シャドウガーデン第1のモブ   作:ことのはだいり

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第29話 あっ……(察し)

 リンドブルムにおけるシャドウガーデンの計画は恙無く完遂された。

 七陰が四人も参加したこの任務において私は特に何もする必要がなかった。

 ナツメ先生を人質に取ったり、ナツメ先生諸共アレクシアやオリアナ生徒会長のお尻で潰されたり、一般王女様方の護衛をしたり、増殖したハゲを相手に無双するアルファ様とデルタ様を応援したり、聖域の防衛機構で再び出てきたオリヴィエにはあまり心が感じられなくて女神の試練で呼び出された個体だけ特別だったと分かって捕獲失敗を悔やんだりしている間に全てが終わった。

 聖域の出口をくぐると私はアルファ様や他の仲間たちとは別の場所に転移していた。

 一緒にいるのはナツメ先生、アレクシア、オリアナ生徒会長。私が護衛役として近くにいた三人だ。

 ナツメ先生がここはリンドブルム近郊の森の中だと教えてくださった。

 じゃあ危険な場所じゃないしベータ様いるし私いらないよねということで静かに去ろうとした。

 

「待ちなさい」

 

 しかしアレクシアに肩をがっしり掴まれて止められた。

 声を出すと身バレの恐れがあるため、手振りで『HA☆NA☆SE』と伝えようと試みたが、全く伝わらなかった。

 むしろ首に腕を巻きつけられて、さらに強く拘束された。

 

「あんたたちを率いていたアルファとかいう女はあんたに私たちの護衛を命令していたはずだけど、まさかこんな猛獣の出そうな森の中に放置していくつもりじゃないわよね?」

 

 ぐっ、よりにもよってアルファ様の名前を出すなんて卑怯だぞ!

 私は渋々両腕で丸を作って了承の意を伝えた。

 

「あんた声出せないわけ? まだしばらく一緒に行動するんだから、会話ぐらい普通にしなさいよ」

 

 ブブーッ!

 私は、今、シタラとしてミドガル魔剣士学園に潜入しています!

 多少声を変えるくらいはできるけど、アレクシアは沢山お話してくれたから話し方の癖でばれる危険がある。

 両腕でバツ印を作って全力でン拒否するゥ!

 

「アレクシア様、そのくらいに。せっかく敵対せず護衛してもらえるのに、刺激しないでください」

 

「ちっ」

 

 ナツメ先生ことベータ様が私を援護してくださり、アレクシアは舌打ちしておとなしくなった。

 それから私たちはリンドブルムの宿に徒歩で戻ることになった。私とベータ様なら自力で走って王都まで戻れるが、王女様方はそうはいかない。能力ではなく外聞の問題だ。彼女たちは明日になってからリンドブルムのお偉方から見送りを受けて馬車で帰るのだ。

 

「くまぁ!」

 

 道中で野生の熊に襲われたが、殺す理由もないので仲良くなって森に返した。人と違って動物と仲良くなるのは簡単だ。いいアー◯マイトってやつは動物に好かれちまうんだ。

 

「無事に到着しましたね。ありがとうございました」

 

 リンドブルムの街が見えた時点でナツメ先生が私を解放する方向に話を振った。

 

「ありがとうございました」

 

 オリアナ生徒会長も同調した。

 

「駄目よ、まだ街中で襲われるかもしれないじゃない。最後まで責任持って守りなさい。私たちはか弱い王女ふたりと暗い部屋で文章書いてニヤついてるもやしよ」

 

 嘘つけぇ!

 現状知らないふりせざるを得ないけど、全員強い魔剣士なのばればれ。

 

「アレクシア様は作家に恨みでも?」

 

「か弱い……確かに、今の私ではそう言われても仕方がありませんね」

 

 私関係ないとこでギスギス感出すのやめて!?

 見ず知らずの人ならともかく全員私が少なからず好意的に思ってる人たちだから喧嘩する姿を見るのは気分が良くない。

 私は三人の間に割って入り、リンドブルムの街を指差して先に進むことを促した。

 

「あんた、その格好で街に入るつもり? 目立つからそのローブくらい脱ぎなさいよ」

 

 アレクシアは何が何でも私の正体を暴くつもりらしい。

 しかし言い分には道理が通っている。

 私は三人を手で制しつつナツメ先生に視線で訴え、ナツメ先生が覗き魔を引き止めている隙に森に身を隠してスライムスーツを変形させた。

 ちょうどいい感じに全身を隠せる衣装を考えて、先程の熊さんを思い出した私はミツゴシ遊園地で中の人になったことがある熊の着ぐるみに決めた。

 

「だから目立つっての! というかむしろ悪化してんでしょうが!」

 

「まあまあアレクシア様、さっきの黒ずくめより悪者感は減りましたので、もうこれで行きましょう。疲れたので早く休ませてください」

 

 荒ぶるアレクシアをナツメ先生が宥めた。

 その間オリアナ生徒会長は私の着ぐるみのお腹を撫ででいた。

 道中でそれなりに通行人の注目を集めたものの、そもそも王女二人と大人気作家が一緒にいる時点で目立つのだ。だから私の影響はそれ程でもない、はず。

 その後、小さな子供が私に寄ってくるトラブルが何度かあったものの幸いにも聖教や教団の襲撃はなく、三人が泊まるリンドブルムで一番の高級宿まで無事に到着し、晴れて私はお役御免となった。

 ……はずだったんだけど。

 

「我々はシャドウガーデン。そして俺は女神の試練で勝利したハチミツ・クダサイだ。これよりこの宿は俺達が占拠する」

 

 最後の最後にあったよ! 襲撃が!

