シャドウガーデン第1のモブ   作:ことのはだいり

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第26話 おそろしく速いテロを見逃しちゃったエルフ

 謹慎中のシタラが何もせずとも世界の時間は前に進む。

 ブシン祭学園枠出場者を決める大会や無差別通り魔殺人事件など、既に複数の大きなイベントがシタラの知らないところで終了した。

 ちなみに前者のイベントでは生徒会長がブシン祭の出場権を手に入れ、後者のイベントではアレクシアが謹慎処分となった。おかげで誰も訪ねてこなくなったシタラは日がな一日何もせずにマフラーを嗅いで惰眠をむさぼる羽目になった。

 そして現在進行中のイベントこそ、シャドウガーデンを名乗るテログループによるミドガル魔剣士学園立てこもり事件である。

 昼頃に始まったこの事件、シタラが気付いたのは全てが終わってもうひとりの自分が部屋に怒鳴り込んできた時だった。

 

「わたしぃ! なにやってるんだああ!」

 

「うえぇっ!? 何ナニなに!?」

 

「お前が仕事さぼってたせいで私が恥をかいたんだぞ! 謝れ!」

 

 シタラはブチ切れ状態の自分を必死になだめた。具体的にはマフラーを顔面に押し付けてやれば一瞬だった。

 

「謹慎期間が終わってなかったなら仕方ないよね」

 

「そうだよ。なんか急に延長されちゃってさ」

 

「副学園長がディアボロス教団員だったから、そいつが手を回したんだろうね。もうシャドウ様が始末してくださったから、そろそろ謹慎は解けるはずだよ……学園半壊したからしばらく休みだと思うけど」

 

「半壊!? 何があったのさ?」

 

「ディアボロス教団が学園を襲撃したんだよ。もう駆除は終わったけど悪あがきで放火されちゃった」

 

「何それ詳しく」

 

 シタラが紅茶と菓子を用意して長話を聞く体勢になる。彼女は会話に飢えていた。

 同じ自分だ。もうひとりのシタラは学園に残ったシタラも苦しんでいたことを察した。マフラーを独占したクズだと思っていたが、こうなると同情してしまう。

 

「はぁ……いいよ。話してあげる」

 

           ◯

 

 ナツメイトで新たなアルファ様グッズの構想を練っていた時、本店のガンマ様から私に緊急連絡が入った。ちなみに私が分裂してることは誰にも理解してもらえなかったので、シャドウガーデンには謹慎中のシタラが隠れて寮を抜け出して店の仕事をしてると認識されている。

 ガンマ様によると、なんでもミドガル魔剣士学園がディアボロス教団に襲撃されているという。それなのに近場にいる七陰がガンマ様しかいないというのだ。

 そりゃまずいやと焦った私は、分裂した私に店を任せて学園へと駆け出した。

 昼頃に襲撃が始まって、私が到着したのはおやつにちょうどいい時間。さすがにシド様が自力で処理してしまったかなと思ったが、現場で部隊を指揮してたガンマ様に聞いてみると意外にもシド様は潜伏して動かずにいた。

 

「ニューから報告があったわ。シャドウ様は現在学園内での魔力使用を封じているアーティファクトを無効化する準備を進めているそうよ。だいたい日が沈む頃には完了する見込みらしいわ」

 

 さすがはシャドウ様だと思いつつも、私はまだ時間がかかるということに焦りを感じた。

 ディアボロス教団は魔力を封じた生徒たちを人質にして立てこもっているという。クレア様はシド様がなんとか助けていると思うが、ニーナ先輩やアレクシアはその限りではないだろう。

 シャドウガーデンの仲間ほどではないが、数少ない友人は大切なので、できることなら安全を確保したい。

 

「あの、ガンマ様。私ちょっと学園に潜入してきてもいいですか? 何人か安否確認したい人がいまして」

 

「悪いけど我慢して。生徒として人質に潜り込むのは既にニューがやっているわ。他の七陰もナンバーズも来られない現状であなたまでいなくなられると、いざ動く時の戦力が不安になるのよ」

 

「……了解しました。では、せめていざ動く時になったら最初に私を行かせてください。できる限り生徒の被害を減らすために、敵の注目と敵意を私に集める策があります」

 

 私の妥協案はガンマ様に承認された。

 金持ちが多い学園の生徒たちはミツゴシ商会の重要な顧客だから、被害を減らせるならそれに越したことはない。

 ガンマ様はそう言ってくださったが、実際には私が学友を心配していると思って気を遣ってくださったのだろう。

 ガンマ様は頭が良く優しい方だ。でも私の心配の対象が数人しかいないことまでは想定外なんだろうな。我ながら交友関係狭くて悲しい。

 それからさらに時間だけが経過し、日が沈み始めた頃。

 シャドウ様が魔力封じの解決手段を託したシェリー・バーネットという私と面識のない一般女子生徒がもうすぐ敵集団と人質の生徒たちが集まっている大講堂に到着することを確認して、私たちもついに行動した。

