

「でへへへへ、褒めないでよ。そういうわけだから、シタラじゃないみんなは出てってね。ここは部外者立入禁止だから仕方ないよね」

 

 そしてシタラ以外の私は部屋から追い出された。

 マフラーを奪われた私たちは4人で抱き合って泣いた。

 それはもう、失恋した少女のように大号泣した。

 

          ◯

 

 その後の顛末はこうだ。

 アルファの手編みマフラーを独占したヨツは毎日喫マフラーを楽しみながらシタラとしてそのまま謹慎生活を続けている。

 アルファニウムの補充手段が絶たれた残りの個体は分裂したままだとダメージが四倍になるためひとりに戻った。そして8番とシータに加えてミツゴシ支店長のシターラというひとり三役の過酷な生活を身ひとつで送っている。

 アルファニウム欠乏症に限界まで耐えた末に「あっ、無理だこれ、お薬再開しよう」と破滅の道に踏み切りかけた時、8番は思い出した。

 アレクサンドリアの8番の私室で机の引き出しに大切にしまわれていたそれは、瓶に詰めて保存しておいた二年前のアルファの手編みマフラーの遺灰だ。

 8番はその遺灰に大量に生産した自分の骨を混ぜて圧縮して金剛石を作った。それを指輪にはめ込んで身につけることで、かろうじて微量のアルファニウム摂取を可能とした。

 左手の薬指にはめた指輪に顔を近付けて涙を流す8番の姿はシャドウガーデン中の噂となり、結婚指輪を貰うところまで進展したのに最終的に失恋したのだと勘違いされてみんなに優しくされるようになったという。

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