最近開店したミツゴシ商会の新店舗『ナツメイト』。
そこでは大人気作家ナツメ・カフカ先生の作品関連グッズを専門に取り扱っています。
ナツメイト誕生以来『ワンパース』、『ドラゴンビール』といった人気作品の登場人物が描かれた缶バッジ、ポスター、カトラリーなどなどが手に入るようになり、これまで本を開くことでしか見られなかった推しの姿で日常生活を簡単に彩れるようになりました。
このような画期的な商品を生み出したのは、ナツメイト1号店店長のシターラさんです。
本日はシターラさんにナツメイト誕生に至るまでの苦難に満ちた挑戦を語っていただきました。
◯
現在のシャドウガーデンの人員は600人を少し超えたくらい。
そのうち、大人数を指揮した経験とミツゴシ商会の経営の深い部分に関わった経験の両方を持つ人材は私を含む数人だけ。
その数人の中から新たな支店の責任者に任命されたのは、以前に会長代理を経験したという大きな実績を持つ私だった。
「本気ですかガンマ様」
ミツゴシ商会本店の会長室にて、新支店の経営方針について自由にしていいと言われた私はガンマ様に聞き返していた。
「ミツゴシの経営の全てはガンマ様が仕切ってきました。支店とはいえ私のような素人に全権を委任したら、全部失敗して赤字倒産するかもしれないんですよ、ガンマ様!」
私の大声にガンマ様はふっと笑って返した。
「怖いのかしら?」
「怖いですよ……! でも命じてくだされば全力を尽くします」
「私が許すわ。挑戦しなさい」
挑戦を許されてしまった私は全力で店舗経営に打ち込むことにした。
その時点では店舗という箱だけできていて、中身を何にするか決まっていない状態だった。
新支店はミドガル王都近郊に建てられた。ミツゴシ本店と同じ商品を並べることは可能だったが、それだと本店と客足を奪い合ってしまうので避けたかった。
これまでミツゴシが取り扱っていなかった商品を考えるにあたって、まず私は自分の欲しいものを想像するところから始めた。
当然、アルファ様のことしか思い浮かばなかった。
私はアルファ様に関連があるものなら何でも欲しいと思えた。なぜなら私はアルファ様を愛しているから。
そこから私は天啓を得た。
私がアルファ様を愛しているように、民衆も何かを愛しているのではないか。
そして愛している存在との関連が感じられるものであれば、私がアルファ様のためにディアボロス教団と戦っているように、民衆も商品を多々買ってくれるのではないか。
そうと決まれば、次にやることは多くの人が共通して愛している存在を探すことだった。
私はまずシャドウガーデンの同僚を対象に地道な聞き込み調査を行った。
その結果、だいたいみんな例外なく好きなのがナツメ先生ことベータ様の作品で、その中でも特に人気があったのがワンパースとドラゴンビールであった。
これは私と軽度のナツメ先生ファンとの会話である。
「ナツメ先生ですか? 私も超好きですよ! ワンパースとか全巻持ってますし!」
とまあ、それほどナツメ先生沼にはまっていない子であっても、ワンパースとドラゴンビールのどちらかは読んだことがあるようなのだ。
念のため調査範囲をミドガル王都の一般人にも広げてみたが、ミツゴシ本店でナツメ書籍を取り扱っているためか、やはり安定した知名度だと分かった。
私は企画案をガンマ様とベータ様、そして実際に商品を開発していただくイータ様をお呼びしてプレゼンした。
「はっきり言います! ナツメ先生でどうでしょう!? この資料を見てください。どうですこの圧倒的な知名度! ちゃんと男女別の調査もしてきました。どうです!? ナツメ先生でどうです!?」
私はボードに貼った資料をぺしぺし叩いてアピールした。
「それからこの麦わら帽子、見覚えありませんか? 普通の麦わら帽子に赤いリボンを結んだだけのものですから、これに公式ロゴを印刷して原価の数倍で売れば大儲けです! どうです!? ナツメ先生でどうです!?」
私はワンパ主人公のトレードマークである麦わら帽子を掲げてみせた。
さらに私は今着ているミツゴシ制服のスカートを持ち上げてふりふり振った。
「理想的なのは作品イラストを貼り付けた衣類をコムサデミツゴシから売り出すことです。ミツゴシ商会の原型は服飾でしたから、衣類がなければ始まりません。試してみましょう! どうです!? ナツメ先生でどうです!?」
ちょっと大声出して疲れたので指輪からアルファニウムを補給する。んー、アルファ様の匂いだ。
では最後にもうひと押し。
「どうです!? どうです!? ナツメ先生でどうです!?」
