第27話 モブの旅々
お淑やかで上品なロングスカートの衣服に身を包み、最高級の絹糸よりもしなやかで高貴な光沢が眩しい金色の髪を風になびかせている、私の視線を引き付けて離さない世界一の美少女は誰でしょう?
そう、アルファ様です。
ここはミドガル王国王都から馬車で4日ほどの程良く近い観光地、聖地リンドブルムです。
馬車に揺られてゆったり二人旅も口惜しくはありましたが、アルファ様と過ごす貴重な休日を満喫するためにも私は一日と半日をかけて自力で走って来ました。
「えへへ、まずは記念撮影しましょう」
私はアルファ様とリンドブルムの街並みがよく見える高台に立って、片手をぐっと握り、器用に反対の手を伸ばして自撮りをしました。後で現像したら『走って来た』と文字を入れましょう。
「うふふ、次はどうします? あっ、私たくさん走ったのでお腹ぺこぺこになっちゃいました」
アルファ様は凛々しいお顔で『ならサ店に行くわよ!』と私の手を引いてくださいました。
アルファ様に導かれるまま屋外で運河を見ながら食事ができる喫茶店に入った私は、二人分の食事と飲み物を注文します。
「アルファ様は何が食べたいですか?」
アルファ様は私の好きなものが食べたいと言ってくださったので、僭越ながら私の好みで選ばせていただきました。
「えっ、お客様……こんなに食べ切れますか?」
がっつりしたものを注文したので、若い女性の二人組では食べきれないかもと心配されてしまいました。
確かにアルファ様はこんなにたくさん食べないかもしれません。
でも大丈夫、私は皿に盛って出された料理は決して残しません。
アルファ様が食べ切れなくても、その時は私が代わりに食べさせていただきます。
……って、もしかしてそれって、間接キスってことですか!?
店員さんを説得して注文は無事に通りました。
「では、全ての食材とアルファ様に感謝を込めて、いただきます」
私たちは美しい街並みを眺めながら美味しい料理に舌鼓を打ちました。
先に食べ終わってしまった私がアルファ様分の料理を見つめていると、アルファ様は『足りなかったなら食べていいわよ』と譲ってくださいました。
あうう……食いしん坊だと思われちゃったかもしれません。恥ずかしいです。
でもアルファ様からいただけるものは何でも嬉しいので、私はぺろりと平らげてしまいました。
「ごちそうさまでした。美味しかったですね」
私たちは店員さんにお礼を言って店を出ました。その際、背中に店員さんの視線を強く感じました。きっとアルファ様の美しさに見惚れてしまったのでしょうね。
「ではお腹も膨れましたので、明日のイベントの申し込みに行きましょう」
◯
血で血を洗う凄惨な戦場に一輪の華が咲いています。その華をよく見てみれば、夜空のような漆黒の陰の剣を手に舞う、世界一可憐な美少女魔剣士であることが分かります。英雄も魔人も敵わない、完璧超人と呼ばれる彼女はいったい誰でしょう?
そう、アルファ様です。
この聖地リンドブルムでは明日『女神の試練』という大きな催しが開催されます。
いけ好かない聖教の主催というのは気に入りませんが、内容が内容なので我慢して参加する価値はあります。
女神の試練は大雑把に言えばブシン祭みたいな魔剣士同士の決闘を観戦するものです。
しかしこの催しの面白いところは挑戦者と対戦するのが聖域の力で呼び出された過去の強力な戦士の亡霊という点です。
ここで言う聖域とは私の聖域展開とは別物で、聖教とディアボロス教団のゴミどもが一部の遺跡をそう呼んでいます。連中が大切にしている遺跡の呼び方なんて肥溜めの方が相応しいと思うのですが……アルファ様ごめんなさい、下品でしたね。
聖域の防衛機能は異空間を作り出したり昔の英雄の偽物を無限に作り出したりと何でもありなので、今回出てくる幽霊もそれなりに強いのでしょう。
そして私には、亡霊を捕獲してアルファ様漬けにして使役できる『好き好き大好きアルファ様ワールド』があります。
生物相手でも捕獲可能と判明しましたが、生物は餌が必要だし時々ボールから解放して運動させないとストレスで体調を崩すしと面倒なので、維持コストを考えると亡霊を狙いたいのです。
「女神の試練で出てくる亡霊は結構強いらしいですよ。詳細は知らないので、実際のところは当日のお楽しみですね」
強い亡霊の手持ちが増えればそれだけアルファ様に貢献できます。ですので明日出会う亡霊には期待しています。
新戦力への期待で不満を抑え込み、私たちは嫌いな聖教の教会を訪ねました。そこで女神の試練の参加申請をするためです。
しかし、受付の人は私の申請を退けました。
「私ちゃんと魔剣士ですよ! ほらミドガル魔剣士学園の学生証!」
「しかしねぇ……私たち慈悲深き女神ベアートリクスに仕える者としては、お嬢さんのような若い女の子がこんな危険な戦いに挑むなど認められないのだから」
んだとてめぇベアートリクスなんざ存在しねえんだよ真の女神様はアルファ様ってことを教えてやる聖い……はい落ち着きますアルファ様。
アルファ様に叱っていただき冷静になった私は、近くの露店で購入した被り物で変装してもう一度参加申請をしました。
「ひっ」
「悲鳴をあげるな、◯ンケイが苛立つ」
ミツゴシが広めたハロウィンのイメージキャラクター『ジャック・オー・ランタン』の被り物をして、さらにスライム製の全身黒タイツを纏った私は、まあ不審者そのものでしょうね。
とはいえしっかり男性アピールもしましたので、受付の人は震える手で申請を受理しました。
つまりこの人、女の子には死んでほしくないのに、不審者の男性は死んでもいいと思ってるんですね。不平等ここに極まれりです。この人たちの聖教って醜くないですか?