 

          ◯

 

 アレクシアが隣の着ぐるみ女を睨み付けると彼女は熊の頭を左右に激しく振った。

 ハチミツを名乗る男をリーダーとしたかぼちゃマスク集団は少なくともシャドウガーデンではない。

 しかし集団のボスが女神の試練で英雄オリヴィエに打ち勝ったハチミツ・クダサイ本人でないことは確認できていない。敵が本当にハチミツであればアレクシアとローズの二人がかりでも相手にならないだろう。

 ローズもアレクシアと同じ意見らしい。不用意にテロリストに反抗しようとして愛する人が死にかけて以来、彼女は相手の強さをしっかり見極める慎重さを身に着けた。

 他の警備の魔剣士たちもハチミツの力を警戒して動けずにいる中、唯一ここで躊躇せずに動けたのは……自分こそが本当のハチミツであることを知っている着ぐるみの中の人、8番であった。

 8番はアルファに命じられた仕事は何であれ真面目にやる主義だ。彼女はアレクシアとローズの護衛として早急に襲撃者を排除することにした。

 

「おいそこの……熊? 動くんじゃねえ殺すぞ!」

 

 8番は襲撃者の警告を無視して手近にいたかぼちゃをおもむろに殴り飛ばした。きりもみ回転して吹き飛んだかぼちゃは被り物と中身を粉々にして動かなくなった。

 

「こいつ殺りやがった!」

 

「てめぇ! ぶっ殺してやる!」

 

 8番に襲撃者たちの刃が迫り、そして全て熊の毛皮に弾かれた。圧縮控えめでもスライム量が多いのでかなり頑丈なのだ。

 

「はっ? 硬……えっ?」

 

 動揺して隙だらけのかぼちゃを左右それぞれの手で掴み、拍手の要領で頭部同士を打ち付けた。被り物は中身ごと粉々になった。

 8番は死体を捨てて無言で次の獲物に顔を向けた。そのかわいくデフォルメされた熊の顔は飛び散った血と脳漿で汚れていた。

 

「うわああああ!? 化け物だあ!?」

 

「お頭ぁ! 助けてくれぇ!」

 

 他のかぼちゃ頭に背を押されて矢面に立たせられた自称ハチミツは、精一杯の虚勢を張って対抗した。

 

「おっ、俺は女神の試練で暴れ回ったハチミツ・クダサイだ! 見るがいい!」

 

 自称ハチミツは一回見ただけのうろ覚えの下手な踊りを披露した。

 それを見た本物のハチミツこと8番は激怒した。

 8番は自分の踊りが変な振り付けだったことは認めているが、踊りそのものはキレッキレで完璧なものだったと思っている。

 誰だって自分の芸の下手な物真似を見せられたら不快に思うだろう。

 そして本物を見たけりゃ見せてやるよと怒りに燃えるだろう。

 蛹から出てくる蝶のように熊の着ぐるみを割いて中から本物のハチミツ・クダサイが飛び出した。かぼちゃマスクと全身黒タイツは襲撃者と変わらないが、女神の試練の時は頭に巻き付けてマスクで隠していたマフラーを今回はしまい忘れているので見分けがつく。

 アレクシアは「あっ」と呟いた。

 

「なにぃ!? まさか本物か!?」

 

 呆れた様子で頭を押さえるナツメの前で8番はその通りだと言わんばかりにディアボロス教団に反省を促す踊りを見せつける。

 そのあまりの踊りのキレにこのかぼちゃこそ本物のハチミツ・クダサイであるも誰もが確信した。

 この踊りが目に入らぬか!

 

「か、勝てるわけがねぇ。降伏するから命だけは勘弁してくれぇ!」

 

 ハチミツの威を借った盗賊団は平伏し、突入してきたリンドブルムの憲兵たちによって偽物のかぼちゃたちはお縄となった。泣き喚く盗賊たちに暴行を加えて黙らせて次々に連行していく。

 さらに一見して犯人一味にしか見えない8番も剣を向けられたが、アレクシアが介入して誤解を解いた。

 近頃いろんな相手に敵対されてばかりで味方してくれる人が久しぶりだった8番は、思わず「あっ、あり……」とお礼を言いかけて口を塞いだ。

 アレクシアはそんな8番に苦笑した。

 

「お礼はいいわ。むしろお礼しないといけないのは私の方ね」

 

 満面の笑みを浮かべるアレクシアが8番の手を取って強く握りしめた。

 

「だってこれから沢山協力してもらうもの……するわよね?」

 

 アレクシアはかぼちゃマスクのおそらく耳があるであろう辺りに口を近づけて、囁くようにシタラの名を呼んだ。

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