ガンマ様、ベータ様、イータ様に順番に尋ねて、やりきった私は姿勢を正して頭を下げた。
「企画プレゼンは以上になります」
「採用しましょう。採算は見込めそうだし、何より熱意が伝わってきたわ」
そこから先はとんとん拍子だった。
普通なら版権元の許可取りで時間も金もかかる企画だが、今回の企画に絡む全ての権利はシャドウガーデン関係者が握っているのだ。
ベータ様とどのキャラのどんなイラストを使うか相談し、イータ様に印刷用アーティファクトを量産していただき、ガンマ様に印刷したイラストが映える無地の品物を大量に手配していただいて、支店の地下に作った秘密工場で分裂した私が頑張って商品を完成させた。
こうしてミツゴシ新店舗は、あっという間にナツメ作品関連グッズで埋め尽くされた。
あまりにも作り過ぎて他の商品を置く場所がなくなったために、新店舗は世界初の『キャラクターグッズ専門店』として運営していく方針に決まった。
そして私はナツメ先生への敬意を表して、新店舗に『ナツメイト』と名付けることにした。
◯
今回の一件、私の仕事量は相当増えたが、それに見合った報酬が手に入った。
報酬とは金銭ではない。もちろんガンマ様からかなりの給料をいただいたが、どうせそんなに使わないから正直ただ働きでも構わなかった。
私にとって一番の報酬……それはグッズ作製の際のアーティファクトの試運転に私が持ち込んだアルファ様の絵を使えたことである。
おかげで私は世界にひとつだけのアルファ様グッズをたくさん作ることができて、さらにはそれらを全て独占できた。
アルファ様缶バッチ、アルファ様クリアファイル、アルファ様ラバーチャーム、アルファ様コースター、アルファ様キーホルダー……他にもグッズの新しい形態を思いつくたびに私は必ず自分用にアルファ様バージョンを作った。
私は絵心そんなにないけど、脳に焼き付けたアルファ様の姿だけは正確に出力できるのだ。
2年前のアルファ様と現在のアルファ様。
私服姿のアルファ様とスライムスーツ姿のアルファ様。
製作過程にアルファ様の手が加わらないのでアルファニウムは発生しないけど、様々な姿のアルファ様に囲まれているだけでも私は最高に幸せを感じられる。
作ってよかったナツメイト!
ありがとうございますガンマ様!
◯
ナツメイトは初日から大行列を作る大賑わいを見せた。
キャラクターグッズ専門店などというこの世界に存在しなかった得体の知れない看板を掲げる店であっても、それがミツゴシ本店でしっかり周知され、さらにナツメ先生本人が現地で開店記念サイン会を開催したとあっては、誰も入店を躊躇しなかった。
一歩でも店に踏み込めば、そこにはナツメ作品のファンであれば誰もが垂涎する宝の山がある。
実際にはどれもこれも無地の品に絵を印刷しただけで原価の数倍の値段が付けられたぼったくり商品なのだが、愛の力は偉大なもので、誰も彼もが財布の紐を緩くして、大量の戦利品を抱えて店を出る客たちの表情に不満の色は一切なかった。
そんな大繁盛のナツメイト、面白いことに支店から本店に逆輸入され、ミツゴシ本店内にもキャラクターグッズ販売スペースが作られた。
さらにはミツゴシ本店から他の国の支店にも広まっていき、ミツゴシ店舗に行けばそこに必ずナツメイトもあるという状況にまで行き着いた。
そうなるとナツメイト以外が入っていないナツメイト1号店の客足は段々と本店の方に流れていき、開店当時ほどの賑わいが見られることはなくなった。
やがて支店長のシターラが酷く体調を崩してしまい、ミツゴシ商会のルーナ会長に「あなた疲れてるのよ。これまでよく頑張ってくれたわ。もう休んで」と気を遣われたことでナツメイト1号店の閉館が決まった。
最終日、多くの人に愛されたナツメイト1号店は、たくさんの笑顔と涙に見送られてその歴史に幕を降ろした。
なお、一番泣いていたシターラ支店長は「せめて商品の製産業務だけはこれからもやらせてください!」とルーナ会長に懇願したが、「ナツメイトの基幹となる業務だから心配なのは分かるけど、後は後輩に託して大丈夫よ。みんなを信じてあげて」と却下されて崩れ落ちたという。
さようならナツメイト1号店!
ありがとうシターラ支店長!
君が作り上げたナツメイトはもはや君がいなくても回るから、どうか安心して休んでくれ!
「あああああああ! やだああああああ! もっとアルファ様のグッズ欲しいのおおおおおお! ぬわああああん疲れてないもおおおおおおん!」
ナツメ「うるさいですね……病人はおとなしく寝ててください」