「あっ、あの、登録名はどうしましょうか」
適当に決めようと思った私は、さっき被り物を買った露店の隣で売っていた飲み物を思い出しました。美味しそうだったのでこの後アルファ様と一緒に飲みたいです。
「はちみつください」
「はい?」
「女神の試練参加申請受付係各位に申し上げる。私は流浪の魔剣士ハチミツ・クダサイだ。二回も言わせるな、◯ンケイが苛立つ」
ひと悶着ありましたが、女神の試練には無事に参加できることになりました。
私とアルファ様は飲み物両手に観光を再開しました。はちみつが甘くて美味しいです。
◯
百万ゼニーの夜景よりも輝いて見える、月下に照らされるどころか月を照らし返すその風貌はまさに艶やかな美人という表現が相応しい、私を狂わせてやまない危険な快楽の化身は誰でしょう?
そう、アルファ様です。
今日という素晴らしい一日の最後を飾るのは高級料理店のディナー……ではなく、一緒にお布団に入って交わす睦言です。
せっかくのアルファ様とふたりきりの夜ですから、食べて寝て終わりなんて勿体ないことできません。
「アルファ様、今夜は寝かせませんよ」
アルファ様は挑戦的な笑みを浮かべて『望むところよ』と私を正面から受け止めてくださいました。
私はアルファ様に私の全てを伝えました。
アルファ様はその全てに私の求める答えをくださいました。
どれだけの言葉を交わしたでしょうか。
やがて私がうとうとしてくると、アルファ様は『眠いのね? 久しぶりに手を繋いで寝ましょう』と言って、私の額におやすみのキスをしてくれました。額に感じた柔らかな感触が懐かしくて、嬉しくて、私の目から涙がぽろぽろ溢れました。
「アルファ様、私幸せです。私なんかがこんなに幸せでいいんでしょうか」
アルファ様は私の涙をしなやかで細い指で優しく拭いました。
『言ったでしょう? 私なんかじゃなくて、誇りと自信を持つの。それでも、どうしても自分のことを信じられないというのなら……あなたを信じる私を信じなさい』
アルファ様かっこよすぎですうううううう!
心臓がきゅんきゅんし過ぎて止まってしまった私は、次第に意識が遠のいて、心地良い眠りに落ちてしまいました。
◯
さて、最後に問題です!
温泉に浸かって私と共に昇る朝日を眺めているアルファ様がいます。
全裸の私と違って貞淑なアルファ様は温泉なのに衣服を纏ったままです。
そしてそのアルファ様は表情を全く変えずに常に微笑みを絶やしません。
さらには身長が普段の十分の一ほどしかありません。
さすがにもうばれちゃいましたよね?
お忙しく私の旅行なんかに付き合う暇のない本物のアルファ様に代わって私のひとり旅を彩ったそれは何か?
そう、それは私がナツメイトで開発した……『アルファ様アクリルスタンド』なのでした!
8番はひとり旅の期間中ずっと絵の描かれた小さな板に向かってぼそぼそ独り言を繰り返していました。
アルファアクスタに夢中だった8番は他人の視線を一切気にしていなかったので、大勢の人にその姿を目撃されていました。
ヤバいですね☆