 予定通り先陣を切ることになった私はシェリーが動きやすいように陽動に出た。

 

「——人為変態」

 

 私は取り出した注射器で薬液を舌に注入しつつ、体格を変化させ、スライムで飾り付けた。

 そしてここに再誕したのが、猫耳アフロでハート型サングラスで額にメヌねこと書かれて首輪とリードで首から下が屈強な大男で女性用下着上下のみ装備した半裸で股間からパラサイトエンペラーを生やして尻から猫尻尾を生やしたポチになった私——命名、ハジけた私であった。

 くっそ恥ずかしいけど、私の知る限りこれ以上に人目を引く姿はないので我慢した。数少ない友人の命には変えられないのだ。

 ハジけた私は一際大きな知らない魔力を敵の首魁と断定して、天井を突き破ってその背後あたりにダイブした。

 響く轟音、床にできた人型のような人型でないような変な形の大穴、さらにそこから突き出た中指を立てた手。

 この時点で大講堂内のあらゆる人間の注目がハジけた私に集まっていた。

 ハジけた私はさらにダメ押しとして、敵首魁と思しき全身鎧の輩に背後から瞬時に迫り、両肩を掴んで耳元で宣告した。

 

「……ヤセキシ、お尻を出せ」

 

 敵首魁がヤセキシと呼ばれていることはニュー様からの報告で判明していた。

 ハジけた私はヤセキシに背後から寝技をかけて組み伏せた。

 

「ぐぁ……貴様ッ」

 

「暴れてもムダ……ワタシ屈強な大男……強いね」

 

「キュー、キュー」

 

 股間のパラサイトエンペラーも蜘蛛糸を吐いてヤセキシの拘束を手伝ってくれた。こいつ勝手に動くんだけど、私を邪魔せず協力してくれるようでありがたい。

 そしてハジけた私は力任せにヤセキシの臀部の鎧をもぎ取った。

 

「何をする気だ貴様!? まさか……性教の!?」

 

 なんで聖教?

 お前ら教団とは仲良しこよしだろ?

 ヤセキシには味方に狙われる心当たりでもあったのかもしれないが、別に興味なかったのでハジけた私は陽動を続けた。

 

「オゥ……バッドヒップね。老人みたいにカサカサよ。ケアしなきゃ駄目ねヤセキシ」

 

 ハジけた私は露出させたヤセキシの手触りの悪い尻を撫で回した。ちなみにまったく楽しくない(断言)。仕事だから無心でやってる。

 

「この変態がぁ! 殺してやるっ!」

 

「ヒトにそんなこといっちゃノーね。悪い子にはお尻ペンペンよ」

 

 気分は鼓の達人だ。性教で信者どもにドドンドドンドンさせた時のことを思い出してちょっと吹いた。惜しくはないけどおかしい奴らを亡くしたものだ。

 

「フフッ」

 

 敵味方問わず全ての視線を一身に浴びながら、見せつけるようにスルスルと手を滑らせて満遍なくヤセキシケツドラムを鳴らした。

 ペンペンペン。

 ペンペン。

 ペンペンペン。

 

「いい加減にしろあああああ!?」

 

「うるさい! 動くとあたらないだろ!?」

 

 バシィッと大きな音を立ててハジけた私の渾身の平手打ちが命中した。

 

「ああああああああっ!?」

 

 ヤセキシが絶叫してもさらに平手を叩き込む。

 

「お前がっ! 反省するまで! 叩くのをやめない!」

 

 あるいは魔力封じが解決してシャドウガーデンが突入したらやめるつもりなのだが、一向にその気配はなかった。

 おかしいなぁ、見渡す限り全ての視線をハジけた私が引き付けてるから、今なら動き放題だと思うんだけど。

 すいませ〜ん、シェリー・バーネットさん、ま〜だ時間かかりそうですかね〜。

(注:シェリーは顔を真っ赤にして義父の痴態を凝視していた)

 いつまでも視線を引き付けていられないと思ったので、ばれるリスクはあるけど大声で叫んで直接伝えることにした。

 

「突っ込めって言ってんだよぉ!」

 

「やはり貴様性教だな!? お前たち何見てるんだ早く助けろ! この変態を殺せぇぇぇぇぇ!」

 

 ここに来てようやく呆気に取られていたディアボロス教団員どもが動き出した。

 ハジけた私がそちらに気を取られた隙をついて、ヤセキシはゴキブリみたいにカサカサと這って逃げ出した。

 さらに事態は急展開を迎えた。ようやく到着したらしいシェリー・バーネットさんがシャドウ様から託された対抗策のアーティファクトを投げ込み、大講堂全体が光に包まれた。

 運悪く光源を直視してしまったハジけた私は目を押さえて転げ回った。

 

「目が、目がぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

「変態が隙だらけだぞ! 今だ殺せ!」

 

「キュー!」

 

 別に雑兵に刺されたくらいなら平気なんだけど、痛いのは嫌だなーと思っていたら、代わりにパラサイトエンペラーが口かられいとうビームを放って迫りくる敵を氷像に変えた。

 この子こんなことできるのかとびっくりした。

 女の子として股から変なの生えるの嫌だからあんまり出す機会なかったけど、私のこと守ってくれるし目もつぶらだし結構かわいく思えてきた。

 これからはパーちんと呼ぶことに決めた。

 

「魔力は解放された!」

 

 生徒会長が叫んで状況を教えてくれた。無事に作戦は成功したのだ。

 さらにシャドウ様とシャドウガーデンのみんなも参戦して、ディアボロス教団を駆逐していく。

 よし私も手伝うぞと気合を入れて立ち上がると、なぜかニュー様を先頭に数名の同僚が私に剣を向けてきた。

 

「教団の幹部を圧倒する実力者……性教十三性者のひとりだな? ディアボロス教団諸共、ここで仕留める!」

 

「えっ、聖教十三……なんて?」

 

 私が困惑していると、ニュー様は容赦なく切り込んできた。私はどうにか回避できたが、私と別の意思で動くパーちんはかわしきれずに斬り落とされた。

 

「ぎゃあああああ! パーちいいいいん!?」

 

 床に落ちたパーちんはニュー様に踏み潰されてとどめを刺され、ぐずぐずに溶けて崩れた。

 なんて酷いことをするんだ!

 

「酷いですニュー様! なんでこんなことをするんですか!?」

 

「こいつニュー様の名前を知ってる!?」

 

「性教め……変態の集団のくせに大した諜報力を!」

 

「みんなもやめてよ! 私だよ! 8番だよ!」

 

 私が正体を明かすと、なぜか全員が激昂した。

 

「お前みたいな変態があの人を語るな!」

 

「殺す! 絶対殺す!」

 

 駄目だこの子たち人の話全然聞かない!

 私は皆に背を向けて逃げ出したが、やはりナンバーズであるニュー様は頭ひとつ抜けて強い。

 ニュー様が伸ばしたスライムソードで私の背中を切りつけて、そのせいで上半身のスライム下着がずり落ちた。

 私はおっぱい(絶壁)を手で覆い隠して必死に逃げた。

 学園を包囲していた騎士団を突破し、そのまま他人の目が完全になくなる王都の外まで逃げ切った頃には夜が明けていた。

 その後8番の姿で王都に戻り、ふと目について購入した新聞の号外には、シャドウガーデンが魔剣士学園を襲撃したというデマと共に、ハジけた私の手配書が載せられていた。

 こうして私の恥ずかしい姿はミドガル王都全域で笑いものとなった。

 

          ◯

 

「しかも3年生は課外授業でいなかったし、アレクシアも謹慎中でいなかったし……無駄なことした」

 

「まあまあ、オリアナ生徒会長はいたみたいだし、これまで迷惑かけた分をお返しできたって考えようよ」

 

「そうかな……そうかも……」

 

「そうだよ(便乗)」

 

 とりあえず事件のことは忘れた方が精神衛生上よろしいので、自問自答の話題は今後の予定に移った。

 

「校舎直さないとだから、学園は夏休み前倒しになるみたい。ついでにシャドウガーデンの方もなぜかガンマ様がしばらく休みなさいって言ってくださったから、何して時間潰すか考えないと」

 

 ニューに変態のことを報告されたガンマは全力で知らないフリをした。

 あんな変態の誕生に関与したと知られたらイメージに傷がつくからな……休暇はそのお詫びだ。

 

「今の時期だと、聖地リンドブルムでもうすぐあれをやるはずだよね」

 

「あー、そうだね。となると置き去りはかわいそうだからナツメイトにいる私にも話を通さないと」

 

 その後、三人の8番はこんなやりとりをした。

 リンドブルム行っちゃおうよ!

 行っちゃいますか!?

 行っちゃいましょうよ!

 そして三人はひとつに戻って不在の間のナツメイトの営業を交代してくれる人員をガンマに頼んで手配してもらい、しっかりと引き継ぎをしてからリンドブルムへと旅立っていった。

 そこで現在シャドウガーデンの大規模な作戦が進行している事実を、この時の8番はまったく知らない。




【次章冒頭の予告】

シャドウ「やってみせろよシータ!」

シータ「なんとでもなるはずだ!」

ハゲ「◯◯◯◯◯だと!?」

——鳴(ry
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